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日本農民新聞 2020年9月5日号

2020年9月5日

気候変化と農業の現状・今後~「気候変動適応計画」農水省の取組み~アングル

気候変化と農業の現状・今後
~「気候変動適応計画」農水省の取組み~

農林水産省
大臣官房環境政策室長
久保牧衣子 氏

 夏季の気温上昇や豪雨・台風の多発、降雪・積雪量の減少等、わが国の気候の変化・変動は、農業にどのような影響を及ぼしているのか。それにどのように対応していくのか。農水省で「気候変動適応計画」に取り組む環境政策室の久保室長に聞いた。


平均気温上昇、猛暑日増加、短時間強雨多く降雪量は減少

気候変動の実際は?

 日本の平均気温は、変動を繰り返しながらも上昇傾向にある。気象庁のデータによれば、長期的には100年あたり1.24℃の割合で上昇しており、2019年は、2010年までの過去30年間の平均より0.92℃も高くなり、1898年の統計開始以降で最も高くなっている。日最高気温が35℃以上の猛暑日も増加する傾向にある。

 降雨については、1時間の降水量50mm以上の短時間強雨の年間発生回数が増える傾向にある一方で、1日の降水量が1.0mm未満の無降水日も増えている。強い台風の発生数、台風の最大強度などは、現在と比較して増加する傾向があると予想されている。

 降雪量は減少し、年最深積雪はこの10年間で東日本の日本海側で12.3%、西日本の日本海側では14.6%減っている。雪解水の減少は、取水など農業生産に大きな影響をもたらすことが予測される。

水稲で白未熟粒、果実の着色不良、乳用牛の斃死、乳量低下の報告

農業への影響は?

 農水省は、これまで約10年間にわたり「地球温暖化影響調査レポート」をとりまとめてきた。都道府県の協力を得て地球温暖化等の影響と思われるものについて品目ごとにまとめたもので、例えば、水稲では出穂期以降の高温で白未熟粒の発生や虫害の発生が報告されている。これらにより収量や品質が低下し、平均気温が高い年は一等米比率が低くなる傾向がある。

 りんごでは、着色期から収穫期の高温で着色不良や着色遅延が生じ、果実の日焼けなども報告されている。ぶどうでは、気温の日較差が大きくならないことによる着色不良や着色遅延が報告されている。野菜では、トマトで着果不良や不良果、いちごでの花芽分化の遅れなど、畜産では、乳用牛の斃死や乳量・乳成分の低下が報告されている。

適応策実行へ品目別「ガイド」

農水省の取り組みは?

 国は気候変動適応法に基づき、概ね5年おきに影響評価を実施することとされ、第1回を2015年に行っている。

 農水省では2015年に「農水省気候変動適応計画」を策定。2018年には政府全体での気候変動適応計画との整合性を図り、必要な改定を行っている。品目別にどのような影響が生じているかを整理し、それに対する取組みを掲げている。

 例えば、水稲では高温耐性品種の開発・普及、肥培管理・水管理徹底、りんごやぶどうでは、優良着色系統や黄緑色系統の導入、適地の移動が予測されるうんしゅうみかんでは、より温暖な気候を好むしらぬひ(デコポン)やブラッドオレンジなどへの転換も対応策としてあげている。施設野菜や花きでは、高温対策としての地温抑制マルチや細霧冷房、ヒートポンプ等の導入、災害に強い低コスト耐候性ハウスの導入等をあげている。畜産では、畜舎内の散水・細霧や換気など適切な畜舎環境の確保や、高温・小雨に適した飼料作物の栽培体系・品種の確立を進めていく。

 病害虫の越冬可能地域の北上や拡大の可能性が指摘されていることから、発生予察事業による発生状況や被害状況等の変化を調査するとともに、適時適切な病害虫防除のための情報発信を行う。生産基盤面では、排水路等の整備やハザードマップの策定など、ハード・ソフト対策を適切に組み合わせた対策を進めていく。

 この8月、農水省では、品目別により詳細な「農業生産における気候変動適応ガイド」を、水稲、りんごで作成した。さらに今年中にぶどうやうんしゅうみかんについても作成していく。

各産地で適応実行計画策定を

これからの取組み方向は?

 気候変動による影響は、作物、品種、高低差や地形なども含めて産地毎に異なる。それぞれの産地で今後の影響を予測した上で、中長期的な適応計画とその実践を各産地で話し合っていく必要がある。産地自らが気候変動に対するリスクマネジメントや適応策を実行する際の指導の手引きとして、先ほどの「ガイド」を作成している。これを参考に各産地で適応策実行計画を策定し、気候変動への適応を進めていただきたい。

 「気候変動適応実践セミナー」も昨年度2か所で開催した。地域の自治体や農業関係者に、気候変動への適応はもはや〝他人事〟ではなく、〝自分事〟だと認識していただくために、適応策の検討・実践に必要な情報提供や意見交換を行った。気候変動への適応は待ったなしであり、今年度も新型コロナウイルス対策を講じながら、セミナーを開催していくこととしている。将来、気候変動がどのようなシナリオになっても、地域の農業が経営として成り立っていけるように、いろいろな適応オプションの準備をみんなで考えていくセミナーにしていきたい。

 例えば熱帯果樹のように、高温に強い樹種への転換も一つのオプションだ。作物の転換まで踏み込んで考えなければならない地域もあるだろう。これをチャンスと捉え、これまで輸入に頼っていたものが気温上昇に伴い国内生産が可能になれば、日本の農家の高い技術力で、しかもギリギリまで熟すことで輸入品よりも品質の良い物が作ることも可能だろう。こうした選択肢として、昨年3月には熱帯果樹の栽培に関する情報も公表した。

 また、農作業死亡事故の中で熱中症が2018年は43人と調査開始(2004年)以降最も多くなった。熱中症予防対策の周知や指導を推進しているが、これは生命に直結する重要なことなので、農業従事者の方への熱中症対策の更なる徹底を図っていきたい。

 日本全体での影響評価報告書が、国の中央環境審議会の議論を経て今年度中に公表される予定で、農水省としてもそれを踏まえ、来年度には「農水省気候変動適応計画」の改定に着手していくことにしている。災害や気候変動にも強い農業の実現に向けて、このような適応策と温室効果ガスの削減などの気候変動の防止策を、車の両輪として一体的に推進していきたい。


〈本号の主な内容〉

■アングル
 気候変化と農業の現状・今後
 ~「気候変動適応計画」農水省の取組み~
 農林水産省大臣官房環境政策室長 久保牧衣子 氏

■イチゴ定植期の病害虫防除のポイント
 栃木県農業試験場 研究開発部病理昆虫研究室長
 福田充 氏

■施設園芸新技術セミナー・機器資材展 in 佐賀
 日本施設園芸協会が9月3~4日、佐賀県武雄市文化会館で開催

蔦谷栄一の異見私見「無視できない農業からの温室効果ガス排出」

【第2部】実りの秋を迎えて
 米の生産・集荷・検査・保管・流通

■令和2年産米の検査・保管にあたって
 JA全農 米穀生産集荷対策部 栗原竜也 部長

■令和2年度 米のカントリーエレベーター
 品質事故防止強化月間=8月1日~10月31日

■秋の農作業安全確認運動=9~10月

■JA全農 米穀事業
 全農統一規格フレコンスキーム等による物流改善の取り組み

■令和2年産米の検査にあたって
 農林水産省 政策統括官付穀物課 米麦流通加工対策室
 上原健一 室長

■令和2年産米に対する検査への期待
 全国米穀販売事業共済協同組合 業務部 加瀬栄 部長

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