日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2024年10月15日号

2024年10月15日

第30回 JA全国大会 記念号〈前編〉

〈本号の主な内容〉

■記念座談会
 持続可能な農業・豊かでくらしやすい地域共生社会の実現へ
 これからの農業のあり方を考える
 ・JA全農 代表理事理事長   桑田義文 氏
 ・JA全青協 会長        洒井雅博 氏
 ・(一社)AgVenture Lab
       代表理事理事長  荻野浩輝 氏
 ・アグリビジネス投資育成㈱
    取締役代表執行役社長  堀部恭二 氏

■2025国際協同組合年に向けて
 JCAの取組み

■中央会アンケート
 ・JA鹿児島県中央会 専務理事  國料智紀 氏
 ・JA富山中央会 常務理事    寺﨑直樹 氏
 ・JA宮城中央会 専務理事    髙橋慎 氏
 ・JA福井県中央会 専務理事   永井侯 氏

■第10回JA営農・経済フォーラム

■農業・協同組合の事業・活動をサポートする調査・研究・研修機関

■JA全農の事業別取組方向
 〈米穀農産事業〉常務理事   金森正幸 氏
 〈園芸事業・フードマーケット事業〉
         常務理事   神林幸宏 氏
 〈耕種生産事業〉常務理事   日比健 氏
 〈畜産酪農事業〉常務理事    由井琢也 氏
 〈生活関連事業〉常務理事   尾本英樹 氏

■第24回店舗戦略トップセミナー

■第21回JAグループエネルギーセミナー


【第30回 JA全国大会 記念座談会】

持続可能な農業・豊かでくらしやすい地域共生社会の実現へ
これからの農業のあり方を考える

JA全農  代表理事理事長 桑田義文 氏
JA全青協      会長 洒井雅博 氏
(一社)AgVenture Lab
     代表理事理事長 荻野浩輝 氏
アグリビジネス投資育成㈱
  取締役代表執行役社長 堀部恭二 氏

 第30回JA全国大会では、JAグループの存在意義を「協同活動と総合事業で食と農を支え、豊かなくらしと活力ある地域社会を実現する」と掲げた。持続可能な農業と豊かでくらしやすい地域共生社会を実現するためには、現場の課題に即した新たな発想の必要性、広く多様な知見を取り入れた柔軟性が不可欠。ここでは、持続的な食と農の提供をめざすJA全農の桑田義文理事長、次世代の農業・地域を担う農業者が集うJA全青協の洒井雅博会長、食と農とくらしの課題解決を図るイノベーション創出に取り組むAgVenture Labの荻野浩輝理事長、地域を支える農林水産業と食のバリューチェーン企業の事業パートナーをめざすアグリビジネス投資育成㈱の堀部恭二社長にご出席いただき、持続可能な食料・農業・地域にむけた取組みについて話し合っていただいた。


 

自己紹介から

 洒 井 今年5月の総会でJA全青協会長に就任しました。東京・練馬区でブルーベリーの観光農園とトマト栽培をほぼ周年と、季節の露地野菜を栽培しています。就農して今年で10年。都青協の委員長から全青協の監事、昨年は副会長を務め、5月に会長になりました。

 堀 部 農林中金に平成9年に入庫し、JAバンクやJFマリンバンクのリテール、投資や食農ビジネスの企画等の仕事に携わり、昨年からアグリビジネス投資育成(アグリ社)に出向し、この4月から代表執行役社長を務めています。

 荻 野 AgVenture Lab(あぐラボ)を立ち上げて6年。その前の企画段階から農林中金のデジタルイノベーション推進部長として立ち上げと運用に携わってきました。あぐラボはJAグループ全国組織8団体で構成され、食と農、くらしに関するスタートアップの支援に取組んでいます。

 桑 田 この7月に代表理事専務から代表理事理事長に就任しました。1983年全農に入会して以来、畜産生産の現場を歩き、畜産酪農事業担当常務を経て、直近5年間務めた専務理事としては、販売事業全般と輸出対策を担当しました。

それぞれの最近の取組みをご紹介ください。

桑田義文 氏

 桑 田 全農は、今次中期計画の最終年度を迎えており、同時に次期中期計画の議論もすすめています。今次中期計画は6つの全体戦略の柱を立てて取組んできました。
 第1は生産振興。特に環境問題が注目される中、下水再生りんや畜産堆肥など国内肥料資源を使った肥料の開発・普及や、米の多収性品種開発等を進めてきました。
 第2の食農バリューチェーンの構築では、物流の2024年問題等に対応して米や青果の船や鉄道へのモーダルシフト、中継拠点の整備、他社との共同配送などに取り組んできました。また、商品開発にも力を入れてきました。
 第3の海外事業の展開では、全農はこれまでも肥料、飼料、燃料などの安定供給には強い力を持っていたわけですが、特に肥料原料について国の備蓄制度に参画し、安定供給機能はさらに万全になりました。また、輸出振興は国の方針でもあり、全農グループとしても拡大傾向にあります。
 第4の柱、地域活性化については、JAでんきや自家消費型の太陽光発電の普及を進めてきました。
 第5の環境問題など社会的課題への対応では、環境調和型農業に資するために、環境にやさしい資材や技術を体系化した「グリーンメニュー」を整備し、横展開を進めています。
 第6の最適な事業体制の構築では、Aコープ会社や飼料会社を全国会社化し再編整備することが出来ました。
 事業は概ね順調に推移していますが、資材価格の高止まりがここまで長期化するとは思っていませんでした。加えて最近の夏場の異常な高温は農畜産業に大きなダメージを与えています。さらに適正価格の形成、慢性的な労働力不足など、構造的問題への対応がまったなしと認識しています。次期中期計画では、今期中期計画をさらに発展させていくとともに、これらの課題解決に取組んでいかなければなりません。

洒井雅博 氏

 洒 井 JA全青協は、今年で創立70周年を迎える青年農業者団体です。これまでの先輩農業者のみなさんの取組みを繋いでいくとともに、毎年政策提言集「ポリシーブック」に全国の若手農業者の声をまとめて、国や行政に伝えていくことを大事にしています。自分達の地域の課題や出来ることを話し合い、県、全国に積み上げていきます。作物別の水田、青果、畜産酪農のほか、今年は課題別に食料安全保障、地域農業、農業経営の3項目を重点実施事項として改定を進めています。
 食料・農業・農村基本法が改正され、適正な価格をいかに形成していくか、それを農業者としてどのように取組んでいくかを話し合っているところです。その中で消費者との関わりをいかにもっていくか。生産現場は消費地と非常に遠いと感じており、そこをいかに繋げていくか、消費者の声と擦り合わせていくかを考えています。

堀部恭二 氏

 堀 部 アグリ社は農業法人に対する資本の供与を目的に2002年に創られました。20年を超えた業歴のなかで670先の農業法人に110億円ほどを出資しています。2021年には根拠法が改正され農業を中心にその周辺産業、食農バリューチェーン企業全体への投資も、新たな領域として加わりました。この部分は50先50億円程度の実績があがってきています。
 我々としては、投資というツールを通じて、生産者と食農バリューチェーン企業を結び付け、両方がwin-winの関係になるように、そして食農バリューチェーン全体が大きくなることを使命として活動しています。

 荻 野 世界人口が80億人を超え食料危機が叫ばれています。私が生まれた1965年は33億人だった人口は、急激に増え、それを養うために世界中で木を伐り畑にした。そしてCO2が吸収されなくなり温暖化が進みました。食の確保は地球環境に大きな影響を与えてきています。日本では、自給率や食料安全保障の問題もあります。そうなると、安全安心な食の確保は、グローバルに日本でも大事な話になってきます。

荻野浩輝 氏

 日本はいま農業離れが進行しています。そこには新しいパラダイムシフトが必要で、それをもたらすのがスタートアップです。アグリテックやフードテックのようなスタートアップはこれからどんどん増えていくでしょう。グローバルにみるとアメリカやヨーロッパでは農業以外も含めてスタートアップが世の中を変えていますが、日本はまだまだそこまでいっていません。スタートアップを育成することは起業を増やすことです。我々も大学や行政との連携を進めますが、一番大事なのは全農はじめJAグループと連携することです。全青協のみなさんをはじめ農家の困り事は何かを起業家のみなさんに伝えなければなりません。スタートアップに対して一番モノが言えるのは生産者です。そういう形で全青協のみなさんとはお付き合いをさせていただいています。
 あぐラボの特徴はスピード感があること。毎年のように新しい取組みが始まっています。今年も起業家育成のプログラムを始め投資のルールもつくり、来年は農業のディープテックをやってみようと大学との連携を深めています。日本の学識者が持っている重要な知見の社会実装を後押しするような仕組みを、我々JAグループが提供できないかと思っています。
 アグリ社は農業法人への投資、あぐラボはスタートアップを支援し社会課題を解決することを目的としていますが、重なる部分については情報提供し、お互いの仕事にフィットするようなものは紹介し合っています。全農からも数名常駐してもらい参画してもらっています。

 桑 田 全農は組織が大きいため、機敏に動くことができるあぐラボで職員が働くことで得られる学びは大変大きいと思います。

持続可能な農業・地域に向けた課題をどのように受け止めていますか。

 洒 井 全国的に農業従事者、特に青年部世代の20~40代が減っているなかで、農地の維持が大きな課題になっています。「地域計画」や将来の農地の利用を考えると、自分たち世代はいても次の世代、10年後20年後はもっと減ると予測されています。農地を集積できても、法人経営になっても、1経営で営農できる面積は限られています。地域全体として、新規参入、新規就農者も受け入れる土壌を創っていくことが必要です。
 農業従事者の減少スピードにいかに歯止めをかけていくかです。新規就農でも親元就農でも、次の世代が続いていけるように。
 そのためには所得を上げなければなりません。〝想い〟だけでは農業はやっていけません。安心して農業ができる環境を我々が創らなければならないと思っています。農業者の統一した悩みは再生産可能な価格が保てないこと。持続的に営農していける価格が形成できるように、消費者の理解醸成へJAグループ一体となって取組んでいくことが重要ではないかと思います。
 親の背中を見て農業は辛い、儲からないと思うから親元就農も減っています。農業で“メシ”が食べていける環境を整え、しっかり営農を続けられるような形を創っていかなければなりません。

 堀 部 担い手が高齢化している、地域に人がいない、生産資材が高騰し農業生産に係るコストが上昇している。それを価格に転嫁しきれない故になかなか儲からない。こういう事態が循環しているのは、大規模法人でも家族経営でも変わらないと思います。
 地域によっては離農が進み、大規模法人が受け皿となって農地集積や作業受委託を進めてきました。しかし、そういう取組みも限界を迎えつつあるという話も聞きます。一部の法人が個別に頑張るのではなく、地域ぐるみで農業を支えていかなければならない課題があるような気がします。

 荻 野 労働力不足は、農業の機械化・ロボット化で解決していく、人のマッチングも含めてスタートアップサービスをしていく、そうしたことで変えていけるかもしれません。一方で、適正な価格形成は深刻な問題です。1スタートアップで解決できるような問題ではなく、社会構造や消費者意識の問題も絡む非常に根深い問題だと思います。これに対しては、エシカル商品の意味を消費者にきちんと伝えていくことも大事だと思います。中長期的に「食育」「食農教育」を含めて取組んでいけば、その価値は変わっていくのではないでしょうか。それが生産者の新しいバリューチェーンになっていく世の中になって欲しいと思います。
 サステナブルな材料や調理法を実現しているレストランは、東京に数多くあります。こうしたものが、時間はかかるがいつか生産者のマナーや価格に影響を及ぼしてくるのではないでしょうか。例えば、車のシートベルトは、かつてはしなければならないから締めていましたが、今はし忘れると怖いというようになりました。これからはサステナブルな食料でなければ危険だというような意識になってくることが大事なのではないでしょうか。

 桑 田 持続可能な農業に向けた現場の課題は多種多様ですが、その中から5つお話します。最初は担い手の確保・育成です。地域の中核になるような生産者をどのように育成するかが重要です。全農は全国各地に後継者育成農場を持っています。品目はいろいろですが、例えば、岐阜のイチゴのように、その県域の農業生産に大きな貢献をしている事例もあります。こうした取組みを強化していかなければなりません。畜産でも家族経営の支援策として畜舎の賃貸事業などにも取組んでいます。
 次に労働力の確保の問題です。全農は6つの地域協議会と全国協議会を立ち上げており、パートナー企業と連携した地域内の労働力確保と農作業受委託をすすめており、今後は取組みの広域化をすすめていきます。
 3つ目は省力化の問題。農作業そのものを省力化しなければならないのは間違いありません。畜産で3研究所、耕種で1つの研究所がありますが、農研機構をはじめ外部の研究機関とも共同で研究課題に取組んでおり大いに期待しています。生産コスト低減に向けて、例えば処理にコストがかかる畜産の糞の排出量の何割かを減らすような飼料の開発なども進めています。
 4つ目は所得の確保で、これは最重要課題です。適正な価格形成については法制化にむけて、私どもも生産者団体の立場で協議に参画し、サプライチェーンの一部分にだけしわ寄せがいくのではなく、生産者、加工事業者、流通業者、消費者など、社会全体で負担する仕組みを目指します。法制化以降は当事者として取組んでいきます。
 最後に環境問題への対応では、環境調和型農業に関する技術・資材を体系化した「グリーンメニュー」の実証と水平展開、水田における秋耕、農研機構と連携して牛のゲップ由来のメタン削減に資する飼料を開発するなど、脱炭素化の実現に向けた取組みをおこなってまいります。

今後の農業経営のあり方に向けた課題や取組みについて。洒井会長自身の経営や盟友の経営の悩みや課題から。

 洒 井 私の経営はいま、父母と3人で何とか回していますが、両親が高齢化に伴って自分一人で今ある農地をいかに維持していくかを考えています。作業性をあげるため、品目をもっと絞りハウスの規模を拡大しなければならないと思っていますが、その分の投資をどのようにペイさせるかも考えなければなりません。人件費がどんどん上がるなか、出来るだけ人手を少なくかつ作業効率を上げられる農業はどのようなものか。今のトマト作りも高設栽培や環境制御等を導入し作業性を上げることも考えています。
 大規模経営ほど投資が必要になりますが、投資に見合った回収ができるのかの判断が難しい。農業技術だけでなく経営者としての判断を磨いていくことも重要です。
 事業承継にはいろいろなケースがあると思います。親子でしっかり話し合わなければいけないのに、そこが一番難しい。そこに青年部の先輩などが間に入ってくれるとスムーズにいったりすることもあります。間接的に言われた方が受入れやすいこともあります。各地域単位で講習会を開催するのも良いと思っています。
 雇用に関しては、地域に人がいないので思うようにいかないのが現状です。いかに人にきてもらえるかが重要です。時給等が他業種の方が上がって雇えない地域もあります。生産コストは上がり農産物価格は上がらないなかで、人件費はあげられない。そこをどう解決していくかが課題です。
 労働力不足に、例えば収穫物を運ぶロボットがあるだけでも全く違います。全青協ではあぐラボを通じて、いろいろな農業系ベンチャー企業と実証実験を行っています。去年はリンゴ農家で収穫ロボットを試しました。スタートアップ企業を紹介いただき、こういう機械や設備が欲しい、こういう資材があると便利だということを伝え、そこから取引に繋がった事例も出てきています。全農とは生産資材研究会を通じて、我々生産者の声を反映した低コストな農業機械を開発し共同購入の展開をしています。農業機械だけではなくいろいろな資材に関しても、青年部として積極的に意見を伝えていきたいと思っています。
 青年部の盟友達は〝謎の情報〟をもっていますし、様々な“ひと”を紹介してくれます。新しい技術でも同じ青年部の仲間が薦めるものがまずは一番いいように思います。産地では、営農指導員が情報を集めて新技術を試してくれるJAの力が大きいと思います。
 資金面ではいろいろな補助金を活用していますが、知らない制度がたくさんあったり、農水省以外にも農家が使える事業があったりします。そうした情報を教えてもらえると非常に助かります。雇用や労務管理、労働時間の削減など、経営に関わることについての助成に関する情報をはじめ、農業と違った視点からのアドバイスを受けられることも、これからの時代は必要だと思います。

堀部社長、アグリビジネスの投資ニーズの現状や課題は。

 堀 部 法人化のための資金調達には、まず公庫やJAバンクからの借入があり、もう少し大きくなると地元の地銀から借りる形で経営を拡大していくケースが多い。銀行は財務内容を見ながらお金を貸すので、負債が増えてきたときなどに我々の機能が求められてきます。我々は株式として資本を入れるので、自己資本が充実したバランスシートになります。その意味では法人化した農家に財務内容を改善する形で、より一層の成長を支援する機能を持っていると言えます。
 洒井会長も言われましたが、それなりに成功してきた法人はいかに次の世代に繋いでいけるか、事業承継を課題として認識している経営者が多い。相続の問題等を乗り越えながら次世代、次々世代に自分の築き上げてきたものをいかに繋いでいくか。そうしたニーズにも我々は出資という形でお手伝いできるので、お応えしていきたいと思います。

荻野理事長、現場・JAグループとの連携は。

 荻 野 あぐラボが提供できる情報は、新しいテクノロジーやスタートアップのサービス面ですが、スタートアップ自身をPRする体力がない。全青協とは連携協定を結び、定期的なお知らせや問い合わせへの対応を実施しています。最近はJAからも、こういうものがないかとの問い合わせが増えています。
 あぐラボの課題としては、JAグループ内にまだ十分に知っていただいていないこと。もう少し組織内PR活動に力を入れ、生産者を含めて情報を発信していきたいと思います。

桑田理事長、全農が取組む農業者への経営支援を。

 桑 田 日本の農業は多種多様であって、絶対にこうでなければならないという答えはありません。家族経営あり、法人経営あり、地域性もありで、こうした多様で高度な農業経営にどれだけ全農がメニュー・サービスを提供出来るかが重要です。
 農作業の受委託の仕組みや高度施設園芸技術を実証するモデル事業、畜産での畜舎賃貸事業など、いろいろな取組みを展開してきていますが、今後農業者が激減していくなかで、地域の生産者・法人とJAが、地域ごとにどのような役割分担で、誰がどう協業して地域の農業を続けていくかを真剣に議論しなければなりません。それが今、行政が行おうとしている「地域計画」なのだと思います。JAグループもこれに呼応し、議論の輪をどんどん広げていかなければならないと思います。
 また、技術的部分は我々の強みで、農研機構とも20前後の共同のテーマを持ち研究を進めています。高温に耐えられる品種の開発などにも急ぎ取組んでいきたいです。気候変動が農作物に深刻なダメージを及ぼしていますので、新しい品種の導入ニーズは大きくなっていくでしょう。
 7年前に営業開発部を立ち上げ、多くの食品メーカーや流通関係に携わる企業をはじめ、付き合いが広がってきました。産地リレーの取組みや食品・加工メーカーと産地を結び付けての商品開発にも取組んでいます。そのような繋がりを創り市場流通とは異なるもうひとつの販売事業に取組み、形になってきています。外部の人たちと繋がり、新しい商品を開発して産地、生産者を支援する仕組みを創りたいと思います。
 生産者への情報提供では、全国のJAでTACが活躍しています。従来のTACシステムをベースとした新しいシステムも出来、いろいろな情報が共有され生産者に有用な形でフィードバックすることが可能です。TACはもとよりたくさんのJA担当者のみなさんに活用していただきたいと思います。

国民・消費者に食と農の大切さ、JAへの理解を深めるためにできることは。

 洒 井 全青協は、食農教育活動に力を入れています。小中学生を対象に、田畑での作業体験や教室に出向いての農業や食に関する授業などを全国各地で展開しています。
 Z世代との交流では食料や農業に対する意識が変わってきていると感じています。こどもたちの反応はすごく励みになります。「将来農業に関わる仕事がしたい」と、大学卒業後に農業を選んでくれる人もいます。
 消費者との関わりをしっかり持ち我々の声を伝え、消費者の声もしっかり聞き、お互いの考えを理解した上で、次の活動に繋げていきたいと思います。そのような思いを込めて、10月19日には、東京・KITTE丸の内で、第1弾の「JA全青協マルシェ」を開催して、消費者と直接向き合って交流する場を設けます。

 堀 部 普段食べる物は節約しても、旅先の食やこだわりの食にはお金をかける。これまでとは違う〝個性化〟の流れがあるのではないかと思います。日本の消費者の意識がそのような方向を向いているのだとすれば、生産者も万人受けするものを作るだけでなく、少し〝とんがった〟物を作る、万人受けするものは徹底的にコストを下げる等、経営者一人ひとりが個性化の流れを踏まえることで、経営安定化の途を探っていく必要もあるのではないでしょうか。
 食と農に対する国民の意識や理解醸成は時間がかかることです。小さな意識を常日頃から積み上げることで、次第に変わっていくことだと思います。生産者が当たり前のようにやっていることを、正しく地道に愚直に伝えていくことが大事だと感じます。
 その時の伝え方の工夫は必要で、足下においてはサステナブルにもう少しスポットを当てると意識が高まるのではないかと思います。お付き合いをしている法人でも、収益を上げている経営者の方々に共通しているのは、いろいろなツールを使い自らが情報発信していることです。その内容は、自分達の取組みを素直に伝えるものが多く、それが消費者に受けているのだと思います。

 荻 野 その土地の気候風土で育まれた食を楽しみ、旅をするガストロノミーツーリズムなどで、食と農の関係人口を増やしていくようなことも消費者に訴えていきたいですね。
 日本は、今後も食料輸入を確保していけるのかを考えると、もう少し踏み込んだ政策が食料安全保障上必要なのではないでしょうか。そうした危機意識を消費者ももつべきだと思います。
 そういう志をもつベンチャーも多く、日本の農業の課題を何とか解決しようという取組みもたくさんあがっています。しかし、多種多様な日本農業の課題解決を今あるスタートアップだけでカバーできる現状ではありません。点の取組みを増やしていき、線を面にして日本農業にインパクトを与えるような取組みが出来ればよいと思います。

 桑 田 生産者は出来るだけ高く売りたい。消費者は安く買いたい。双方の一致点を見出すことは簡単なことではありません。ここ何十年も経済が停滞するなか、この国には安い高い病が蔓延してしまいました。こうした世の中の流れを変えるには、非常に時間がかかるし、経済がよくなることも必要です。くわえて何かの突破口が必要です。
 私は学校給食の無償化がその突破口となるのではないかと思います。行政も一部地域で給食の無償化をすすめていますが、国産のものを食べるのが当たり前という意識が定着するまで、この取組みを続けることが非常に重要であると思います。
 生産者の窮状ばかりが前に出てしまうと「それなら私達の給料は?」という反論もでてくるでしょうし、相互理解がすすみません。最善のアプローチはこども達の食。親はこどもが健康的で安全・安心な食品を食べることを望んでいます。給食の無償化をすすめることにより地域の食材の利用がすすみ、流通が変わります。地域単位の物流でフードマイレージも短縮され、規格外の野菜等も有効に活用できるでしょう。地域の雇用にも繋がる。消費者の食と農への理解醸成にはそうした突破口が必要だと思います。
 これからも全農は、JA、組合員、農業法人、食品・流通企業の連携のハブとなって、スタートアップの皆さんの新たな知恵も取り入れながら「生産者と消費者を安心で結ぶ懸け橋」になってまいります。

ありがとうございました。

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