〈本号の主な内容〉
■特集 改正「食料・農業・農村基本法」への評価と今後
●改正のポイント
【改正基本法を受けて】
●今後の日本農政の課題と欧米の農業政策の動向
・農林中金総合研究所 理事研究員 平澤明彦 氏
●地域農業の課題と農政への期待
・JA群馬中央会 副会長理事
JA太田市 代表理事組合長
(元JA全青協会長) 天笠淳家 氏
・埼玉県川越市 農家
(元JA全青協会長) 飯野芳彦 氏
●今後の日本農政の課題と農業法人協会の役割と取組み
・日本農業法人協会 会長 齋藤一志 氏
●今後の日本農政の課題と食品産業界の取組み
・食品産業センター 理事長 荒川隆 氏
●今後の農政への期待と課題、生活クラブの取組み
・生活クラブ事業連合生活協同組合連合会 会長 村上彰一 氏
●蔦谷栄一の異見私見 拡大版
「付帯決議を楯に 将来展望を探れ」
■JA旅行事業 令和5年度優績JA 最優秀賞を受賞して
旅行事業がJA・地域・組合員に果たす役割
北海道 JA上川生産連 代表理事会長 熊谷留夫 氏
■令和6年度 JA観光推進協議会全国会議
㈱農協観光が開催
■かお 農林中央金庫 常務執行役員に就任した3氏
・土田智子 氏
・山田幸弘 氏
・滝井一貴 氏
JA旅行事業 令和5年度優績JA 最優秀賞を受賞して
旅行事業がJA・地域・組合員に果たす役割
北海道
JA上川生産連
代表理事会長
熊谷留夫 氏
㈱農協観光は5月21日に開いたJA観光推進協議会全国会議の席上で、令和5年度に「取扱高実績」などの評価ポイントの合計点で上位のJA・組合員組織を「優績JA」として表彰した。今回、その最優秀賞を受賞した北海道・JA上川生産農業協同組合連合会(以下、生産連)の熊谷留夫会長(JAびえい組合長)にコロナ禍からの旅行事業の取組みを聞いた。
コロナ5類にあわせ役職員一丸で
■受賞の感想は?
上川生産連は、道内の上川地域の13JAが会員になっている地区連で、JA事業の農産分野と畜産分野の補完、支援を行っている。
コロナ禍では全国の皆さんと同じように不要不急な外出がどんどん制約されてしまい、農協や生産者もしくは組合員の旅行、研修等もほとんど全て止まってしまった。
昨年の5月に新型コロナが5類感染症に移行するにあわせて、役職員研修や青年部、女性部などの活動をコロナ前と同じように戻したいと考え、率先して提案を行った。
生産連の会員JAの各組合長にお願いしながら、役職員一丸となって働きかけた結果、今回、最優秀賞という思いもよらない賞をいただき、大変うれしく感じている。
コロナ禍に旅行部門を新設
■生産連の旅行事業の経過は?
新型コロナが蔓延する中で農協観光の旭川支店が閉じられるという話を聞いた。私たちJAは農協観光が旭川からなくなり、窓口が札幌になってしまうと大変な痛手になる。それまで組合員の旅行をはじめ部会、青年部、女性部、友の会組織の活動、役員や職員の研修など、いろいろな場面で農協観光に大変お世話になってきたので、とてもやりづらくなる。
そこで生産連会員の13JAに提案して生産連内に旅行事業を取入れてはどうかと協議させてもらった。
生産連の事業は、米にはじまり小麦・馬鈴薯・豆類等の種子生産を中心に、畜産酪農の経営や生産指導を行っている。これから先を考えた時に旅行事業を生産連の領域にしたほうが絶対プラスになるだろうと考えた。
この提案を会員の皆さんに賛同いただいたので、令和3年度に生産連が旅行事業を引き継ぐ形で旅行事業課を立ち上げ、「上川ビル旅行センター(あぐりん)」を開設した。
現在は農協観光からの出向者2名を含めて6名の職員が管内の会員JAを中心に訪問して推進活動を行っている。
接点を維持し、トップから研修旅行再開
■新部署の立ち上げ後の活動は?
事業開始の令和3年度、翌4年度は旅行企画ができる状況ではなかったので収支が伴わないことを見越していたが、その間も接点を途切れさせないような活動を行い、組合員からの相談を受けられる窓口をなくさない態勢を維持してきた。
旅行に出掛けられない状況でも13JAの組合長会は開いていたので、コロナの5類移行に向けた準備を働きかけつづけ、昨年5月に自粛が解かれてからは、組合長会に始まり、各役員会で道外や海外の研修を再開し、研修対象を段々に広げていった。
組合長会の研修は労働力確保を考えるため、インドネシアの実習生送り出し組織を視察した。
現場を見る研修は事業にプラス効果
■コロナ禍が明けてからの取組みは?
コロナで活動ができなかった間に積み立てた各組織のお金が貯まっていたので、昨年度は上川地区の農協がこぞって研修旅行を再開した。
私の地元の美瑛町農協では夏前から準備をして、新しい役員たちが11月にドイツで4年振りに開催された世界最大の農業機械展「アグリテクニカ」をはじめヨーロッパ農業の視察研修を実施した。ほかの農協もアメリカの農業視察研修など海外視察に一気に出掛けた。
研修は、百聞は一見にしかずという言葉があるように、自分の目で現場を見ることと見ないことでは考えることが大きく違ってくる。皆さんに新たな知見を広げてもらうことによって農協事業へのプラス効果が間違いなく働いてくると思う。
上川地域は南北に長く、南側は畑作、北側は稲作が中心で作物が大きく異なる。地域の組合員が満足する内容を提案するために、旅行事業課の職員はきめ細かく話を聞くため日々現場回りをしている。
安心して相談できる地元の旅行センターに
■地域に向けて行っていることは?
旅行事業課の設置当初は会員13JAのある上川地域が活動の中心だったが、最近は留萌や宗谷を含めた道北全体から空知の岩見沢周辺まで範囲が拡大している。
道内も少子高齢化で人口が少ない地域は旅行会社が営業に行かない所があり、JAを通じて組合員の子どもたちが通う小中学校の修学旅行の相談を受けることが多くなった。地域へのお役立ち、将来の担い手になる子どもたちへの活動として対応している。地元に安心して相談できる所があることが大切だと思っている。
JA以外の農業関連の組織についても、地域の会議で一緒になる時には研修の話をしている。最近は、これまで他の旅行会社を利用していた組織が生産連の旅行センターに依頼してもらえるようになった。
観光客に地域の農畜産物の魅力を発信
■旅行、観光の本格的な回復に向けては?
昨年のコロナ明けでは、地域の皆さんがすぐ研修に動き出していただいた。ただし年配の方は旅行に慎重なところがあった。
今はそれほど気にせず出掛けられるようになったので、地域の交流の機会になるような旅行企画を提案していきたい。
観光地としての上川地域は北海道の中でも非常に多くの方が訪れる。農協観光の今年のキャンペーンの1つに北海道を取上げてもらった。生産連は上川地域の農畜産物の魅力を発信する事業を行っているので、この機会を生かしてうまく結びつけられるようにしたい。
私個人の農業経営は、畑作120haのうち15haを「四季彩の丘」という観光農園にしている。コロナ禍でも苗を植えて花を咲かせてきた。コロナが終わればお客さんが来てくれるという思いを込めた。昨年のお客さんはコロナ前よりも多く、今年の予約もそれ以上に多い。
しかし、まだまだ活動が復活していない地域や組織があるので、これからも生産連の先頭に立って、いろいろな機会や場面を通じて旅行や研修、上川地域の食と農のPR活動を働きかけていく。