この頃、産直市場へ行っても道の駅に行っても、地元の〝おばちゃんたち〟が作った漬物や梅ぼし、総菜等が置かれていた棚にはほとんどものがない。旅行も含めて産直市場でこの〝ふるさとの味〟を購入して賞味するのは楽しみの一つだ。それが今年の6月以降、様相が一変し、産直市場等は魅力が半減した感があり寂しい限りだ。
これは2018年に行われた食品衛生法の改正にともない、21年に営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設が施行され、これまで届出制であった漬物等の製造・販売が、営業許可を取得した業者や個人でなければ不可能となった。これにともない3年間の猶予期間が設けられていたが、これがこの5月末で期限を迎えたことによる。
営業許可を得るためには、住居とは別の製造専用の部屋であること、野菜等の食材用と手洗い用の2つのシンクがあること、水道は手で触れないセンサー式、足踏み式、レバー式等であること、温度計付きの冷蔵庫であること、などが許可を受ける施設基準とされている。これだけの設備改変には、改変の程度や地域によって勿論バラツキは大きいが、150万円や200万円ぐらいはかかってしまうらしい。〝おばちゃんたち〟は高齢者が多く、そもそも商売というよりは楽しみで製造・販売しているものが大半であり、これだけのお金をかけてまでは続けられないというのが実情のようだ。
18年の食品衛生法改正は、「我が国の食をとりまく環境変化や国際化等に対応し、食品の安全を確保するため、広域的な食中毒事案への対策強化、事業者による衛生管理の向上、食品による健康被害情報等の把握や対応を的確に行う」ことをねらいとする。このため営業許可制度の見直しだけでなく、HACCPに沿った衛生管理の制度化、国際整合的食品用器具・容器包装の衛生規制の整備、乳製品・水産食品の衛生証明書の添付等の輸入要件化等々を求める大改正を内容とする。まさに外食・中食への需要の増加、輸入食品による食のグローバル化の進展、食品の輸出を見据えた国際標準に合致した食品衛生管理の必要性等、日本の食を取り巻く環境変化を背景にしたものであり、12年に食品会社が製造した白菜の浅漬けが原因で8人が死亡した北海道で発生した集団食中毒事件をトリガーとする。
確かに食品の安全確保は絶対に守られることが基本であるが、安全性確保のため規制を強化するほどに自給の延長にある、おすそ分け的であるが故の地域の食文化は消えていくばかりだ。そして結果的には一定以上の規模での工場生産を余儀なくし、自ずと広域流通を必要として地域性はますます薄れ、また添加物・保存料の使用を必然化する。
規制強化するほどに〝おばちゃんたち〟の生きがいは奪われ、食品ビジネスへの依存度を高め、結局、規制強化はグローバル企業のビジネス発展の梃子になりつつあるように感じられてならない。国民・消費者は、食品衛生の強化の下で、一方で大事なものを失いつつあることについての自覚と、自ら地域の食文化を守っていく行動が求められているように思う。
(農的社会デザイン研究所代表)
日本農民新聞 2024年9月5日号掲載