日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2025年12月5日号

2025年12月5日

〈本号の主な内容〉

■このひと
 4Hクラブと私
 全国農業青年クラブ連絡協議会(4Hクラブ)
 会長 前田彩花 氏

■JAグループ令和8年度
 畜産・酪農対策に関する政策提案
 生産資材価格の高止まり、和牛枝肉価格や生乳需要の低迷など重なり
 「生産基盤の弱体化に拍車をかける危機的な状況が続いている」と

■第4回 JAバンク経営者フォーラム開く〈農林中金〉
 JA仙台、JA土佐くろしお、JAグリーン近江、JA淡路日の出、JF一宮町が発表

蔦谷栄一の異見私見「協同運動の本質を穿つJAグループ米事業見直し」


 

このひと

 

4Hクラブと私

全国農業青年クラブ連絡協議会
(4Hクラブ)
会長

前田彩花 氏

 

 4Hクラブの新会長に前田彩花さん(鹿児島県イチゴ農家)が就任した。20~30代の若い農業者が中心となり、経営や技術などを研鑽する活動を行なっている4Hクラブは、創設から70年の歴史を有し、全国に630クラブ、約9000人のクラブ員を擁する全国組織。約30年ぶりの女性会長として、これからの4Hへの思いを聞いた。


 

いろいろな人と出会える〝農業の小学校〟

会長としての抱負から。

 クラブ員のみなさんが農業をやって良かったと思えるようなことを提供できる組織にしたい。様々な農業のやり方があるが、「私はこういう人生を歩みたい。そのための手段として農業を選んで、今、すごく楽しい」。こんなふうに、農業を選んだから自分の思い描いた人生を実現できていると思える組織、また農業にしていきたいと思う。

 クラブ活動で、色々と考えるきっかけとなる材料を掴み、経営に活かされ、それが自分の描いた人生に繋がっていく。そういう場を提供できればいいなと。

 まずは、クラブ員自身が自分の農業経営をどれだけ把握しているか確認することが大切だと思っている。経営を良くする具体的な話し合いの第一歩になるからだ。

 単年度の活動だけではない、マニュアルの作成も手掛け始めている。様々な仕事を経験されてから農業を始めた人にも参加してもらい、純農業者にはない意見を取り入れながら進めている。

 私は、4Hクラブは〝農業の小学校〟だと思っている。しっかり農業のビジョンを持っている人も、親が農業をしていたから何となくという人も、農業自体が好きというわけではなく生活するための手段として農業を選んだ農業者もいる。色々な農業のあり方に触れられるのが4Hの魅力であり、年齢層が低いという点で、色々な人と出会う中でそのクラブ員自身の可能性を広げられる場所。幅広くどんな人にも、構えることなく話が聞ける。

 4Hの役割を考えるとき、クラブ員の拡大も大切だが、多いからいいというわけではないと思っている。〝幽霊部員〟が増えると、活動の意思疎通がとれなくて動きにくくなる。みんなに浅く広くの活動をする一方で、各作物別に分かれた活動など、小さくとも特化した活動の場もたくさんつくるべきではないか。

 

コロナで活動の役割を再点検

これまでの活動を振り返って。

 就農して2年目に入会したが、それまでの1年間は自力で情報を集めようとするも、なかなか集まらず、外の情報が欲しいと思っていた。そのとき、知り合いから若手農業者の集まりがあるよと聞いて入会した。

 県域の会長を務めたのがちょうどコロナ2年目の時で、1年目は行事が全部中止になっても仕方がないで通っていたが、2年目になり、今できる最善の形は何かを模索した結果、オンラインで活動を続ける方向で色々と話し合った。それが改めて、そもそもの4Hの活動を原点から考えるきっかけにもなった。その頃、ネット上での会議や活動が当たり前ではなかったため、対面で交流ができないのなら交流の意味がないという反対意見もあった中、「今後コロナのような異常事態が起きた際はもちろん、通常に戻った際も必ずオンライン上での運営や活動が必要になる」ということを信じて、組織の本当にするべきことを優先させたことがよかった。

 4Hに入って2年目だったが、女性理事として全国の役員になり、そのあと事務局次長で2年。県の会長に就任するタイミングで2年間離れたが、コロナが落ち着いてリアルでイベントを再開しようとなったとき、応援として1年間次長として戻り、そのまま副会長を2年務め会長になった。

全国の会長を引き受けたお気持ちを。

 これまで先輩にいろいろよくしてもらった恩返しの気持ちが大きい。私が全国に友達が欲しいといっていたら、全国の理事さんが地元にいて、全国大会に誘われそのまま次期の役員を依頼された。普通は県の役員などしっかり段階を踏んでからなので、かなりイレギュラーな形となった。

 役員1年目は全てにおいてよくわからないからこそ、4Hクラブがわからない人でも活動内容が把握できるホームページにするなど、情報発信に取り組んだ。

 その他にも、国際交流関係など、家と農場の往復だけをしていたらできなかったことを担当させてもらい、色々と考えることが出来て感謝している。

 

農産物の価格認識を根本から変えるとき

今、農業の現場から思う課題は?

 農産物の価格が農業全体のイメージを創っているような気がする。労働力不足などは、スマート農業や人材派遣などの対策が講じられているが、価格面は手をこまねいたままだ。

 今、米の値段が異常に高いと言っているが、そもそも今まで農家は苦しかったわけで、そこは理解してもらいたい。現実の姿を4Hとしても訴え続け、消費者の農業のイメージ、価格認識を根本から変えていきたい。担い手不足が言われる中、若い4Hの私たちが頑張っている姿を全国にアピールすることも付加価値に繋がっていくと思う。

 昨年度、「4H白書」を作り、今後の活動方向を考える段階にある。これまで漠然としていた組織の考え方や活動が、「白書」で明確になり、それをもとに具体的な活動方法などを考え、行政にも訴えていきたい。

 4Hとして、全農が開催する、農機を始めとした生産資材の研究会に参画しているが、農業の現場の実態を踏まえた資材の開発要望などを話す機会ができるなど、これからも充実させていただければと思っている。

 

視野は広く、思慮は深く

全国大会である全国青年農業者会議に向けて。

 今年のスローガンは、「達人大観」~視野は広く思慮は深く~。物事をしっかり観ることの出来る人は、物事の本質を見極めて広く考えることができる。今の農業には目の前の課題が沢山あり、そればかりに気を取られがちだが、少し視野を広げて、5年後10年後の未来を見据え、今本当にするべきことは何かを考えることも大事だと思う。

 明年3月5・6日に開催するが、70周年の記念式典とする。暗い話題が多い中、明るい話、希望あふれる話で前向きになれるような大会にしたい。今年も全国から選出されるプロジェクト発表・意見発表は大いに勉強になると思う。

 楽しいと思える活動を続ければ結果は自ずとでてくる。「農業を選んでよかった」と思えるような大会にしたい。

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