今月上旬、株価が大きく乱高下した。日経平均は5日に前週末比4451円安と史上最大の暴落になり、翌日は逆に3217円高と最大の上げ幅を記録したが、元の水準には戻らず、その後も不安定な値動きが続く。気をもむ個人投資家は多いだろう。異次元の金融緩和で預貯金に金利がつかない状況が続く中、新NISA(少額投資非課税制度)などで国民を「貯蓄から投資へ」と誘導してきた政策の妥当性も問われる。
株価下落には複合的な要因があるが、大きいのは日米の金利差縮小と、それを受けた円高だ。日銀が金利の引き上げに踏み込む一方、景気後退の懸念が強まる米FRB(連邦準備制度理事会)は利下げへ動く。そのため為替が円高に転じ、輸出企業を中心に大企業の株が売られた。外国人投資家にとって割安だった日本株が、円高で魅力を失ったこともあろう。
実体経済への影響を懸念する声も多いが、それは微妙だ。円高は輸出企業には逆風だが、原材料や資材、仕入れの多くを輸入に頼る中小製造業や流通・サービス業には追い風になる。日本が輸出立国だったのは昔の話で、大企業が稼げば中小企業にも恩恵が及ぶ「トリクルダウン」の構図は崩れている。そもそも日経平均は大企業225社の平均株価だ。日本企業の99.7%は中小企業で、従業員数でも7割を占める。日本経済全体を考えれば、株価下落の影響をさほど心配することはないだろう。
輸出と言えば、今年上期(1~6月)の農林水産物・食品輸出額は前年同期比1・8%減の7013億円になった。3年前に年間1兆円を突破するなど右肩上がりだったが、4年ぶりの減少に転じた。福島第1原発の処理水放出を受けた中国の輸入停止が主因だが、今後は円高もブレーキになりそうだ。しかし、それも悪いことばかりではない。円高は飼料・肥料・燃料など生産資材の輸入価格を下げ、全体的には農業経営のプラスになる。
物事には必ず表と裏があり、目先の数字に一喜一憂する必要はない。本当の課題は、変動する金融環境や海外の経済動向に振り回されない生産基盤を確立することだ。鍵は消費者や関連企業との連携と、自立した地域内経済循環の構築だと思う。それが真の経済安全保障、食料安全保障への道ではないか。
(農中総研・客員研究員)
日本農民新聞 2024年8月25日号掲載