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日本農民新聞 2021年5月5日号

2021年5月5日

inaho㈱菱木豊代表取締役CEOこのひと

次世代農業のパートナーシップ

inaho㈱
代表取締役CEO
菱木 豊 氏

収穫ロボットを利用料方式で現場へ、新たなビジネスモデルへの挑戦も

野菜収穫機ロボットのサービス事業を展開しているinaho㈱(本社=神奈川県鎌倉市)が取組む『自動野菜収穫機ロボットとRaaSモデルによる次世代農業パートナーシップ』が、第9回ロボット大賞で農林水産大臣賞を受賞した。農業の収益性向上へ新たな視点からステップを進めているinaho社の菱木豊代表取締役CEOに、その技術と事業内容、展開方向を聞いた。


スマート農業の社会実装加速にも貢献

今回の受賞した取組みの概要は?

 農作業で一番時間がかかっている収穫作業を、人手に代わってロボットが行うようにして、農業経営の継続や拡大に貢献することを目指した。
 また、現場への導入に際してはロボットを販売するのではなく、ロボットの収穫高の一定割合を利用料として支払うRaaS(Robot as a Service=ラース)の事業方式を採用することで、より多くの農家が利用しやすくなることをめざした。
 今回の審査では、「現場ニーズをふまえたロボット開発と新たなビジネスモデルへの期待度が高く、スマート農業の社会実装の加速化に寄与した」と評価された。多くの省庁が参加した「ロボット大賞」で、幅広い関係者の方々に認めていただいたことは次への大きなステップとなる。
 受賞を機に多くの方々から応援の声をいただいた。さらに全国の皆様に使っていただけるようサービスを充実したいという気持ちを改めて強くした。

生産現場の課題解決は農家の声聞くことから

会社の立ち上げに至るまでを

 AI(人工知能)技術に興味を持ち勉強している中で、未来を新たに創っていくテクノロジーとしてのAIを強く意識するようになり、そういうビジネスを展開したいと思っていた。
 主に画像認識等の技術を学んだが、どのような場面でこの技術が使えるだろうと考えていた。たまたま農家と知り合い飲みにいく機会があったことをきっかけに、「雑草を取るロボットは出来ないものか」という声を聞いた。
 これを機に全国の農家にヒアリングを行い、アスパラガスの収穫ロボットの開発着手に至った。
 まさに現場ニーズありきで、農家が抱える課題を解決できる技術の開発を進めてきた。
 生産現場では重労働な収穫作業が大きな負担となっており、そのためのパート労働を確保することも困難になりつつあることで、多くの農家が将来への不安を抱えている。その解消には人手以外の方法が必要なることを痛感した。
 全国の生産現場を回り実際の作業を把握し課題を抽出。開発段階でも農家の協力を得ながら実証テスト等を繰り返した。地域によって作業方法も時間も異なるなかで共通点を探り実用化に向けた検討を進めてきた。

ロボット活用で面積拡大しより収益を

まず、アスパラガスの収穫機から始めたが

 アスパラガスの収穫は、人の目で選び腰をかがめての作業で肉体的に大きな負担となっていた。
 野菜としては単価が高いアスパラガスは、ロボットを利用しても充分収益性が成り立つ点も含め、ロボットを活用して面積を増やしていくことで、より利益が出る作物としてのポテンシャルは非常に高いと感じた。
 現在提供しているロボットは、アスパラガスをカメラやセンサーで捉え、サイズや位置を計算し収穫の可否判断を行ない、人手をかけずに自動的に収穫する。
 開発の過程ではデモ機を農家に見ていただき、収穫物の籠への納め方などに、我々が気づかないような現場ならではのご意見をいただいた。

時々の最新の機器と技術を最善の状態で提供

収穫高に応じた利用料型のRaaSの事業方式を採ったのは?

 当初はロボット自体の販売を考えていたが、「あと何年続けられるかわからないのに」と購入を躊躇する年配の方々もいた。その人たちを含め幅広い層が利用しやすい方法を考えた。
 一般的に農機具は10年程度の耐用年数を前提に開発するが、我々スタートアップ事業が10年間使い続けられると言い切れるものを造ることは難しい。
 それにカメラやセンサーは年々性能の良いもの、安価なものが出回るようになっている。これらを採り入れた最新の機器、最善の状態のものを提供できれば、農家にも我々にもメリットがある。いろいろ模索していくなかでこの形に落ち着いた。

ロボットがより効率的に働く環境を農家とともに

現場での使い方に関しては?

 どのような畑の作り方をするとロボットがより効率的に働くか、件数を重ねることでわかってきた。農家の負担にならない形でロボットが働きやすい環境を一緒に創っていくことに取組んでいる。
 今まで佐賀県内の複数の農家にロボットを導入してきたが、現状においてはまだまだ改善点が多い。収穫スピードをより早めて欲しい、他作物にもどんどん増やして欲しい等々の声もいただいており逐次対応していく。
 こうしたロボットがあることで、面積を増やしていけそうだとの評価もいただいている。

データ取得などの価値も利用し収益性向上へ

今後、目指す方向は?

 トマトの収穫ロボットの開発を始めており、生産環境のリサーチや実証試験を行っている。ロボットが人手不足を補うことで求人の不安を解消して面積拡大に繋げていただきたい。
 データの取得などロボットが持つ価値を利用し収益性向上に繋げていただければ幸いだ。モニタリングなど収穫以外の作業部分でもロボットを活用することで得ることができるデータをベースに、より経営改善に繋がるようなお手伝いもしていきたい。
 人手を100%必要としなくなる世界はないだろうが、人がより効率的に働けるようサポートするロボットを幅広く提供していきたい。国内だけでなく海外も含めて、出来るだけ早く多くの方に提供できるようにしていきたい。
 ロボットを前提に他業種とも連携しながら、例えばハウスやタネ等からパッケージで大きく展開できるような仕掛けも創っていきたいと考えている。

効率化が可能にすることで〝儲かる農業〟に

農業者のみなさんにメッセージを

 答えは現場にある。現場第一主義は開発の原点。いろいろな地域の農家の方々の話をきくことでわかることがたくさんある。
 厳しいと言われ続けているわが国の農業だが、効率化の余地はまだまだたくさんあると思っている。効率化を可能にすることが“儲かる農業”だと考えている。そうした取組みを農家のみなさんと一緒にできたらうれしい。ぜひお声がけいただきたい。


〈本号の主な内容〉

■このひと 次世代農業のパートナーシップ
 inaho㈱
 代表取締役CEO 菱木 豊 氏

■国連食料システムサミットの特設サイトを開設=農水省

農業法人に対する投資円滑化法が成立

令和3年春の勲章

令和3年春の褒章

■「カントリーエレベーター運営優良事例集」を発行=全国農協カントリーエレベーター協議会

■産地直送通販サイト「JAタウン」で野菜レスキューBOX販売=JA全農

■家の光協会令和3年度事業計画のポイント

第5期中長期目標期間をスタート=農研機構

日本文化厚生連が令和3年度事業計画を決定

農協観光と日本農福連携協会が連携協定

〈蔦谷栄一の異見私見〉JA自己改革第二弾で地球温暖化抑制への取組み

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