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日本農民新聞 2020年7月25日号

2020年7月25日

このひと

 

JAにおける旅行事業の役割

 

山形県 JAさがえ西村山
代表理事組合長

安孫子常哉 氏

 

 (株)農協観光はこのほど、令和元年度に旅行や各種イベント等を通じてJAや地域コミュニティの活性化に貢献し、優れた事業実績を収めたJA・組織を表彰する優績JA表彰受賞JAを決定し、最優秀賞に山形県・JAさがえ西村山を選定した。平成25・28年度に続き受賞した同JAの安孫子常哉組合長に、JA旅行事業の取り組みと事業が果たす役割について聞いた。


 

組合員・地域との架け橋として貢献

3回目の最優秀賞受賞の感想を。

 長引くマイナス金利の影響や消費税増税等、個人消費が落ち込む状況のなかで、JAらしい総合事業を最大限に発揮し、支所・施設を基軸として、組合員、地域との結びつきの強化を図りながら事業に取り組んできた。
 このような大きい賞を受賞することは光栄に思う。ご利用いただいた組合員や地域住民の皆様に感謝申し上げたい。

JAの現状と旅行事業の位置づけは?

 当JAは山形県中央部の寒河江市・大江町・朝日町・西川町・河北町の1市4町で構成される広域合併JAだ。
 さくらんぼを中心とした果樹の他、米、枝肉、野菜、花き等を幅広く生産している。近年は異常気象による自然災害が恒常的になり、管内農業に大きな影響を与えている。加えて、地域農業を牽引する担い手層の確保が一層重要となっている。
 新型コロナウイルス感染症の拡大により、事業は今後も困難な状況が続くと予想される。このような中で管内の農業者の状況および生産される各農畜産物の動向を注視して、先を見据えた経営と事業の展開が必要だと考える。
 総合事業を継続するうえで、組合員が必要とする事業を仕分け、コンプライアンスを遵守し、財務基盤の確立をしていくことは重要だ。
 旅行事業は組合員とJA、地域とJAの架け橋となる事業だといえる。部門としての採算は求めつつも、旅行事業を通してJAのファンを拡大し、ほかの事業にも大きな波及効果が出ることを期待している。
 また、旅行中は組合員の飾らない本音を聞くことが出来るのも大きい。地域に必要とされるJAであり続けるには、組合員や地域住民の声に耳を傾けることが不可欠だ。そういう意味でも旅行事業は大事な事業だと考えている。

 

旅行参加のきっかけは〝職員からの声かけ〟

旅行事業の基本方針や特徴は?

 当JAの旅行事業の推進体制は、職員から組合員等の利用者への声かけや、利用者から知り合いへの声かけ(口コミ)を一番大切に考えている。
 実際に旅行後のアンケートでJAの旅行の参加動機を聞くと、「JAの役職員に誘われたから」という回答が最も多い。体力に自信が無い、海外旅行をしたことがない、というお客様こそ、地域の仲間と行くJA旅行の安心感を前面に出して誘うようにしている。
 また旅行にはなるべく役職員を同行させ、参加者とのコミュニケーションを図っている。JA職員が同行する安心感に加え、「同じ釜の飯を食う」ことにより絆が深まる。JAの事業利用率向上にもつながっている。
 海外企画は平成16年に中国へのチャーター便「さがえ西村山の翼」を実施して以降毎年実施しており、例年100名以上の参加をいただいている。
 令和元年度はJAの合併25周年にあたり、旅行先をハワイに設定して多数の申し込みをいただいた。
 今年度募集する予定だったギリシャへの旅はコロナウイルスの影響で実施を見送るが、来年度に向けての早期販売(定期積金)を予定している。
 また、組合員中心の大型企画として平成6年から歌謡ショーと温泉を組み合わせた旅行を実施している。令和元年度は南三陸温泉に宿泊する企画を立て、約550名の参加をいただいた。

都市・地域住民のつながり深める「周年観光農業事業」

 当JAは「日本一さくらんぼの里」としてさくらんぼ狩りをはじめ、イチゴ、ブルーベリー、ラ・フランス、りんご、柿等、周年的に果実狩りで人を呼び込む「周年観光農業事業」も積極的に取り組んできた。
 行政や管内の観光協会と連携した周年観光農業推進協議会の事業活動は、交流人口拡大による地域活性化に大きく貢献している。受け入れる側でも地域住民を巻き込むことで、都市住民と交流を深めるだけではなく、地域住民とのつながりも深めている。
 地域の小中高生を対象とした収穫体験も実施し、各種イベントと組み合わせて毎年出来秋には「食と農の交流会」を実施し、食と農に対する理解を深めている。
 さらに次世代対策として小学生を対象とした子ども向けツアー「キッズくらぶ」の取り組みや、退職したての地域住民を対象とした「客船クルーズ」の企画等、幅広い年齢層に受け入れられるよう、多彩な企画を実施している。

 

全戸訪問で得た要望を部門横断的に検証

これらの旅行事業を支えるものは?

 JAが関係する組織にご利用をいただいているが、そこからの紹介や口コミがきっかけで様々なJA事業を利用いただいていると聞く。
 ひとつひとつの仕事で満足をいただければ、事業拡大につながると信じている。そのためにも職員には利用者の声に耳を傾け、工夫を凝らすように指導している。
 また、組合員や地域住民との接点を強化するため、毎月第3土曜日に全職員で全戸訪問を実施。広報誌「さがえ西村山通信」を持参しながら情報提供しつつ、組合員からの意見や要望を聞き取っている。
 その結果を各部署部門間で横断的に検証・対処することで組合員の負託に応じることにしている。訪問活動は労力がかかるが、それ以上の波及効果が各事業に還元されていると実感している。

 

コロナ禍だからこそ安全・安心な旅行確立を

周年企画はどんな取組みでしたか。

 合併25周年旅行は、地域への存在感を出すこと、様々な事業に広く波及することも意識して募集した。旅行初心者からリピーターまで幅広い方に参加いただけるよう、旅行先をハワイに設定したところ、計画以上の138名に申し込みをいただいた。
 満足度を重視した価格に設定し、割引感のある定期積金の設定や、同行する職員が声かけしやすいようQ&Aも作成し、「差別化とこだわり」や「JAにしかできない演出」等を重視した。
 旅行を成功させるためには参加者への声かけが必要不可欠だ。旅行事業の主幹部署である経済部、旅行センターだけではなく、各営農センター、各支所と連携し、JA全体として取り組んだ。
 ツアーが成功した要因は、部門を超えて多くの人が関わり、JA全体で一体的にツアーに取り組んだことが大きいと考えている。
 参加者からは、品質や役職員同行による安心感、演出や細かいサービス等について好評をいただいた。次回を期待する声も多いため、今後も継続していきたい。

今後の旅行事業は?

 新型コロナウイルス感染症の影響が旅行事業にも大きな影響を与えているが、このような時だからこそ、安全・安心なJAの旅行スタイルを確立して、組合員を案内したい。
 周年観光農業事業も積極的に取り組み、今後は農協観光と連携して新たな滞在型・着地型の魅力ある商品開発を行い地域振興につなげていきたい。
 旅行事業はJAのファンづくりだけではなく、旅行事業で生まれた絆が各事業に波及し循環が生まれる。今後も組合員に必要とされる信頼のあるJAを目指して積極的な提案を行っていきたい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと JAにおける旅行事業の役割
 山形県 JAさがえ西村山 代表理事組合長 安孫子常哉 氏

■JA全農 2020年度事業のポイント〈園芸事業〉
 JA全農 園芸部 神林幸宏 部長

■夏秋期に向けた野菜の病害防除
 農研機構野菜花き研究部門 野菜病害虫・機能解析研究領域 寺見文宏 氏

■夏秋期に向けた野菜の虫害防除
 農研機構野菜花き研究部門 野菜病害虫・機能解析研究領域 豊島真吾 氏

行友弥の食農再論「グリーンリカバリー」

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