日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

コラム

〈蔦谷栄一の異見私見〉地消地産から地域自給圏づくりを

 先の10月18日、第30回のJA全国大会が開催された。JA全国大会は3年に1回開かれており、30回目を迎えたということ自体、そこに長年の積み重ねと大きな意義を感じさせられる。大会議案での環境変化・情勢分析は、①食料・農業・農村基本法の改正、➁国際情勢の変化に伴う生産資材価格の高止まりと適正な価格形成の必要性、➂農業生産基盤(人・農地)の弱体化、➃みどりの食料システム戦略の実践、➄物流センター2024年への対応、と整理されているように、時代が大きく変化する中で、JAグループはどのような今後の活動方向を明示するのか、内外から大きな関心を持って見られていた。  今回大会議案は、「組合員・地域とと...

〈行友弥の食農再論〉地域の「長寿」のために

 「ホーリーバジル」という香草をご存じだろうか。名前の通りバジルの一種で、日本でも人気のタイ料理「ガパオライス」の「ガパオ」がそれだという。料理だけでなく、アロマオイルの原料やハーブティーなどにも使われる。  ハーブティーは筆者も時々飲むが、さわやかな香りに気分が落ち着く。実際にストレスを和らげ、血糖値を下げるといった研究報告もあるという。インドの伝統医療では多くの病気に効く長寿の薬とされ、ヒンドゥー教徒は神聖な植物として扱う。ちなみに和名もカミメボウキ(神目箒)と「神」が付く。  このホーリーバジルが、福島第1原発事故で6年間の全村避難を強いられた福島県飯舘村で作られている。同村南部に位...

〈蔦谷栄一の異見私見〉「令和の米騒動」と基本法論議

 「令和の米騒動」も新米の出荷が始まって、徐々に落ち着きを取り戻しつつあるようだ。直近での報道は、購入が可能にはなってはきたものの、高くなった米価格が高止まりして元には戻らず、パンや麺に需要がシフトしかねないことを憂える記事も散見される。  「令和の米騒動」発生要因については、①2023年産米の猛暑による白濁等の品質低下にともなう出荷量の減少、➁インバウンドの増加による米消費の増加、➂南海トラフ地震への注意を促す臨時情報発表による米のまとめ買いの誘発、➃超大型の台風10号の発生にともなう災害に備えての買い入れ、➄輸送業者のお盆休みにともなう流通の停滞、までさまざまあげられている。いずれも多少...

〈行友弥の食農再論〉「令和の米騒動」に思う

 この記事が載るころには沈静化していると思うが、9月上旬時点では「令和の米騒動」が最高潮だ。「店頭に米がない」「値段が高い」と連日のように報道されている。「入荷がないわけではないが、開店直後に売り切れてしまう」と小売店が言う通り、メディアが消費者のパニック心理をあおっている面もありそうだ。  「昨年は平年作だったのに、なぜ不足するのか」「なぜ備蓄米を放出しないのか」等々、解説も盛んだ。農水官僚OBが古巣を批判し、農政に詳しくもなさそうな記者らがうなずく。「減反(米の生産調整)など場当たり的な政策を続けてきた結果だ」というのがお決まりの結論だ。一理はある。しかし、その「一理」で全体を語っていい...

〈蔦谷栄一の異見私見〉消えていく ふるさとの味

 この頃、産直市場へ行っても道の駅に行っても、地元の〝おばちゃんたち〟が作った漬物や梅ぼし、総菜等が置かれていた棚にはほとんどものがない。旅行も含めて産直市場でこの〝ふるさとの味〟を購入して賞味するのは楽しみの一つだ。それが今年の6月以降、様相が一変し、産直市場等は魅力が半減した感があり寂しい限りだ。  これは2018年に行われた食品衛生法の改正にともない、21年に営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設が施行され、これまで届出制であった漬物等の製造・販売が、営業許可を取得した業者や個人でなければ不可能となった。これにともない3年間の猶予期間が設けられていたが、これがこの5月末で期限を迎えた...

〈行友弥の食農再論〉株価と農産物輸出

 今月上旬、株価が大きく乱高下した。日経平均は5日に前週末比4451円安と史上最大の暴落になり、翌日は逆に3217円高と最大の上げ幅を記録したが、元の水準には戻らず、その後も不安定な値動きが続く。気をもむ個人投資家は多いだろう。異次元の金融緩和で預貯金に金利がつかない状況が続く中、新NISA(少額投資非課税制度)などで国民を「貯蓄から投資へ」と誘導してきた政策の妥当性も問われる。  株価下落には複合的な要因があるが、大きいのは日米の金利差縮小と、それを受けた円高だ。日銀が金利の引き上げに踏み込む一方、景気後退の懸念が強まる米FRB(連邦準備制度理事会)は利下げへ動く。そのため為替が円高に転じ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉始まりつつある団塊世代のリタイア

 農地面積、そして担い手の減少は著しい。農地面積はこのところ毎年3万ha弱減少し、この60年程の間に約3割の農地が減少している。そしてこれ以上のショックが担い手の大幅な減少である。  1998年に691万人であった農業従事者数は2021年には229万人と何と462万人が減少しており、減少率は66.9%に及ぶ。農業従事者のうち基幹的従事者だけとってみても、1998年の241万人は2022年には123万人と49.0%の減少、ほぼ半減している。この20年程の間に、いわゆる昭和一桁世代が大量にリタイアしたことが大きく作用したといっていい。この昭和一桁世代のリタイアにともなう担い手の確保が懸念されたが...

〈行友弥の食農再論〉牛肉・オレンジの36年

 1988年の初夏、福島県南部で肉用牛を育てる年配の男性を訪ねた。畜産現場の取材は初めてだった。きっかけは同年6月に妥結した日米農産物交渉だ。焦点の牛肉とオレンジについて日本は3年後の輸入割当(数量制限)撤廃と関税率の段階的引き下げなどを約束した。将来への不安を語る男性の沈んだ表情が脳裏に焼き付いている。  その後も貿易自由化は進んだ。ウルグアイラウンド合意(95年発効)、環太平洋パートナーシップ協定(TPP。2018年に発効したが米国は離脱)、他にもさまざまな国・地域との経済連携協定(EPA)などで日本農業は国際競争にさらされた。  その度に賛否両論が渦巻いたが、自由化推進論者は市場開放...

〈蔦谷栄一の異見私見〉基本法改正と切り離された畜政

 成立した改正食料・農業・農村基本法についての受け止め方等は本紙6月15日付の「異見私見(拡大版)」に記したとおりだ。確かに食料安全保障や環境との調和等についての理念や施策、農福連携や多様な農業者等が盛り込まれるなど一部は新たな動きに対応した施策も盛り込まれた。しかしながら担い手の不足、農地の減少等が進行し、日本農業が崖っぷちに追い込まれている情勢の下、既存の効率化・大規模化の基本路線に変わりはなく、肝心の所得補償の議論は避けて合理的価格の形成を先行させ、またスマート技術やゲノム編集等の先端技術、農産物の付加価値向上への取組みが強調されたものとなっている。あらためて基本法改正論議を行うのは10...

〈行友弥の食農再論〉補助金漬けの「苦い米」

 半導体は「産業の米」と呼ばれる。スマホやパソコンなど情報機器だけでなく、テレビなどの生活家電、自動車にも欠かせない。その重要度は確かに米に匹敵する。いや、米離れが進む今はそれ以上かも知れない。  1980年代、日本の半導体は世界市場の5割超を占めた。しかし、米国との貿易摩擦が高まり、86年に日米半導体協定が結ばれた。日本市場で外国製半導体のシェアを2割以上に高めることと、ダンピング防止のための最低価格導入が柱で、そこから日本の半導体は競争力を失っていった。今や日本は台湾や韓国に大きく水をあけられ、世界シェアは1割に満たない。  巻き返しを図ったのが通商産業省(現・経済産業省)だ。99年に...

〈蔦谷栄一の異見私見 拡大版〉附帯決議を楯に 将来展望を探れ

■基本法改正の受け止め方 遠のく日本農業の再生  5月29日の参議院本会議で食料・農業・農村基本法の改正案が可決され、改正法が成立した。内容的には野党からの提言について盛り込まれることはなく、附帯決議というかたちで野党提言の痕跡をとどめることでピリオドが打たれた。  今回の基本法改正によって崖っぷちにある日本農業に、再生に向けた光が差し込むことを期待していたが、率直なところ日本農業の危機を打開していく最後のチャンスを逃すことになってしまうのではないかと危惧している。  食料安全保障や環境との調和等についての理念や施策、農福連携や多様な農業者等が盛り込まれるなど一部は新たな動きも反映させ...

〈行友弥の食農再論〉「健康食品」の不健康

 先月も当欄で取り上げた紅麹サプリメントの健康被害は、5月半ばの本稿執筆時点でまだ原因が解明されていない。一方、問題の背景になった機能性表示食品制度については今月末、消費者庁の有識者会議が見直し案をまとめる予定だ。従来はメーカー任せだった被害報告の義務化、GMP(医薬品等の製造に適用される品質管理基準)導入などが焦点のようだが、その程度の改正で十分だろうか。  実は、2015年の制度発足当初から懸念を示す専門家がいた。立命館大学客員研究員の畝山智香子氏だ。最近まで国立医薬品食品衛生研究所で安全情報部の部長も務めた食品安全のプロで、16年の著書「『健康食品』のことがよくわかる本」にこう書いた。...

〈蔦谷栄一の異見私見〉付帯決議で回避した基本法の抜本改正

 食料・農業・農村基本法改正案は4月19日の衆議院本会議で可決されて、現在、参議院で審議が行われているが、衆議院での可決によって改正案の成立は確定したことになる。参議院で実質的な議論の進展を期待したいところだが、勝負あったの感は否めない。  今回の衆議院での改正案可決に当たってあらためて痛感したのが、与党のかたくなさ、聞く耳の欠落である。改正案に対して各党とも修正案を提出したが、自民・公明は維新からの多収品種の育成・導入促進の明記を求める修正案を受け入れる一方で、野党である立憲民主党(以下「立民」)や国民民主党(以下「国民」)、共産党(以下「共産」)の修正案については全面的に拒否。野党の修正...

〈行友弥の食農再論〉「機能性」の落とし穴

 20年前、スギヒラタケというキノコの中毒事例が相次ぎ、十数人の死者が出て大きなニュースになった。東北・北陸地方では昔から食べられていた山の幸だが、なぜ毒キノコに変身したのか、今もわかっていない。  紅麹(こうじ)サプリメントの健康被害で、その騒ぎを思い出した。紅麹も古くから利用されてきた食材で、キノコと麹はともに真菌、つまりカビの仲間だからだ(キノコは菌糸の集合体)。真菌類など微生物の種類や生態には未解明の部分が多く「99%は謎」という専門家もいる。  微生物に限らず、生き物には有用なものと有害なものがある。そもそも「有用、有害」は人間の都合で、身近な食品も処理を誤れば毒になる。たとえば...

〈蔦谷栄一の異見私見〉日本農業の行方を左右する今国会

 食料・農業・農村基本法(以下「基本法」)の改正についての国会での本格的審議が始まった。既にご承知のとおり基本法の主な改正点は食料安全保障の強化がメインであり、これにみどりの食料システム戦略等の情勢変化への対応が追加された中身となっている。  基本法改正の論議のきっかけとなったのがウクライナ侵攻にともなって顕在化した穀物価格や生産資材の高騰であり、連動しての食料品価格の上昇から大きく広がった食料安定供給に対する不安である。こうした事態に対応して自民党の主導で食料安全保障についての議論が巻き起こされ、そこでの基本法改正の提言を受けて農水省も農政審議会に検証部会を設けて議論を開始することとし、検...

〈行友弥の食農再論〉未来に引き継ぐ価値

 前回の当欄に、能登半島地震で壊れた石川県輪島市の棚田「白米千枚田」を「地元だけで維持するのは厳しい」と書いた。もちろん「厳しいから失われても仕方がない」という意味ではない。地域を超えた支援の必要性を指摘したつもりだ。  棚田を含む「能登の里山里海」は2011年6月、日本初の世界農業遺産に認定された。「遺産」の英語表記はレガシー(物故者が残した財産)ではなくヘリテージ(世代を超えて受け継がれていくべきもの)。農業遺産は古代遺跡や単なる自然景観と違い、人々の営みによって継承されていく。つまり能登の里山里海に人々が戻り、農業や漁業を続けられるよう支えることは、世界に向けた日本の約束といえる。 ...

〈蔦谷栄一の異見私見〉基本法改正と所得補償

 先の2月13日、自民党の検討PT、農地政策検討委員会、農林部会の合同会議に、食料・農業・農村基本法(以下「基本法」)の一部改正に関する法律(案)、そして食料供給困難事態対策法案(仮称)(骨子)、食料安定供給のための農地の確保及びその有効な利用を図るための農業振興地域の整備に関する法律等の一部を改正する法律案(仮称)(骨子)が示され、27日、閣議決定された。基本法見直しの全貌が条文レベルで明らかになった。  これまで法案の骨子や概要については新聞等で報道されてはきたが、あらためて法律(案)を見て感じることは多い。今回の基本法改正は食料安全保障の確立とみどりの食料システム戦略の策定にともなう環...

〈行友弥の食農再論〉田ごとの月のように

 世界農業遺産に登録される石川県輪島市の白米千枚田。日本海へ向かって広がる棚田の景色は息を飲む美しさだが、元日の能登半島地震で無残に壊れた。無数の亀裂が走り、水を張ることもできない。棚田の多くは高齢の農業者たちが支えている。地元の力だけで再生・維持するのは厳しそうだ。  2日付の日本農業新聞によると、能登半島全体で米の作付けが困難な水田は1000haに上る。東日本大震災でもそうだったように、災害をきっかけに離農する人が多いだろう。  東北の被災地では、農地復旧と併せて水田の大区画化や水利施設の改良が進められた。いわゆる「創造的復興」を目指す施策だが、少数の担い手で大きな面積をカバーするには...

〈蔦谷栄一の異見私見〉能登半島地震が見せる農業の近未来

 まさかの正月1日に能登半島で震度7の大地震発生。犠牲になられた方々にお悔やみを申し上げるとともに、被災された皆様には心よりお見舞い申しあげます。  東京から現地に救援に駆け付けた専門家からということで伝え聞いた話では、大きな揺れと津波に火事が重なったためか、専門家がこれまで足を踏み入れたどの災害現場よりも、その被害の程度は凄まじいという。日本海側の厳寒時期での被災で、寒さに雪、そして水道や電気等のインフラが切断されて、不便かつ大変な避難生活を余儀なくされている被災者の様子をテレビ等で目にするたびに、何とか苦難を乗り越えて春を迎えていただきたいと祈るばかりである。  先日、持続可能な農業を...

〈行友弥の食農再論〉「珠洲原発」のまぼろし

 正月気分を吹き飛ばした元日の能登半島地震。筆者も帰省先に津波注意報が発令され、老母の手を引いて右往左往した。しかし、被災者の苦難とは比べようもない。心からお見舞いを申し上げ、亡くなった方々の冥福を祈る。  新聞記者時代から災害には縁があった。新潟県中越地震(2004年)、東日本大震災(11年)、熊本地震(16年)では現地へ行った。福島県の被災地には今も時折、足を運んでいる。  被害の形は土地によって多様だが、これらの被災地に共通するのは(仙台圏を除けば)過疎化・高齢化が進む農山漁村という点だ。報道を通じ能登の状況を見ていると、既視感を覚える。  中越地震では崩れた土砂が川をせき止めて「...

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