日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

〈蔦谷栄一の異見私見〉国民皆農からの食料安全保障確保

2024年1月5日

 2024年が明けた。ウクライナ、パレスチナと、いったん始まった戦争はなかなか終結を見ず、一方であらたな火種は増えるばかり。新しい年が戦争のない平和な世界に向けての転換点となることを心底から祈念したい。

 戦争が勃発し、戦火が拡大するほどに浮き彫りになってきたのが、わが国の農業生産基盤の弱体化、そしてエネルギー調達基盤の脆弱性である。ロシアからの液化天然ガス(LNG)輸入が困難化し綱渡りを続ける一方、中東からの原油輸入も紅海やスエズ運河の通航がままならなくなるなど、わが国のエネルギー資源の調達はまさに黄色信号が点滅している。そして農業についてはあらためて述べるまでもなく、生産の大規模化・生産性向上に偏重してきた農政の成果は乏しく、食料自給率は横ばいを続けるだけで、ウクライナ戦争のあおりをまともに食らって穀物、諸資材の高騰を招き、まさに日本農業は危機に晒されている。

 こうした事態に対処すべく、食料・農業・農村基本法を改正して食料安全保障の強化を中心に、この3、4月にも改正案の成立が予定されている。その柱となるのが平時からの食料安全保障の強化で、需要が増加してきた小麦や大豆等の輸入から国内生産へのシフトとしての水田稲作から畑作への転換で、あわせて高齢化による担い手不足対策としてのスマート農業の振興や多様な農業人材の確保、適正価格の形成等への取組みが並ぶ。

 今回の基本法改正については、総じて現行基本法についての評価・検証は横に置かれたままで、直面する課題への対処、いかにも絆創膏を貼っただけ、の感を免れない。とうていこれからの日本農業の方向性が明確にされ、将来展望がひらかれるようなものとは程遠い。

 農業経営を下支えし農村の維持を可能にする直接支払いの拡充、多面的機能や国土安全保障、食生活をも踏まえての水田農業の位置付け等の基本論議が抜け落ちているばかりでなく、何よりも団塊の世代のリタイアにともなう大量の担い手離脱を目前にしての対処策としては不十分極まりない。食料安全保障の強化を掲げ、食料自給率の向上を必須とはしているものの、その食料を生産する担い手対策はあまりにも手薄であり、日本農業の現状に対する危機感そのものが欠落しているように感じられてならない。早急にあらためての基本法見直しの本格論議が必要であり、日本農業の将来展望を確保していくことが求められる。

 既に担い手を農村・農家だけから調達する時代は終わった。都市から農村への人口移動が必須であり、移住による新規就農にとどまらず、都市からの大量の援農を可能にする仕掛けづくり、法人への就農促進が急がれる。そのためにも都市住民の農業への関心を引き出していくための農業講座の開設や体験農園等によって農業参画の場を増やしていくことが前提となり、こうした視点も含めての都市農業の振興と同時に農地法の見直しが不可欠だ。

 新しい年を、国民あげてそれぞれのレベルで農業に参画し、少しでも自給を促進させ、都市農業を人材育成のゆりかごにして日本農業を再生させていく船出の年にしたいものだ。

(農的社会デザイン研究所代表)

日本農民新聞 2024年1月5日号掲載

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