今年は国際協同組合年であり、各地で様々な催し、イベントが開かれたが、折からトランプが再選され、世界秩序の再編、貿易ルールの改変等、時代は大転換しつつあるが、こうした時代の中で協同組織がいかなる役割を担い機能を発揮していくのか、についての突っ込んだ議論展開にはならず、将来展望を提示するには至らなかった。時代はまさにレイドロー報告『西暦2000年における協同組合』の次の『西暦2050年における協同組合』を求めているだけに、残尿感が残る。こうした中で、注目させられたのがJAグループの経済事業見直しの動きであり、特に米事業の見直しについてである。
あらためて述べるまでもないが、昨年夏ごろから〝令和の米騒動〟が続き、先行き米の需給緩和感が出始めてはいるが、米価格の高騰はいまだ続いている。長らく低迷していた米価が上昇し、米農家はやっと一息といったところだが、一方で消費者の米離れが懸念される昨今でもある。別途、昨年成立した改正食料・農業・農村基本法の最大の眼目となったのは食料安全保障であり、これに関連して農産物の適正価格の形成をねらいに食料システム法がこの6月に成立した。こうした中で『現代農業』(農文協)の8月号が米の適正価格について特集を組んでいることに象徴されるように、農産物価格のあり方についての関心は高まっている。そうした中でのJAグループの米事業の見直しである。
一つは鳥取県JAでの令和7年産における米概算金の、生産費を基準にしての見直しである。農水省が公表している米の「全算入生産費」における中国地区の「米の作付規模別生産費(令和5年産)」の0.5ha ~1.0ha規模の生産費2万3045円(60kg当たり)と1.0ha~3.0ha規模の生産費2万0600円の平均値2万1823円を基準に、概算金を2万2000円に設定したものである。「米生産にかかるコストに基づいて『生産費払い』として支払うことにより、米生産にかかるコストについて消費者からの理解醸成を図り、食料の持続的な供給につなげます。併せて、生産費を保証することにより、米農家には安心して稲作に取組んでいただけるよう『生産費払い』としました」と、そのねらいを語る。
もう一つは全農が米契約栽培を強化する中で、「営農継続可能な契約栽培取引」を開始したもので、全農・JA・米卸や小売りなどによる3者契約と、生産者・JAの2者契約からなる。3年間の複数年契約を基本とし、各年産ごとに生産コストを賄える価格水準を基本とし、集荷や流通コストなど必要経費を加算して販売価格を設定する。本年度は14県で実施され、別途、JA常総ひかりでは5年契約としたことが報じられている。
昨今の米販売価格高騰は、集荷競争によるところが大きいが、JAグループが生産費をカバーすることによって、米価の変動による不安要素を軽減し、経営の長期見通しを可能にする事業システムを打ち出した意義は大きい。そして生産費に集荷や流通コストなど必要経費を積み上げて設定された販売価格であることを明示することによって、消費者の理解を得られやすくし信頼の獲得にもつながる。JAグループが率先して適正価格の形成をリードしていく姿勢は、2050年の協同組合のあるべき姿にもつながってくるだろう。
(農的社会デザイン研究所代表)
日本農民新聞 2025年12月5日号掲載


