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日本農民新聞 2024年2月5日号

2024年2月5日

藤田シゲ子さん(左)と藤田善江さん(右)

JAグループ国産農畜産物商談会
出展者インタビュー

 

私のイチオシ出展商品

 

農事組合法人21世紀フラワーファーム
(山口県下松市)
代表理事 藤田シゲ子 さん
  理事 藤田善江 さん

 

 2月28・29の両日、東京・浜松町の産業貿易センターで「第16回JAグループ国産農畜産物商談会」が開催される。北海道から沖縄まで70を超えるJA・農業法人、漁協等が出展し、各地の魅力ある商品を取り揃えバイヤーを迎える。今回、TACの店で初出展する山口県下松市の農事組合法人「21世紀フラワーファーム」は、化学肥料・農薬不使用で栽培する農産物の加工品を中心に紹介する。代表理事の藤田シゲ子さんと理事の善江さん母子に農場の取組みとイチオシの加工品について聞いた。


 

運送業から専業農家へ、後継者出来る環境へ法人化

農業への取組みの経緯から。

 シゲ子さん 地元で運送業の社長をしていたが、昔から農業に興味があった。ある日、整地の仕事で行った現場にあったキクをもって帰り挿し木したら全部根付いた。これがきっかけで花卉栽培にのめり込んだ。はじめはハウスを建て片手間でユリを作ったが、経営の交代を期に農家になった。

 会社と自宅近くの土地と、標高が400mある土地でユリを作っていたが、効率化とコスト削減のため平成23年に面積が広い現在の場所に集約した。ここは下松市の中心街から約7kmで標高は100m。周南市との境で出荷先も多い。

 2万5600㎡ある敷地はほとんど借地で、移った時は耕作放棄された荒廃水田や竹藪だったが、開墾してできたところから畑を造っていった。水は井戸を掘り確保した。

 同時に法人組織にした。法人でなければ次に繋いでいけず私一代で終わってしまうことになる。若い人たちが継いでいくことのできる環境をめざした。

 

畑1.2ha、ハウスで花や果樹

現在の経営規模は?

 シゲ子さん 畑は全部で1.2ha。ハウスは7棟。250坪1棟と180坪3棟の他に小さいハウスが3棟。大きいハウスは加温して花を栽培している。

 常時雇用は3人、パート3人くらいで草刈などの作業を担当する。障がい者福祉施設からも週2回3人ずつ応援にきてもらっている。何年も来ているので作業が非常に手早く助かっている。ハウスのユリが終わった後の球根掘りや草取り、ブルーベリーの剪定後の片づけなどが主な仕事だ。収穫や栽培管理は、私たち2人が中心に行っている。

 従業員をもっと雇いたい気持ちはあるが、雇用にはいろいろな手続きと費用がかかることから、今は来てほしい時に駆けつけてくれるパートさんに応援してもらっている。

 

化学肥料や農薬使わず40品目を栽培

一年間の栽培と特徴は?

 善江さん 土づくりから化学肥料や化学農薬を一切使わない栽培に10年前から取組んでいる。果樹畑には一切肥料を与えず、草を刈って肥料代わりにおいておく自然農法で栽培している。ブルーベリーは鶏糞、花、野菜は有機肥料を使用。

 花は周年栽培する。10品種のユリを中心に、冬は加温してスターチスなどを栽培する。果樹は夏になるとブルーベリー、夏から冬にかけてはイチジク、12月の終わりからはレモンを収穫する。花を作っていた以前の畑と現在の畑では標高が違い、温度が高いことから、夏に収穫できる作物としてブルーベリーを選択した。

棟下部に青パパイヤを植える花きハウス

 2019年からは地域の特産にしようと青パパイヤを始めた。露地栽培では4月に植えると11月に収穫でき、花と一緒にハウスの中でも栽培しているので周年収穫ができる。このほかに小さい単位でブロッコリーやピーマンなどの有機野菜を作って出荷している。

 栽培認証では県の「エコ山口100」を取得している。いずれ有機JASも取得したいと思うが、費用がかかった分の高い値段をつけるのは難しそうなので申請はしていない。「エコ山口100」はブルーベリー、レモン、イチジク、青パパイヤで取得している。更新の時にはブロッコリーやカブなどの野菜も申請したいと考えている。

 

JA直売所に出荷、通販会社との取引も

販売先は?

 善江さん 有機栽培、自然栽培なので収穫量は多くなく、絶対という量の保証はないので、主にJA山口県の農産物直売所「菜さい来んさい!」の下松店と光店に出荷している。最近、近隣の量販店に出荷できるようになった。4Hクラブ(農業青年クラブ)に入り、若い人達と一緒に量販店の〝地産地消の棚〟を年間通して埋めるための勉強をしており、毎月例会に参加している。

 ブルーベリーは下松市の国民宿舎「大城」へ生果や冷凍で1年通して提供している。そこのパティシエから地元で穫れるものを使いたいという要望があり、市の農林事務所から紹介された。地元素材を使ったケーキ作りに活用してもらっている。神戸の食材宅配会社「㈱ココノミ」や通販会社「楽天農業㈱」とも取引できるようになり2年半くらいになる。完全無農薬だったことから声を掛けていただき、地元では購入してもらえないような値段で取引している。

 

無農薬のジャムやドレッシング、青パパイヤでお茶や酢

加工品への取組みは?

 善江さん 一番初めに取組んだのはシフォンケーキ。母が料理教室の先生と研究し、農園内の菓子工房で半年くらい試作を繰り返して完成させた。山口県産の小麦を使い、紅花とグレープシードをブレンドしたオイルとブルーベリーエキスと山口産の卵を混ぜて焼く。ブルーベリーエキスがベーキングパウダーの役目を果たす独自の製法で、平成25年から始め、今でも同じ作り方を続けている。

 農場で穫れる無農薬の野菜や果物のジャムも作っている。イチジク、ブルーベリー、青パパイヤ、レモン。季節によってはキウイやプラムを使ったジャムも作る。

 シゲ子さん ジャムは鍋で煮詰めるのではなく、マニュアルを作成して業務用のスチームコンベクションで作っている。これならば温度管理に差が出ないので職人技がいらず、特定の人がいなくてもレシピ通りに作業すれば正確に誰でも同じ品質の商品が出来るようにと考えた。

 善江さん ドレッシングを作りたかったが伝がなく、6次化のイベントに参加したときのバイヤーさんにメーカーを紹介してもらった。当初は九州の大きな醸造会社に委託したが、ロットが大きすぎて売り切れなかったことから、あらためて探してもらった県内の醤油会社で作ってもらうようになった。

 青パパイヤで「飲む酢」や、これまで捨てていた葉っぱを使ったお茶も作っている。青パパイヤの葉っぱに効能があることを知り、市の農林課にお茶の製造元を探してもらった。レモンを絞った果汁も近場で食品加工の仕事をしている人に小ロットで作ってもらっている。無農薬栽培なので果実の見た目が良くなくても果汁に影響はないので有効に活用している。

 地域のいろいろな方々が力を貸してくれている。嬉しいことに断られたことはない。一緒にやってみようと言ってくれる。ラベルやパッケージ、売り方については周南市の地場産業振興センターで研修や補助があったので申し込んで指導してもらっている。みんなに助けてもらって今の商品がある。

 

地域の仲間や異業種交流も大事により多くの層に

地域との関わりから広がっているようだが。

 善江さん 直売所へ納品に行った時には積極的に会話をして、地域のみなさんや農家の方と関わるようにしている。

 4Hクラブを通じての量販店への出品も、より幅広い購買層を視野においている。直売所になかなか行けない若い層も、夜遅くまで開いている量販店は利用しやすい。より多くの層にうちの商品を知ってもらいたいとの思いがあった。4Hクラブで売り方等も含め勉強して1年になる。

 シゲ子さん JAとも平成7年にJAが直売所を開設間もない頃に出荷以来の数十年の付き合い。JA内で営農指導を受けるだけでなく、どんどん自分から求めて地域の先進事例や関係機関や業者にも相談に行った。こうした姿勢は現在TACの渡辺さんが担当営農指導員だった当時「衝撃的だった」と言われた。

 善江さん 私はJAの経営管理委員になり、JA女性部のメンバーとしても活動に参加している。
 農業の世界を知らない異業種の人間は、知らないだけに突飛な発想をする。異業種交流は大事だとつくづく思う。

 

行政やJAの協力で加工品作り体験も視野に

これからの事業・活動は?

 シゲ子さん 商品がたくさんできたので開発は少し抑えたいと思う。今ある物に良いところがたくさんあるので、それをさらに活用していきたい。

 例えば、市とJAが資金を出し合って、誰でもが使える20人くらいを収容できる加工場を設置し、私たちが協力してジャムなど加工品作りを体験するなど、地域の繋がりのなかでこれからの取組みを考えていきたい。

 

取引を喜んでもらえるバイヤーとの出会いを期待

今商談会に出展する青パパイヤと加工品のPRを。

 善江さん 青パパイヤは農業仲間から1本もらったのをきっかけに、健康に良いことを知り増やしてきた。露地では冬を越せないのでハウス栽培を試みてみたが、燃料代が高いことから花のハウスの真ん中なら背が高くても大丈夫ではないかと思い、ハウス栽培を始めた。

青パパイヤ加工品のお酢、ドレッシング、うどん、お茶

 今回の商談会には、青パパイヤのお茶やドレッシング、うどん等を出展する。

 青パパイヤは生果でどのようにして食べたらよいかわからない人が多いので売りにくい。そこで、ドレッシングやお酢、ジャムやお茶、麺に加工して、少しでも知ってもらいたいと思った。少しずつ売れるようになり、木も当初10本の試験から250本となり、実をつけすぎたことから150本にした。

 実をつけすぎたときは、漬物にして興味ある人に差し上げた。加工品はいつでも作れるように切って冷凍保存している。ドレッシングやお酢は直売所にも定期的に出している。

 捨てていた葉も、栄養価が高い酵素を多く含むのでお茶にした。茶葉を混ぜて麺を販売していた茶舗の紹介を受けて、青パパイヤの葉を練り込んだうどんも作った。

 販路は地場産業振興センターの協力を得て開拓している。昨年は福岡のフードフェスティバルに出展し、九州の健康食品の会社と取引できるようになった。

 今回の商談会でも、青パパイヤはスーパーフードにも選ばれ栄養価が高くとても身体にいいことをアピールし、健康志向の方達と繋がれればいいと思っている。少量でもいいので定期的に購入してもらい、私たちが愛情をもって作っていることをわかってもらえるバイヤーさんと繋がることができ、私達との取引を喜んでいただけるような出会いを楽しみにしている。


 

〈本号の主な内容〉

■JAグループ国産農畜産物商談会出展者インタビュー
 私のイチオシ出展商品
 農事組合法人21世紀フラワーファーム
 代表理事 藤田シゲ子 さん
   理事 藤田善江 さん

■混合堆肥複合肥料の開発と普及
 JA全農いばらき の取り組み

■第18回JAグループ国産農畜産物商談会
 JA全農・JAバンク
 2月28・29日 東京都立産業貿易センター浜松町館で開催

蔦谷栄一の異見私見「能登半島地震が見せる農業の近未来」

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