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スマート農業実証プロジェクト5営農類型の実証成果公表=農水省

2021年3月31日

 農水省はスマート農業実証プロジェクトの実証成果として、5つの営農類型について中間報告を公表した。同プロジェクトは、ロボット、AI、IoTなど先端技術を生産現場に導入・実証し、経営効果を明らかにすることで、スマート農業の社会実装を加速化することを目的とした事業。令和元年度から2年度までの間に、全国148地区で展開されている(実証期間は2年間)。今回公表されたのは、令和元年度実施地区(69地区)のうち、畑作(小麦、大麦)、露地野菜(キャベツ、ほうれんそう、さといも、すいか)、施設園芸(ピーマン)、果樹(温州みかん)、地域作物(茶)の5つの営農類型についての1年間の実証成果(水田作は2年10月に中間報告を公表)。実証成果の概要は以下の通り。

▼スマート農業技術の導入により、ほぼ全ての地区で、労働時間の削減効果がみられた。労働集約的な品目では、水田作以上の労働時間の削減効果がみられ、特に、一部の地域では、大きな労働時間の削減効果があった(露地野菜〔すいか〕で4割)。
▼個別技術でも、営農プロセスが多岐にわたる中で、(果樹〔温州みかん〕の選果プロセスで)労働時間を9割以上削減する効果がみられるなど、大きな効果があるものがあった。
▼単純な労働時間の削減効果以外にも、以下のような取組により、非熟練者にも熟練者と同様の作業を可能とすることで、就農者の幅を広げる効果があった。「携帯電話の使用できない中山間地域でも、簡易な通信設備を新たに導入する取組」「若い農業者が中心となって、データ利活用のための専門組織(ICT改革チーム)を組織し、過去の作業データを基に、適期に作業ができるような人材配置を行う取組」。
▼労働時間の削減効果を活かし、経営全体の改善に向けて、生産者が営業活動を自ら行い、販売価格の4割上昇につなげる(露地野菜〔キャベツ〕)取組など、商流全体を視野に入れた付加価値向上の取組や、収益性の低い品目については、より高収益な品目(玉ねぎやキャベツ)の生産拡大につなげる効果もみられた。
▼経営面の効果として、最も労働集約的な営農類型である施設園芸(ピーマン)では、温度や湿度などを先端技術で調整する統合環境制御技術等を活用することで、生産管理を高度化しつつ、2割以上の増産に結び付け、機械費用の増加を上回る収支改善効果を生み出す地区もみられた。
▼経営改善効果のほかにも、一部の地区で、平均収量を維持しつつ肥料費を削減(畑作〔小麦〕で6割削減)するなど、より持続可能な農業生産に貢献する効果もみられた。

施設園芸(ピーマン)の事例

施設園芸(ピーマン)の事例|スマート農業実証プロジェクト実証成果(表はクリックで拡大)
 実証地九州。家族2名(個人経営)、常時雇用2名、臨時雇用40人・日。実証面積21a(経営面積加温温室36a)。ハウス内の気温、日射量、湿度、飽差データ、ハウス外の環境データを基に統合環境制御機器により、ハウス内を植物体が光合成能力を最大に発揮できる環境に維持し、単収・品質の向上、灌水等の自動化による労働時間の削減、などを目標に設定。

 その結果、慣行との比較では、増収に伴う収穫時間の増加により全体の労働時間は10a当たり7%増加したものの、収量当たりの労働時間で見ると、慣行が66時間/t、実証が58時間/tであり、実証の方が労働時間は12%減少。また、日射比例かん水装置や中二重ビニールの開閉等を統合環境制御機器で操作することによりかん水や換気に要する労働時間が15%短縮した。

 収支面では、慣行区と比較して、実証区は統合環境制御装置や極細霧発生装置等の導入により、高温期の飽差管理(光合成を促進するための温度・湿度管理)が改善し、特に、秋と春の増収によって収量は21%増加。スマート農業技術を追加したことにより機械・施設費は増加しているが、それを上回って収入が増加したため、実証区における10a当たりの利益も16%増加した。

 2年目は、統合環境制御のアルゴリズムを改良し、CO2濃度、湿度、飽差制御を行うなど、更なる増収等を目指す。また、出荷予測モデルの精度向上を図り、収穫労力の計画的配分と市場での有利販売を目指す。

【露地野菜(さといも)の事例】

 実証地九州。役員2名、常時雇用4名、臨時雇用3人日。実証面積3・9ha(経営面積畑16・6ha)。自動操舵システムを導入し、さといもの定植及びその前後の管理作業について、非熟練労働者の参画率を40%向上させるとともに、農薬散布に係る作業時間を60%削減することなどを目標に設定。

 その結果、リモコン式草刈機により、学生アルバイトもゲーム感覚で作業できるようになるなど、スマート農機の導入によって適材適所の人員配置を実現。

 他方、通常はディスクモア(トラクタに装着して牧草の刈取りや除草を行うアタッチメント)を使用しており、リモコン式草刈機よりも作業速度が早く、全体の労働時間は10a当たり3%長くなった。ロボットトラクタについては、実証地では小区画圃場が多数存在し、有人―無人の二台協調作業が難しいため、圃場周辺で監視して安全性を確保しつつパソコン等で事務作業を実施するなど、時間を有効に活用した。収支面では、過年度との比較では利益は減少。夏場の降水不足により収量が1割減少、スマート農機を追加し機械費が増加したことによるもの。収量については、データ利活用のための専門組織を設置し、過去の作業データに基づき適期作業ができるよう人員を配置するほか、自動操舵システムにより非熟練者もブームスプレーヤを利用し病害虫の発生を抑制できるため、収量の高位平準化が可能となった。

 これまでは、他品目の作業と競合して除草ができず、雑草が繁茂した結果、畝が雑草に隠れるとともに、畝間も不均一でブームスプレーヤーを利用できず病害虫が発生し低収量(423kg/10a)となった時もあった。

 2年目の計画については、現在、さといもでは、高い利益を得ており、熟練作業者と非熟練作業者のベストミックスにより労働生産性を高め、規模拡大を進めることで利益幅を伸ばすとしている。

【露地野菜(すいか)の事例】

 実証地東北。家族3名(個人経営)、臨時雇用324人日。実証面積1・0ha(経営面積水田10・7ha、畑4・7ha等)。自動操舵システム、気象観測データに基づく効率的防除、アシストスーツ等を導入し、栽培体系の見直しと併せて労働時間を120時間/10a以下に削減すること等を目標に設定。

 その結果、圃場にトラクタ用の通路を設置し、非熟練者でも短時間で作業できるよう自動操舵システムを用いて、耕起、施肥、畝立て、かん水チューブ設置、マルチ展張の複数の工程を同時に実施。また、圃場内のトラクタ用通路を利用して動力噴霧機ではなく、ブームスプレーヤを用いて防除を実施するスマート農業技術と、新しい省力栽培技術(渦巻き整枝法)を組み合わせた結果、慣行との比較で全体の労働時間は10a当たり41%短縮。他方、収穫時にアシストスーツを利用したものの、スーツの重量や作業姿勢の取りにくさ等の課題があり、収穫時の労働時間に差は生じなかった。

 収支面では、トラクタ用通路の設置による植付面積の減少を補うため、1株当たりの収量を増加させる新しい栽培技術(渦巻き整枝法)を導入したが、着果数の増加に対して小玉であった結果、収量が3割減少するなど10a当たりの収入は低下。また、スマート農機の追加による機械費や通信費の増加等により、10a当たりの利益は減少。

 今後は、試験場の予備試験の結果を踏まえて施肥方法を改善し果実の大玉化を図るとともに、機械費については、当初計画どおり、余剰労働力を活用した規模拡大や複合部門での活用とともにこの生産者の所属する青年組織におけるスマート農機の共同利用により低減していく予定。

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