JAグループの自己改革を「進展している」と評価
農水省は6日、農協改革集中推進期間における農協改革の進捗状況について公表、JAグループの自己改革は「進展している」と評価した。2014年に始まった5年間の農協改革集中推進期間が今年5月で終了したことから、総括として行ったもの。農水省ではこれまで複数年に渡り、農協の自己改革に関して農協と認定農業者を中心とする農業者に対しアンケート調査を行い、両者の評価の見える化を行ってきた。また、組合員の事業利用について16年度はマニュアルを作成、18年から調査を実施している。
『農産物の有利販売・生産資材の有利調達』についての調査では、農協の①農産物販売事業の見直し、②生産資材購買事業の見直し、について「具体的取組を開始した」と回答した農協自身は19年度調査ではそれぞれ①91・4%、②91・7%と、前年度より減少したものの、16年度(①68・0%、②65・5%)から大幅に増加した。また、③農産物販売事業の進め方や役員の選び方等に関し「組合員と徹底した話し合いを進めている」との回答は86・3%(16年度48・9%)となった。一方、認定農業者等に対する同様の質問ではそれぞれ①40・4%(16年度25・6%)、②43・7%(24・0%)、③38・1%(21・9%)と増加した。農水省では「農協・農業者ともに『具体的取組を開始した』との回答が改革集中推進期間において増加した一方で、農協と農業者の評価に一定の差がある」としている。
また、今回初めての公表となる『組合員の事業利用調査』については、昨年1月からの1年間の調査結果として、「信用事業」が▼貯金額約103兆円の内、正組合員は42%、准組合員は34%、員外は24%、▼貸出金額約22兆円の内、正組合員は35%、准組合員47%、員外18%、▼共済事業が掛金の額約5兆円の内、正組合員は60%、准組合員は30%、員外は11%、▼購買事業が供給高約2兆円の内、正組合員71%、准組合員14%、員外15%だった。
農水省では農協改革集中推進期間において「JAグループの自己改革は進展している」と評価する一方、課題として農業者の所得向上に向けた取組みの継続・強化、地域農業を支える農協経営の持続性の確保、をあげた上で、「農水省として引き続き、JAグループの自己改革の取組を促進する」としている。
農協改革の進捗状況について主な調査結果は以下の通り。
〈事業運営〉 『理事等の構成の変更』 ▼改正農協法により理事の過半は認定農業者、農産物販売や経営のプロとする措置について、19年度は611農協の99・3%となる607農協が措置済みで、今年度中に完了する予定、▼総合農協の理事等に占める女性の割合は19年度は9・4%(15年度8・5%)と年々増加、▼総合農協の理事等に占める青年(45歳以下)の割合は19年度1・7%(16年度1・6%)と横ばい。
『農協の事業別職員数』 ▼13年度と17年度を比較すると、職員総数は9289減。その内、信用事業は2580、共済事業は1970それぞれ減少している一方、販売事業の職員数は62増加。
〈会計監査人監査の導入〉 一昨年6月に全中の内部組織である全国監査機構を外出しして公認会計士法に基づき設立された「みのり監査法人」が今年度から監査業務を開始。今年9月以降の総会において会計監査人の選任手続きを行う4農協を除き、全ての農協で会計監査人を選任済。
〈株式会社等への組織変更〉 株式会社へ組織変更したのは15専門農協、1専門連、一般社団法人化は9専門農協、1専門連(信用・共済事業は農協法第73条の2に基づき組織変更の対象外)。
〈信用事業譲渡等の組織再編〉 「農林水産業・地域の活力創造プラン」改訂以降現在までの信用事業譲渡実績は3農協。農林中金によると、今後、信用事業譲渡を予定しているのが5農協(うち1農協は近隣農協への譲渡)、合併した上で総合事業を継続するのが73農協、当面、単独で総合事業を継続するが合併を検討中もしくは今後合併を検討していくのが140農協。
「正組合員と同時に准組合員も尊重を」と農相
𠮷川農相は同日の定例会見で農協改革の進捗状況について触れ、「この間、現場に赴くと、各地の農協や全農において、都道府県庁などとの連携による農産物の有利販売や生産資材価格の引下げなど、農業所得の向上に向けた動きが随所に出てきたと実感をしている。そのほか、農協中央会の組織変更、公認会計士監査の導入、役員構成の変更など、着実に実施されていることなどから、農水省としては、改革集中推進期間において農協改革は進展したと評価をしている」としながらも、「一方で、信用事業をはじめとして農協を取り巻く環境が厳しさを増す中で、地域農業を支える農協が、農業所得向上に向けた動きをさらに進めていく上で必要となる農協経営の持続性をいかに確保するかが今後の課題となる。JAグループも同じ認識の下、先般、持続可能な農協経営基盤の確立・強化に向けた基本的な対応方向を年度内に取りまとめることを表明されたと承知している。農水省としては、引き続き、JAグループとよく議論をしながら、自己改革の取組を促していきたい」と語った。
また、准組合員の事業利用について、「農協法において、正組合員の議決により定める定款で組合員資格を与えられた准組合員が事業利用をすることを認めており、准組合員向けの貸出しが多いことは、農協法に何も反していない。ただし、農協は正組合員である農業者のメリットを拡大することが最優先だと思うので、准組合員へのサービスに主眼を置いて正組合員へのサービスがおろそかになってはならない」と述べた上で、「貸出しの実態をよく見ると、貸出余力に懸念はないので、准組合員への貸出しは正組合員向け貸出しの支障となっていないと考えられる。准組合員向けの貸出しで得た利益は、正組合員向けの営農指導事業など営農面でのサービスの充実にも寄与してきた面もある。農水省としては、准組合員向け貸出しが、正組合員への貸出しなどのサービスの支障となっていないことについて引き続き、農協の監督行政庁である都道府県庁を通じて確認をしていきたい」などと話し准組合員のあり方について、「正組合員と同時に、准組合員という制度がある以上、やはり尊重もしていかなければならない」と述べた。
全農、農中、JA共済連の農協改革の進捗状況公表
また、JA全農、農林中金・信連、JA共済連の進捗状況について要旨以下のように紹介している。
〈JA全農〉 全農が農産物の有利販売等について自己改革を進めることを内容とする「農業競争力強化プログラム」を2016年に決定、17年3月に年次計画を公表し、今年3月に進捗状況を公表した。『生産資材事業』では、①肥料は、高度化成肥料等の銘柄を大幅に絞り込むとともに、予約数量を積み上げて競争入札を導入したことにより、おおむね1割から3割の価格引下げを実現(17年12月から販売開始)。②農業機械は、担い手農業者の意見を聴いた上で、大型トラクターの機能を絞り込むとともに、受注数量を積み上げて競争入札を導入したことにより、おおむね2割から3割の価格引下げを実現(昨年10月から販売開始)。『米穀・園芸の販売事業』では、①18年度の直接販売の計画・実績について、米穀は計画125万t、実績は129万t(15年度実績80万t)、園芸は計画3300億円、実績3497億円(同2960億円)、②18年度の買取販売の計画・実績は、米穀は計画50万t、実績は53万t(同15万t)、園芸は計画2410億円、実績は2301億円(同2210億円)となった。『輸出』では、JAグループ全体の18年度の輸出計画と実績は、青果物は計画82億円、実績72億円(同69億円)、牛肉は計画69億円、実績77億円(34億円)、米は計画32億円、実績10億円(同8億円)となった。
また、全農では今年3月に新3か年計画を策定。農水省は、これに基づき、農業競争力強化を進める観点から、生産資材・農産物販売のほか、物流問題への対応、新技術活用等など幅広いテーマについて全農との対話を実施中。
〈農林中金・信連〉 農林中金及び信連は、昨年3月末までに、信用事業を取り巻く厳しい状況、代理店方式の説明及び手数料水準の提示を全47都道府県域で実施。農林中金は、19年度から信連・農協に支払う奨励金水準を、3年かけて段階的に引下げ。今年5月までに、全農協で収支シミュレーションを行った上で、代理店化等の組織再編の要否を検討し、各農協の理事会等において組織決定を実施。「農林水産業・地域の活力創造プラン」改訂以降現在までの信用事業譲渡実績は3農協。農林中金によると、今後、5農協(うち1農協は近隣農協への譲渡)が信用事業譲渡を予定。また、農林中金によると、合併により総合事業を継続するのが73農協、当面単独で総合事業を継続するが合併協議中もしくは今後合併を検討していくのが140農協。さらに、将来を見据え、JAバンクの次期中期戦略(19~21年度)の中で、農協店舗数の縮減等の合理化に取り組む旨を明記している。このほか、▽農林中金・信連・農協は、中央会等と共同で全47都道府県域に「県域担い手サポートセンター」を設置(16年4月)。農業者に直接出向いてニーズを把握し、経営サポートを強化する取組を実施、▽農林中金は、「農業所得増大・地域活性化応援プログラム」(14年度から昨年度までの5年間。事業費1000億円)により、生産拡大・生産コスト削減に直接寄与する施策や地域活性化に資する施策を展開、▽農林中金・信連は、18年度中に、全47都道府県域において、融資を通じた農業・地域への貢献を目的とする「貸出強化プラン」を策定。さらに、農林中金は、現場力強化等のため、農協等に今後5年間で600人程度の人員を再配置する。
〈JA共済連〉 JA共済連は、事務・電算システムの見直し等による農協の事務負担軽減策を公表(14年7月)し、実施中であり、業務時間は14年度比で16年度▲14%、17年度▲28%、18年度▲31%となっている。また、JA共済連は、15年度末に、地域活性化・農業経営に貢献する取組の強化を図るため「地域・農業活性化積立金」を創設(積立額789億円)している。