〈本号の主な内容〉
■このひと
普及指導員の役割と普及事業のこれから
(一社)全国農業改良普及支援協会 会長 別所智博 氏
■JA全農 輸出事業の取組み
JA全農 輸出対策部 原川竜也 部長
■TAC・出向く活動パワーアップ大会2025
TAC部門 全農会長賞を受賞した、和歌山県 JAわかやま ながみね地域本部 しもつ営農生活センター主任 土谷賢太郎氏に聞く
■施設果菜類の病害防除対策
農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域
生物的病害虫防除グループ長 窪田昌春 氏
■施設果菜類の虫害防除対策
農研機構 植物防疫研究部門 作物病害虫防除研究領域
生物的病害虫防除グループ グループ長補佐 村上理都子 氏
■トマト・キュウリ サミット 9.5
~いろいろな経験談と失敗談の中から 夢を叶えるヒントを見つけよう~
全国野菜園芸技術研究会、トマト・キュウリ サミット実行委員会が2月27日(金)に神奈川県下で開催へ
このひと
普及指導員の役割と普及事業のこれから
(一社)全国農業改良普及支援協会
会長
別所智博 氏
各県職員として配置されている普及指導員(実務経験中職員等含む)は、地域農業の振興に欠かせない存在だ。新たな食料・農業・農村基本計画に合わせて昨年4月、「協同農業普及事業の運営に関する指針」が改訂された。全国約7000人に上る普及指導員の役割と今後の普及事業について、全国農業改良普及支援協会の別所智博会長に聞いた。
みどり戦略、地域計画等 課題解決に役割担う
■協同農業普及事業の現状と課題は。
協同農業普及事業は非常に長い歴史と伝統を持つ制度だ。近年、この事業を取り巻く状況が大きく変化し、対応を迫られている。
国の政策では、食料安全保障の確保に向けた政策が体系的に整備されてきた。特に技術面では、「みどりの食料システム戦略」により、農業の生産性向上と環境保全の両立が求められるようになり、生産性や省力性の向上に向けて、スマート農業技術活用促進法に基づき、スマート農業技術の研究開発や生産現場での利用拡大の推進が打ち出されている。
生産現場では、農家数が減少を続ける一方、農業法人などの大規模な担い手が増えつつある。当協会としては、農研機構や民間企業などにより開発された新たな技術が、これからの担い手に活用されるよう、それらのヨコ展開をしっかり支援したい。
また、将来を見据えた地域農業の設計図を提示する地域計画(地域農業経営基盤強化促進計画)が、いま注目されている。農地の集積・集約や、後継者のいない土地の利活用といった課題を地域ごとに洗い出す有益な取組みだ。農地の所有関係や離農後の土地の扱いなどの課題を踏まえ、より生産性の高い、適切な農地利用に向けて地域農業の姿をどう構想し、実現するかが問われており、普及組織の役割も重要だ。
日本の農業を活性化するうえで、輸出振興も大きな課題だ。海外市場も視野に入れた農業生産の推進が求められる時代となっている。
こうした農業をめぐる政策課題の解決において、普及事業は地域農業を支えるために中心的な役割を担っていく必要があると考えている。
シニアと若手に二極分化 人材育成も焦点に
■普及事業をめぐる具体的な変化と、その対応は。
かつては国の研究機関と都道府県の試験場が開発した新技術や新品種を実証し、現場でのヨコ展開を支援していくのが普及指導員の主な仕事だった。いまも農研機構などの公的研究機関の役割は大きい。同時に、スマート農業のデータ分析システムや農機の自動化、ドローンの農業活用などで、民間企業が技術開発に関わる部分も拡大している。
農業法人の大規模化などの農業構造の変化とともに、法人が大学や試験研究機関と直結し、積極的に技術開発や現場導入に関わるようになった。普及事業も、技術開発の主体や社会実装ルートの変化を的確に捉え、対応しなければならない。普及指導員は、新技術などの情報を多様な対象から幅広く収集する必要があり、そのような情報を大規模法人にも的確に提供できれば、法人側にもメリットが出てくる。
新規就農も、家業の継承から農業法人への就職に比重が移ってきている。就農教育機関としてトレーニングファームを整備する都道府県が増え、多くの普及指導員が関わっている。特に、農業以外の分野から就農する者へのサポートが重要な課題だ。
このような研究開発主体の多様化や農業構造の変化に対応しつつ、普及組織が政策課題の解決に向けた活動を効率的に推進できるよう、情報提供やネットワーク化による相互連携を進め、日本の農業をしっかりと支えることが当協会の重要な目的だ。
一方で、全国に約7000人いる普及指導員の年齢構成は、シニア層と若手が多く、中間の年代が少ない二極分化構造となっており、ベテランの方々がリタイアした後の若い世代の育成、普及技術の継承が焦点になる。このような人材育成上の課題への対応も支援していきたい。
気候変動への対応 品種改良や安全啓発も
■夏の猛暑など気候変動への対応は。
近年の著しい高温化で、稲作をはじめ作物生産の現場は苦労されており、高温耐性品種の導入や追肥の工夫等で改善を図ってきた。コメに限らず、環境変化に対応した品種の改良と普及、それに伴う栽培管理方法の見直しなどが必要になっている。県によっては、果樹など、より暖地に適した作物を新たに産地化する取組みもなされている。新品種や新規作物の導入に際しては、栽培方法のポイントを押さえた指導が重要となり、普及組織にはその役割を果たすことが求められる。産地間、都道府県間の連携も重要であり、そのような視点からも当協会として関わることができる。
また、夏の猛暑により、労働環境が過酷化しており、熱中症の未然防止も重要だ。熱中症だけでなく、農作業の事故全般に対応していく上で、作業者の安全管理、危険個所の点検・改善や、農薬・農業機材等の適切な管理・整備など、GAP(農業生産工程管理)の果たす役割が大きい。当協会ではGAPの普及や指導者の育成にも取り組んでおり、それらを通じて支援に努めていきたい。
「指針」改訂のポイント 市場ニーズを産地に反映
■「協同農業普及事業の運営に関する指針」改訂のポイントは。
新たな指針はまず担い手の育成・確保を基本的課題に掲げ、さらにスマート農業技術、みどりの食料システム戦略の推進など重要な政策課題について、普及指導活動の役割を位置付ける内容となっており、当協会も指針を踏まえた対応が求められている。
また、マーケットインの生産体制構築に向けた努力、すなわち売れる作物・商品をいかに作り、農業者の所得を上げていくかという課題も挙げられている。普及事業で連携する相手として、試験研究機関や農業者のみならず、食料システムを担う流通等の事業者も想定している。事業者のニーズを産地に的確に反映させ、農産物の付加価値向上を図る視点は重要だ。
「EK-SYSTEM」等 多角的に情報提供
■普及指導員に対する支援は。
普及事業は国や都道府県の課題解決を担っており、単なる技術の普及にとどまらない。普及指導員にとって、行政が導入した制度を活用し、地域農業の発展に寄与することも重要な役割だ。
他方、そのような役割の多様化から普及指導員の忙しさが増している。当協会は、普及情報システム「EK-SYSTEM」によって普及組織の情報収集や相互の情報交換の効率化を図り、また、民間企業が開発した肥料や農薬、生産資材、農機等の技術をカタログ化するなど、多様な情報を普及指導員に届ける事業を展開している。ベテランが若手に継承する普及技術などについては、月刊誌「技術と普及」に記事を掲載したり、動画で提供したりもしている。忙しい普及指導員の負担をできるだけ少なくできるよう、情報提供や全国的なネットワークを通じて支援を充実していく。
民間による支援事業 サービス協会とも連携
■民間事業者による農業支援との連携は。
スマート農業を導入する際の機材供給や作業の受託、データの収集・分析など幅広い支援サービス事業が創出されてきている。農業サービス事業体を現場で活用する有用性等を農業者に伝え、支援サービスが広がるようにすることが重要だ。(一社)農林水産航空・農業支援サービス協会との連携も必要だろう。


