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日本農民新聞 2020年5月21日号

2020年5月21日

農水省平形雄策政策統括官付農産部長「米政策の方向」アングル

令和2年産米をめぐる情勢と
米政策の方向

農林水産省 農産部長
平形 雄策 氏

 新型コロナウイルス感染症が世界中で拡大し日本にも甚大な影響が生じている中、農業生産現場では、令和2年産米の田植え時期を迎えている。新たな食料・農業・農村基本計画1年目にあたる今年度の米・麦・大豆政策にも影響を及ぼすことが予想される中、農林水産省の政策統括官付農産部長・平形雄策氏に情勢と政策のポイントを聞いた。


コロナ禍でも食料安定供給を

米麦をめぐる情勢・課題認識は?

 新型コロナ対策に国を挙げて取り組んでいるが、我々として最も気にかけていることは、食料の安定供給だ。

 米については政府備蓄約100万tに加え、民間の出荷・販売段階では3月末で234万tの在庫があり、供給量として十分なレベルにある。食料・農業・農村政策審議会食糧部会で3月に改定した「米穀の需給及び価格の安定に関する基本指針」では、6月末の民間在庫は187万tと見通している。相対取引の価格も1万5750円前後と安定している。

 麦については、昨年産は豊作だったが、小麦は8~9割が輸入なので心配される向きがあるかもしれない。しかし、日本が輸入しているのは、半分強を占めるアメリカとカナダ、オーストラリアの3か国で、これら主要輸入国で現在輸出規制を敷いている国はない。また、輸入小麦は、2.3ヶ月分(約93万t)の民間備蓄を確保しているので、量的には心配ない。

 ただ、米は、2月の休校要請や3月の外出自粛要請が出た後に、一時的にスーパー、小売店で欠品や品薄な状態が見られた。給食・外食向け需要が急激に減少する一方、家庭での需要が急増したためだ。当省からも、状況に応じた供給を卸・小売に要請してきたが、みなさんのご尽力でその後小売りは落ち着いてきた。

 小麦も、小麦粉やホットケーキミックス粉等への需要がゴールデンウィーク前頃から急増し、現在も欠品や品薄な状態にある。需要の急増に製造が追いついていないためで、原料は十分にあるので、落ち着いた購買をお願いしたい。

 このような状況の下、精米・製粉、流通・販売のみなさんに大変なご尽力をいただき、まずまず安定供給が図れていることに、感謝申しあげたい。

 一方、米の需要が毎年10万t単位で減少している傾向は残念ながら続いている。これを見越せば、今年も、主食用米の過剰生産・過剰仕向けは避けなければならない。

 2月末時点の作付意向調査では、主食用米は41県が昨年同水準で、減少は6県にとどまる。このままでは生産過剰になるおそれが強い。

 「米に関するマンスリーレポート」で在庫状況を毎月報告しているが、前述の民間在庫234万tは前年をかなり(7万t)上回るペース。また、米穀安定供給確保支援機構が発表している、米取引関係者の判断に関するDI調査でも、今後3か月の需給を「緩む」と見ている関係者が多い。

 田植えの時期になったが、米粉用、飼料用、加工用や輸出向け等、非主食用に仕向ける方法はある。地域、地域でよく状況を見て、需要に見合った生産を行うことが、農家所得を確保する上で最も重要と考えている。

米消費拡大へ健康機能性訴求も

新たな食料・農業・農村基本計画で、米麦に関するポイントは?

 基本計画は、食料安全保障の確保という考え方が一貫している。

 米については、まず、消費拡大に取り組むことが重要だ。年齢層別にみると、近年、若い層より50代以降で消費量の減少傾向が強い。体調管理を気にして控えているようだ。そこで、健康の面から米の機能性をもっと訴求し、和食も含めた米の良さを再認識してもらえるような情報提供を行っていく。

 生産面については、基盤整備はもちろん、多収品種の導入やスマート農業の新しい技術の普及等により、生産コストを下げていく必要がある。

 事前契約、複数年契約の取り組みも重要だ。ポジ配分がなくなった現在、安定した生産には、取引先との結び付きが不可欠だ。安定した契約関係の下で、取引先の需要(量、価格帯)に応えた米を作ることが、需要に応じた生産の本質だと思う。

 一方、国産の麦・大豆への需要はいよいよ回復してきている。こちらも実需との連携の下、意欲ある産地に施策を集中したい。特に、作付け拡大が見込める水田の汎用化や排水対策の実施、作付けの連坦化・団地化、ブロックローテーション等を推進したい。さらには、輸入が多い加工・業務用野菜等の高収益作物への転換も促進する。

 いずれも、産地の作物選択を容易にし、産地が選んだ品目を支援できる施策体系としたい。

経営として所得を上げる水田活用に

令和2年度の政策の方向を。

 米政策改革の定着に向け、なんといっても、「需要に応じた生産」が重要だ。主食用米に限らず、麦・大豆、米粉や飼料用米等においても同様だ。

 令和2年産では、「水田活用の直接支払交付金」は戦略作物の生産拡大に対応できるよう3050億円を計上した。

 その中で、主食用米を減少させ転換作物を拡大させた場合に配分する「転換作物拡大加算」(深堀支援)は1万5000円/10aに引き上げた。

 さらに、高収益作物、加工用米、新市場開拓米等に転換した場合に加算する「高収益作物等拡大加算」も3万円/10aに引き上げた。

 いずれも、地域農業再生協議会ごとにみることとした。都道府県単位でみると、個々の地域の努力が減殺される面があったためだ。

 これらと経営所得安定対策のゲタ対策・ナラシ対策を併せて実施することで、主食用米以外の作目を選択しても、水田農業経営全体として安定的に所得を上げていけるよう仕組みを作っているので、しっかり活用して需要に応えた生産を実現していただきたいと思う。

農産物検査制度を時代に合わせ見直し

農産物検査制度の見直しが議論されているが。

 昭和20年代から国で行ってきた農産物検査は、平成12年に民営化を開始し、18年4月で完全移行した。

 その後、28年決定の農業競争力強化プログラムの中で、農産物の規格については「流通ルートや消費者ニーズに即した合理的なものに見直す」とされ、29年の競争力強化支援法に従って、流通の実態や消費者の需要に即した合理的なものになるよう検討を進めてきた。

 具体的には、「農産物規格・検査に関する懇談会」で関係者の意見を伺いながら昨年3月にまとめた「中間とりまとめ」に沿って、例えば、人の五感で行ってきた検査に穀粒判別器を活用できる項目がないか、その場合の鑑定方法、機器に求められる性能等について、専門的な検討を進めてきた。また、検査事務の簡素化にとどまらず、検査規格自体も現状に照らした見直しを検討してきた。いずれも、結論が得られ次第、具体的な見直しを順次実施している。

 規制改革会議では、農産物検査について当省からのヒアリングが今年3、4月に2回行われた。

 当省としては、これまで重ねてきた検討を踏まえ、合理的な見直しは進める考えだが、大事なことは、生産や流通が滞ってしまうようなことがないよう、議論していくことだと考えている。

主食の自給に心強さと感謝

生産者、JAグループ等へのメッセージを。

 需要に応じた生産と何度か申し上げたが、地域の生産者の意向を踏まえながら、売り先を考えて産地で作物を決め、有利販売に取り組むことは、JAグループならではの機能だと思う。生産者や産地のため、今後も機能を発揮いただきたい。

 主食がほぼ自給できているということは、新型コロナ感染症の影響が拡大しているこのような時には、心強い。大変な状況下でも食料を安定的に生産されている生産者のみなさんには、一国民として大変感謝している。流通における全農・経済連、卸等の調整機能も安定供給には欠かせない。

 JAで営農指導や販売事業に携わっている方々に向けては、何をどれだけ作って、どこに売るかが生産者の所得の確保と経営の安定につながるもので、うまくマッチすることが、生産者・消費者の双方にとって一番WIN-WINなことだと思う。大変な仕事だが、活躍を期待している。


〈本号の主な内容〉

■アングル
 令和2年産米をめぐる情勢と米政策の方向
 農林水産省 農産部長
 平形雄策 氏

■令和元年度 JA共済優績組合 決まる
 JA共済大賞に輝いた、JA会津よつば(福島)、JAいるま野(埼玉)、JAぎふ(岐阜)の取り組み
 JA共済優績組合一覧

行友弥の食農再論「不要不急」

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