アングル
JA全厚連
令和6年度事業のポイント
全国厚生農業協同組合連合会
代表理事理事長
中村純誠 氏
JA全厚連は3月の臨時総会で、令和6年度の事業計画を決定した。新型コロナ対応や諸物価高騰の影響も重なりJA厚生連の経営が厳しさを増している中、これからのJA厚生事業のあり方と取組み方向を、JA全厚連の中村純誠代表理事理事長に聞いた。
迅速だった厚生連病院のDMAT対応
■まず、能登半島地震にかかるJA厚生連の対応について。
元日の能登半島地震発生後、厚労省DMAT(災害派遣医療チーム)事務局や都道府県から、厚生連病院にもDMAT隊派遣の要請があった。DMATは、医師1人、看護師2人、業務調整員1人の4人で1チームを基本に活動する。
厚生連では45病院が災害拠点病院となっており、DMATの登録は48病院。全国の災害拠点病院やDMAT登録医療機関の5%程だ。能登半島地震でのDMAT派遣は、3月5日現在で延べ1139隊が活動しているうち、厚生連病院からは延べ75隊463人が派遣された。
特に、災害発生後72時間を超えると生存率が大幅に下がるとされ、発生直後の人命救助や医療提供体制の確保が災害対応の大きなカギを握る中、厚生連病院のDMATの初動対応は実に迅速だった。
DMATの派遣状況について厚労省公表値と本会調査結果をあわせて見ると、厚生連病院から派遣されたDMATが全体に占める割合は、地震発生翌日の1月2日午前10時時点で83.3%(18隊中15隊)、72時間が迫る4日午後4時時点でも30.3%(89隊中27隊)。被災現場に赴く隊員たちは、現場の詳細な状況もわからず、しかも今回は北陸の厳しい冬のさなか。その使命感と行動力には本当に頭が下がる思いだし、誇りに感じている。
コンテナ型診療所についても、国は災害時の医療コンテナ活用に向けた取組みを進めており、JA神奈川県厚生連相模原協同病院が所有する1基が被災地に届けられた。
被災地医療機関等からの患者受入れにも尽力している。厚労省から都道府県に石川県外の病院に患者受入れ協力依頼が発出されたことに応え、JA富山厚生連の高岡病院と滑川病院、JA愛知厚生連江南厚生病院が患者受入れを行った。
診療・介護・障害者福祉の報酬が同時改定
■JA厚生事業を取り巻く情勢について。
令和6年度は、6年に一度の「診療報酬」「介護報酬」「障害者福祉サービス等報酬」の同時改定が行われる節目の年。昨年末には、30年来経験したことがないほどの物価高騰等といった経済環境の中、医療従事者の賃上げを中心とする改定率が決定した。診療報酬改定では全体で0・12%の引下げとなり、うち薬価等は1.00%引下げ、診療報酬本体は0.88%引上げとなった。診療報酬本体のうち0.61%は、看護職員、看護補助者、病院薬剤師及びリハビリ専門職などの賃上げに用い、別に0.28%程度を40歳未満の勤務医師、勤務歯科医及び薬局の勤務薬剤師などの賃上げに充てられており、経営へのプラス要因にはなっていない。
令和7年に向け策定された「地域医療構想」については、厚労省が令和元年9月、計画の再検証を要請する公立・公的医療機関等を一定の基準で抽出のうえ公表し、再編統合等の結論を得るよう求めた。しかし新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、再検証等の期限は事実上延期されている。
医療にかかる消費税のあり方については、令和5年12月の中央社会保険医療協議会総会で、消費税率10%への引上げに伴う診療報酬による補てん状況を踏まえ、6年度診療報酬改定で消費税上乗せ分の見直しは行わない方針が了承された。
特定健診・保健指導については、全保険者の3年度の特定健診実施率が56.5%と前年度比3.1ポイント向上したものの、目標の70%に未だ到達しておらず、特に市町村国保の実施率が36.4%と低い。6年度からは、特定保健指導で成果が出たか評価する「アウトカム評価」が導入されることとなった。
高齢者福祉に関しては、介護保険法が5年5月12日に改正され、6年度から介護事業の財務諸表の公表が義務化。介護事業者は、決算終了後財務諸表等の経営情報を都道府県知事に届け出ることとされた。6年度の介護報酬改定は1.59%の引上げとなり、うち0.98%は処遇改善に充てることとなった。
税制改正要望で有償病床割合の緩和を実現
■令和5年度を振り返って進捗と課題を。
令和2年冬から続く新型コロナ感染拡大に対し厚生連病院は、まさに最前線で活動・貢献を重ねてきた。国内での第一症例を受け入れたのがJA神奈川県厚生連相模原協同病院で、大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の感染患者は7厚生連12病院で受入れ対応を行った。
第8波のピーク時には、厚生連病院の受入患者のための専用病床の使用率が全国平均の78.2%を上回る84.3%となり、地域の中核病院として重要な役割を果たした。
また、政府から看護師の派遣要請を受けた本会は、新型コロナ患者の増加で医療提供体制が逼迫している地域の支援について、各厚生連に看護師派遣を募り、9厚生連から延べ38名の看護師が派遣された。
ワクチン接種では、自治体から要請を受けた厚生連で3年4月以降、72病院・9診療所で接種を実施。JAの職域接種は、既に自治体によるワクチン接種に対応する中、各県中央会から厚生連に相談・調整がなされ実施してきた。
また、新型コロナ感染警戒による健診の受診控えを改善するため、他健診団体の日本対がん協会、予防医学事業中央会、結核予防会とともに3年2月に共同メッセージを発信、健診受診の必要性を訴えた。
5年5月8日に新型コロナが5類に移行したことにより、法律に基づき行政が要請・関与を行う仕組みから、国民の自主的な取組みを基本とする対応に転換したが、新型コロナへの対応はなくなることなく継続している。特にこの日以降、それまでの補助金が大幅に削減された。外来・入院患者数の減少による収益減少に加え、物価高騰等による材料費や水道光熱費の値上がりにより費用が大幅に増加する中、厚生連の経営収支は厳しさを増し、5年度は半数以上の厚生連が赤字決算となる見込みとなった。
厚生連の行う医療・保健、老人福祉事業について法人税の非課税措置を受けており、①有償病床の割合は全病床の30%以内、②当該病床の料金の平均額は5000円以下、の2要件をクリアする必要がある。
しかし、新型コロナ対応では、有効に機能を発揮するとされる感染者の隔離(ゾーニング)のため個室(有償病床)を活用する必要があり、厚生連でも有償病床の絶対数確保が必要となった。厚生連病院の有償病床の割合は18.9%に留まっており、感染拡大が生じたケースではこれが一要因と考えられる。
一方、4年12月2日成立、6年4月1日施行の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律」では、感染症発生・まん延時における保健・医療提供体制の整備等として、都道府県が定める予防計画等に沿って、都道府県と医療機関等の間で病床や外来医療の提供等に関する協定を締結することに加え、公立・公的医療機関等、特定機能病院、地域医療支援病院に感染症発生・まん延時に担うべき医療提供が義務付けられる。この改正により、公的医療機関である厚生連病院の役割が一層重要となることから、新型コロナや将来の感染症にも対応できるよう整備強化が必要となっている。
こうした状況を踏まえ、本会では令和6年度税制改正要望の取組みを行ってきた。
本会が税制改正要望に盛り込んだ「厚生連病院の有償病床(差額ベッド)に係る30%の病床割合の緩和(見直し)」は、農水省と厚労省の共同要望となったことに加え、JA全中とも連携を取りすすめたことでJAグループの重点事項となり、昨年末の税制改正に向け政府・与党に要望活動を行ってきた。その結果多数の国会議員のご理解を得ることができ、平成13年度以来30%以内とされてきた病床割合について、要望通り50%に緩和する見直しが認められた。
厚生連の事業・経営支援を最優先で
■令和6年度の基本方向は。
令和6年度は、本会の第10次3ヵ年計画(令和4~6年度)の最終年度に当たり、JA全厚連のめざす姿の実現に向けて、①事業・経営支援、②制度対応支援、③制度改正要望、④人材の育成、の4項目について重点的に取組んでいくこととしている。
特に、厚生連に対する早期支援をはじめとする「事業・経営支援」に最優先で取組んでいく。経営の健全性が保たれなければ、地域医療の〝最後の砦〟として維持することはできない。
■重点実施事項は。
第1に、事業・経営支援。本会は「厚生連を取り巻く経営環境の変化に対応したJA全厚連の機能強化と組織の在り方」に係る厚生事業審議会の答申(令和元年12月12日)に基づき、厚生連の収支悪化を未然に防ぐため、早期収支改善スキーム実施要綱を定めている。要綱に規定する指標について、すべての会員厚生連に報告を求めるとともに、要綱に基づき事業・経営支援に取組んでいく。
第2に、制度対応支援。協同組合である厚生連に対する法人税非課税措置は、厚生連グループの長年にわたる要請活動の結果認められた特例的な措置である。その適用を継続するためには、措置の要件(分娩料など法の定めのない料金、医療施設基準など)を遵守する必要がある。措置要件を満たしていない等の事案が発生した場合、財務省の判断により厚生連に対する非課税措置が廃止される可能性もあることから、非課税措置要件の管理を徹底して行う必要がある。
地域医療構想への対応については、厚労省では各地域における2025年の医療需要と病床の必要量について、医療機能(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)ごとに推計し「地域医療構想」として策定。その上で、各医療機関の足元の状況と今後の方向性を「病床機能報告」により「見える化」しつつ、各構想区域に設置された「地域医療構想調整会議」で、病床の機能分化・連携に向けた協議を実施することとされた。
本会としては、各厚生連の事業継続のための再編・統合等に向けた検討に資するため、厚生連内外の先行事例の収集・提供等をすすめるとともに、厚生連からの相談に応じ、ともに対応を検討するなどの支援を行っていく。
第3に、制度改正要望。自民党議員連盟「農民の健康を創る会」を通じ、政府等に対する要請活動を展開する。日本赤十字社、社会福祉法人恩賜財団済生会と連携した要請活動を実施する。
医師の働き方改革については、この4月から時間外労働の上限規制等が適用されたが、大学病院から医師を引き揚げられることを懸念している。特に地方の厚生連病院は、医師確保が一層困難になるという悪循環に陥り、地域医療を維持できなくなるおそれがある。
このため、即効性のある医師の偏在対策を講じるとともに、地域医療の確保に支障が生じないよう必要な対応を検討するよう、国への要請活動を行う。
深刻な物価高騰への対応も大きな課題だ。医療機関では、円安・原油価格の高騰等による光熱費、食材費、医療機器・資材等の高騰を価格に転嫁できず経営を圧迫している。また、医療機器・資材の不足により国民に医療を提供できなくなる事態が懸念される。医療機関への確実・十分な支援が措置されるよう要請活動を展開する。
3月6日開催した本会臨時総会では、令和6年度事業計画の決定とともに、決議文(別掲)が採択された。
第4に、厚生連職員の教育研修では、厚生連についての健全経営や制度対応等の支援につなげるための研修に重点的に取組み、厚生連の経営幹部、将来の経営幹部を対象とする研修を企画・実施することにより各厚生連職員の資質向上を図る。
「健康経営」の考え方をJA全国大会で
■JA全国大会に向けての取組みとJA厚生事業の役割について。
JAグループにとって令和6年度は、10月に開催されるJA全国大会が30回目となる節目の年でもある。その方針の一つとして、社会に広まりつつある、従業員の健康を〝資源〟と捉える「健康経営」の考え方を打ち出したい。職員の「健康状況の把握」「健康づくりの推進」「生活習慣病の予防・改善」「メンタルヘルス不調の予防・改善」等、健康増進に組織全体で取組む「健康宣言」が決議できるよう具体的な検討を進めたい。
健康づくりには「予防医療」の充実が欠かせない。農家組合員に健診を受けていただく取組みが重要だ。JAグループではこれまで、組合員の健康診断受診等に取組むことで、農業者の体調・健康管理意識の向上を図ってきている。JA全国女性協では健診受診者の拡大に取組んでいただいており、JA青年組織では「JA全青協ポリシーブック2023」に健康と健診について記載することで、担い手農業者等の健診受診の啓発に取組んでいただいている。
JAグループ、特にJAが「健康経営」に取組むことで、職員自らが「健康経営」を実践する。これにより、管内の農業法人が従業員を含め「健康経営」に取組むことについて、JA職員が具体的な支援を行うことも可能となる。農業者個人に対しても同様だ。
組合員に健康でいていただくことは、くらしを守る意味でも重要だし、農家組合員や担い手の皆さんに健康でいい農産物を作り続けていただくことで、結果的にご本人やJAの収益にもつながる。その意味からも、組合員の健康づくりはJAの重要な使命の一つと言える。その認識が、もっともっと広がり定着するよう力を尽くしていきたい。
〈本号の主な内容〉
■アングル
JA全厚連 令和6年度事業のポイント
全国厚生農業協同組合連合会
代表理事理事長 中村純誠 氏
■令和5年度 JA地産地消全国交流研究集会
JA全中が愛知で開催
JAファーマーズ・マーケットの運営改善に向けて
■農中総研フォーラム
「生態系サービスの持続的利用を目指した
農林林水産業由来カーボンクレジットの高付加価値化」テーマに
■JA共済事業システムを支えるわが社の現状と展望
㈱中央コンピュータシステム
代表取締役社長 村井雄一 氏
■新年度スタート JA中央機関トップが新入職員へ訓話
JA共済連 経営管理委員会会長 青江伯夫 氏
農林中金 代表理事理事長 奥和登 氏
JA全農 代表理事理事長 野口栄 氏