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日本農民新聞 2024年3月29日(増刊)号

2024年3月29日

アングル

 

JA共済 令和6年度事業に向けて

 

JA共済連
代表理事専務
村山美彦 氏

 

 JA共済連は3月21日、臨時総代会を開き、令和6年度事業計画を決定した。JA共済事業をめぐる事業環境・課題と今後の方向性、6年度事業のポイントを村山美彦代表理事専務に聞いた。

 


 

88%の損害調査を完了、迅速な共済金支払いへ

まず、能登半島地震への対応状況から。

 令和6年能登半島地震で被害に遭われた皆さまには、心からお見舞いを申し上げます。

 JA共済連では、被災地域の一日も早い復旧・復興のお役に立てるよう、全国規模の広域査定支援体制を確立し、JAと一体となり、迅速かつ適正な損害調査に取組んでいるところです。迅速な損害調査・共済金のお支払いを実現するため、全国規模の広域査定支援体制を確立し、被災県域の職員に加え、2月末までに全国から延べ882名の職員を派遣し、損害調査を実施しています。また、早期に共済金のお支払いを完了するため、被災県域に加え、全国本部・川崎センター・大阪センターの3拠点での集中事務処理支援体制を構築し、調査が完了した事案の支払処理等を実施しています。

 JA職員およびJA共済連職員が被災家屋を一軒一軒訪問することを基本に、ご契約者・被共済者の立会いのもと損害調査を実施しています。職員はタブレット型端末機(Lablet’s)を携帯し、被害箇所の撮影や被害数量等の登録を行っています。また、地図データ上にご契約情報を表示し、効率的な損害調査・査定計画の策定などを可能とする地図情報システム等を活用し、迅速な共済金のお支払いに向けて取組んでいます。

 今回の地震においては、奥能登など立ち入りが困難な地域を対象に、人工衛星・航空写真等の画像と地図情報システムの位置情報のマッチングを行い、建物の焼失・流失等が確認できた場合には、現地での損害調査・写真撮影を省略して、損害割合100%の全損と認定する取扱いを実施しています。

 こうした取組みの結果、3月21日時点で事故受付件数11万327件のうち、88・5%の9万7607件の調査が完了し、共済金についても5万5418件/562・2億円のお支払いを完了しています。

 引き続き、被害を受けられた組合員・利用者の皆さまに対し、一日も早く安心と共済金をお届けできるよう、JAと一体となり事業の総力をあげて取組んでいきます。

 

社会的責任の発揮へCS・ES向上

今後取組むべき課題は?

 時代背景の変化に対して、JA共済として自らを変えていく契機として改正監督指針が施行され、規制改革推進会議においても顧客本位の業務運営やコンプライアンス・ガバナンス態勢について示唆を受けました。

 本来は、こうした環境変化を事前に察知し、我々が主導して変えていかなければならなかったことに対し、JAのみなさんにお詫びをしなければなりません。今こそ改めて事業を見直し、再スタートすることにより、次の時代を迎える必要があると認識しています。

 共済事業体制総点検運動を踏まえた課題や普及推進上の課題を整理し、最適な保障提供に向けて社会的責任を発揮していくために、「組合員・利用者一人ひとりとの強固な接点強化」「新たな推進態勢の整備」「推進担当者の育成強化」「組合員・利用者本位の業務運営」の4点の課題に取組んでいかなければなりません。

 推進力強化、ES向上、推進体制の構築など、推進担当者を育成・強化し、推進戦略を明確にして目標を設定していく必要があります。さらなる社会的責任の発揮やCS向上に向けた組合員・利用者本位の業務運営にJAと一体となって取組んでいかなければなりません。

 

転換期の事業活動のあり方を見直し

JA共済事業をめぐる現況と5年度事業に対する評価は?

 4年度から6年度までのJA共済3か年計画においては、「新たな時代に、変わらぬ安心を~地域とともに、農とくらしの未来を支えるJA共済~」をスローガンに掲げ、「組合員・利用者に『寄り添い』、包括的な安心を『届け』、農業・地域社会とより広く・より深く『繋がっていく』ことで、『組合員・利用者一人ひとりに寄り添った安心と満足の提供』と『持続可能なJA経営基盤の確立・強化』を実現すること」を基本的考え方として取組みを進めており、令和5年度はその中間年度として事業を展開してきました。

 JA共済は、農業協同組合の共済事業として、昭和23年にはじまりました。高度経済成長期を経て、平成6年には、共済に対する時代のニーズに対応するため、保障の提案やアドバイスを行う専門スタッフによるサポート体制としてライフアドバイザー(LA)制度を導入するなど事業の大きな見直しを行いました。

 そして今日、JA共済事業を取り巻く環境はさらに目まぐるしく変化し、事業活動のあり方も大きな転換期を迎えています。役職員一人ひとりがこれまで以上に組合員・利用者を第一に考えた事業活動に取組む必要があると認識しています。

 こうした状況を踏まえ、5年度を今次3か年計画の再スタートの年と位置づけ、将来にわたって組合員・利用者に安心と満足を提供するための事業基盤づくりをはじめ、JA共済事業の原点を再確認し、使命を果たすための取組みを進めています。

 5年度は、生命分野を中心とする保障充足、事業基盤づくりに向けた共済事業体制総点検運動の展開、デジタル技術等のさらなる活用、農業保障のご案内等による農業・地域への貢献およびJA共済事業を支える信頼性・健全性等の強化に取組んできました。

 6年度の事業計画を策定するにあたり、JAとJA共済連が一体となり様々な課題を見つけ出し、それに対応するための総点検を行いました。そこで全国共通の課題として出てきたのが、知識・スキルだけでなく、マインドを含めたLAの育成・強化です。LAの数も減少し訪問活動量が低下し、組合員との接点が希薄化しています。これからはLAを中心としながらも支店一体となった協働体制の導入・定着に取組む必要があります。そうでなければ組合員・利用者の保障充足を実現できず、安心と満足を提供する我々の使命が果たせないことになります。

 そのためには5年度の取組状況を踏まえ、組合員・利用者との関係性の再構築・強化に向けて全契約者・組合員への〝寄り添う〟活動の展開、それを実践するためのデジタル活用も含めたJAの実情に応じた共済事業態勢づくりに取組んでいく必要があると認識しています。

 また、農家・組合員との関係性の再構築を図るため、あらためて農業保障のご案内と農業振興・地域貢献活動を通じた関係づくりに取組むとともに、今後も社会、組合員・利用者から信頼され続けるため、さらなるコンプライアンス・ガバナンス態勢強化等に取組んでいかなければなりません。

 

全契約者・組合員へ〝寄り添う〟活動展開

6年度事業の基本方針は?

 環境変化に対応し、全ての事業活動において、役職員一人ひとりがこれまで以上に、組合員・利用者を第一に考えて事業活動を展開していかなければなりません。

 5年度は3か年計画を再スタートさせ、JA共済事業の原点を再確認して使命を果たすべく取組みを進めてきました。

 6年度は、5年度の取組状況を踏まえつつ、あらためて組合員・利用者本位の業務運営を意識し、共済事業体制総点検運動を踏まえた課題への対応やコンプライアンス態勢の強化などに着実に取組み、次期3か年への架け橋としていきます。

 「JA・連合会は、これまで以上に、組合員・利用者本位での取組みを実践する。」「そのために、全契約者・組合員への〝寄り添う〟活動を展開することで、今後の事業展開の礎となる組合員・利用者との強固な絆を構築する。」「また、JA・連合会の役職員一人ひとりが、常に組合員・利用者本位で考え行動できるよう、人材育成・環境整備などの態勢づくりに取組む。」「これらを実践することで、永続的に組合員・利用者の信頼と期待に応え、組合員・利用者の保障充足を図り、生命・財産を守り続ける。」ことを基本方針として掲げております。

 

共済事業体制総点検運動のさらなる実践

重点取組事項としては?

 以下の3点を掲げています。

 1点目は、「全契約者・組合員への“寄り添う”活動の展開を通じた保障充足」です。全契約者・組合員への〝寄り添う〟活動の実践に向けて、支店一体となった職場活性化・協働体制の構築に取組んでいきます。また、非対面ツール(オンライン面談、3Qコール)やコロンブスなど既存のデジタル技術等の活用を促進するとともに、デジタル接点の活用拡大(デジタルマーケティングの高度化等)を通じたJAの活動機会の創出等に取組んでいきます。さらに、組合員・利用者一人ひとりに応じた保障・サービス等の一体的な提供を実践するため、公的保険制度を踏まえた必要保障額や防災情報など、ひと・いえ・くるま・農業に関する保障・サービス・お役立ち情報等の提供に取組んでいきます。

 2点目は、「組合員・利用者の信頼と期待に応えるための態勢づくり」です。「組合員・利用者本位の業務運営」の浸透・定着に向けて、JA・JA共済連は、「組合員・利用者本位の業務運営にかかる取組方針」を策定し、より意識的・明示的に組合員・利用者の立場に立った行動を実践していきます。また、実践状況の振り返りや組合員・利用者の声に基づく改善・強化に取組んでいきます。さらにLAのモチベーション向上に向けて、LAの活動意義や共済事業の理念・使命の内外への浸透、JA共済のイメージ向上に資する広報活動等に取組むとともに、職員ごとの役割や経験に応じた推進体制を構築し、推進担当者の適切な育成に取組んでいきます。JA・JA共済連は、将来にわたって組合員・利用者に安心と満足を提供するための基盤づくりに向けて、共済事業体制総点検運動を一体となって展開し、JAごとの課題に応じた改善策の策定・実践に取組んでいきます。6年度は、「組合員・利用者本位の業務運営」を踏まえた取組みや、令和5年度の点検結果への対応状況を踏まえた点検を行い、①共済事業体制の確認、②課題の整理・原因の深掘り、③対策の策定・実践のサイクルを展開します。

 3点目は、「社会的責任を果たすための信頼性・健全性の強化」です。高齢者対応の取組強化や適正な共済推進に向けた諸制度の整備、コールセンターからの契約確認の拡充等を通じ、共済推進コンプライアンス態勢の強化を図っていきます。また、統合リスク管理態勢の整備・高度化等を通じ、リスクコントロールおよび健全性の確保を行っていきます。

 さらに、地域・農業活性化積立金を活用した各種活動や農作業事故の未然防止に向けた取組み等を通じて、農業振興・地域活性化による繋がりづくりや社会課題解決に向けた取組みを進めていきます。

 

支店一体となった職場活性化・チームづくり

JA経営基盤の確立・強化に向けた取組みは?

 組合員・利用者の保障充足に向けて足場を固める見直しから始めていかなければなりません。

 JA共済連では、4年度から6年度までの3か年計画の重点取組事項の一つとして、「共済事業の長期安定的な展開」を掲げており、持続可能なJA経営基盤の確立・強化を実現するため、全契約者・組合員に〝寄り添う〟活動の実践と共済事業実施体制の整備に加え、さらなる事務負荷軽減に取組んでいます。また、JAの経営管理・経営改善(PDCA)の実践支援やシステム整備に取組んでいます。

 全契約者・組合員への〝寄り添う〟活動の実践に向けては、職場活性化による風通しの良い職場づくりに取組むとともに、JAの実状に応じた支店一体となったチーム作り(協働体制)の導入・定着に取組んでいきます。

 JA共済連としては、JAの職場活性化に向けた実践支援や研修会を実施するとともに、JAの実状に応じたチーム作りの導入・定着に向けた研修・資材展開等を行い、支店一体となった協働体制の構築支援に取組みます。

 また、JAのさらなる働きがいのある職場づくりの促進に向けて、JAグループ一体となった職員エンゲージメント調査の実施に向けた検討を進めていきます。

 併せて、共済事業体制総点検運動の実践等、JAに寄り添った伴走支援を強化するため、JA支援担当(地区担当)に必要な「基本的なスキル」や「業務知識」の習得に向けた研修カリキュラムの見直し等を行い、職員の計画的な育成に取組みます。

 JAの事務負荷軽減に向けては、ペーパーレス・キャッシュレス手続きのさらなる浸透・定着やJA固有事務の削減に取組むとともに、ペーパーレス手続きのシステム改善やフォルダー制度からマイページ制度への移行等を実施していきます。

 

若い世代や未加入者と新たな接点、関係づくりを

次期3カ年も視野においた中長期的事業のポイントは?

 これまでの、3Q訪問による保障点検活動も、少しずつ見直していく必要があります。

 普段、日中会うことのできない准組合員や若年層の方々に、どのように寄り添い保障を提供していくのか。共済未加入の方々との接点をどのようにつくるか。

 そうした方々との接点を持つためには、LAを含めたチームを編成するなど組織の活性化が必要です。

 デジタル等も駆使して新たな接点や関係づくりを行ったうえで、保障を提供する活動を着実に進めていきます。

 次期3か年に向けては、そうした方々の保障ニーズと加入の仕方を研究し、組合員・利用者とさまざまな形で接点を持ち保障を提供していきます。

 もう一つ取組まなければならないのは組織の活性化です。仕事のやりがい等、モチベーションを上げる仕組みづくりをし、プライドをもって仕事に取組めるようにしていかなければなりません。

 さらに次のステップとして、新規就農者を始めとした正組合員を増やすための支援を行うとともに、地域住民も巻き込んで准組合員も増やしていく。そして、こうした組合員・地域住民との接点・関係性を持ちながら推進活動が展開できる仕組みを創り上げていくことが、JA共済事業の持続的発展に繋がっていくと思います。


 

〈本号の主な内容〉

■アングル
 JA共済 令和6年度事業に向けて
 JA共済連 代表理事専務 村山美彦 氏

■スマート農業技術で地域の農地を持続可能に
 熊本県 JA本渡五和、宮地岳営農組合の取組み

■JA全農 石油事業の現状と課題
 安心・安全で地球環境に配慮したJA-OIL
 QR決済の取扱SSが拡大 固定客獲得・販売数量拡大に効果

■JA全農グループをサポートするわが社の事業展開
 ㈱全農ビジネスサポート 代表取締役社長 久保田治己 氏

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