「ホーリーバジル」という香草をご存じだろうか。名前の通りバジルの一種で、日本でも人気のタイ料理「ガパオライス」の「ガパオ」がそれだという。料理だけでなく、アロマオイルの原料やハーブティーなどにも使われる。
ハーブティーは筆者も時々飲むが、さわやかな香りに気分が落ち着く。実際にストレスを和らげ、血糖値を下げるといった研究報告もあるという。インドの伝統医療では多くの病気に効く長寿の薬とされ、ヒンドゥー教徒は神聖な植物として扱う。ちなみに和名もカミメボウキ(神目箒)と「神」が付く。
このホーリーバジルが、福島第1原発事故で6年間の全村避難を強いられた福島県飯舘村で作られている。同村南部に位置する大久保・外内(よそうち)地区の一般社団法人いいたて結い農園が有機栽培し、福島市のデザイン会社SAGA DESIGN SEEDSが商品化している。
目的は地域の復興だ。飯舘村の人口は、原発事故までは6000人を超えていたが、今月1日時点の住民登録は4500人ほど。うち3000人余りはまだ避難先におり、実際に住んでいる人の数は約1500人と4分の1に減ってしまった。しかも帰還した住民は高齢者が多く、地域の将来に不安が漂う。
結い農園は同地区の農家全世帯で立ち上げた法人だ。主力はやはり無農薬栽培のエゴマで、地元では「じゅうねん」と呼ばれる。「10年たっても芽を出す」ことが語源らしいが、健康に良いオメガ3脂肪酸を多く含み「食べれば10年長生きする」とも言われる。
収穫期には、村外からも避難中の住民や支援者らが駆けつけて一緒に作業する。農業を通じて地域コミュニティーを維持することが目的だが、やはり作ったものは広く販売したいという農業者として当然の思いを、同地区の区長でもある代表の長正増夫さんらは抱いている。
実は筆者も飯舘村に移住し、今月から同農園のスタッフになった。地元の企業・団体に雇われて活動する企業雇用型の地域おこし協力隊員として採用された。農作業も作物の販売もほとんど経験はないが、傷ついた地域の再生と「長寿」のため最低10年は頑張るつもりだ。読者の皆様にも応援をお願いしたい。
(いいたて結い農園勤務/農中総研・客員研究員)
日本農民新聞 2024年10月25日号掲載