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日本農民新聞 2021年8月15日

2021年8月15日

このひと

農研機構のこれから~第5期中長期計画の推進方針

農研機構
理事長
久間 和生 氏

世界に冠たる一流の研究組織に
基礎から実用化までを切れ目なく

わが国の農業と食品産業を支える研究開発機関である国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構=NARO)は、今年4月「第5期中長期計画」を策定、組織や運営方法を大きく変え研究開発を加速させている。久間和生理事長に中長期計画の概要と機構改革のポイントを聞いた。


伸びしろ大きい農業・食品分野を成長産業に

農研機構のこれまでの取組みは?

 2018年4月に理事長に就任して以来、農業や食品分野は伸びしろの大きな成長産業だと確信してきました。日本の農業・食料分野の生産額50・4兆円に対し輸出は約9000億円に過ぎず、自動車や電子部品等の分野に比べはるかに少ない。安心安全で美味しい日本の農産物が海外で売れないはずはないと思っています。

 環境面でも、世界全体の農業・土地由来の温室効果ガスの排出量は全排出量の24%を占め、2050年カーボンニュートラルに向け技術開発の加速が必要な分野。ここでも伸びしろが大きくかつ重要な分野です。

 そして、何といっても生命を扱っているので、科学技術としてのフロンティアがあります。

 特に世界の人口が増加する中で、農業・食品は非常に重要な地位を占めています。この、伸びしろが大きい分野に国全体がもっと注目すべきだと考えています。

 農研機構には多くの優秀な研究者がいてそれぞれが素晴らしい研究を行っています。このベクトルがより良い方向に向かうよう、「食料自給率向上と食料安全保障」「農産物・食品の産業競争力強化と輸出拡大」「生産性向上と環境保全の両立」への貢献をめざして、農業・食品分野でICT(情報通信技術)を活用し成長産業化と社会的課題解決を両立して人中心の社会をめざす「Socity5・0」の実現を組織目標としてきました。

司令塔機能を強化、農業とICTの融合も

目標実現に向けた課題とこの3年間の改革の取組みは?

 各研究所がバラバラで組織内連携が弱かったことから、司令塔機能を強化するため「企画戦略本部」を設置しました。また、論文重視で実用化・権利化活動が不活発であったことから、産業界・農業界との連携強化と事業化推進のための「事業開発部」と併せ、知財・国際標準化活動の強化のための「知的財産部」を設置しました。さらに、農業研究とICTの融合の遅れが目立っていたことから、農業AI研究推進やICT・デジタル人材育成のために「農業情報研究センター」を設置しました。

 これらの改革を2018~2019年にスピード感をもって次々と実行しました。

明確な出口戦略の下、イノベーション創造

第5期中長期計画が目指す組織の姿は?

 世界に冠たる一流の研究組織を目指します。明確な出口戦略の下で、基礎から実用化までのそれぞれのステージで切れ目なく一流の研究成果を創出し、グローバルで産業界・社会に大きなインパクトを与えるイノベーション創出につなげることを目指していきます。

 その目指す出口は、自給力向上と食料安全保障、産業競争力の強化、生産性向上と環境保全の両立であり、そのため、ICT、バイオテクノロジー、環境などの異分野の技術も融合しイノベーションを創出していきます。

 これを実現するために、農業、食品産業技術とAI等の先端技術の融合を図り、農研機構内はもとより行政・産業界・農業界・研究法人・大学との連携やグローバルな連携など、徹底的に連携を強化していきます。また、スペシャリティ、グローバル、ジェンダー等々、多様な人材の集合体としての研究組織を形成し、それぞれの領域で一流の人材が育ち活躍する組織にしていきたいと考えています。

4セグメントに分け担当理事の役割明確化

そのためのさらなる組織改革は?

 これまでの改革でなお不足と思われる部分の改革を、中長期計画に明示しました。

 ポイントは、研究推進担当理事の役割・権限・責任の明確化。4つのセグメント毎に研究推進担当理事1名を配置し、役割を明確にして権限を与え、責任を持たせました。そのためまず各理事の担当研究所群を明確にし、研究所ごとに大課題を設定して、担当理事が大課題と研究所の両方をマネジメントすることにしました。同時にプロジェクト型の研究制度も導入し、研究所間を跨るテーマは研究所横断型の「NAROプロジェクト」が当たることにしました。さらに、共通する基盤技術を強化するため、情報技術を核にした「基盤技術研究本部」を新たに設けました。

 理事長の下に、研究開発の司令塔である「企画戦略本部」があり、その中にセグメントⅠ~Ⅳの研究推進をする各理事室と、経営企画部、研究統括部を設置しました。各研究部門やセンターはセグメントⅠ~Ⅳにそれぞれ所属し、「基盤技術研究本部」は、理事長が本部長を担うこととしました。また、生物系特定産業技術研究支援センター(BRAIN)は、ファンディング・エージェンシーとしての企画力と公正・透明な管理体制を強化していくため、副理事長をトップに据えました。

産業競争力の強化とSDGsの達成に貢献
農水省と一体で「みどり戦略」推進も
情報研究基盤を核に高度化と共通基盤整備

理事長直下に新設した「基盤技術研究本部」とは?

 共通基盤技術研究の司令塔として4研究センターで構成し、統合データベース、AIスパコン、遺伝資源等の共通基盤を整備しました。AI、ロボティクス、バイオテクノロジー、精密分析等の基盤技術の高度化を進めます。情報研究基盤を核として、農業情報研究、ロボティクス研究、高度分析研究、遺伝資源研究が連携し、それぞれの研究開発を加速していきます。

 2018年に開設した「農業情報研究センター」は、徹底的なアプリケーション指向の農業AI研究を推進。農業データ連携基盤〝WAGRI〟の本格運用に取組むとともに、ICT・デジタル人材の育成を図ります。また、スパコンとデータベースによる農業情報研究基盤を構築していきます。

 「農業ロボティクス研究センター」では、施設でのセンシング技術、高精度生育予測技術、環境制御システムの開発など、ジャストインタイム&クオリティ生産を研究。また、土壌の健全性をセンシングしリアルタイムで制御するプレシジョン・ファーミングの研究開発を進めます。

 「高度分析研究センター」では、最先端のNMR/MRIによるリモート分析とシステムの運用をこの6月に開始しました。堅牢なセキュリティ対策を講じ、リアルタイムAI解析で民間等との共同研究開発を加速していきます。

 「遺伝資源研究センター」では、農業分野の遺伝資源を収集し特性を評価して保存・配布する技術の高度化を図ります。また、農業情報研究基盤との連携によりゲノム情報や形質情報を付加して遺伝資源の活用を加速していきます。

 これら4センターでは、情報を核にして共通基盤技術を徹底的に強化し、前述の4セグメントの研究部門やセンターと連携しながら、世界に冠たる研究組織を目指していきます。

トップダウン型でテーマごとにリソース配分

今回の機構改革をふまえた今後の研究開発の進め方は?

 今回の機構改革では、ボトムアップ型からトップダウン型に研究体制を変えたとも言えます。研究成果が及ぼす影響の度合いはテーマによって異なりますが、農業・食品産業分野におけるSociety5・0の深化と浸透を通して産業競争力の強化とSDGsの達成に貢献するという目標に向けて出口を明確にし、トップダウンで、より重要なテーマごとにリソースを配分することにしました。

 そのための研究開発を促進するために次の4つの柱を立て、各研究所が具体的な研究開発をすすめています。

 「アグリ・フードビジネス」では、美味しくて健康に良い新たな食の創造と、AIやデータを利活用したフードチェーンのスマート化により、農畜産業・食品産業のビジネス競争力を徹底的に強化していきます。

 「スマート生産システム」では、AI、データ、ロボティクスを核とするスマート生産システムにより食料自給力を向上させるとともに、新たなビジネスモデルによる農業従事者の所得増大を通して地方創生を実現していきます。

 「アグリバイオシステム」では、バイオ×AI技術を駆使することにより、農業・食品産業を徹底強化するとともに、実現困難な課題に挑み新たなバイオ産業を創出していきます。

 「ロバスト農業システム」では、データ駆動型生産環境管理と農業インフラの強靭化により、農業生産性の向上、気候変動に対する農業のロバスト化と地球環境保全を同時に実現していきます。

 この柱の下にそれぞれの研究所が大課題のテーマをもち、その中でさらに中課題、小課題に分かれ研究開発をすすめていくことで、命令系統が理事↓所長↓領域長と明確になりました。

 一方で、セグメントを横断して総力をあげて実施する研究「NAROプロジェクト」では、各プロジェクトを担当理事の権限と責任の下で推進し、機動的にマネジメントしていきます。

「みどり戦略」実現へ途切れることなく取組み支える

農水省が先に発表した「みどりの食料システム戦略」の推進にも重要な役割を担っていると思うが

 持続可能な食料システムの構築に向け、中長期的観点から調達、生産、加工・流通、消費の各段階の取組みと環境負荷低減のためのイノベーション創出を目的とした「戦略」で、策定の過程で農研機構の意見もかなり反映してもらいました。〝息の長い〟取組みであり、農水省と一体となり、実現に向けて途中で途切れることのないように推進していくのが農研機構の役割です。

 特に、2050年までに目指す姿としてあげられている、「CO2ゼロエミッション化」「化学農薬使用量(リスク換算)50%削減」「化学肥料使用量50%削減」「有機農業取組面積割合25%に拡大」などは、農研機構の重要な研究テーマであり、「戦略」の策定やフォローを行うワーキングチームを設置し、絶えず進捗度合いを把握しながら不足部分の強化を図り、よりよい実行プログラムをつくっていく作業をすすめています。


〈本号の主な内容〉

■このひと 農研機構のこれから~第5期中長期計画の推進方針
 農研機構
 理事長 久間和生 氏

農林水産物・食品の上半期輸出実績は過去最高の5773億円

JA全中が通常総会

スマート・オコメ・チェーンコンソーシアム周知へ設立大会=農水省

JA全農第45回通常総代会
 令和2年度事業報告案等を承認

JA共済連通常総会開催

■IPM(総合的病害虫・雑草管理)の推進
 農水省 消費・安全局 植物防疫課

農林中金第1四半期決算の経常利益は610億円

事業報告等3議案ほか特別決議を承認=日本文化厚生連総会

「サステナビリティ報告書2021」を発行

農林中金とJPRがグリーンローンを契約締結

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