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〈蔦谷栄一の異見私見〉「令和の米騒動」と基本法論議

2024年10月5日

 「令和の米騒動」も新米の出荷が始まって、徐々に落ち着きを取り戻しつつあるようだ。直近での報道は、購入が可能にはなってはきたものの、高くなった米価格が高止まりして元には戻らず、パンや麺に需要がシフトしかねないことを憂える記事も散見される。

 「令和の米騒動」発生要因については、①2023年産米の猛暑による白濁等の品質低下にともなう出荷量の減少、➁インバウンドの増加による米消費の増加、➂南海トラフ地震への注意を促す臨時情報発表による米のまとめ買いの誘発、➃超大型の台風10号の発生にともなう災害に備えての買い入れ、➄輸送業者のお盆休みにともなう流通の停滞、までさまざまあげられている。いずれも多少の影響を与えていることは確かであり、さらにベースには➅減反政策のツケ、があるとする見方も根強い。これをどう見るか議論を要するが、基本的には人口減少に一人当たり米消費量の減少が重なっての米需要量の減少という消費構造の変化と、生産者の高齢化と後継者不足による担い手減少と同時に、農地面積も減少して生産量が減少傾向を辿るという供給構造の変化が重なって、需給バランスをとるのが困難化していることから、ちょっとした要因の発生でバランスを喪失するところに原因はある。

 今回の食料・農業・農村基本法の見直しは、食料安全保障の確立に最大の力点が置かれ、需給構造の変化も踏まえつつ、持続可能な生産構造を構築していくところにこそポイントはあった。ところが持続的な発展に関する施策として盛り込まれたのは、食品アクセスの確保、農産物・農業資材の安定的な輸入、農産物の輸出の促進、農地の集団化、水田の汎用化・畑地化、スマート技術の活用、知財保護・活用等による農産物の付加価値の向上等となっており、実情を踏まえた持続性確保とは程遠い内容に終わった。

 ところで5月29日に改正基本法は成立したが、数か月も経過せずに「令和の米騒動」が発生し、政府は8月27日に農政審議会食糧部会を開いて中長期的な米の生産・消費動向に関する議論をスタートさせた。これは改正基本法に沿って食料安全保障の具体化をはかるための基本計画の策定とは異なる。むしろこうした一連の流れ・対応は、せっかく基本法改正が行われながらも、ここでは中長期的な米の生産・消費動向を踏まえた持続可能な農業の構築に焦点を当てての議論が不十分なままで終結したことを物語っている。

 8月30日付の日本農業新聞では、森山・自民党総合農林政策調査会最高顧問はインタビューに対し、「米政策の見直しに意欲を示した」として「水田の大区画化などで生産費を低減したうえで輸出を拡大し、生産抑制から展開していく戦略を描く」と語ったとしている。これはまさに基本計画のレベルを越えた中身であり、あらためて日本農業のあり方、基本法の改正としてしっかりと議論すべき問題ではないか。所得補償、団塊の世代の大量リタイアを乗り切っていくための担い手対策を含めて、今一度、水田農業の維持、持続可能な農業の構築、食のあり方等について国会でしっかりと議論が重ねられることを期待したい。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2024年10月5日号掲載

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