第67回JA全国青年大会 記念座談会
持続可能な農業へ 次世代リーダーの姿とその育成
JA全国青年組織協議会
会長
田中圭介 氏
アグリフューチャージャパン
副理事長
合瀬宏毅 氏(元NHK解説主幹)
アグベンチャーラボ
専務理事(JA全農参事)
落合成年 氏
第67回JA全国青年大会が16日、新型コロナウイルスの影響を踏まえ、東京・大手町のアグベンチャーラボから各県をWebで結んで開かれ、約1700人以上が集う大会となった。コロナ禍で新たなJA青年部活動や営農の在り方が模索されてきたこの1年の集大成となった。ここでは、JA全国青年組織協議会(JA全青協)の田中圭介会長と日本農業経営大学校を運営するアグリフューチャージャパンの合瀬宏毅副理事長(元NHK解説主幹)、そしてアグベンチャーラボの落合成年専務理事(JA全農参事)の3人にお集まりいただき座談会を開催、リスクに対応した持続可能な農業へ、新たな技術や経営のあり方、JA青年部活動のあり方等をめぐって話し合っていただいた。
Let’s think! 大地とともに未来をひらけ
~今こそ絆が試される
本社 まず、自己紹介を兼ねてそれぞれの取組みへの思いを。
田中 福岡県久留米市田主丸町で、レタスなど露地野菜を中心に生産しています。大学卒業と同時に実家で就農し農業での友達をたくさんつくりたいとの思いから、すぐにJA青年部と4Hクラブに加入しました。当時のJA青年部では、父を知っている諸先輩に可愛がってもらい、県の委員長、全国の理事を経て、昨年6月から全国の会長を務めさせていただいています。
JA全青協の役目は、現場の声をしっかりと全国に届けることだと思っています。今年度も計画を深掘りし今後の展望が拓けるよう声をあげていこうと、取り組んできました。
私自身は家族4人とパート3人で経営を行なっていますが、地域では大規模専業、家族経営、新規就農など近年経営体は多様化してきており、消費者のニーズに合わせ生産現場も大きく変わってきていると感じています。
合瀬 去年3月にNHKの解説委員を辞し、アグリフューチャージャパンで次世代の農業経営者育成のお手伝いをしています。NHK時代の後半はずっと農林水産業の問題を扱ってきました。農業は誰もが必要とする食料を生産し人々の生活を豊かにする素晴らしい仕事です。ところが現状は担い手が減り年々生産力が落ちる状況となっています。これは日本社会にとって大問題です。
農業人口が減ってきた一つの理由は外からの参入が極めて難しかったからです。しかし、高齢化で農業からの〝退職者〟が増え、農地が大量に出て来る時代になることで大きく変わろうとしています。
元気な産業というのは、様々な人がいろいろなチャレンジができる〝新陳代謝〟がさかんな産業です。農地が大量に出て来始めた今、農業もそうした産業になろうとしています。その農業経営者を育成する仕事に関わることはきっと面白い。40年にわたりNHKで解説委員や番組プロデューサーとして時代の変わり目を見てきた経験から、今は農業にとっての変化の時だという匂いを嗅ぎ分けてやってきました。時代の変化を、今度は中から見てやろうと思っています。
落合 私は1985年に全農に入会以来主に畜産畑を歩み、生産現場への配合飼料供給や飼料原料の調達の仕事を経て、世界一の穀物輸出基地であるアメリカの全農グレインの経営責任者や家畜衛生研究所の所長などを務めた後、広報部長から参事となり昨年4月からアグベンチャーラボ(=アグラボ)の専務を兼務しています。
アグラボはJAグループ全体で構成し、農業や食全般に役に立つような新しい知見やノウハウ、技術等を開発する小さな芽をもつベンチャー企業、スタートアップ企業を支援し、その実用化を支援していくことをメインの仕事としています。そうした仕事にあたっては、生産者と常に接しながら要望やニーズを捉えていく必要があります。その意味からもJA全青協と包括連携協定を結び、勉強会を開き生産者の声を聞きながら、新たな提案をさせていただいています。
JA全青協の活動
本社 コロナ禍でのJA全青協の今年度の活動状況を。
田中 コロナの影響で対面での活動が非常に制限されています。人と人が会いモチベーションを高め合って明日の農業に向けた活動を実践していくことが、組織の一番の強みです。それが出来ない状況のなか、JA全青協としてはWebを使って何が出来るかを徹底的に議論し、基本的に全ての行事をWebで行うことで取組んできました。
今年度の活動テーマを自らが『学習』と掲げました。生産現場のわからないことや政策面の本質などを自ら学習し、10年後の農業の姿を自分達で提言していこうと取組んでいます。従来の3部会をさらに細分化し、水田・青果・畜酪の作物別と農業経営・地域活性化・都市農業の計6部会としました。
私達は政策提言集『ポリシーブック』を作成しています。現場の課題を集約しその解決策を、自分達でできること(自助)、JAグループとして一緒にできること(共助)、行政と一緒に取組んでいくこと(公助)の課題別に掲げています。その課題の解決に向けた政策提言を行なっていくための年3回の部会を、昨年11月に終え、全国一斉要求として国会議員の先生方や関係各省に提言しています。
水田部会では、米の過剰在庫の改善に向けた非主食用米へのスムーズな移行、青果部会では自然災害が多発するなかでの安定生産へ、収入保険制度を始め経営安定対策のブラッシュアップ、畜産部会ではコロナ禍で消費が低迷した和牛を、ブランド指向以外の多様な消費に向けることでの生産基盤のテコ入れ、等を提言しました。
都市農業部会では3大都市圏以外での生産緑地制度の理解・認識の徹底、農業経営部会では労働力確保対策、地域活性化部会では今後の農業政策の柱となる「人・農地プラン」に、我々後継者世代をしっかり取り込んでいく仕組みづくりの必要性を提言しています。
Webでのミーティングを行わざるを得ないなかで、各省の専門家を呼んでのレクチャー、全国の仲間との討論会などで、これまでにない議論が展開されました。3月には農水省の担当者と意見交換会を開きますが、対等に議論できるくらいに知識を蓄積できたのではないかと思います。
コロナ禍で出来なかった活動もありますが、このように新しいツールを駆使して活動の光を見出したのは今年度の大きな成果です。今後もこうしたツールを使いながら、現場のJA青年部世代が今後10年を考えるきっかけをつくっていかなければならないと思っています。
合瀬 JA全青協がまとめられたポリシーブックを読みました。極めて多岐にわたり自分達に何が必要で、どのようなことが課題になっているのか、自分達に出来ない部分は行政や地域とどのように一緒に取組んでいくか等々が網羅されていて、非常によく勉強されていると感じました。
農業も一つの事業で、農家は経営者である以上、自ら厳しい決断が求められます。その決断を下すため、今世の中がどうなっているのか、どのような人がどのような判断をしているのか。情報を集めることは不可欠です。
これまでの農業は地域での情報を集めれば十分でした。しかし国中を情報が飛び交い、グローバル化も進んでいる中で、決断のための情報をいかに集めるかは農家の競争力に直結します。これまでは、東京に集まらなければ出来なかった勉強会なども、Webなどで地方や海外からも参加が可能になりました。SNSなど積極的に新しいメディアを使いどんどん新しい情報を得て、いろいろな意見を闘わせ刺激を受けて新しい考えを生み出していく。新しいメディアを使い活性化を図りながら次を創造していくJA全青協の活動は、極めて時代に合ったものだと思います。
落合 農業はとても大事な産業ですが、全産業に占める人口割合が低く地方に偏在することから、都市住民にとってなかなか身近なものにならない。目の前の食べ物と生産現場が結びつかない傾向があります。そうしたなかでJAグループは、日頃農業に関心の目を向けない人達にも農業を理解してもらおうと広報活動を続けています。そのためには、こちらから一方的に〝伝える〟というよりは、伝えたい相手に〝伝わる〟ような広報の必要性を感じています。
人々の関心や趣向が多様化しているなか、特定の媒体だけではより多くの人に伝えることは不可能です。多様なコンテンツにより、オンラインやSNS等で365日24時間発信し続ける方法は、最終的により多くの人達に私達の伝えたいことが伝わっていくのではないかと考えます。これまで農業に関心のなかった人に関心をもってもらうきっかけになり、JA全青協の素晴らしい取組みも少しずつ伝わっていくのではないかと思っています。
田中 生産の手を止めずJA青年部活動を行なっていこうと就任当初から訴えています。コロナや災害があっても国民の食を途絶えさせてはならない。日本全国の若手農業者が全国の食を守る、これが我々組織の一番大事なことです。
そのために、今できることは何かを考え実践し続けていかなければいけない。地域のリーダーが率先してこの状況を打破していこうと、県域からも報告がどんどん上がってきています。この決断がよい流れになってくれることを期待します。やってみて↓反省し↓次に活かす。先輩達から受け継いだこの流れに新しい技術や手法を取り入れながらチャレンジしていきます。
JA全青協とアグベンチャーラボ
本社 JA全青協とアグラボは包括提携を結びましたが、まず、アグラボの取組みについて落合専務から。
落合 昨年秋に結び、月1回JA全青協のみなさんが理事会等で上京されるときに勉強会をすることにし、11月に初めて対面で開催しました。Webも重要なツールですが、息づかい まで感じられる対面での勉強会は非常によかったと思います。
日頃は、スタートアップと呼ばれ、いろいろな技術を開発し普及しようと意欲をもった企業と共同しながら、生産現場での実用化に向けて実証プログラムを続けています。JA全青協との勉強会ではそうした人達にも参加し説明してもらい効率化や生産性等々を議論できる場にしていきたいと考えています。
JAグループ組織を通じてアグラボの活動を生産現場におろすのには、多くの時間を要することが多いのですが、直接話が出来る場を設けることによってストレートにやり取りができますし、リアルタイムで状況が把握できます。アグラボの活動はスピードを最優先に考えることにより生産現場に貢献できると思っています。その意味ではJA全青協とのコミュニケーションのパイプをもっともっと太くしていきたいと考えています。
田中 昨年度、提携前に見学を兼ねてアグラボで理事会を開催しました。こうした場で農業の今後を考えると何かが起こるのではないかと感じました。
青果部会でも、アグラボのスタートアップ企業との意見交換会を含めた部会を開催しました。そこでは、スタートアップ企業がなかなか農家との接点が見つけづらいことがわかりました。「農家さんはどこにいらっしゃるんですか」という質問は衝撃的でした。一方で、参加者からは「全ての農作業のロボット化を望んでいるわけではない。例えば、リンゴの色味に反応するメガネがあれば、高齢者でもアルバイトでも適期を逸することなく収穫できる」という、具体的な提案もでました。そうした現場からの発想を上手くリンクすることが、スピーディであればあるほど、今後の日本農業にプラスになるのではないか。JA全青協として情報交換がスピーディにできる場をつくりたいというのが、今回の提携の大きな目的です。
直接スタートアップ企業とのやりとりの場をつくったり、収穫ロボットの開発運営に携わったり等の事例も多くでてきていますので、こうした流れのネットワークを拡散させていきたいと思っています。
スマート農業は、水田中心の大規模機械で無人化を目指す方向をイメージしがちです。しかしいま、一番困っているのは、中山間地域や人の手では困難な営農の場です。こうした所の悩みをいち早く解決してくれるような、新しいテクノロジーが生み出されていければと期待しています。
生産現場の困りごとなどをアグラボにいっぱい集め私達も議論して、農家のナマの声を上手くJA全青協が引き出してアグラボにストックし、それに見合うスタートアップ企業に助言がでたりすると、もっと活発化するのではないでしょうか。いろいろなキャッチボールをしながら私達自身も上手く活かしていく姿が、この提携から見えてきました。
合瀬 スマート農業は、データをベースにそれを経営にどのように反映させていくかが中心の考え方です。農家が困っている例えば収穫調整出荷の労働力解消などを望む生産現場の考えとは多少違います。ここを一度整理するためにも、現場と開発側が議論した方がいいと思います。
例えば、十数年ほど前に開発されたキャベツ収穫機は、現場での評判が芳しくありませんでした。個々の生育状況を判別できず、均質的なキャベツを作らなければ一気に収穫できないからです。この機械を機能させるためには、苗や土壌条件も均質にする必要があります。そのためのセンサー技術を得意とするスマート農業と、生産現場が一番困っている収穫作業省力化のニーズとがマッチングせず誤解を生んだのは極めて不幸なことです。お互いの意見をぶつけ合い、考え方を調整しないとなかなか進みません。
農業現場の機械化は大きな〝のびしろ〟があり、今後も可能性を秘めていると思います。そこをどのように見つけていくか。国民に安全かつ適正な価格で安定的に食料を供給していくためには、現状の労働力をいかに補い効率的な農業をめざしていくか。JA全青協とアグラボの取組みは非常に重要だと思います。
落合 アグラボは一昨年5月に、JAグループ各連が一体となってオープンしました。コロナ禍でのWebやオンライン構築に時間を要しましたが、双方向で大人数でもコミュニケーションできるスタイルをとることができるようになりました。いまは各連合会やJAグループの関係者も活用いただいております。
いろいろな技術をもち、こういうことがしたいと意欲をもった若い開発者はたくさんいますが、おっしゃるように、農家と話ができない、辿り着くまでに多くの段階を踏まなければならないといった声も聞きます。
また、ステップアップ企業は、特定の技術に秀でていても周辺との関わりが十分理解されていないことも多い。合瀬さんがおっしゃったように、土壌センシング技術と収穫ロボット技術は放っておいてすぐに結びつくものではありません。全く異なると思っているものでも結びつけることによって生産現場に役立つ技術が初めてできることも多い。従って、パーツパーツの斬新な発想をしっかり結びつけていくことが私達の重要な仕事だと思っています。
これからの農業経営者
本社 日本農業経営大学校の取組みを含めて、これからの農業経営者、担い手への思いを。
合瀬 農家の人は〝百姓〟と言われるほどに、本当にいろいろな技術を身につけています。しかしこの情報化社会では、作物を育てるという視点に加え経営の視点を持つことが極めて重要な時代になってきています。
日本農業経営大学校では、変化の時代に合わせこれまでにない新たな農業のかたち創りや地域のリーダーとなるべく人材の育成のために、2013年に開校し、1学年約20人が2年間農業経営の基礎を勉強しています。
農水省の農業構造動態調査では、10ha以上を経営する農家や農業法人が5万8千と10年前の1・3倍に増えています。一方で、1ha未満の農家は激減しており、小規模農家が農地を手放し大規模経営に集約される動きが見えてきます。
そうしたとき必要になってくるのは、大規模経営体を運営していく力です。農産物を上手く作る技術だけでなく、マーケティングや資金調達力、労務管理などの知識が必要とされます。また経営者として人を引っ張り、地域のリーダーとなるためには人間的な魅力も欠かせません。日本農業経営大学校が持っている問題意識です。
これからは、農家の子弟以外にも様々な能力を持った外部の人材が必要になってくるでしょう。成長する産業は、様々なアイデアをもった新しい人たちが次々と参入しチャレンジを繰り返していく。外部からの力を吸収して活力を生み出し成長してきました。農業もようやくそうなったと感じています。
今、農業生産法人で活躍している人たちの中には、農業に成長の芽を見つけ大きな可能性を感じて農業以外の分野から飛び込んで活躍している人も少なくありません。これまでの農家の人達とともにそうした人達を取り込んでいければと思っています。
田中 福岡県にも、日本農業経営大学校卒業のJA青年部の仲間が多くおり地域のリーダーとして活躍しています。経営体や規模は違っても自分の経営を絶えず見つめ直すことは重要です。その方法をJA青年部組織内での意見交換の場で見つけていくことも出来るのではないかと思います。
地域の目指したい先輩農家の取組みを真似ることを基本にしたネットワークを母体として私達の組織はあります。それが地域を跨ぎWebでつながっていく。そうした一歩踏み出すような経営感覚をもつ仲間を創りだしていくことも急務ではないかと思っています。
日本農業経営大学校のような学びの場があることは非常に大切です。実際に活躍している卒業生が全国にいて、鋭い経営感覚をもって活躍していく人が増えていけば、地域を盛り上げていくことが出来るのではないでしょうか。私も入学したかった……。
合瀬 ぜひ若手を経営大学校に送り込んでください。仕事を中断して東京で2年間学ぶことはなかなか難しいと思いますが、コロナもあって今年度からZoomで授業を始めて上手くいっています。来年度からはオンラインでビデオなども見てもらい議論するような授業も始めようとしていますので、ぜひ田中さんも加わってください。
落合 日本農業経営大学校にはアグラボの施設も利用いただいています。若い農業者経営者を育成し、日本の農業への潤沢な供給をめざした発想からは、まだまだいろいろなことが出来ると思います。そのためにはアグラボもできる限りでサポートしていきます。いろいろな人の創造力で生産現場を盛り上げていただきたいと思います。
持続可能な農業・地域へ
本社 ウィズコロナの時代と言われ、自然災害や疫病・病害虫多発のなか、これからの農業の姿をどのように描いていますか?
田中 私の住む地域は4年連続大雨・豪雨で農地が水没する中で営農を継続しています。日本全国どこでも毎年自然災害が多発し、地球温暖化の影響を肌で感じています。異常気象ではなく完全に気候が変動してしまっている「気候変動」の時期にさしかかっていると思います。
その現実に向かい合い今後をどのように変えていくかを考えなければならないとJA全青協でも議論しています。
フィールドである国土をしっかり守っていくことを国に強く訴えるとともに、自分の地域や地形や土壌の実態を把握し、作物転換や農地移転までを含めどのようにリスクヘッジしていくかを考えることが大事です。収入保険等にも加入し自らの農地を自ら守っていこうと話し合っています。
今後20~40年も続けていく農業者として、現時点での展望をきちんと行動に移していくことを重要視しています。災害が起きてからの要請や対策も必要ですが、起きる前に何が出来るのか考えていこうという声が各地域から上がっており問題意識をもって活動しています。
地域の農地のおかれている状況を把握・理解し、自分達にできることを段階を踏んで選択していくことが大事だと思います。
自然災害だけでなく、病害虫や家畜の伝染病も気候変動にともなって増えており脅威を感じています。そうした事実を踏まえて農畜産物が流通していることを国民にもしっかり伝えていかなければならないと思います。
国民の食を守るために今できることを積み重ね全国に広げていきたい。地域の新規就農者からベテランまで、一人ひとりが考えるきっかけをもち次の行動を選択できるような仕組みづくりに、JA全青協は力を入れていかなければならないと考えています。
合瀬 もともと農業は天候に左右され、災害と共に生きることを宿命づけられた産業です。そうした災害に国は、これまで高い堤防を築くなどして何十年かに一度の洪水等に備えてきました。
しかし昨今はそれが毎年のように起こる。このため国は、「流域治水」の概念を打ち出し、水田等に遊水池の役割を持たせるなど今の地形を利用することで水をコントロールする考え方に変わってきています。農業にとって新たな役割とも言えるものですが、農家にとっては受け入れがたい面もあります。今後補償などの話し合いを進めていくなかで、考え方を整理していくことになろうかと思います。
一方で、私達の命を支えるとともに、災害を食い止めてくれる農業を積極的に支えていこうという消費者の考え方があってしかるべきです。価格だけではなく、例えば環境に配慮しているか、児童労働を使っていないか等々、生産のプロセスに価値を見出していこうとする「エシカル消費」の考え方です。そうしたエシカル消費の考え方を広めるためにも、地域を守っている農業の姿をもっと消費者に知ってもらう必要があります。
落合 世界的には水不足も深刻な問題になってきています。この解決策としていろいろなアプローチの仕方がありますが、アグラボで可能なのは細かいところをケアする技術ではないかと思います。
目前に迫った災害への対応力だけでなく、10年20年先を見越した食料問題の解決に貢献できる技術の芽はたくさん存在しています。そうした芽を大事に育て少しでも実用化の糸口をつくっていきたいと考えています。
治水や治山の問題も含めて今の状況に合わせて生産方法を見直していかないと、災害が多発する日本ではこれから厳しい問題が起こる予感がします。
田中 今後を担う私達にはいろいろな障害があります。しかし農業現場での壁は常に存在しそれを乗り越えて今があると思います。
今の障害を乗り越える力は絶対にあります。いろいろな情報を得ながら、農業現場の課題をメガホン役となって中央に届けていくことが重要だと感じています。
JA青年組織活動の決意と期待
本社 最後に今青年大会の決意と、これからのJA青年組織への期待を。
田中 今大会のスローガンを「Let’s think! 大地とともに未来をひらけ~今こそ絆が試される」と掲げました。JA全国青年大会はJA全青協のメインイベントです。昨年度はコロナの影響の兆しはありましたが実出席でも開催ができました。今年度の開催の是非は今の執行部が就任した当初から議論されてきました。
大会は全国の盟友達の日頃の活動を知ってもらう大きな舞台です。こうした状況であっても営農の手を止めずに活動している仲間の体験や、継続してきたJA青年組織活動の実績発表の場をどうしても持ちたいという気持ちを出発点に検討を重ね、2月16日にWebを使ったコンパクトな大会を行なうことにしました。ユーチューブで配信しながら録画を使い各ブロック代表の発表大会を行ないます。コロナに負けずどのような状況下でも営農や活動を続けていく再確認の場となる大会だと思っています。
また、今回のチャレンジとその反省を次年度にしっかり繋げていきます。一般の方々も自由に視聴できますので、一人でも多くの方が農業現場のJA青年部の活動を垣間見ることができるように配信できたらと思っています。
落合 今回は初めてのWeb大会として、アグラボから発信させていただきました。これまで、全農のTACパワーアップ大会や和牛甲子園など全国規模の大会もアグラボから発信しています。
まさに、1年間日々活動してきた成果の集大成の場です。その発表を共有することが明日への活動につながっていくことでしょう。これからも青年部活動をできる限りお手伝いをしていきたいと思います。
合瀬 どんな状況のなかでも雇用を守り一定の利益をあげていくことが経営者の責任だと思います。困難な状況のなかでどのような成果を出していけるか、いまJA全青協に問われています。全国大会は、JA全青協の底力を見せる良いチャンスだと期待しています。
〈本号の主な内容〉
■第67回JA全国青年大会 記念座談会
持続可能な農業へ 次世代リーダーの姿とその育成
JA全国青年組織協議会 会長 田中圭介 氏
アグリフューチャージャパン 副理事長 合瀬宏毅 氏
アグベンチャーラボ 専務理事(JA全農参事) 落合成年 氏
■第67回JA全国青年大会開く
全国をWebでつなぎ各種発表・表彰・パネルディスカッションなど盛りだくさんに
■集落営農法人の取り組み最前線(上)
農事組合法人 たねっこ(秋田県)
■イチゴの病害虫とその防除対策
静岡県農林技術研究所
植物保護・環境保全科主任研究員 高橋冬実 氏
■持続可能な森林・林業の確立に向けて
~森林組合系統と一体となった農林中金の取組み~
〇林業安全教育360°VR
〇低コスト再造林プロジェクト