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野上浩太郎新農林水産大臣が就任会見で決意語る

2020年9月18日

野上浩太郎新農林水産大臣が就任会見で決意語る


 野上浩太郎農相は17日、農水省で就任記者会見を行い、これまでの農政の改革を確実に実施することで、引き続き農林水産業の成長産業化と地域の活性化、食料安全保障の強化、食料自給率の向上を目指す姿勢を強調、「若者が将来を託すことができるような農林水産業に向けて取り組んでいきたい」と意気込みを語った。会見での発言概要は以下の通り。

《農政の課題への対応》 日本の農林水産業は国民に食料を安定的に供給すること、さらには食品産業等の関連産業とともに地域の経済を支えている。高品質な農林水産物や食品、あるいは世界に評価される和食、また美しい農山漁村の風景は成長の糧となる大きな潜在力である。一方で、農林水産業を取り巻く状況は厳しい。人口減少に伴うマーケットの縮小、高齢化の進行、耕作放棄地の増加等、大きな曲がり角に立っており、その活性化は待ったなしの課題だ。こうした状況に対して、今年3月に食料・農業・農村基本計画を改定し、2030年までに、農林水産物・食品の輸出を5兆円とする目標を掲げた。新型コロナウイルスの影響を踏まえて、新たな生活様式による需要の変化などにも対応していく必要もある。これらを踏まえて、産業政策と地域政策を車の両輪として、食料自給率の向上と食料安全保障の確保を図っていきたい。

《農林水産物・食品の輸出促進》 19年の農林水産物・食品の輸出額は9121億円となった。13年から7年連続で過去最高を更新したが、1兆円の目標には届かなかった。また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、今年1月から7月は前年同期比で6・7%のマイナスとなっている。7月単月では、前年同月比でプラス2・2%と明るい兆しも見え始めているが、世界的な影響は続いているので、現状の商流を途切れさせないための支援、感染の収束後に海外事業に即応するための商談やプロモーションの支援等を、緊急経済対策で実施している。農林水産物・食品輸出本部を中心に、政府一体となって生産から輸出までの各段階の取組を強化していかなければならないし、今、輸出国の規制への対応強化、更に輸出先国向けの販売戦略の強化、食産業の海外展開と多様なビジネスモデルの創出等をあらゆる手段を講じていきたい。

《種苗法改正》 優良な植物新品種が海外に流通した事例が相次いであったが、現在の種苗法では登録品種であっても、海外への持ち出しを止めることができない。知的財産の管理がこれまで緩すぎたという反省に立って、種苗法を改正し、登録出願時に国内利用限定の利用条件を付せば、海外の持ち出しを制限できるようにする。また、登録品種の自家増殖については、育成者権者の許諾に基づき行うようにする。この改正によって、日本の強みである植物新品種の知的財産を守るとともに、地域ブランドの産地形成を後押しすることができる。今年の通常国会に提出した改正法案は継続審議となっているが、和牛の遺伝資源と同様に日本の農業を支える知的財産を守るために重要なものなので、国会審議に向けてしっかり準備を進めていきたい。

《コロナ禍の外食産業の支援》 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、学校の休業や飲食業の営業自粛、イベントの自粛等により農林水産物についても需要の減少や価格の下落など、大きな影響が出ている。農水省では、国民への安定的な食料供給を優先的に、情報発信などの対応に加えて、影響を受けた農林水産業の生産基盤を守るために、第一次・第二次補正予算合わせて、約6100億円の支援策を措置しているところなので、まずは早期執行に全力を尽くし、Go To Eatキャンペーン等もしっかり推進していきたい。

《農業分野における規制改革》 規制改革については、今年7月に閣議決定された規制改革実施計画において、農林水産分野として11項目盛り込まれている。例えば畜舎に関する規制の見直し、あるいは漁獲証明制度の創設等、新たな法整備も含めて検討を進めていきたい。また農協については、農業者の協同組織という原点に立ち返って農業者の所得向上に全力で取り組むことが重要であり、14年6月に農産物の有利販売と生産資材の有利調達に最重点を置いた事業運営、中央会制度の見直し等を内容とする改正案が決定された。JAグループは、農産物の有利販売や生産資材の有利調達と、農業者の所得向上を図る取り組みを実践する等の自己改革を実施している。さらに、19年5月までの改革集中推進期間終了後も、自己改革に不断に取り組むことを宣言している。これを受けて農水省は、昨年9月にJAグループの自己改革は進展と評価をし、自己改革の継続を促しているところだ。改正農協法では施行後5年後に、農協のあり方等について検討することを規定している。信用事業を始めとした農協の経営環境は厳しさを増しているが、経済事業の収益力向上などによる経営の持続性確保が課題となってくる。JAグループや規制改革推進会議等とも議論をしつつ、検討を進めていきたい。

《令和2年産米の需給》 今年の需要動向を見ると、6月末の民間在庫は4年振りに200万t超となっている。作柄等によっては需給が緩和する可能性がある。主食用米の需要が毎年減少すると見込まれる中で、今後も国内の消費拡大や輸出拡大の取組を進めつつ、自らの経営判断による、需要に応じた生産販売を着実に推進していくことが政策の基本だ。これを大前提に、どういった対策ができるのかをしっかり検討していきたい。

《スマート農林水産業の推進》 農林水産業の生産基盤を強化をするためには、ロボットやAI等の先端技術を活用するスマート農林水産業の推進が重要だ。このため、スマート農林水産業に適した農地の基盤整備、情報通信環境の整備、林業機械の自動化などを推進していきたい。また、画像データによる農作物の生育診断や森林情報のデジタル化による森林管理の効率化など農林水産分野でのデジタル技術の利活用を進めて、25年までには農業の担い手のほぼ全てが、データを活用した農業を実践することを目指していきたい。スマート農林水産業の推進により、生産現場の労働力不足に対応しつつ、生産性を向上させて、農林水産業を成長産業にしていきたい。

《農水省の組織改編》 21年度組織定員要求については、日本の農業を更に発展させていくために輸出を更に拡大するとともに、国内農業の生産基盤の強化を進めていくことが課題だ。課題解決へ所要の体制整備を図っていく。具体的には、30年度までに5兆円の目標の達成に向け、今年4月に始動した農林水産物・食品輸出本部の下で、輸出解禁の交渉や輸出促進の業務を推進するための体制の強化を図っていかなければならない。今後の更なる輸出拡大の主力を担う畜産分野についても新たな市場環境に適応した生産基盤の強化を担当する体制の整備をしていかなければならない。さらには、耕種農業の高収益化を強力に進めるため、米・麦・大豆と園芸作物を一括して担当する体制の整備をしていかなければならない。このような基本方針の下で省組織再編の要否について検討していきたい。

《野上農林水産大臣の農業への関わり》 私自身、富山県会議員で政治活動を始めた。地元も米どころの富山ということで、農林水産業、農政は政治の中の最重要課題だという思いで取り組んできた。3年間、内閣官房副長官として、官邸でも農林水産業に関する施策に取り組んできた。県会議員時代も色んな方々と話をしながら進んできたが、若い人たちが夢と希望を持てるような、持続可能性がある農業を作っていくことが非常に重要だ。そのために、例えば農林水産品の輸出や、生産基盤の強化をしていかなければならないという課題もある。一つ一つ課題を丁寧に推進していきたい。

《食料自給率の向上》 食料の安定供給は国家の最も基本的な責務の一つだ。30年度に、食料自給率をカロリーベースで45%、生産額ベースで75%に引き上げるという目標を設定しているが、19年度は、それぞれ38%、66%という状況だ。この目標達成に向けて進んでいかなければならないが、新たな基本計画に基づいて輸入品からの代替が見込まれる小麦、大豆等の国産農産物の増産、あるいは経営規模の大小や中山間地域といった条件に関わらず、農業経営の底上げにつながる生産基盤の強化、あるいは荒廃農地の発生防止や解消による農地の確保、食育や地産地消等の施策について、消費者、食品関連事業者、生産者団体等が官民共同で行う新たな国民運動等に取り組むこととしている。加えて、新型コロナウイルスへの対応として国産農産物の消費拡大運動などによる需要の喚起、輸入から国産原料への切替対策、あるいは自粛の長期化による環境変化等に対応して、経営の継続を図る生産者の取組への支援などを推進することにより、食料自給率の向上に取り組んでいきたい。

《生乳の流通》 生乳流通の今後の制度の運用方針については、一昨年4月に施行された、新たな加工原料乳補給金制度により補給金を受けられる事業者が10事業者から92事業者に拡大するとともに、酪農家が自ら生産した生乳を、ブランド化して加工販売することで販路を広げるなど、前向きな取組が進んでいるものと認識している。他方、一部の酪農家がルールに反して、年度途中で一方的に別の事業者に出荷するといった、「いいとこ取り」が発生してきたことも承知をしている。このため、今年7月にルール違反の「いいとこ取り」について、具体的事例に則して解説した事例集を公表し、改めて周知を図ったところだ。引き続き需要に応じた安定的な生乳取引が行われる制度の適正な運用に努めて、酪農家の経営の安定を図っていきたい。

《農地集約》 今後、高齢化によってリタイアする農業者の増加が見込まれる。また、このような中で、農地中間管理機構を活用した担い手への農地の流動化を推進しているところだ。19年度末時点での担い手への農地集積率は、57・1%だ。23年度までにこれを8割にするという目標の達成に向けて、更なる取組の加速化が必要だ。このため、今年4月に完全実施された改正農地中間管理事業法に基づき、地域での徹底的な話し合いを通じて、将来的に地域の農業を担う農業者と、集落での農地利用の青写真を定めた、人・農地プランの見直しを推進しているところだ。今後この、人・農地プランに位置付けられた担い手に対し、農地中間管理機構を活用して、農地の集積・集約化を進めていきたい。

《農林水産業における防災・減災対策》 近年、豪雨や地震による災害が頻発している。農地や農業水利施設が被災しているので、これは農業生産にも支障が生じる。農業生産の維持を図って災害に強い農村づくりを推進するために、農業用ダムの洪水調節機能の強化対策や、ため池整備、排水設備など、農村地域の防災・減災対策を進めていきたい。この6月に、ため池工事特措法も成立したので、これに基づき、防災重点農業用ため池についても集中的かつ計画的に、防災工事等を推進していきたい。3か年で期間が終了するということであるが、これはしっかりと防災・減災対策を継続できるような取組も必要になってくるのではないか。

《豚熱への対応》 18年9月に岐阜県の養豚農場において、国内26年ぶりの豚熱の発生を確認した。これまでに、飼育豚では8県において58事例の発生を確認、野生イノシシでは18都道府県において豚熱の感染を確認している。昨年10月には、飼育豚への予防的ワクチンの接種を開始し、さらに飼養衛生管理の強化や野生イノシシ対策を実施している。これらの対策によって、今年3月の発生を最後に飼育豚での新たな発生はない。一方で、アフリカ豚熱は有効なワクチンがないが、アジア13か国・地域まで感染が拡大しているので、検疫探知犬の増頭、家畜防疫官の増員等により水際検疫体制を強化していきたい。

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