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日本農民新聞 2020年7月5日号

2020年7月5日

馬場利彦日本協同組合連携機構(JCA)代表理事専務第98回国際協同組合デー
記念インタビュー

-ウィズ・コロナの時代-
いまこそ協同組合の連携を力に

日本協同組合連携機構(JCA)
代表理事専務
馬場利彦 氏


労働者協同組合法の実現に向けて

まず、労働者協同組合法案が国会に提出されたことへの思いから。

 6月12日に、労働者協同組合法案が与野党全会派の賛同を得て衆議院に提出された。関係者の長年の課題であった協同労働の法制化が、次期国会で成立の運びとなったことは、日本協同組合連携機構(JCA)としても本当にうれしい。

 この法案の第1条では、「組合員が出資しそれぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、自ら事業に従事することを基本原理とする」と規定。そして「持続可能な活力ある地域社会の実現に資する」事業を行うことを目的としている。SDGsの時代に、こうした文言を法律目的に掲げたのは、世界的にも、わが国にとっても画期的なことではないか。

 欧米はじめ世界的には労働者協同組合に関わる法律があり、様々な取り組みが行われているが、日本では分野ごとに個々の協同組合法が分立しており、労働者協同組合を位置付ける法律がなかった。そこで日本労働者協同組合(ワーカーズコープ)はこれまで、他の法人格を活用しながら、介護・福祉や子育て支援、困窮者・障がい者・若者の自立支援、農作業分野の支援も含めて、地域や人びとの困りごとを解決してきた。持続可能で活力ある地域社会を実現するためには、それに適した制度や法人格を選択できることが重要で、出資・意見反映・労働が一体となった協同組合組織を、地域課題を解決するための非営利の法人として設立できる新たな法人形態を法制化する必要があった。

 労協法の制定は、「持続可能な地域のよりよいくらし、仕事づくりに貢献します」というJCAの目的とも重なる。まさに、農林漁協や生協を含めた種々の協同組合と労働者協同組合の連携で、地域課題を解決する協同組合の可能性を広げていくものだと思っている。我々としても、協同組合連携の幅広い領域の拡大を追求していきたい。

ここに至るまでの経緯を。

 超党派の協同組合振興研究議員連盟(会長:河村建夫衆議院議員)の3月の議連総会で法案がとりまとめられ、さらに超党派での議論と各党の承認を経て今日に至った。偏に関係する先生方のおかげだが、20年以上にわたり法案制定をめざす活動を続けてきた日本労働者協同組合連合会(ワーカーズコープ)、WNJ(ワーカーズ・コレクティブネットワークジャパン)はもちろん、わが国の協同組合全体にとっても本当に画期的なことだ。

 JCAとしても、昨年、法案の骨子が出来たときには賛同文書を出したが、今年3月の議連でのとりまとめを機に、早期成立の要望を表明し、いち早く働きかけをしてきた。

JCAとしての取組み方向は。

 新型コロナウイルス感染拡大で地域社会の疲弊がより深刻化するなかで、農協や生協の組合員などのなかで、地域の課題をみんなで解決しようという動きがより広まるであろう。労働者協同組合法が成立すれば、その法人格としての協同組合ができるわけで「小さな協同」をつくる運動でもある。それを農協や生協のような「大きな協同」が支える意味でも、協同組合間連携の輪を広げていかなければならない。

 地域では、様々な取組みが展開されている。広島市では農協組合員が中心となった組織が、遊休農地の再利用や墓掃除などを行なったり高齢者の困りごとを福祉協議会などにつないで解決したりしている。地域の困りごとを農協や生協のボランティア活動で支援する組織は各地に広がり、また廃止されたJA店舗で直売・産直市や食堂などを行なっているグループも存在する。

 そうした地域の拠点づくりに取組む小さな組織が、必要であれば法人格を持てる選択肢ができる。地域の課題解決に小さな協同の輪を広げ、それを農協や生協が支えていく。地域では〝コロナ後〟もさらに多くの課題が出てくるだろう。それらの解決も含めて、地域のよりよいくらしと仕事づくりに協同組合が連携して役割をはたすことができるような取組みを広げていきたい。

98回目を迎えた「国際協同組合デー」

改めて「国際協同組合デー」の意義を。

 世界の協同組合運動の発展を祝い、さらなる前進を誓い合う「国際協同組合デー」は、毎年7月の第1土曜日と定められており、今年で98回目を迎える。

 ICA(国際協同組合同盟)が設立されてから、今年は125年に当たるが、100年目の1995年から国連の国際デーの一つとして認定されてから26回目となる。

 今年の世界共通のテーマは、「協同組合の力で気候変動に立ち向かおう」。気候変動の影響を緩和するために具体的対策を講じるというSDGsの13番目の目標に依拠している。近年、地球温暖化等による異常気象が世界的に多発し、人々の存続すら脅かされている。これに世界全体で立ち向かうことは、まさに持続可能な社会をめざすことだ。

 協同組合自身の取組みを確認し、SDGsの学習を含めた、協同組合の組合員自身の地域環境問題への再認識の契機とし、さらに具体的な取り組みを広げていく日としたい。

 また、日本独自のサブテーマとして「アイデンティティとSDGsへの貢献」を掲げた。ICAは1995年に「協同組合のアイデンティティに関する声明」を発出し、協同組合の定義や価値を再提起した。来年には、韓国・ソウルで設立125周年を記念するICA大会の開催が予定され、そのテーマとして「協同組合のアイデンティティを深める」が掲げられている。

 協同組合のアイデンティティは、SDGsの達成そのものでもある。JCAとしても、気候変動の対応を含め協同組合らしさを再確認しながらSDGs達成に貢献していくことを確認し発信していくことを、同大会で披歴したいと考えており、これを念頭においたサブテーマとした。

 とくに、今年は〝コロナ禍〟のなかで、医療はじめ福祉や介護、安全・安心な農産物の生産や供給等、様々な分野で協同組合としての懸命な努力が続いている。それはとりもなおさず持続可能な社会への貢献であり、協同の価値を広げていくことにも通じる。持続可能な地域の発展に資する組織としての協同組合のアイデンティティを改めて確認したい。

 今年は、全国段階で関係者が一堂に会しての記念集会は出来なくなったが、7月4日には、JCAのwebサイト内の特設ページに記念のプログラムをリリースする。情勢報告や記念講演、そして全国の協同組合の先進的な取組み報告のビデオを掲載する。関連資料も順次アップしていくので、ぜひ活用いただきたい。

JCA「2030ビジョン」策定へ

JCAの中長期的取組みは?

 「協同組合間の連携の促進」がJCAの〝一丁目一番地〟。発足して2年、連携による地域の課題解決の取組みを推進し、各県域での手ごたえを感じている。SDGsの動きが高まるなかで協同組合の価値を再確認しようという動きも各地域で出てきている。

 そのなかで、一つの協同組合では解決できない課題を協同組合同士が集まり連携して解決していこうとする場もできつつあり、北海道等ではプラットフォーム的な協同組合のネットワークが立ち上がっている。

 我々としては、そうした動きも踏まえながら、協同組合同士からさらにNPOや行政も含めてウイングを広げ、パートナーシップで課題を解決するような取組みをすすめていくことが重要と考えている。

 SDGsや〝ウィズ・コロナ〟時代に、メインプレーヤーとしての協同組合の存在を高めるようにすすめていかなければならない。

 ICAが「2030ビジョン」を策定したように、発足3年後の来年度からJCAとしても「2030ビジョン」と中期計画を打ち出すべく、組織協議を開始したところだ。

 その大前提が、協同組合がパートナーシップを強めウイングを広げていくこと。ビジョンのテーマを「協同をひろげて、日本を変える」とした。これくらい大上段に構えないと、これからのアフター・コロナの時代は乗り切れない、という意気込みを込めた。未来の分岐点だからこそ、いま「協同をひろげる」ことをめざす意義がある。

 JCAは、研究機関であると同時に運動体でもあることから、サブタイトルを「『学ぶ』と『つながる』プラットフォームとして」とした。協同組合同士や他のセクターとも連携して地域の課題を解決するプラットフォームとして、事業連携の具体化、深掘りをして横展開していくことが課題だ。

 同時に、協同組合の認知度を上げていくことも重要だ。「協同組合」とは何かを知らない人も少なくないなかで、認知度を向上していくためには、協同組合に関わる全てのひとが、自ら学んで発信していかなければならない。

 協同組合らしく「人とのつながり」を積み重ね、組合員・地域住民はもとより協同組合間連携のもと、地元企業やNPO・行政など多様な関係者とともに、様々な地域課題の解決をめざす「協同のプラットフォーム」として、「協同をひろげる」ことをすすめていきたい。

2030ビジョンを踏まえた来年度からの中期計画案は?

 2030ビジョンの実現に向けての戦略は3段階で考えている。2021~23年度の第1期では、相互理解と連携を通じて共通課題を探り、24~26年度の第2期では、それを共有化し実践・連携するなかで会員論議を通じて見直し・豊富化し、27~29年度の第3期での実現をめざしていく。

 来年度からの第1期の取組みの柱は、次の3点に集約される。

 まず第一に、「協同をひろげて、地域と日本を変える」を話し合う『ラウンドテーブル(円卓会議)に取組む』。地域課題について気軽に話し合う場として取組み、可能な課題から連携・実践をすすめること。JCAは、これまで各県域などで開催してきた地域づくりに関する学習会の経験を踏まえ、具体的な進め方の提案やフォロー、成功事例の共有などを行なっていきたい。

 第二に、このラウンドテーブルの経験を通じ、全国・県域・地域における協同組合間や他セクターとの連携を有機的につなぐ『「プラットフォーム」としての役割・機能を充実』すること。そのため、プラットフォーム的に役割を発揮している連携組織の取組み、各地で展開されている地域共生や地方創生に関わる官民プラットフォームの取組みなど、地域づくりの調査・研究と推進をはかりたい。

 第三に、協同の価値を広げるための『ポリシーづくり、人づくりを進める』こと。そのため、連携促進の基盤として相互理解や社会的理解を深めるため、基礎統計を含めた「協同組合白書」を作成し内外に発信していきたい。また、社会の持続可能性について、協同組合に共通する取組みを調査・検討し、「協同の価値」を広げるパブリシティ・社会的発信を強化したい。さらに、労働者協同組合法の制定や社会づくりへの関与を踏まえた法制度や、協同組合振興のための法制度のあり方についての研究・提言をすすめる。

 そして、何よりも人づくり。第1期では、人づくりにかかる会員ニーズの把握と課題整理を行って、協同を支える組織の活性化や人づくりについて交流をすすめていきたい。

 以上、3つを柱とした中期計画と2030ビジョンについて、組織協議で具体的なご意見を伺い、来年度からのスタートをめざしたい。

〝アフター・コロナ〟と協同組合

最後に、〝コロナ禍〟での協同組合の役割・あり方について。

 〝今だけ、カネだけ、自分だけ〟の自己中心の利己的行動だけでは済まされない事態に直面した、とつくづく思った。自分が頑張ることで周囲の人々も一緒に幸せになれるという意味での「利他心」、命と社会を支える関係者への感謝、外出自粛で困窮する人々への支援など、利他に基づく行動によって、日本はなんとかコロナの危機を乗り越えようとしているのではないか。

 ある面では、日本人の特有の良さを思い出させてくれた出来事かもしれない。そうした協同の心と日本人のDNAを、今度は形にしていかなければならない。

 アフター・コロナの時代、さらなる経済的な分断、格差の拡大、社会的孤立が加速し、地域が疲弊し失業者が増える状況も想定される。

 それをいかに乗り越えていくか。労働者協同組合法に基づく活動もその一つの形となるだろう。協同組合間連携という形で地域の課題を解決することは、まさにアフター・コロナ時代の共通認識となっていくのではないかと思うし、それが協同を広げ、日本を変えていくことにつながっていくことではないかと思っている。


第98回 国際協同組合デー
JCAがWebサイトで講演や事例報告

 国際協同組合デー(毎年7月の第1土曜日)の7月4日、JCAは、新型コロナ感染拡大防止のために、毎年協同組合フォーラムと開催していた記念中央集会に代わり、webサイト内の特設ページに、記念講演や事例報告等をリリースした。
 ICAは、今年の国際協同組合デーのテーマを「協同組合の力で気候変動に立ち向かおう」と設定。2021年に開催予定の韓国・ソウルでの世界協同組合大会のテーマ「協同組合のアイデンティティを深める」を踏まえ、日本は独自のサブテーマとして「アイデンティティとSDGsへの貢献」を掲げた。
 JCAでは、「新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の危機を乗り越え、気候変動への対策を含めて持続可能な社会を創出していくため、協同組合のアイデンティティ、協同の力を再確認していく機会としたい」と、活用を呼びかけている。


〈本号の主な内容〉

■第98回国際協同組合デー
 記念中央集会をWebページで公開
 労働者協同組合法案 超党派で衆院提出

 記念インタビュー
 -ウィズ・コロナの時代- いまこそ協同組合の連携を力に
 日本協同組合連携機構(JCA)
 代表理事専務 馬場利彦 氏

■全国農協カントリーエレベーター協議会 総代会
 優良農協CE表彰 農水大臣賞は筑前あさくら・昭和CE
 令和2年度 麦のカントリーエレベーター品質事故防止強化月間

■JA全農 2020年度事業のポイント
 〈総合エネルギー事業〉
 JA全農 総合エネルギー部 和田雅之 部長

■イネいもち病 話題と防除対策
 農研機構 中央農業研究センター
 芦澤武人 氏

蔦谷栄一の異見私見「期待したい『農林水産省環境政策の基本方針』の全面展開」

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