日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2024年3月5日号

2024年3月5日

アングル

 

 

耕畜連携の現状とこれから

 

農林水産省 畜産局長
渡邉洋一 氏

 

 耕種と畜産酪農との間で資源循環を行いながら営農する耕畜連携はいま、環境配慮、飼料・肥料価格の高騰対策と輸入依存低減に向けて、重要性がこれまで以上に高まっている。農林水産省の渡邉洋一畜産局長に、耕畜連携の現状とこれからを聞いた


 

パッケージで早期普及を支援

能登半島地震における畜産・酪農の現状と対応状況から。

 能登半島地震の被害に見舞われた方々に、改めてお悔やみとお見舞いを申し上げます。

 今回の地震による農林水産省関係の被害は、畜産酪農関係では、畜舎や堆肥舎の崩壊のほか、一部ではまだ断水や停電、道路の損壊の影響が続いている。家畜に水や飼料が供給できない、生乳の出荷ができないという問題が随所で発生している。家畜改良センターが持っている発電機や、給水のためにミルクローリーの転用、道路状況に応じた小型トラックでの飼料の緊急輸送などの取組みが続けられている。状況は改善してきているが、依然厳しい状況が続いている地域もある。

 農水省としても1月25日に政府全体でとりまとめた「被災者の生活と生業支援パッケージ」で、畜舎の再建や機械の修繕、揚水ポンプや発電機の借上げ、配合飼料の緊急運搬、家畜の再導入など、種々の支援策をパッケージに盛り込んで、被災した県や関係団体と連携し、早期復興に向けて被災者に寄り添った対応を進めていく。

 

資源循環で環境負荷軽減

耕畜連携が一層必要と言われる背景は。

 耕畜連携は、耕種、畜産双方の農家が有機的に繋がり、飼料作物や堆肥などを循環させていく取組みである。古くは通常の営農行為として有畜農業なども推奨されてきた。その後、農業機械や化学肥料の普及に伴い、畜産は農業経営の一部門からより専業化へ発展していき、需要拡大への対応もあり経営規模の拡大が進み、耕種と畜産の分離が進んでいった歴史がある。

 近年、耕畜連携が注目されている背景としては、環境負荷を低減することで持続可能な食料生産システムを構築しなければならないことがある。SDGsが世界に浸透し、農水省も2021年に「みどりの食料システム戦略」を打ち出し、化学肥料使用量の低減に向け、耕畜連携で堆肥などの資源循環を進めていくことを提唱している。

 また、飼料や肥料価格が近年高騰し生産コストが上昇するなかで、可能な限り国内資源を利用し輸入依存を低減することが強靭な食料生産に繋がる。その取組みとして耕畜連携が改めて注目されている。

 

メリットの多い青刈りトウモロコシ

飼料作物として注目されているのは。

 畜産の視点からは国産飼料の利用推進が重要だ。粗飼料の約8割は国産で賄われており、とくに青刈りトウモロコシは高栄養で濃厚飼料の低減にも寄与する。濃厚飼料は土地の制約から画期的に自給率を上げることが難しいなかで、その一部を青刈りトウモロコシで代替することは意義がある。

 耕種の視点では、単収が高く米や麦・大豆と比べ粗放的に生産できるので、使われていない農地を有効に活用できる点でも優れた作物である。さらに麦・大豆の輪作体系に組み込むと、限られた労力のなかで農地の維持管理ができることに加え、土壌の物理的・化学的な性質が改善され、連作問題が軽減される。飼料作物を作ることにメリットがあることを耕種農家に感じてもらうような取組みを目指したい。

 

利用しやすい品質・形状で広域流通

堆肥化への課題は。

 「みどり戦略」では、2050年までに化学肥料使用量を30%までに低減を目指しているが、そのためには堆肥の活用が大事になる。今、家畜排せつ物は国内で年間約8千万t発生し約8割が農業利用されている。家畜排せつ物の発生量は地域でばらつきがあり、堆肥生産が多い地域に耕種農家が多く存在するとは限らない。地域の実情に応じ堆肥の広域流通へも取組んでいかなければならない。

 堆肥の品質をしっかり向上することに加えて、例えば、ペレット化し広域運搬がしやすく使いやすくもなるといったような、耕種サイドが利用しやすい品質・形状にして流通体制を構築していく取組みを支援していく。

 

地域で請負組織つくり 堆肥を安定供給

具体的な取組み事例をあげると。

 広島県庄原市は、酪農家組織から提案があり主に野菜を生産している㈱vegetaが約130haの農地を集積して、キャベツの裏作で青刈りトウモロコシを生産し、地域の酪農家や肉牛農家に供給する取組みを展開している。

 JA西日本くみあい飼料、庄原市酪農振興協議会、酪農家、庄原市、広島県、雪印種苗を構成員とする「広島コーンサイレージ普及検討会」を設立し、安定的な国産飼料供給のために、定期的に地域の課題が協議されている。4年度には約34haを作付け、将来的には50haまでに拡大の予定である。

 長野県の南牧村では、野菜農家も構成員となっているコントラクターが中心となって、ハクサイやレタスの輪作として青刈りトウモロコシを生産し、地域の酪農家に供給する取組みを行っている。畜産農家4戸、野菜農家9戸からなる「ツワインヒルフィードギルド」が堆肥散布を行う。野菜農家が青刈りトウモロコシと野菜の輪作を4ha実施。ハクサイやレタスの連作障害が低減され、品質向上にも効果があるということで、作付面積の拡大に取組んでいる。

 

地域計画での農地利用も視野に

現状の課題を克服していくための施策は。

 家畜排せつ物に由来する堆肥を良質化して利用拡大していくために、令和5年度の補正予算で、畜産農家に対しては高品質な堆肥生産や商流拡大のための専門家によるアドバイス事業や、高品質化・ペレット化に必要な施設整備等への支援を盛り込んだ。

 肥料製造事業者には、国内資源を原料にした肥料製造に必要な施設整備を支援する。肥料を利用する側に対しては、その効果の検証や散布に必要な機械の導入支援措置も盛り込んだ。

 国産飼料の生産利用拡大には、活用されていない農地を効率よく使うことも大事だ。各市町村で地域計画策定のための話し合いが進んでいるが、飼料作物は省力的に生産できるので、農地の引き受け手がいないような場所では、有効な農地利用の選択肢の一つに考えて欲しい。

 輪作や裏作で取組むことで土地改良にもなる。そうしたメリットを理解し、今後策定される地域計画に位置付けてもらえるように、旗振りをしていくことが大事だ。

 コントラクターやTMRセンターなど外部組織での飼料生産にも成功例が多い。そうした所への機械整備や大型特殊免許の取得などの支援メニューを用意し、外部組織の育成、活用もしっかり進めていくことが大事だと思っている。


 

〈本号の主な内容〉

■アングル 耕畜連携の現状とこれから
 農林水産省 畜産局長 渡邉洋一 氏

■令和6年産米をめぐる JA全農の対応
 JA全農 米穀部 金森正幸 部長

■家の光協会が展開する 読書関連の取組み
 家の光読書エッセイ
 食農教育紙芝居コンクール
 全国農村読書調査

■水稲用除草剤の上手な使い方
 公益財団法人 日本植物調節剤研究協会 研究所
 試験研究部 第一研究室長 半田浩二 氏

蔦谷栄一の異見私見「基本法改正と所得補償」

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