日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉基本法改正と所得補償

2024年3月5日

 先の2月13日、自民党の検討PT、農地政策検討委員会、農林部会の合同会議に、食料・農業・農村基本法(以下「基本法」)の一部改正に関する法律(案)、そして食料供給困難事態対策法案(仮称)(骨子)、食料安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律案(仮称)(骨子)が示され、27日、閣議決定された。基本法見直しの全貌が条文レベルで明らかになった。

 これまで法案の骨子や概要については新聞等で報道されてはきたが、あらためて法律(案)を見て感じることは多い。今回の基本法改正は食料安全保障の確立とみどりの食料システム戦略の策定にともなう環境問題への取組みの二つが大きな焦点であった。基本理念を見てみると、これまでの➀食料の安定供給の確保、②多面的機能の発揮、③農業の持続的発展、④農村の振興、が、①食料安全保障の確保、②環境と調和のとれた食料システムの確立、③多面的機能の発揮、④農業の持続的な発展、⑤農村の振興、に改正され、「食料の安定供給」から「食料安全保障」に修正されるとともに、これまでの4つの基本理念に、環境と調和のとれた食料システムの確立が追加された形で5つの基本理念に再整理されている。同時に、農業生産活動における環境への負荷低減については④の農業の持続的発展の2として独立・追加されている。また食料安全保障については、これまで農産物の「輸出入」に関する措置として一括されていたものを、第21条で輸入、第22条で輸出の促進、第24条で不測時における措置に書き分け、措置の強化をはかるとともに、基本理念として置かれた第2条の食料安全保障の確保の5として食料の合理的な価格の形成が盛り込まれ、あらためて第23条に食料の持続的な供給に要する費用の考慮が新設される等、食料安全保障に注力していくことが明確化されている。このように食料安全保障やみどり戦略対応についてはそれなりの書き込みがなされたということで、一定の評価は可能であろう。

 しかしながらこれで減少する農地や担い手の確保が可能となり、農業の将来像が描けるかといえば、答えはノー。直面する課題に方向性を打ち出したとはいえ、日本農業再生の展望を獲得するには程遠い。そもそも今回の基本法見直しに際して、理念法のままでいいのか基本法の実効性とあり方、そして価格形成の前に所得補償拡充の是非等を含めた抜本的議論が欠かせないが、もっぱら直面する課題に集中しての議論に終始した。すでに日本農業は構造的に崖っぷちにあるという危機意識に乏しく、本質的問題は回避した感が拭えない。価格形成問題についても自由貿易体制の下で価格形成していくことはきわめて困難であり、所得補償という形で生産と所得を分離する形で消費者の理解を得て本問題を乗り越えてきたのがEUの歴史であるように理解している。あらためて日本農業を維持していくためにどのような仕組みにすることで負担増について消費者の理解を獲得していくのか、そのためのまっとうな議論と時間もかけながらの消費者への働きかけの積み重ねが求められる。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2024年3月5日号掲載

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