「価格転嫁『できず』7割」。これは日本農業新聞の10月24日号一面トップ記事の見出しである。集落営農組織や農業法人を対象にした景況感調査のとりまとめ結果をリポートしたもので、農家の約7割は生産コスト高騰に見合う農家手取りの米価を1万4千円以上としていることを受けて、米価については生産コスト高騰分の転嫁が「全くできていない」と集約したものである。 これは農産物価格を米価に代表させて分析したかたちとなっているが、実感からして他の農産物も同様な傾向にあるものと推測され、牛乳・乳製品も含めた畜産物についてはさらに厳しい実態に置かれているのではないかと思料する。 こうした情報に接して感じること... 2023年11月5日
アングル 生物多様性からみる 農業生産と食料安全保障 (公財)日本自然保護協会 生物多様性保全部 理学博士 藤田卓 氏 (公財)日本自然保護協会生物多様性保全部の理学博士・藤田卓氏に、生物多様性からみる農業生産と食料安全保障について聞いた。 生物多様性を基盤とした生態系に成り立つ農業 ■生物多様性農業について。 環境省が2021年にまとめた報告書「生物多様性及び生態系サービスの総合評価」によると、農地生態系では過去50年間で急速な損失が起きたとされ、現在もこの損失が止まっていない。 日本の生物多様性... 2023年11月5日
東京・阿佐ヶ谷の小劇場で「同郷同年」という演劇を見た。登場人物は谷間の町に生まれ育った同い年の男性3人。一人は農業、もう一人は薬局を営む。3人目は大手電力会社の社員で、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分場を地元に立地すべく画策している。他の二人も過疎化が進む地域の将来に希望を失い、誘致に協力する。 本音では処分場受け入れに不安を抱いていた農業青年が離農し、社員の口利きで電力会社に入社。人が変わったように処分場建設を強引に進め、政界にも進出する。一方、元々の電力社員は会社の姿勢に疑問を持ち、脱サラ就農して反対派に転じる。結末も衝撃的だが、気弱な農業青年が怪物じみたキャラクタ... 2023年10月25日
〈本号の主な内容〉 ■持続可能な農業・地域共生へ わがJAの取組み(集中連載第1回) 〇JAレーク滋賀(滋賀県) 代表理事理事長 木村義典 氏 〇JA福岡市(福岡県) 代表理事組合長 柴田清孝 氏 〇JA松本ハイランド(長野県)代表理事組合長 田中均 氏 〇JAえちご上越(新潟県) 代表理事理事長 山岸雅行 氏 〇JA福島さくら(福島県) 代表理事組合長 志賀博之 氏 ■新トップに聞く 農林中金バリューインベストメンツ㈱(NVIC) 代表取締役社長 酒見直秀 氏 ■行友弥の食農再論「青い空と『自由』」 2023年10月25日
アングル 農林中金が取組むサステナブル経営 農林中央金庫 理事兼常務執行役員 サステナビリティ共同責任者 北林太郎 氏 農林中央金庫は、サステナブル経営の高度化に向けて、気候変動への対応、自然資本・生物多様性に係る取組みを強化した。農林中金がサステナブル経営に取組む背景と対応のポイントを、担当役員の北林常務に聞いた。 産業としての農林水産業へ再構成 ■持続可能な農林水産業に向けた課題認識から。 「持続可能な農林水産業」と言っても全体像はイメージしにくく、それだけ課題が広いとも言える。コロナ禍やウクライナ問... 2023年10月15日
市民・消費者の農業に対する関心が具体的な行動レベルへと移行しつつあることを感じる。市民農園や体験農園にとどまらず、最近では市民・消費者がグループをつくって農場を共同で管理するコミュニティガーデンが増えている。また都市農業の持続と農地の保全を可能にしていくため援農を組織化しているところもあり、農福連携も広がりつつある。さらには都市のビルの屋上の農園化も珍しくなくなってきた。これらを地産地消が後押しする。 このように都市部での市民・消費者の農業参画が進行する一方で、農村部の担い手不足は深刻で、今般の穀物相場の高騰等の環境変化で食料安全保障が揺らぎ、食料自給率の向上が叫ばれながらも、肝心の担い... 2023年10月5日
このひと 持続可能な農業・JAグループへ JA全中の取組み JA全中 代表理事会長 山野徹 氏 この8月、JA全中の新たな代表理事会長に山野徹氏(鹿児島)が就任した。3年間のJA全厚連会長、全国農政連会長を経ての就任。基本法見直し、食料安全保障の確立と日本農業の一大転換期にあっての、持続可能な農業・JAグループへ向けたJA全中の取組み方向を聞いた。 重責を一歩ずつ一つずつ しっかりと ■まず会長就任の感想、思いを。 この3年間、JA全厚連と全国農政連の会長を務めた中で、農水省、厚労省、国会議員など、様々な... 2023年10月5日
学校給食や施設内食堂の事業を全国展開していた「ホーユー」(本社・広島市)が今月初めに営業を停止し、22都府県の百数十施設(学校以外の事業所も含む)に影響が広がった。「食材費や人件費が高騰したが、価格転嫁が難しかった」と会社側は説明し、裁判所に自己破産を申請する方向だという。コロナ禍による受注減や同業他社との価格競争も背景らしい。 帝国データバンクが今月8日に発表した調査結果によると、昨年度の利益動向が判明した全国の給食業者374社中127社が赤字だった。前年度より減益になったケースを含め、全体の6割超で業績が悪化していた。 ホーユーの受注先は学校給食法が適用されない高校などが中心だっ... 2023年9月25日
このひと JA厚生事業のこれから 全国厚生農業協同組合連合会 代表理事会長 長谷川浩敏 氏 全国厚生農業協同組合連合会(JA全厚連)は7月25日に開催した通常総会、理事会を経て代表理事会長に、長谷川浩敏氏(JA愛知厚生連経営管理委員会会長)を新たに選任した。長谷川新会長にJA厚生事業の現状と課題を聞いた。 地域住民・行政・他医療機関との連携強化 ■自身のJA厚生事業とのこれまでの関わりと就任の抱負を。 私は、平成29年6月に、JA尾張中央の代表理事組合長となった際、 JA愛知厚生連の監事に就任しました。当時... 2023年9月25日
このひと 〝なくてはならない全農〟へ ~これからの〝舵取り〟~ JA全農 経営管理委員会会長 折原敬一 氏 JA全農は7月28日に第47回通常総代会を開催。総代会後の経営管理委員会で、新たな経営管理委員会会長に折原敬一氏(全農山形県本部運営委員会会長)を選任した。折原新会長に、これからの全農の事業展開と舵取りの考え方を聞いた。 食料安保を意識し現場を後押し ■まず、就任の抱負を。 農業、農村は現状厳しい環境にありますが、それだけに全農という組織は、JAや組合員のみなさんから期待されていると改めて感じてい... 2023年9月15日
山口県の東部、瀬戸内海側で農業を営むKさんに、確認してもらいたい原稿があってメールをしたところ、電話がかかってきた。用件を済ませたところで、近況について話を伺ったのであるが、話は小1時間に及び、あらためて現場の状況にはきわめて深刻なものがあることを痛感させられた。 Kさんは米と野菜を少量多品種で栽培する中規模農家である。まずは猛暑が凄まじいことから始まり、台風による長雨に見舞われたことも重なって、野菜は根腐れをおこして一挙にやられてしまったという。米は早場米地帯でもあり収穫を始めたそうだが、まったく儲からない。採算抜きで、とにかくご先祖様が作ってきた田んぼを荒らすわけにはいかないことから... 2023年9月5日
このひと 4Hクラブ活動のこれから 全国農業青年クラブ連絡協議会(全協、4Hクラブ) 会長 水野弘樹 氏 全国農業青年クラブ連絡協議会は、7月通常総会を開き会長に水野弘樹氏(北海道)を選任した。新会長に、4Hクラブ活動への思いと今後の取組み方向を聞いた。 農業者のコミュニティに所属したい ■4Hクラブ入会の契機から。 21歳のときに親元就農し、朝から晩まで休みなく農作業をし、その日、話をしたのは家族だけという生活をする毎日で、親以外から情報が全く入ってこず、このままでは井の中の蛙になってしまう不安があった... 2023年9月5日
家族の事情で6月下旬から北海道函館市の実家にいる。4月上旬からの約1カ月間も滞在したが、今回違うのは「鶏卵が買えるようになった」ことだ。4月ごろは入手が困難だった。スーパーの従業員に聞くと「入荷量が少なく、開店後あっという間に売り切れてしまう」と申し訳なさそうに言われた。 もちろん背景は鳥インフルエンザの感染拡大と飼料価格の高騰で、全国共通の現象だ。しかし、北海道では千歳市の農場で3月下旬から4月上旬に鳥インフルが発生し、道内で飼育される採卵鶏の約2割にあたる計120万羽が殺処分されたことが大きかった。 感染の終息を受け5月には鶏と卵の搬出制限が解除され、品薄は少し緩和された。しかし... 2023年8月25日
このひと 農村地域活性化への途 農林水産省 農村振興局長 長井俊彦 氏 7月の農林水産省の幹部人事で、農村振興局長に長井俊彦氏(大臣官房審議官兼経営局)が就任した。新局長に農村地域の課題とこれからの振興策のポイントを聞いた。 仕事をつくり 定着してもらう流れを ■農村振興の課題をどのように認識されているか? 農村だけではないが、これからどんどん人口が減り高齢化も進んでいく。集落機能の低下、鳥獣被害による離農、想定以上の自然災害による水資源管理の難しさなど課題は多岐にわたる。 そうしたなかでやはり農村地域... 2023年8月25日
このひと 森林・林業行政のこれから 林野庁長官 青山豊久 氏 農林水産省の7月4日付幹部人事で、林野庁長官に青山豊久氏(農村振興局長)が就任した。新長官に林政のこれからの課題や森林・林業に対する思いを聞いた。 山元の材価が上がらないのが根本問題 ■長官に就任されての感想から。 各課長から取組みの現状を聞く中で、花粉症や森林環境税など、〝重たい課題〟を抱えていることを改めて認識し、責任の重さを痛感している。 山元の立木の価格が上がらないことが、全ての問題の根本にあると感じている。 昨今、森林保全のた... 2023年8月15日
本コーナーの6月5日号で書いたように、本年3月に世田谷区で「農あるまちづくり講座IN世田谷」を開講したが、先の6月27日に無事に終了した。月2回、第二、第四火曜日の午後7時から8時半まで、消費者・市民を対象に農業やまちづくりに関係した講義を行い、残った時間で意見交換等を行ってきた。 定員20名に対し、申し込み締切りを間近にして、あっという間に20名を超え、あわてて募集を締め切った時点で参加者が29名になってしまったことに象徴されるように、本講座に対する消費者・市民のニーズには想定以上のものがあり、またきわめて熱心に受講いただいた。先に本講座を開いた西東京市では、リタイアした世代を対象に時... 2023年8月5日
アングル 第66回全野研全国大会のテーマと今後 全国野菜園芸技術研究会 会長 渋谷忠宏 氏 施設栽培を中心にした野菜農家が集まり、お互いの栽培技術や経営手法を学ぶ全国野菜園芸技術研究会(全野研)の全国大会が8月2~3日に神奈川県で開催される。コロナ禍の間、同大会は開催中止や一部日程のみで行われ、全日程で開催するのは4年ぶり。資材価格や脱炭素などの課題があるなか、今大会で掲げるテーマと研究会の今後について渋谷忠宏会長に聞いた。 1964年から全野研として ■全野研の組織と活動は? 世の中に新し... 2023年8月5日
今では全国7000ヵ所以上に広がった子ども食堂。その第1号とされる東京・大田区の「だんだん」が2012年にオープンしたのは、歯科衛生士のかたわら有機野菜などの販売を手掛ける近藤博子さんが、一人の小学校教諭に聞いた話がきっかけだった。その話とは「ひとり親のお母さんが心の病を抱え、学校給食以外は1日にバナナ1本しか食べられない児童がいる」というものだ。 この話は子どもの貧困の実態に加え、給食の重要性も示している。新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年3月に始まった全国一斉休校では、給食を頼みの綱とする多くの家庭が窮地に陥った。特に、日中も家にいる子の世話のため仕事に出られなくなったひと... 2023年7月25日
このひと 農業委員会支援に農業会議所が果たす役割 全国農業委員会ネットワーク機構 (一社)全国農業会議所 専務理事 稲垣照哉 氏 全国農業会議所の専務理事に、この4月稲垣照哉氏が就任した。稲垣新専務に、改正農業経営基盤強化促進法施行後の農業委員会、農業会議及び農業会議所が果たすこれからの役割について聞いた。 地域計画づくりをバックアップ ■改正基盤法を受けた農業委員会系統の役割は? この4月1日、改正農業経営基盤強化促進法が施行され、全国の農業委員会では、市町村の地域計画策定を支援することになった。これま... 2023年7月25日
このひと 日本農業の現状と農業法人の役割 日本農業法人協会 会長 齋藤一志 氏 日本農業法人協会は、6月の総会で新会長に齋藤一志氏(山形県㈱まいすたぁ代表取締役)を選任した。齋藤新会長に、日本農業の現状を踏まえた農業法人のこれからと農業法人及び日本農業法人協会の果たす役割を聞いた。 メンバー増やし学び合いチャンス掴む ■会長に就任しての抱負から。 日本農業法人協会には、平成15年、仲間から奨められて入会し、以来、様々な活動に参加させてもらった。農業界は、一人では解決し得ないような課題がどっさりある。関係する... 2023年7月15日