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日本農民新聞 2021年8月25日

2021年8月25日

農水省新井ゆたか農林水産審議官このひと

これからの国際交渉と輸出のポイント

農林水産省
農林水産審議官
新井 ゆたか 氏

輸出促進へ関税以外の国際交渉も
世界的な環境サイドの課題を注視

農林水産省は7月1日付で組織再編を行ない、新たに輸出・国際局と農産局を新設し畜産局を復活した。幹部級人事では、次官級で国際担当の農林水産審議官に新井ゆたか消費・安全局長が昇任した。新しい組織体制のポイントとこれからの国際交渉のあり方と輸出について新井農林水産審議官に聞いた。


国際交渉と輸出拡大を一元的に

省内再編と自身の役回りについて

 農産局と畜産局ができ、食品産業局は廃止され食品関係は輸出関連業務を除き大臣官房に新設された「新事業・食品産業部」に移管された。一方で「輸出・国際局」を新設し、輸出振興、輸出先規制対策、知的財産の一部を担うこととしたことなどが、再編の大きな位置づけを占めている。

 輸出・国際局は国際関係が大きく変化している中での新設である。これまでの国際交渉は多国間の関税交渉が中心であったが、今は各国の関税水準が決まり交渉は一段落している。国際交渉は非関税障壁の問題や環境問題などいろいろな意味で幅が広くなっている。

 そういった国際交渉と輸出拡大の双方に取組んでいく必要がある。もともと各国は、輸出をしたいがために関税を下げることを主眼に交渉してきた。農産物の輸出促進の目標を掲げている日本も、遅ればせながら輸出と調達を一緒に考えられる土壌ができた。そうした視点で仕事をしていくことが求められており、それをリードしていくことが、これまでとは違う役回りだと思っている。

環境サイドの課題にも対応した輸出策を

輸出拡大に向けては?

 輸出促進審議官や食料産業局長として輸出の仕事を経験し、消費・安全局長時代には、非関税障壁の大きな課題である動植物検疫等の問題にも取組み、国内外における課題はそれなりに認識している。今一番注視しなければならないのは世界的な環境サイドの課題である。

 様々な環境問題が国際的に議論され、それをテコに補助金削減や輸入規制の議論が再燃している。環境や人権などSDGs関係が輸出入国の貿易にどのような影響を及ぼすのか、農産物や食品だけでなく全体を見ていくことが大きな課題だ。

 輸出はコロナ禍にありながらも堅調に伸びている。世界各国においても巣ごもり基調のなかで食の楽しみに大きなウエイトを占めるようになっており、日本食が売れる場所もレストランのみではなくスーパー等に変わってきている。日々のバリエーションの中に日本食を取り込む人が増えているので、その裾野を広げていかなければならない。高所得層向けだけではなく、中間所得層をターゲットにしたものをどれだけ提供できるかが課題になってくるだろう。

食料サミットや「みどり戦略」で方向を共有

その環境問題への対応は?

 9月にニューヨークで開かれるFAOの「国連食料システムサミット」のプレサミットが7月ローマで開催され、各国の食料政策の方向に多方面にわたる議論が展開された。環境セクターではどのようなステークホルダーと議論を積み重ねていくかが重要な課題となった。

 環境関係の会合では、政府と企業、NGOがそれぞれの立場で議論しそれぞれが取組みの目標を設定し行動を促進していく方向が主流となっている。その意味でも、日本国内においても企業や各年齢層の消費者といったステークホルダーとの対話が重要になってくる。

 「みどりの食料システム戦略」の策定過程においても、それぞれの立場を考えながら目指していくべき方向を共有していくことに努めてきた。食料サミットにおいても、日本の立場を鮮明にしつつ世界とも共有していくことが非常に重要だと思っている。

 いろいろな立場の国やステークホルダーとも共有しながら先に進めていく〝うねり〟をつくっていく活動がプレサミットでできたと受け止めている。それを継続し日本の生産者や消費者、企業の行動変容につなげていかなければならない。

 生物多様性も重要な課題で、今回のCOPでも生物多様性の観点から保護区の割合や生物多様性に有害な補助金の削減目標を決める動きもあると聞いている。それが次に国際的な関税交渉や補助金交渉の枠組のなかにビルトインされてくる方向もなきにしもあらずだと思う。その点においては、環境保全や生物多様性維持のために、どのような農業政策を展開していくのか転換が求められており、我が国においてもみどりの戦略を着実に実施していくことが国内外の環境保全のみならず、国際市場に産品が参入する前提条件になっていく。

各国の農業に応じた生産性向上技術を

世界的な飢餓人口増加の中での国際協力の重要性と食料安全保障についての視点は?

 世界的にはアフリカを中心に飢餓人口が増えている。国連によれば、2020年の飢餓人口は8億1100万人、前年より1億6100万人増えたとされている。その中にあって、EUを中心に食料供給国がオーガニックな生産を加速していくことになると、食料供給量が世界的に増える方向には向かない。

 耕地面積が横ばいの状況下で世界100億人を養うために、農薬や化学肥料を使った生産性向上を描いてきたからこそ世界の人口増は支えられてきたが、先進国は今後そのような形で生産性を増やしていくということはない。そうなると、各地域でしっかり生産力を確保し、栄養が摂れる形で国民に供給していくことが必要だ。日本からは多くの農業技術者がアフリカをはじめとした諸国の支援に出向いているが、しっかり種を植えしっかり育てるという基礎的が技術を支援する活動がまだまだ国際的な支援のベースであることは間違いない。

 他方、アセアンにおいては、日本の農業機械や水の有効利用の技術などスマート農業の展開が大きな課題となるだろう。前述の食料プレサミットでは、そうした点についてのアジア各国の連携が表明されたので、各国の農業に応じた生産性向上をしっかり支援していきたい。

交渉の阻害要因は関税から非関税障壁へ

これからの国際交渉での課題は?

 WTOでは各国の代表者が議論しているが大きすぎて動きがとれない観がある。ウルグアイラウンドを最後にラウンドが完結できなかったことがそれを象徴している。国・地域の対立構図はその時と変わっておらず、解決への糸口がなかなか見つからないことも事実だ。

 他方で、関税が大きな障壁となることがかつてほど多くなくなったなかで、非関税障壁が実質的に貿易を止めている要素が多くなっている。例えば、東日本大震災後に各国がとった放射能汚染による輸入規制は未だに残っている。ネガティブインパクトを一歩一歩解決していかなければならない。国際交渉の阻害要因は、非関税障壁であることがより鮮明になってきた。

 今回の組織再編に伴い国際交渉のチームが一元化されたので、こうした問題解決についてもできるだけ進展を早めていきたい。

女性のライフ&ワークバランスをとりやすく

次官級ポストでは農水省初の女性の就任だが

 政府が女性の活躍の場を増やしていく方向にあるなかで、しっかりとしたロールモデルを示していきたい。

 特に、女性公務員の働く場とライフバランスを組織的にも個人的にも確立した上で仕事が出来るような状況を創っていくため、多くの女性の意見を聞き組織マネジメントを改善していくことが重要だ。数年前から民間食品企業の方々とキャリア形成の勉強会をやっているが、このような場も活かしていきたい。

 女性のみならず職員全体が能力を発揮したいときに活躍できる状況を、コロナ禍でのテレワークも上手く活用、定着させ、上司が率先して作っていくことがカギになっていくと思う。


〈本号の主な内容〉

■このひと >これからの国際交渉と輸出のポイント
 農林水産省
 農林水産審議官 新井ゆたか 氏

APEC食料安全保障担当大臣会合で食料安全保障ロードマップ承認

令和4年度予算重点事項案自民農林合同会議に提示=農水省

農水省が堂島商品取引所のコメ先物本上場申請に不認可

■JA共済令和2年度総合優績表彰LA対談

■日本施設園芸協会主催施設園芸・植物工場展GPECin愛知出展内容から

新規就農者は前年比3・8%減の5万3740人=農水省

全農が安川電機との業務提携に基づく農業分野自動化の取組を加速

〈行友弥の食農再論〉江戸幕府の闘い

投資専門子会社の「農林中金キャピタル㈱」を設立=農林中金

JAタウンで「石川佳純選手とお米をいっぱい食べようキャンペーン」=JA全農

バイオスティミュラント資材を知る~海藻・多糖類型バイオスティミュラント

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