日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2025年11月20日号

2025年11月20日

JA全農「TAC・出向く活動パワーアップ大会2025」記念号

【JA全農 担い手営農サポートシステム(NEサポシステム)】
■TACの活動に導入したJA南彩(埼玉県)の取組みと活用

【JAバンクの担い手コンサルティングの取組み】
■アングル
 農業担い手の所得向上へ~担い手コンサルの現状と今後~
 農林中央金庫 理事専務執行役員 食農法人営業本部統括役員
 尾崎太郎 氏
■㈱OCファーム 暖々の里(愛媛県)代表取締役
 長野 隆介さんに聞く

■JA全農の資材・技術提案
 〈園芸資材〉系統農POフィルム クリンテート、生分解性マルチ(きえ太郎Z)、こめパワーマット、本州太陽シート、Aquaport(アクアポート)
〈包装資材〉らく陳ダンボール、隔壁フレキシブルコンテナ、おいらは防曇袋五郎

■野菜栽培における土壌伝染性病害の防除対策
 農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域 博士(農学)
 越智直 氏

■大規模生産者向け 農薬の担い手直送規格

■生分解性マルチ専門サイト
 A.B.A.農業用生分解性資材普及会が開設

■JA向けサービス「あい作」で営農指導業務のDX化を推進
 JA山口県×NTTデータ

行友弥の食農再論「需要に応じない生産?」


 

アングル

農業担い手の所得向上へ
~担い手コンサルの現状と今後~

 

農林中央金庫 理事専務執行役員
食農法人営業本部統括役員

尾崎太郎 氏

 

 JA・JA信農連・農林中金が行っている「担い手コンサルティング」の取組みの現状と今後について、農林中金で食農法人営業本部統括役員として担当する尾崎太郎理事専務執行役員に聞いた。


 

コンサル通じ担い手との接点強化

担い手コンサルの取組みの背景と目指すところは。

 担い手の高齢化や人口減少が進む中、地域の農業基盤を維持するためにも、大規模農業法人を受け皿とした農地集約が進んでいます。産業構造が大きく変化する中、農林水産業の発展に向けては、このような大規模化した担い手の多様な経営ニーズを適切に汲み取り、その成長に向けてサポートすることが大きな命題の一つです。

 JAバンクが取組む担い手コンサルでは、担い手が抱える様々な経営課題に対し、中長期の視点で方向性の明確化まで支援し、担い手の経営安定・成長に継続的に貢献します。

 金融機関の目線で事業を分析することで、これまで経営者の感覚に頼ってきたものを〝見える化〟し、抽出された課題に対して、JAグループの総合力をもって解決策を提案する。金融に留まらない貢献の仕方で、担い手の所得を向上する、JAバンクにはそうした役割発揮の仕方があると思っています。

 特にJAの営農指導や経済事業においては多くのソリューションを有しており、また全農や農林中金をはじめとする全国段階組織が持っているソリューションもたくさんあります。

 コンサルを通じてこれまで以上に担い手との多面的な接点を結ぶことは、担い手の所得向上とともに、JAの信用・営農経済事業の取引拡大にも繋がっていきます。そうした担い手の成長(所得向上)とJA総合事業の成長の両立こそが、本取組みの目指すところです。

 

信用、営農経済事業が連携し提案

取組みのスキームや概要は。

 まずはJAの信用事業部門や信連、金庫が主体となって、担い手の財務分析やヒヤリングを実施します。定量・定性の両面から事業性評価を行い、そこで明らかになった各種経営課題に対しソリューションを提案します。

 このソリューションは、信用事業のみならずJAの営農経済事業部門や経済連も含め全農系統などとも連携した提案を行っており、JAグループのもつ総合力を発揮して金融に留まらない幅広い提案を行うことが特徴です。

 また、コンサルを実施したら終わりではなく、提案後も解決に向けた取組進捗のフォローアップなど、継続的なサポートに取組んでいます。

 金庫本店には9名ほどの専任部隊がおり、初めてコンサルを導入する県域の支援や取組みの自走化支援を行っています。

 

3000件のコンサルを目標に

目標とこれまでの実績は。

 2030年度までに累計3000件のコンサル実施をめざしています。2021年度から始まったこの取組みは昨年度までで1142件。今後も年間300件程度の実施を計画しております。

 これまでのコンサル実績を少しご説明させて頂くと、業種別では、野菜と稲作がそれぞれ約3割と最も多く、果樹は約1割。またソリューション別では、売上の向上に資するご提案が最も多く、生産技術の向上、規模拡大、人材確保と続きます。事業承継の課題も多くあります。

 また担い手の皆さんの中には、どうしても日々の業務に追われ、数値に基づく経営分析まで手が回り切らないといったケースも多くあると考えます。金融機関ならではの切り口から改めてじっくりと事業を分析すること自体にも、担い手の皆さまからは大いにご好評いただいています。

 またコンサル実施主体であるJAバンク自身の変化を振り返りますと、当初は我々と信連が主導しながら、県域の担い手コンサルの導入を進めるケースが多かったものの、現在はJAが主体となって取組む案件も増えています。

 例えば、長野県のあるリンゴ生産者に対するコンサルティングでは、栽培される品種ごとの収益性や労務比率の違いを分析から、品種構成の見直しや新品種導入を提案に至るまでの一連のコンサル活動をJAさんが主体となって取組まれました。このように、地域や市場の環境を踏まえて、各地域で特徴的な担い手に対する支援を実施する事例も目立ってきています。

 今後とも、全農含む系統組織との連携を強化しつつ、地域特有のニーズに応じたコンサルを展開しながら、担い手の所得向上とJAの収益向上を両立した事例を積み上げ、JAが総合事業体として活躍し、担い手とJAがともに成長する姿を描いていきたいと思います。

 

DXツールの導入・活用で支援

今後の課題と取組みの方向は。

 コンサルの完遂には、どうしても担い手・我々双方に一定の負荷がかかります。今後のコンサル活動をより効率的かつ効果的なものにするためにも、会計・生産管理・労務管理等に関するデータを、一層可視化していくことが課題です。

 そのため金庫では、外部企業とのアライアンスも活用しながら、会計管理・生産管理の領域を軸に、担い手の経営力強化に資するDXツールの導入・活用を支援する施策を検討しています。

 ここで得られたデータを活用し、経営課題を正確に把握して、より適切な解決策を提示できるように、取組みをブラッシュアップしていきます。

 また地域の担い手として規模を拡大したいニーズも多く聞きます。事業規模が大きくなると、定期的な経営状況の振返りや外部目線からの現状評価の重要性は一層増していきます。大規模化していく担い手にとって、農林中央金庫やJAグループが引続き良きパートナーとして支持されるよう、全国各地でのソリューション事例やノウハウを本店の企画部門に蓄積し、現場でのコンサルティング内容に還元できるようなサポート機能の充実化にも取組んでいきます。

 更に担い手コンサルティングの取組みとは別ですが、農林水産業の持続的な発展に向けては、農業の生産現場の共同利用施設などのインフラの更新に、どのように資金を提供していくかも大きな課題です。事業計画を適切に評価しながら、長期的な視点から農業生産を取り巻くインフラを充実、強化していかなければなりません。

 加えて、俯瞰的な目線から広く食農バリューチェーンの全体像を見渡すことも重要です。

 この点で、当金庫は、川上から川下まで広く取引をもっているとのユニークな強みを有しております。事業法人と生産現場との懸け橋となって、いかに新たな価値を生み出していくか、これも我々に求められている重要な業務と捉えています。

 

JAの中核人材育成にも

担い手コンサルの人材育成は。

 担い手コンサルの取組みは、経営を多面的な視点で分析し、担い手の潜在的な課題を発見し、そのソリューションまで考案するとの高度な取組みです。その過程では、多岐に渡るコンサルティングのスキルが鍛えられるため、実施主体であるJAバンクにとって人材育成の副次的効果もあると考えます。本取組みを通じて、JAバンクの中核的人材の育成にも繋げられればと考えています。

 

食農バリューチェーン全体を見渡して

ご担当の食農ビジネスの領域と役割発揮は。

 食農ビジネスは、JA、JF、JForestグループの事業基盤と当金庫の法人営業基盤を軸に、農林中金が有する金融・非金融機能をフル活用して、農林水産業者の所得向上、持続可能な農林水産業、国内生産基盤の強化、の3点を目指すビジネス領域です。

 これらを実現するためには、食農バリューチェーン全体を見渡して取組むことが必要だと考えています。担い手コンサルティングは生産者向け投融資とともに生産サイドに向けた重要な取組みです。当金庫は、川上から川下まで広くお取引先を有しており、ユニークな強みを有していると考えています

 この強みを発揮しながら、全国の農林水産業者とJA・JF・JForestグループはじめ、1700社にのぼる顧客企業の架け橋となってその役割を発揮していく考えです。

keyboard_arrow_left トップへ戻る