日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

コラム

〈蔦谷栄一の異見私見〉基本法改正と切り離された畜政

 成立した改正食料・農業・農村基本法についての受け止め方等は本紙6月15日付の「異見私見(拡大版)」に記したとおりだ。確かに食料安全保障や環境との調和等についての理念や施策、農福連携や多様な農業者等が盛り込まれるなど一部は新たな動きに対応した施策も盛り込まれた。しかしながら担い手の不足、農地の減少等が進行し、日本農業が崖っぷちに追い込まれている情勢の下、既存の効率化・大規模化の基本路線に変わりはなく、肝心の所得補償の議論は避けて合理的価格の形成を先行させ、またスマート技術やゲノム編集等の先端技術、農産物の付加価値向上への取組みが強調されたものとなっている。あらためて基本法改正論議を行うのは10...

〈行友弥の食農再論〉補助金漬けの「苦い米」

 半導体は「産業の米」と呼ばれる。スマホやパソコンなど情報機器だけでなく、テレビなどの生活家電、自動車にも欠かせない。その重要度は確かに米に匹敵する。いや、米離れが進む今はそれ以上かも知れない。  1980年代、日本の半導体は世界市場の5割超を占めた。しかし、米国との貿易摩擦が高まり、86年に日米半導体協定が結ばれた。日本市場で外国製半導体のシェアを2割以上に高めることと、ダンピング防止のための最低価格導入が柱で、そこから日本の半導体は競争力を失っていった。今や日本は台湾や韓国に大きく水をあけられ、世界シェアは1割に満たない。  巻き返しを図ったのが通商産業省(現・経済産業省)だ。99年に...

〈蔦谷栄一の異見私見 拡大版〉附帯決議を楯に 将来展望を探れ

■基本法改正の受け止め方 遠のく日本農業の再生  5月29日の参議院本会議で食料・農業・農村基本法の改正案が可決され、改正法が成立した。内容的には野党からの提言について盛り込まれることはなく、附帯決議というかたちで野党提言の痕跡をとどめることでピリオドが打たれた。  今回の基本法改正によって崖っぷちにある日本農業に、再生に向けた光が差し込むことを期待していたが、率直なところ日本農業の危機を打開していく最後のチャンスを逃すことになってしまうのではないかと危惧している。  食料安全保障や環境との調和等についての理念や施策、農福連携や多様な農業者等が盛り込まれるなど一部は新たな動きも反映させ...

〈行友弥の食農再論〉「健康食品」の不健康

 先月も当欄で取り上げた紅麹サプリメントの健康被害は、5月半ばの本稿執筆時点でまだ原因が解明されていない。一方、問題の背景になった機能性表示食品制度については今月末、消費者庁の有識者会議が見直し案をまとめる予定だ。従来はメーカー任せだった被害報告の義務化、GMP(医薬品等の製造に適用される品質管理基準)導入などが焦点のようだが、その程度の改正で十分だろうか。  実は、2015年の制度発足当初から懸念を示す専門家がいた。立命館大学客員研究員の畝山智香子氏だ。最近まで国立医薬品食品衛生研究所で安全情報部の部長も務めた食品安全のプロで、16年の著書「『健康食品』のことがよくわかる本」にこう書いた。...

〈蔦谷栄一の異見私見〉付帯決議で回避した基本法の抜本改正

 食料・農業・農村基本法改正案は4月19日の衆議院本会議で可決されて、現在、参議院で審議が行われているが、衆議院での可決によって改正案の成立は確定したことになる。参議院で実質的な議論の進展を期待したいところだが、勝負あったの感は否めない。  今回の衆議院での改正案可決に当たってあらためて痛感したのが、与党のかたくなさ、聞く耳の欠落である。改正案に対して各党とも修正案を提出したが、自民・公明は維新からの多収品種の育成・導入促進の明記を求める修正案を受け入れる一方で、野党である立憲民主党(以下「立民」)や国民民主党(以下「国民」)、共産党(以下「共産」)の修正案については全面的に拒否。野党の修正...

〈行友弥の食農再論〉「機能性」の落とし穴

 20年前、スギヒラタケというキノコの中毒事例が相次ぎ、十数人の死者が出て大きなニュースになった。東北・北陸地方では昔から食べられていた山の幸だが、なぜ毒キノコに変身したのか、今もわかっていない。  紅麹(こうじ)サプリメントの健康被害で、その騒ぎを思い出した。紅麹も古くから利用されてきた食材で、キノコと麹はともに真菌、つまりカビの仲間だからだ(キノコは菌糸の集合体)。真菌類など微生物の種類や生態には未解明の部分が多く「99%は謎」という専門家もいる。  微生物に限らず、生き物には有用なものと有害なものがある。そもそも「有用、有害」は人間の都合で、身近な食品も処理を誤れば毒になる。たとえば...

〈蔦谷栄一の異見私見〉日本農業の行方を左右する今国会

 食料・農業・農村基本法(以下「基本法」)の改正についての国会での本格的審議が始まった。既にご承知のとおり基本法の主な改正点は食料安全保障の強化がメインであり、これにみどりの食料システム戦略等の情勢変化への対応が追加された中身となっている。  基本法改正の論議のきっかけとなったのがウクライナ侵攻にともなって顕在化した穀物価格や生産資材の高騰であり、連動しての食料品価格の上昇から大きく広がった食料安定供給に対する不安である。こうした事態に対応して自民党の主導で食料安全保障についての議論が巻き起こされ、そこでの基本法改正の提言を受けて農水省も農政審議会に検証部会を設けて議論を開始することとし、検...

〈行友弥の食農再論〉未来に引き継ぐ価値

 前回の当欄に、能登半島地震で壊れた石川県輪島市の棚田「白米千枚田」を「地元だけで維持するのは厳しい」と書いた。もちろん「厳しいから失われても仕方がない」という意味ではない。地域を超えた支援の必要性を指摘したつもりだ。  棚田を含む「能登の里山里海」は2011年6月、日本初の世界農業遺産に認定された。「遺産」の英語表記はレガシー(物故者が残した財産)ではなくヘリテージ(世代を超えて受け継がれていくべきもの)。農業遺産は古代遺跡や単なる自然景観と違い、人々の営みによって継承されていく。つまり能登の里山里海に人々が戻り、農業や漁業を続けられるよう支えることは、世界に向けた日本の約束といえる。 ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉基本法改正と所得補償

 先の2月13日、自民党の検討PT、農地政策検討委員会、農林部会の合同会議に、食料・農業・農村基本法(以下「基本法」)の一部改正に関する法律(案)、そして食料供給困難事態対策法案(仮称)(骨子)、食料安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律案(仮称)(骨子)が示され、27日、閣議決定された。基本法見直しの全貌が条文レベルで明らかになった。  これまで法案の骨子や概要については新聞等で報道されてはきたが、あらためて法律(案)を見て感じることは多い。今回の基本法改正は食料安全保障の確立とみどりの食料システム戦略の策定にともなう環...

〈行友弥の食農再論〉田ごとの月のように

 世界農業遺産に登録される石川県輪島市の白米千枚田。日本海へ向かって広がる棚田の景色は息を飲む美しさだが、元日の能登半島地震で無残に壊れた。無数の亀裂が走り、水を張ることもできない。棚田の多くは高齢の農業者たちが支えている。地元の力だけで再生・維持するのは厳しそうだ。  2日付の日本農業新聞によると、能登半島全体で米の作付けが困難な水田は1000haに上る。東日本大震災でもそうだったように、災害をきっかけに離農する人が多いだろう。  東北の被災地では、農地復旧と併せて水田の大区画化や水利施設の改良が進められた。いわゆる「創造的復興」を目指す施策だが、少数の担い手で大きな面積をカバーするには...

〈蔦谷栄一の異見私見〉能登半島地震が見せる農業の近未来

 まさかの正月1日に能登半島で震度7の大地震発生。犠牲になられた方々にお悔やみを申し上げるとともに、被災された皆様には心よりお見舞い申しあげます。  東京から現地に救援に駆け付けた専門家からということで伝え聞いた話では、大きな揺れと津波に火事が重なったためか、専門家がこれまで足を踏み入れたどの災害現場よりも、その被害の程度は凄まじいという。日本海側の厳寒時期での被災で、寒さに雪、そして水道や電気等のインフラが切断されて、不便かつ大変な避難生活を余儀なくされている被災者の様子をテレビ等で目にするたびに、何とか苦難を乗り越えて春を迎えていただきたいと祈るばかりである。  先日、持続可能な農業を...

〈行友弥の食農再論〉「珠洲原発」のまぼろし

 正月気分を吹き飛ばした元日の能登半島地震。筆者も帰省先に津波注意報が発令され、老母の手を引いて右往左往した。しかし、被災者の苦難とは比べようもない。心からお見舞いを申し上げ、亡くなった方々の冥福を祈る。  新聞記者時代から災害には縁があった。新潟県中越地震(2004年)、東日本大震災(11年)、熊本地震(16年)では現地へ行った。福島県の被災地には今も時折、足を運んでいる。  被害の形は土地によって多様だが、これらの被災地に共通するのは(仙台圏を除けば)過疎化・高齢化が進む農山漁村という点だ。報道を通じ能登の状況を見ていると、既視感を覚える。  中越地震では崩れた土砂が川をせき止めて「...

〈蔦谷栄一の異見私見〉国民皆農からの食料安全保障確保

 2024年が明けた。ウクライナ、パレスチナと、いったん始まった戦争はなかなか終結を見ず、一方であらたな火種は増えるばかり。新しい年が戦争のない平和な世界に向けての転換点となることを心底から祈念したい。  戦争が勃発し、戦火が拡大するほどに浮き彫りになってきたのが、わが国の農業生産基盤の弱体化、そしてエネルギー調達基盤の脆弱性である。ロシアからの液化天然ガス(LNG)輸入が困難化し綱渡りを続ける一方、中東からの原油輸入も紅海やスエズ運河の通航がままならなくなるなど、わが国のエネルギー資源の調達はまさに黄色信号が点滅している。そして農業についてはあらためて述べるまでもなく、生産の大規模化・生産...

〈行友弥の食農再論〉本当に残酷なのは…

 宮沢賢治の童話「なめとこ山の熊」は、熊撃ち猟師と、その獲物である熊たちとの交流を描いている。熊の毛皮と肝を売るしか収入源がない猟師に、ある熊は「2年待ってくれたら、お前のために死ぬ」と約束し、それを果たす。だが、最後に猟師は熊に殺される。襲った熊は「お前を殺すつもりはなかった」と言い、猟師は「くまども、ゆるせよ」とわびながら絶命する。  もちろん、おとぎ話だ。だが、この国で狩猟や畜産に携わる人々が、動物に感謝と贖罪の感情を抱いてきたことは事実だ。東北のマタギ(猟師)は、仕留めた熊の魂を山に返す儀式を行う。捕鯨の盛んだった土地には「鯨塚」があり、食肉処理場にも供養塔がある。  熊の被害が多...

〈蔦谷栄一の異見私見〉検証が必要な野菜の栄養価低下

 以前から指摘がなされ、気になっていた一つが野菜の栄養価の低下である。科学技術庁から日本食品標準成分表が発表されており、5年ごととも言われるものの概ね不定期に改定が行われている。この食品成分表で野菜可食部分の100g当たりの栄養成分量が示されている。これにより1963年、1982年、2020年栄養成分含有量の推移を見てみると、カルシウムの場合、ほうれんそうで1963年98mgであったものが、1982年55mg、2020年69mg。だいこんで同じく190mg、30mg、23mg。かぼちゃで44mg、17mg、22mgとなっている。またビタミンCの場合、ほうれんそうで100mg、65mg、19mg...

〈行友弥の食農再論〉鳥はまたいで通っても

 かつて北海道の米は評価が低く「鳥もまたいで通る」「やっかいどう米」などと言われた。ただ、学生時代まで北海道で暮らし、基本的に地元の米を食べていた筆者は、特にまずいと思わなかった。先日、ある会合で会った新潟日報の記者にその話をしたら、彼は「実は新潟の米も昔は『鳥またぎ米』と呼ばれていました」と教えてくれた。県を挙げての努力とコシヒカリという品種の普及が新潟を「米王国」に押し上げたのだ。  その王国が揺らいでいる。銘柄米の最高峰とされる新潟・魚沼コシが日本穀物検定協会の食味ランキングで最上位「特A」を逃したのは5年前(生産年は2017年)。28年ぶりの「転落」が県内外に波紋を広げた。翌年には特...

〈蔦谷栄一の異見私見〉〝見えないもの〟の重要性と必要な情報発信

 「価格転嫁『できず』7割」。これは日本農業新聞の10月24日号一面トップ記事の見出しである。集落営農組織や農業法人を対象にした景況感調査のとりまとめ結果をリポートしたもので、農家の約7割は生産コスト高騰に見合う農家手取りの米価を1万4千円以上としていることを受けて、米価については生産コスト高騰分の転嫁が「全くできていない」と集約したものである。  これは農産物価格を米価に代表させて分析したかたちとなっているが、実感からして他の農産物も同様な傾向にあるものと推測され、牛乳・乳製品も含めた畜産物についてはさらに厳しい実態に置かれているのではないかと思料する。  こうした情報に接して感じること...

〈行友弥の食農再論〉青い空と「自由」

 東京・阿佐ヶ谷の小劇場で「同郷同年」という演劇を見た。登場人物は谷間の町に生まれ育った同い年の男性3人。一人は農業、もう一人は薬局を営む。3人目は大手電力会社の社員で、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の処分場を地元に立地すべく画策している。他の二人も過疎化が進む地域の将来に希望を失い、誘致に協力する。  本音では処分場受け入れに不安を抱いていた農業青年が離農し、社員の口利きで電力会社に入社。人が変わったように処分場建設を強引に進め、政界にも進出する。一方、元々の電力社員は会社の姿勢に疑問を持ち、脱サラ就農して反対派に転じる。結末も衝撃的だが、気弱な農業青年が怪物じみたキャラクタ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「農業と農の分離」と「農業の社会化」という流れ

 市民・消費者の農業に対する関心が具体的な行動レベルへと移行しつつあることを感じる。市民農園や体験農園にとどまらず、最近では市民・消費者がグループをつくって農場を共同で管理するコミュニティガーデンが増えている。また都市農業の持続と農地の保全を可能にしていくため援農を組織化しているところもあり、農福連携も広がりつつある。さらには都市のビルの屋上の農園化も珍しくなくなってきた。これらを地産地消が後押しする。  このように都市部での市民・消費者の農業参画が進行する一方で、農村部の担い手不足は深刻で、今般の穀物相場の高騰等の環境変化で食料安全保障が揺らぎ、食料自給率の向上が叫ばれながらも、肝心の担い...

〈行友弥の食農再論〉義務教育は無償

 学校給食や施設内食堂の事業を全国展開していた「ホーユー」(本社・広島市)が今月初めに営業を停止し、22都府県の百数十施設(学校以外の事業所も含む)に影響が広がった。「食材費や人件費が高騰したが、価格転嫁が難しかった」と会社側は説明し、裁判所に自己破産を申請する方向だという。コロナ禍による受注減や同業他社との価格競争も背景らしい。  帝国データバンクが今月8日に発表した調査結果によると、昨年度の利益動向が判明した全国の給食業者374社中127社が赤字だった。前年度より減益になったケースを含め、全体の6割超で業績が悪化していた。  ホーユーの受注先は学校給食法が適用されない高校などが中心だっ...

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