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日本農民新聞 2021年10月25日号

2021年10月25日

第29回 JA全国大会 記念号

記念座談会
女性・青年組織の活性化で
持続可能な農業・地域共生の未来づくりへ

JA全中 代表理事会長
中家徹 氏

JA全国女性協 会長
洞口ひろみ 氏

JA全青協 会長
柿嶌洋一 氏

 JAグループは10月29日開催する第29回JA全国大会で、今後3か年のJAグループの活動指針を決定する。今大会での決議案は、「持続可能な農業・地域共生の未来づくり~不断の自己改革によるさらなる進化~」をスローガンに、持続可能な農業、豊かで暮らしやすい地域共生社会の実現に向けて、協同組合としての役割発揮を10年後のめざす姿とし、次世代の組合員確保に重点的に取組むことにしている。JA全中の中家徹会長とJAグループの次代を担うJA女性組織代表・洞口ひろみJA全国女性組織協議会会長とJA青年組織代表・柿嶌洋一全国農協青年組織協議会会長にご登場いただき、大会決議を受けどのように臨んでいくのか、思いを語ってもらった。


JAにおける女性・青年の活躍にむけて

 本社 まず、中家会長から今大会議案での女性組織、青年組織の位置づけから。

中家JA全中会長

 中家 6月に組織協議案をまとめ、8月中頃まで組織協議を進めてきた中、女性組織や青年組織の方々をはじめ1200件余のご意見をいただきました。それらの意見を踏まえた大会議案は10月7日の全中理事会で最終決定しました。
 そのなかでは、女性や青年の活躍推進は重要な課題に位置付けられており、女性・青年組織の育成・活性化支援、JA運営参画促進への環境・態勢整備、地域活性化への後押しなどの実践を掲げています。女性組織や青年組織は、地域農業の維持発展や地域を活性化に向けた中心的な存在であり、その活躍に期待しています。

 本社 洞口会長、JA女性組織の現状と課題について。

洞口JA全国女性協会長

 洞口 第22回のJA全国大会から女性のJA運営参画の促進に向けて数値目標を掲げ、理事等15%以上、総代15%以上、正組合員30%以上をめざし積極的に推進してきました。結果、その割合は年々増加しているものの急激な増加とは言えず、まだまだ目標達成に向けては充分とは言えない状況です。
 女性の立場でのJA経営参画のためには意識改革や知識習得など、いろいろな面での学習の必要性を感じています。JAの常勤役員の方々は、女性を推薦することと併行して、JA運営に関する様々な機会を増やすように配慮していただきたいと思います。
 JA全国女性協では、若い会員でもチャンスが回ってきたら、前向きに受け止め、一緒にJA運営に参画して欲しいと訴えています。

 本社 柿嶌会長、青年組織ではいかがですか。

柿嶌JA全青協会長

 柿嶌 大会議案に関しては、青年組織においてもしっかり組織協議をしていこうと、各県域でも素案段階から青年組織も検討・協議し、そこでの意見を全青協にあげてもらいそのエッセンスを組み込んで全青協版の意見書を提出させていただきました。
 大会議案を読み込むことはJA組織を知ることになります。単に意見を言うばかりではなく、自らがJAを運営していく意識がなければ参画はできません。議案を読み込むことによって、我々のなすべきことをもう一度確認しようと、組織協議に参画し学習を展開してきました。
 大会議案では、青年組織の役割を明確にし、その活動を後押しすることが明記されています。このJAグループの後押しにいかに応えていくかを考えていかなければなりません。大会決議の内容を全ての盟友が共有し目線を合わせて2月の第68回JA全国青年大会に臨む決意です。

 中家 参加ではなく参画。単に出席するのではなく、中に入ってもらう気持ちが大事です。JA女性理事も少しずつ増えていますが、全国的にはJAの中でまだまだ男女間で格差があります。女性の立場を底上げしていくためJAはもっと積極的に働きかけ、目標を達成できるようにしなければなりません。

 洞口 女性が参画しすばらしい活動を展開している女性組織もありますが、全体的には、JA改革に参画していくまではまだ難しい状況で、そのための学習、経験を積み上げていくことがこれからの課題です。

 中家 初めから何もかも知っている人はいません。「役は人を育てる」という言葉がありますが、中に飛び込んでいくことで自然に教わっていくことは多いと思っています。「いやぁ、私は…」「とてもじゃないけど…」ではなく、まずは中に飛び込んでだんだん育っていくような参画の仕方をして欲しいです。私は「女性に見捨てられたJAには未来がない」といつも言っています。

 柿嶌 進む方向さえ同じと思えたなら、どんどん参画すべきですね。

 中家 JAのトップ層が女性の参画が必要だと思えば、やり方はいろいろあります。例えばJAの広報紙に女性組織のページを作り発信することで、女性の活動を周囲が認識し始めれば自然に女性が活躍する場面がさらに増えてくるのではないでしょうか。

 柿嶌 我々青年組織もまだまだ経験も知識も足りないのですが、積極的に参画していかなければと思っています。

 中家 若い農業者や女性の意見は非常にインパクトがあります。国会議員への働きかけにおいても、全青協はメンバー自らの未来に立脚して要請するのでとても説得力があります。

 洞口 女性組織では今、女性組織メンバー正組合員化に力を入れているところです。

 柿嶌 人口も減り農業者も減るなかで、組合員の数を増やすだけではなく、JAが可能な範囲で事業利用や活動の質を上げていくことが大事です。これは未来があるぞ、という活動をつくりあげることで自然に組合員数が増えていくような取組みが必要です。

 中家 JAの組合員数は戦後一貫して増え続けてきましたが、平成30年に初めて減少に転じました。JAの組織基盤は、質と量であります。量とは組合員の数でありますが、質とはまさに〝オラがJA〟と言うようにJAの結集力を指しています。〝主人公〟意識でJA運営に参画すると、質がどんどん高まり、併せて量も増していきます。これほど強い組織基盤はありません。
 准組合員の増加や世代交代により、組合員意識が薄れつつあるのも事実です。だからこそ今、アクティブ・メンバーシップの確立によるJAの結集が必要なのです。

 柿嶌 結集作戦ですね。アクティブ・メンバーシップにより、多様な組合員の結集を図り、それぞれの関わり方の性質ごとにJAがサービスやサポート展開していく必要がありますね。

 洞口 女性組織では今、支店単位で地域密着型の女性活動に力を入れています。部員以外の地域の女性にも広く声をかけ、まず楽しい活動から始め徐々に女性組織活動やJAの取組みの意義を知ってもらい、少しずつメンバーを増やしています。ただ楽しむだけでなく、例えば身近な米の価格から農家の現状を知ってもらい、米消費拡大につなげていくような取組みにも頑張っています。

 

農業の担い手、多様な農業者を巡って 

 本社 大会議案では多様な農業者による地域農業の振興を掲げ、地域農業振興計画の策定を通じた次世代担い手の確保を謳っていますが。

 中家 JAの次期地域農業振興計画の策定にあたっては、新たな食料・農業・農村基本計画や人・農地プランなどを踏まえ、組合員との対話運動を通じて、組合員に「自らが実践すべき計画」と実感できるよう、具体的な経営体が見える単位での計画策定を行います。
 人・農地プランの実現に向けた地域での取組みを支援するとともに、現状の担い手の年齢構造や後継者等の状況を総点検し、次世代の担い手を確保する取組みを「次世代総点検運動」と位置付けて重点的に取組むことにしています。

 柿嶌 青年組織でよく議論になっているのが、人・農地プランにおいて半農半Xなど関係人口を含めて外から地域に人を取り込むことで担い手を創出していこうとする取組みです。
 それはそれで素晴らしいのですが、まずは地域でしっかり営農を積み重ねてきたJAと組合員が地域の特徴を活かした農業の方向性を示すことで、それに沿った人が集まってくるのではないでしょうか。
 ただやみくもに人を集めてもよい産地は出来ません。まずは産地の方向性を、実態を踏まえながら少し新しい観点でしっかり考えていくべきだと思っています。

 中家 親から引き継いだ純然たる専業農家の維持確保は当然ですが、半農半Xなど都会からきて農業を始めようとする人には誰かのサポートが必要です。
 一方で定年帰農者には、地元のファーマーズマーケットへの出荷を促します。
 こうした人達も次世代の担い手と位置付け、遊休農地や荒廃地を提供していく流れがあってもいいと思います。
 コロナウイルスやリモートワークの影響もあり、都会の若い世代を中心に田舎暮らしへの関心が高まっています。これに対する受け皿づくりにJAと地元の行政等が連携して取組むことで、地域に馴染み定着してもらい、関係人口を含めた農業・農村の活性化につなげていくことが求められています。

 洞口 地域にも10年以上も前から耕作放棄地が目立ってきています。
 一方で若者をはじめとして市町村行政へ就農への相談も増えています。このマッチングをJAはサポートしていく必要があると思います。
 外からの新規就農者を〝よそ者扱い〟で見るのではなく、一緒に地域の農地を守っていく仲間として地域に受け入れ、定着に向けサポートしていくべきだと思います。

 

協同組合運動者として人づくり 

 本社 組織基盤の確立に向けた人づくりも、これからのJAグループの重要な課題として掲げていますが、それぞれの人づくりへのお考えを。

 柿嶌 自分たちが地域でどのような役割を果たすことが出来るのか、JAに相談できるようにしたいと思っています。例えば、自分は酒米も作っていますが、地域の酒造業者と連携し地域の特徴ある酒を造って地域おこしが出来ないか、こうした地域内の仕組みがJAを通じてできないかと考えています。JAは地域の活動成果の代弁者であり、我々の小さな活動一つひとつを後押しする役割を担っていると受け止めています。
 その意味でも、人づくりはトップダウンで押し付けるのではなく、地域からのボトムアップで醸成されてくるものだと思います。全青協が単組に提案を押し付けるのではなく、単組の1支部の盟友それぞれが自覚をもって、「俺達には変える力、動かす力、創る力がある」と、思ってもらわないと組織は強くなりません。

 洞口 女性組織は、地域の人も含めて『家の光』を参考にしながら、衣食住を守り、国産農畜産物の消費拡大に取り組んできました。人づくりで特に力を入れているのは『家の光』の読書会です。Web社会で活字に馴染みが薄くなっている昨今、リーダーの育成も視野におき、自らの知識や教養を高めるためにも「読書会のてびき」を使い、会議の前には必ず読書会を開催し、てびきにあるテーマについて皆で考えていく活動をしています。

 柿嶌 青年組織でも、会議の前に『地上』を使った15分程度の学習会を推進しています。

 中家 自分が主体的な気持ちにならないと自分は育たない。やらされ感では全く頭に入らない。自ら取組むことが大事です。
 JAの人づくりのなかでは、改めて協同組合としての大切さを強調しています。最近は「運動」「運動者」という言葉がほとんど聞かれなくなり、JAグループでも一般企業と同じ感覚で仕事をする職員が多くなりました。皆で結集し協同活動を行い皆がメリットを得る、この協同組合活動の基本を自信をもって訴えることのできる運動者が今こそ必要です。
 例えば自賠責共済(保険)はJA共済でも損保でも手数料は変わりませんが、JAに入った手数料は巡り巡って間接的に女性組織や青年組織の活動資金などにも返ってきます。それが協同組合の姿であることを自信もって説明できる職員の育成が、協同組合の人づくりの第一歩です。
 制度的にもJA組織自体に協同組合らしさが失われつつある今日だからこそ、企業の論理ではなく協同組合の論理を堂々と主張できる職員が求められます。物を売るだけではなく、人(自分)を売れるようなJA職員にならなければいけません。人と人との信頼、それができるのがJAグループであり、「対話」が求められているのです。

 洞口 JAの魅力をうまくPRできる力が、JA職員には必要ということですね。生産資材ひとつとっても、相手に高いと言われ「そうですね」と引っ込んでしまうのではなく、なるほどと納得させる力が必要ですね。

 

食と農、JAへの国民理解の醸成に向けて

 本社 食と農、これらを支えるJAへの国民理解の醸成に向けて『国消国産』を発信されていますが。

 中家 『国消国産』とは、食料安全保障の強化と食料自給率の向上、持続可能な社会実現への潮流に関連して提起している、「国民が必要とし消費する食料は、できるだけその国で生産する」というJAグループ独自のキーメッセージです。
 国民が必要とする食料を国内で賄うことができれば自給率は100%です。しかし今の日本の食料はほとんど海外に頼り、食料安全保障のリスクがどんどん高まっています。異常気象で大規模な自然災害がいつ起きるかわからない、世界的には人口が増加しているなかで、日本の農業は脆弱化し輸入がますます増えてくる可能性があります。これらのリスクに対する見直しの機運が高まっています。
 これを契機に国連が制定した「世界食料デー」である10月16日を「国消国産の日」に制定しました。これに合わせた若年層向けのオンラインシンポジウムなども開催したところです。
 JAグループが同じベクトルで一体感をもって発信することで世論形成ができれば、消費者も国産を買おうとする行動に変わっていくと思います。そうなれば強い日本農業が出来てくる。とにかく発信し続けなければいけないと思っています。

 洞口 日本の自給率は37%と低いのに、オリンピックでは大量の弁当が廃棄されました。女性組織も国消国産の取組みを展開していますが、食品ロスを減らすためにはまず家庭にある冷蔵庫の中から食品ロスを見直そうという運動をすすめています。

 柿嶌 地球環境に配慮した農業のあり方も問われていますが、JAグループとしてのSDGsへの取組みは、女性組織や青年組織などがそれぞれ得意な項目を分担して取組み全体を牽引していくべきだと思います。
 これまでのように大量に生産し大量に消費し大量に廃棄してきた日本の食料の姿は、コロナ禍で謙虚に見直されるべきときが来ました。『国消国産』は我々JAグループに明確な方向性を示したと思います。
 海外からお金をかけて船で運んできた農畜産物ではなく、地球環境に配慮した国産を使った料理などを女性組織が考えていく。青年組織はJAグループの力を駆使して地球環境に配慮した作物を作るためのカテゴリーをしっかり構築し、それを国民に訴えることでエシカル消費も含めて消費者に選んでもらえるようにする。
 消費者目線での生産が必要ということですが、それは消費者のみなさんに自分の国を愛していただき、であるならば消費者に国産を食べていただくこと、その国産農畜産物は我々が作るということだと思います。この消費から始まるのが『国消国産』のポイントです。お互いに努力し寄り添っていくことが大事です。

 中家 SDGsを考えると、従来通りの消費パターンではなく、環境への負荷を軽減して生産された農産物はそれなりに高く評価して買っていただく必要がある。これが持続可能な農業の大前提にならなければ農家の生産は進まない。まず、消費者に理解いただくことが前提だと思います。

 洞口 同感です。SDGsは女性組織がめざす取組みそのものです。17項目の目標一つずつに学習を深め活動していきたいと思います。

 

持続可能な農業・地域へむけて 

 本社 これからの活動への決意とメッセージを。

 柿嶌 今大会は10年後のJAグループのあるべき姿を示したものです。
 今、希望の光をつくらなければいつつくるのか、といった固い決意とスタンスを示す大会になると思います。
 我々も我々にしかできないことを最優先に、しっかり取組んでいきます。

 洞口 来年1月のJA全国女性大会はJA全国女性協創立70周年記念となる大会ですが、JA全国大会の決議に基づき「10年後、20年後もさらなる輝きを求めて」と掲げて、これから活動方針を決めていこうと考えています。
 これからも輝き続けるJA女性組織をめざしていきます。

 中家 令和になって初めてのJA全国大会、一連の農協改革に一定の方向がでた後での大会でもあり、ある意味フェーズが変わり新たな出発のときになると思い、改めて10年後の姿を提案させてもらいました。
 女性組織や青年組織の活動が活発なJAほど元気です。JAにとって本当に重要な組織です。これからもJA組織の活性化に向け、大いに活躍していただきたいと期待しています。

 本社 ありがとうございました。


 

〈本号の主な内容〉

■第29回 JA全国大会 記念座談会
 女性・青年組織の活性化で 持続可能な農業・地域共生の未来づくりへ
 JA全中 代表理事会長     中家徹 氏
 JA全国女性協 会長      洞口ひろみ 氏
 JA全青協 会長        柿嶌洋一 氏

■持続可能な農業・地域共生の未来づくりへ
 JA全農 経営管理委員会会長  菅野幸雄 氏
 JA共済連 経営管理委員会会長 青江伯夫 氏
 農林中央金庫 代表理事理事長 奥和登 氏
 JA全厚連 経営管理委員会会長 山野徹 氏
 家の光協会 代表理事会長   栗原隆政 氏
 文化連 経営管理委員会会長  八木岡努 氏

■10年後わがJAがめざす姿
 不断の自己改革でさらなる進化を
 JAにじ 代表理事組合長    右田英訓 氏
 JA東京あおば 代表理事組合長 洒井利博 氏
 JA荘内たがわ 代表理事組合長 太田政士 氏

■JAグループ友誼団体からのメッセージ
 日本生協連 代表理事会長   土屋敏夫 氏

■JAグループへの期待
 農林水産省経営局協同組織課長 三上卓矢 氏
 農林水産省経営局金融調整課長 中尾学 氏

■農業・協同組合の事業・活動をサポートする調査・研究・研修機関

■JAグループの自己改革と今後求められる姿
 中央大学大学院戦略経営研究科教授 杉浦宣彦 氏

■SDGsをふまえた持続可能性の追求
 農研機構 理事        勝田眞澄 氏

■デジタル化の進展とJAグループの取組み方向
 JA全中 常務理事       山田秀顕 氏

■シリーズ 進む特定生産緑地への移行(1)
 特定生産緑地の指定促進に向けて
 JA全中 常務理事       肱岡弘典 氏

■クローズアップインタビュー
 JA三井リース(株) 代表取締役社長執行役員 新分敬人 氏

行友弥の食農再論「詐欺の被害者はだれか」

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