JA全農 令和3年度事業のポイント
JA全農
代表理事専務
野口 栄 氏
3か年計画総仕上げへ加速化
5つの最重点施策さらに深掘り
JA全農は、3月30日の臨時総代会で令和3年度事業計画を決定した。令和元年度からの3か年計画の最終年度として3年度事業の取組みのポイントと、次年度からの中長期計画に向けた考え方等を、野口栄専務に聞いた。
消費者ニーズ踏まえた生産対策へ他企業とのパイプ太く
■令和3年度事業の位置づけは?
「全力結集で挑戦し、未来を創る」をキャッチフレーズとした令和元年度からの今次3か年計画の最終年度として計画の総仕上げの年であるとともに、新しい中長期計画の出発点となる大事な年だと認識しています。
3か年計画で掲げた5つの最重点事業施策への取り組みは着実に進展していることから、これをさらに深掘りし計画完遂を目指していきます。組合員農家の手取りが向上し日本の農畜産物の生産が拡大していく。その足掛かりを今次3か年計画で構築したいと思います。
この間、コロナ禍における生産・消費の変化、多発する自然災害や重要家畜疾病、新たな「食料・農業・農村基本計画」策定、一段と激化する事業競争、SDGsへの取組みなど、事業を巡る情勢は大きく変化しています。
こうした情勢を踏まえ、的確に対応していくためにも、「生産基盤の確立」「食のトップブランドとしての地位の確立」「元気な地域社会づくりへの支援」「海外戦略の構築」「JAの支援強化」の各重点施策を基本とした各種取組みを加速化していきます。
なかでも、消費者や実需者の“出口”のニーズを生産につないでいくことは、ますます重要になっています。外食産業やコンビニ、食品加工業者等々との連携を一層強化することで、消費者ニーズをふまえた生産対策の支援に力を入れていきます。その間をつなぐ広域物流施設や大規模な加工施設などの整備にも投資を拡充していきます。こうした取組みは全農グループだけでできるものではなく、これまでの連携企業はもとより新たな企業とも積極的に提携し、そのパイプを太くしていくことが必要です。
各部門で様々な提携先とアライアンスを強化していますが、その基本となるのは、組合員生産者にどれだけのメリット還元が出来るかです。その提携が国内農畜産物生産の維持・拡大につながり、それにより生産者の所得が安定的に向上していくことが見通すことができるならば、いろいろな分野で進めていきたいと思います。
新技術・ノウハウ導入と労働力支援組合せて
■各施策の今年度の取組みのポイントを。まず、「生産基盤の確立」では?
生産対策では、労働力支援と担い手育成が大きな課題です。農作業受委託や農福連携などによる労働力支援やブロック別協議会での広域連携などをさらに進めていきます。新規就農者研修事業の実施や実践型研修農場の運営を通じた新規就農者の育成に取組みます。
さらに農業現場に対して、地図情報にもとづく営農管理システム「Z―GIS」や栽培管理支援システム「ザルビオフィールドマネージャー」など、スマート農業技術の普及による労働力支援、生産性向上に取り組みます。また「ゆめファーム全農」において実証している大規模施設園芸の栽培技術、設備管理、運営などをパッケージ化して普及に取組みます。
こうした新しい技術やノウハウを取り入れたビジネスモデルを構築し、労働力支援と組み合わせて生産基盤を支えていきたいと考えています。
コロナ禍での消費者ニーズ踏まえた対応も
■食のトップブランドとしての地位確立での取組みは?
グループ販売会社やファミリーマート様など資本・業務提携先と連携を強化し、「全農MD部会」による商品開発力やブランド力を強化します。
コロナ禍の消費者ニーズ等を踏まえた対応では、JAタウンの取扱拡大、冷凍青果物の製造や実需者への共同配送等の機能を有する大消費地販売に向けた事業拠点の整備、地域における直販施設の整備・拡充などに取組みます。
コロナ禍でネットショッピングが見直されるなか、「JAタウン」も、これまでの贈答用中心から普段使いの食材購入のニーズが増え、取扱量が3倍に伸長しています。今後はJA直売所等からもどんどん出展してもらい品揃えを拡充していきたいと考えています。
実需者ニーズにもとづく生産提案と契約栽培の拡大では、多収米や加工業務用青果物の契約栽培拡大に力を入れるとともに、日清製粉グループとの提携により国産小麦の安定的な需要確保と転作を含めた生産拡大に取り組みます。実需者ニーズをふまえた、汎用性がより高い品種の開発や安定した品質への生産技術を提案していきたいと思います。
今年度の最大の課題の一つとして米の需給対策があります。コロナ禍で業務用需要が落ち込むなか、消費拡大への取組みを強化していかなければなりません。個食が進み家庭の炊飯の機会はますます少なくなっています。そこで子会社で、今日の食のスタイルに対応した「パックごはん」の製造・販売も開始することにしました。
コンビニのおにぎりや外食向けなどの実需者のニーズに応じた提案をしてまいります。
買物インフラ維持支援、再生可能エネルギーの普及も
■元気な地域社会づくりへの支援では?
ファーマーズ型Aコープ店舗の拡大や買物インフラの維持・支援拡大、農泊のモデル展開などライフライン事業の取組みを強化し、地域のくらしを支援します。移動購買車もAコープ会社を中心に徐々にビジネスモデルとして成り立ってきており、予約注文の受付などでさらに効率化が進めば今後地域に根付いていくと思われます。
食材宅配なども旧来と違った形の事業が展開できるのではないかと思います。Aコープに併設する直売所の野菜や総菜を当日中に配達するようなネットシステムも検討していきたいと思います。
農泊事業は、ビジネスモデルシステムをつくり宮城で開始しましたが、残念なことにコロナの影響を大きく受けています。コロナの収束を待つしかありませんが、こうした取組みにより田舎のよさ、食材のおいしさ、自然のありがたさ、農業の大切さを体験してもらい、いわゆる“関係人口”をどんどん増やしていきたいと思います。
燃料供給体制の維持・強化とホームエネルギー事業の取組みも強化します。セルフSSの設置やガスキャッチの普及拡大、組合員家庭向け電力供給や再生可能エネルギーの普及拡大を図ります。
カーボンニュートラルの実現に向けて石炭やLNGによる発電ではなく、再生可能エネルギーにどれだけ取り組めるかが課題になります。本会では太陽光発電をメインに取組んでいますが、電力供給の安定性確保が課題となっています。
この3月末、Aコープ東日本のファーマーズ型Aコープ店舗の屋根に太陽光パネルと蓄電池、非常時は蓄電池替わりにもなる電気自動車のV2Hのシステムを設置しました。通常は冷凍・冷蔵庫、照明などの自家消費に使用し、非常時にも営業を続けられるようにしています(PPAモデル:自家消費型太陽光発電設備)。新しいビジネスモデルとして大いに取組んでいきたいと思います。
マーケットイン型輸出をオールジャパンで
■海外戦略の構築では?
輸出事業の拡大とオールジャパンでの輸出体制の構築に取組みます。ドン・キホーテを運営するPPIH(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)様など海外展開を積極的にすすめる他企業との連携強化によるマーケットイン型の輸出事業の確立を目指します。海外で消費者や売場を確保している企業と連携し、そのニーズを産地側にきちんと伝え、物流体制も構築して取組んでいきたいと思います。
そのためにはオールジャパンで提携先を広げ加工食品も含めて様々な品目に取組んでいきます。また、寿司に向いたブレンド米などの提案や精米のみならずその炊き方も含めて提案していくなど、輸出国のニーズや物流事情を捉えながら対応していきたいと思います。
一方で今、原料価格、資源価格が高騰しており、この傾向はしばらく続くものと思われ、資材・原料の安定確保は大命題となっています。原料産地の多元化による肥料原料の安定確保や、アメリカ・ブラジル・カナダの関連会社を通じた現地での穀物集荷・調達の拡大に、さらに力を入れていきます。
経営改善等に各種メニューを提案・実践
■JAへの支援強化の取組みでは?
JAの経済事業について、部門・場所別の収支分析を踏まえた「経済事業強化メニュー」や、55モデルJAでの「農家手取り最大化実践メニュー」などで“芽だし”が出来ました。そのメニューを一つひとつ提案して実践に結び付けていきます。
単協域や県域を越える課題が増えてきている昨今、農林中金はじめ他連合会等と連携した「見える化プログラム」の導入による大規模JAの経営分析と改善提案を行ない、施設整備や新しい生産提案を本会事業部門と一緒に実践し、水平展開を図ります。
2年度実績を反転、事業利益収支均衡へ
■以上5つの最重点施策に基づいた令和3年度の経営計画は?
今次3か年計画において、これらの施策は一つひとつ着実に進んでいます。しかし、コロナの影響もあり2年度は当初目標の事業分量に届かなかったことも事実です。2年度末では4兆3300億円強の取扱高を見通していますが、3年度は元年度実績の4兆4700億円余を上回る4兆5000億円を計画し反転を期しています。
令和3年度では事業利益プラスには若干届きませんが、これまで取組んできた事業施策や自己改革施策を着実に前進させ、翌年度以降の事業利益の収支均衡を図っていきたいと思います。
“グリーン化”で食料生産+αの価値を
■次期中長期計画の考え方のポイントは?
消費のニーズや形態が大きく変化する中で、それを見誤らないようにし的確に捉えた生産提案がさらに必要になってきます。
コロナを機に国産農畜産物の価値が流通ルートを含めて見直されつつあります。これをチャンスと捉えて国産農畜産物の生産を何としても拡大していかなければなりません。
また、今後は食と農の世界でも、SDGsや脱炭素社会の実現の方向に向かっていくでしょう。フードロス等も含めたより大きなグリーン化戦略の中で、エネルギー部門のみならず、本会の各部門での事業が的確に対応していかなければなりません。
森林や水、農地等の地域資源が見直される時期になりつつあります。その地域にはその素材がたくさんあります。
その地域資源を活用することで新しい価値を見出し、トータルで所得向上につなげていくことを期待しています。そのことにより人の流れが生まれ、地域も活性化する。そうした視点からも各事業施策を考えていきたいと考えています。
食のバリューチェーンの鎖を各品目で太く
■今年度事業展開にあたっての決意を
今後とも、農家組合員の生産基盤の維持拡大は最大の使命です。そのためにも消費拡大対策の充実は欠かせません。消費者・実需者ニーズを踏まえた農畜産物を安定的な流通ルートで供給する、“食のバリューチェーン”をしっかりと構築し、それをさらに太くしていく。これまで各所で切れていた鎖が一本につながり始めた。それを各品目で太くしていくことが求められています。
これが食料の安定供給、自給率向上に貢献できるポイントであり、コロナ禍での国産農畜産物の再評価に繋がっていく。今はその途次にあると思っています。
〈本号の主な内容〉
■このひと JA全農 令和3年度事業のポイント
JA全農
代表理事専務 野口 栄 氏
■農水省・JA全中・日本農福連携協会が「農福連携」協定を締結
■組合員サービス向上、農家手取りの最終目的を再確認
JA支援の取組み報告と方針説明で全国会議=JA全農
■令和3年度事業計画を決定=JA全農
3か年最終年度として最重点事業施策実践を加速化
■JA全農=都道府県本部による地域生産振興・販売力強化に向けた取り組み
■農業倉庫基金・JAグルー・JA全農
令和3年度農業倉庫保管管理強化月間
■北陸電力、大気社、農林中金が植物工場事業の新会社設立
今冬に業務用レタスをコンビニ・飲食店へ出荷、JA通じ提供も