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日本農民新聞 2020年4月5日号

2020年4月5日

JAアクセラレーターの成果と今後|アグベンチャーラボ代表理事,農林中央金庫執行役員デジタルイノベーション推進部長荻野浩輝氏このひと

JAアクセラレーターの成果と今後

アグベンチャーラボ
代表理事
農林中央金庫 執行役員
デジタルイノベーション推進部長

荻野浩輝 氏

 JA全中JA全農農林中金などJAグループの全国機関8団体が、外部の技術やアイデアをもつ組織と連携して新たな事業を創造するオープンイノベーションを実現する拠点として、昨年5月末に「アグベンチャーラボ」が開設されてから約1年。この間のJAアクセラレータープログラムの成果とこれからの取組み方向を、代表を務める荻野浩輝氏に聞いた。


スタートアップ企業とJAグループがコワーク

JAアクセラレーター第1期の成果は?

 アグベンチャーラボは、農業や食、金融、暮らしの領域にイノベーションを生み出すことを目的としたオープンイノベーションを実現するため、スタートアップ企業等に向けたコワーキングスペースを用意。スタートアップ企業等からビジネスプランを募り、JAグループの強みを活かした新たなビジネスモデルの創造をめざす「JAアクセラレータープログラム(以下、プログラム)」を展開している。
 プログラムの第1期は、2018年12月からアイデア募集を開始。192件と多くの応募があった。裏を返せば農業や食に関するスタートアップ企業がこれまであまりなかったからとも言える。昨年5月29日には最終審査のビジネスコンテストを開催し16社が最終プレゼンテーションを行い、審査の結果、7社が優秀賞を受賞しプログラムへの参加が決定した。スタートアップ企業とJAグループがコワークし新たなビジネスを育てていく手伝いをするのが、この取り組みだ。
 具体的なプログラムの取組みを支援していく中で、実証試験や農業現場、JAに行き、ヒアリングやディスカッションを行った。昨年10月には成果発表会を行ったが、見込んでいた以上の成果が上がっていると実感した。
 また、農林中金を中心にJAグループ全国連の職員の中からプログラムの伴走者を公募した。現業の仕事を持ちながら、一部の時間をスタートアップ企業との協業に充てる制度をつくり公募したもので、若い人たちがスタートアップ企業の文化も取り入れながら組織全体を変えていく、よい機会になったのではないか。よりイノベーティブなマインドを持ってもらう体験という意味で職員の育成にも役立っていると思う。

将来の起業家を増やすための〝刺激〟も

第1期を通して見えてきた課題は?

 一つは、農業者の困りごとや欲しているものを起業家や潜在的起業家に情報発信することの大切さだ。プログラムでも、スタートアップ企業と農業の現場をつなげられたら、と思う場面がたくさんあった。起業家や潜在的起業家と農業者が出会う場所になる必要がある。
 二つ目は、食や農、地域の暮らし、その周辺にある社会的課題に立ち向かっていこうとする起業家がまだまだ少なく、増やしていかなければならないこと。例えば、より広く大学との連携を求め、農学部や工学部等の学生達に将来起業してもらうための“刺激”を与えていきたい。

レベル向上しバラエティ豊かな応募内容

第2期の応募状況と今後のスケジュールは?

 第2期については、この2月までにスタートアップ企業からのアイデア募集を締め切ったが、2回目にも関わらず161件の応募があった。
 書類と面談選考を経て、4月後半にはビジネスコンテストを行い、選抜スタートアップ企業を決める予定だ。
 応募数が大きく減らなかったし、内容もバラエティ豊かでレベルも上がってきたように思われる。それだけ、このラボを知っていただく活動が浸透してきた感がある。
 第2期では、次の領域のサービスやビジネスアイデアに注目していく。農や食の高度化・効率化と現場労働力不足解消につながるもの、金融分野における先端技術を用いたもの、日々の暮らしの利便性や豊かさにつながるもの、地域の活性化につながるもの、JAグループの各種アセットを活用し前段の領域に跨る革新的なもの、をイメージしている。

大切なのはスピードとチャレンジ

最近の技術革新に対しては?

 デジタル化が進み、様々な新しい技術が出て世の中は変わった。技術革新やビジネス変革のスピードが格段に早くなった。これに対応できない組織は生き残っていけないだろう。スピードはもとよりチャレンジが大事だ。変化を嫌うのではなく変化を肯定する組織になる必要がある。スタートアップ企業のチャレンジとスピード感を、我々JAグループの組織に取り入れていきたい。
 一方で、わが国の食料自給率の低下や農業者の減少は深刻な問題だ。この課題解決のためには農業をもっと儲かる職業にしなければならない。スマート農業など、スタートアップ企業のアイデアや技術で農業を魅力的にしていけば、自給率も上がり、より幸せな社会つくることに貢献できるのではないか。

より農業に近い現場での協業を

今後の取り組みは?

 ラボには現在、農林中金や全農、全中から20名程度のスタッフが常駐しているが、もっと多くの全国連やJAグループから参加して欲しい。
 昨年後半からは農水省等中央官庁や地方公共団体との連携も進めている。
 ラボには多くのJAのトップ層や職員の方々が足を運び、活動内容に非常に興味を持っていただいている。JAの青年部や農業法人協会の会員など農業者の方々も頻繁に訪れる。人的面での交流をもっと広げていきたい。
 また、全国から集まりやすいように拠点を東京・大手町に置いているが、農業の現場に近い地方にもサテライトラボを設置したい。今すぐにはできないので、同じような志をもって農業や食に取り組んでいる地方の拠点と連携を深め、お互いにスタートアップ企業を紹介し合うような連携の契約をいくつか結びつつある。
 スタートアップ企業もより農業に近い現場で、農業者と協業できる機会を増やしていければと思う。

コストセーブとサービス向上両面で

農林中金のデジタルイノベーション推進部長としては?

 デジタル化により業務を効率化し運用コストを下げること、一方で、JAバンクアプリケーションの構築などにより、お客様へよりよいサービスを提供すること、このコストセーブとサービス向上の両面にデジタルを駆使していくことを推進している。


〈本号の主な内容〉

■このひと
 JAアクセラレーターの成果と今後
 アグベンチャーラボ 代表理事
 荻野浩輝 氏

■JA全厚連 令和2年度事業のポイント
 JA全厚連 代表理事理事長
 中村純誠 氏

■トップインタビュー わが社のアグリビジネス戦略
 全国農協食品(株) 代表取締役社長
 百瀬洋一 氏

蔦谷栄一の異見私見「新型コロナが垣間見せる新しい風景」

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