〈本号の主な内容〉
■このひと
新体制・農林中金のこれから
農林中央金庫 代表理事理事長 北林太郎 氏
■2025国際協同組合年(IYC2025)の取組み
〝協同〟がよりよい社会を築く~連続シンポジウム・座談会 がスタート
第1回「協同組合と国際協力」
■JAファーマーズ・マーケットの運営改善にむけて
【JA全中・JA地産地消全国協議会主催】
令和6年度「JA地産地消全国交流研究集会」から
このひと
新体制・農林中金のこれから
農林中央金庫
代表理事理事長
北林太郎 氏
農林中央金庫の新代表理事理事長に4月1日、北林太郎氏(代表理事兼常務執行役員)が就任した。新理事長に新たな経営管理、役員体制のもと信頼回復へ取組む農林中金のこれからの方向について聞いた。
系統組織の原点回帰
■まず、理事長就任のお気持ちから。
2024年度の決算は1.9兆円という多額の赤字の見通しとなり、JAの組合員・利用者の皆様、JA・各連合会の役職員の皆様に、ご心配・ご迷惑をおかけしており、心からお詫び申し上げます。
こうした状況のなかで、当面取り組むべき課題として次の3点に注力していきたいと考えています。
1点目は、「稼ぐ力の強化」です。
債券中心、金利リスクへの過多が今回の事象を惹き起こした要因となったので、収益源の分散化などを含めて稼ぐ力をもう一度再構築していくことが、一丁目一番地です。
2点目は、系統組織への原点回帰です。
地政学的関係もあって、食料安全保障の重要性は社会に広く認識されてきました。足下では、米の問題もある中で、〝食料が安定供給されることの尊さ〟はますます高まっています。
一方、農業生産の現場では、高齢化の進展や担い手の減少に加えて、資材価格の高騰、自然災害の多発など、社会的期待と裏腹にJA経営の環境は厳しさを増しています。
そのなかで、我々自身ももう一度農業の持続可能性や持続的発展、ひいては地域の活性化に、系統組織の一員としてJAや各連合会と連携しながら、しっかり汗をかいていかなければならないと思っています。
3点目は、今回の赤字により失われた信頼を一日も早く回復していくことです。
組合員・利用者をはじめ多くの方々にご心配をおかけしたので、稼ぐ力の強化や原点回帰の取組みを通じて信頼を回復していく。この3点にしっかり取り組んでいかなければならないと考えています。
2025年度は300~700億の黒字へ
■2025年度の収益見通しは?
2025年度収支の見通しは、現時点においては300~700億円の黒字を見通しています。24年度に会員の皆様から多額の資本増強のご協力・ご支援をいただき、米欧国債を中心とした低利回り資産を10兆円を超える金額で売却してきました。結果として25年度のベースの収支レベルは上がってきているというのがスタートラインになっています。
統括役員としての専務を配し機動的に
■役員体制も刷新しましたが。
従前のフラットな役員体制や役位を見直し、総括役員としての理事専務執行役員を配し、そのもとに注力領域の執行役員を拡充しました。フラットな役員体制は、コロナ前の低金利で極めて安定的な金融経済環境の中で、より効率を求める体制であったと理解しています。
その後、コロナがありウクライナがありインフレが進み、トランプ政権が発足。先行きの不透明感が増すなかで何が起きるかわからない状況となりました。国際的なカネの流れも実体経済も大きく変わり、しかもこの先もその変化は大きくなるような情勢にあります。
この中で、稼ぐ力の強化や農林水産業への貢献という課題に取り組むには、各本部の統括役員である理事専務執行役員が、それぞれの責任範囲において適切・迅速な意思決定をした方がよいという判断から、こうした体制に変更しました。
また、稼ぐ力の強化には、組織の安定を考える〝守る部分〟にも相当力を入れていく必要があり、リスク管理の統括役員も設置しました。加えて、人材を経営上の大切な資本だと認識し、専門人材の育成、その強化に向けて執行役員も設置しています。
外部委員参加した財務戦略委員会を
■「有識者検証会」の提言を踏まえての対応は?
昨年9月から今年1月にかけて行われた「農林中金の投融資・資産運用に関する有識者検証会」からは、複数の貴重な提言をいただいており、真摯に受け止め対応していきます。
その中で、員外理事など外部人材登用の提言がありました。今回赤字を計上するに当たって、意思決定のプロセスとして内部昇格の理事が中心で外部的視点や知見の取り込みが弱かったのではないか、というご指摘です。
員外理事の登用に際しては法改正を待つ必要があるため、それまでの間は、新設した「財務戦略委員会」に市場運営や財務運営の経験をされた外部の方々にお越しいただき、農林中金の意思決定のプロセスに外部の有識者の知見を活かしていきたいと検討しています。できれば、この第1四半期には外部委員に参加いただけるよう鋭意進めています。
パーパスの実践や中身が問われるとき
■農林中金のパーパス、理念への思いを改めて。
食料安全保障や食の安全性のキーワードには〝いのち〟があります。「持てるすべてを『いのち』に向けて」。このパーパスは今日的にも色褪せることなく、社会的にも重要な、取り組むべき事項だと認識しています。
パーパスはこの4年ほどで社内的に相当浸透してきています。今後は、実際にそれを形にしていく、まさに実践や中身が問われているタイミングと考えます。
JAバンク全体でJAの現場をサポート
■JAバンク中期戦略がスタートしました。
これまでの中期戦略は、金融仲介機能の強化を中心に掲げてきました。これからもその延長線上に取組む必要があると思っています。
ただ、JAの現場も、JAの経営自体も、地域ごとに様々な固有の課題を抱えています。全国一律に何かに取組むような局面ではすでになく、各JAの現場で組合員・利用者の様々なニーズをしっかり汲み取り、それに対して店舗等の対面チャネルやデジタル等の非対面チャネルを使いながら応えていくことが基本だと思っています。
私どもとしては、それに耐えうるような、商品やインフラの提供に取り組んでいきます。
食農バリューチェーン全体を見て課題解決
■食農ビジネス分野の現状とこれからは?
農業融資の分野は、系統3段階の役割分担が基本になると思っており、それを前提に〝全国連として何ができるか〟が求められています。例えば、農業法人がどんどん規模を拡大しているなかで、地域を跨いで多面的に経営されている法人も散見されます。そうした地域を跨ぐような事業展開に対して、農林中金が県域を跨いで役割を発揮する場面があると思います。
農業関連施設は更新時期を迎え、更新に多額の投資を要するケースも出てきています。そうしたケースでは、地元のJAや信連と一緒に全国連として役割を発揮していきたいと思います。
これから地域の農業の中核を担うような方々にも、JAや信連とともに、融資対応を含めてしっかり経営サポートしていくことを考えていきます。
農林中金は、生産に加え、加工や流通、小売といった様々な企業と取引があり、食農バリューチェーン全体で課題を考え、支援を提供できる立場にあると思います。生産現場や小売・食品会社のそれぞれの現場での悩みを農林中金が仲介することで、それぞれの課題が解決すれば、農業の成長や所得の向上につながるのではないかと思っています。
例えば、食品会社が脱炭素の取組みを推進しようとする中で、原料である農産品の脱炭素の状況がデータとして取得できない。一方で、農業生産現場では、CO2削減の手間が値段になかなか反映できない等々の課題を抱えています。
この両者を上手くマッチングし、川下のニーズに応える形で付加価値を提供できれば、担い手の所得も増え、農業の持続可能性も高まり、食の安定供給にも繋がる。そのような形で、それぞれの現場をトータルで見たときの課題解決に、農林中金の役割があるのではないかと思っています。
系統組織の一員としてしっかり汗を
■組合員・利用者やJAに向けた決意表明を。
農林中金として、稼ぐ力をしっかり身につける。そのうえで、農林水産業・地域の活性化に向けて、系統組織の一員としてしっかり汗をかいていかなければなりません。
そうしたことを通じて、会員の皆様、組合員・利用者の皆様の信頼をもう一度しっかりいただき、本来、農林中金に期待される役割を一日も早く果たせるように取り組んでいきたいと思います。