日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2025年2月5日号

2025年2月5日

第70回JA全国女性大会 記念号

第70回JA全国女性大会開く(1月22・23日)

〈本号の主な内容〉

■このひと
 農業技術の現状と今後の取組方向
 農林水産省 技術総括審議官(農林水産技術会議事務局長)
 堺田輝也 氏

■第70回JA全国女性大会開く〈JA全国女性協〉
 「『あい♡』からはじまる 『元気な地域』を みんなの力で」テーマに

■第70回JA全国女性大会に寄せて
 ○女性農業者の活躍に期待します
  農林水産省 経営局 就農・女性課
  女性活躍推進室長 伊藤里香子 氏
 ○JA女性組織へのメッセージ
  JA全青協 会長 洒井雅博 氏

■エーコープマーク品のイチオシ商品

■JA女性組織活動を全面支援〈家の光協会〉
 ○組織基盤強化につながる家の光事業
  家の光協会 普及文化本部長 熊田陽介 氏
 ○『家の光』創刊100周年を記念して楽しい特別企画が続々と
  家の光協会 家の光編集長 山本樹 氏

蔦谷栄一の異見私見「潮流変化をもたらすか〝トランプ時代〟」


 

このひと

農業技術の現状と今後の取組方向

 

農林水産省
技術総括審議官
(農林水産技術会議事務局長)

堺田輝也 氏

 

 改正食料・農業・農村基本法に基づく「基本計画」の策定が大詰めを迎えている。計画の実現にあたっては、技術・研究開発とその普及にも期待が高まる。ここでは、農林水産省大臣官房技術総括審議官兼農林水産技術会議事務局長の堺田輝也氏に農業技術の現状と今後の取組方向について聞いた。


 

生産性向上と環境負荷低減の両立へ

農業において技術開発・研究の重要性が高まっているが。

 改正食料・農業・農村基本法の基本理念である「食料安全保障の確保」や「環境と調和のとれた食料システムの確立」、「農業の持続的な発展」等を実現するためには、技術開発とその普及が重要な要素と考えている。

 担い手が減少する中でいかに国内生産力を確保するか。そのためには労働生産性や土地生産性を飛躍的に高めていく必要がある。並行して、温暖化や激甚多発化する自然災害の要因である気候変動等の地球規模での環境問題への対応も重要である。日本も温暖化が進み、米や野菜などの収穫量や品質が低下するなど、気候変動のなかでの生産をきちんと見据えていかなければならない。農業そのものの環境負荷を低減していく努力も欠かせない。この観点からの技術は非常に大事だ。例えば、温室効果ガスの削減、化学肥料や化学農薬の削減、有機農業などは、地球環境保全にとって重要な取組である。高温障害対策などの温暖化適応品種・技術の開発・普及も課題であり、こうしたところへ技術等がしっかり役目を果たしていく必要がある。

 この生産性向上の取組と、環境負荷低減の取組は、往々にしてトレードオフとなる部分がある。環境負荷低減で手間がかかる、収量が減るなどの場面があるが、そこを乗り越えていくのが技術だ。生産者の皆さんの課題に対し、技術の裏付けをもって政策を推進していきたい。

 

サービス事業体を通じた活用事例も

スマート農業の現況と課題は?

 令和元(2019)年から実証事業をすすめ、全国で217の取組が実施されているが、その中では例えば、ドローンや自動操舵などは、かなり現場に普及し、サービス事業体を通じた活用事例も出始めている。今後は、昨年6月に成立し、10月に施行されたスマート農業技術活用促進法に基づき、重点開発目標に定める技術開発を促進するとともに、スマート農業技術の現場導入を加速させていく。

 例えば野菜や果樹の労力削減など、技術の実用化が不十分な農作業を営農類型ごとに明確化し、国内の開発リソースを効果的に活用するなど、対応するスマート農業技術を令和12年度までに開発・実用化することを目指している。

 その際、品目共通に使えるベースの技術については、農研機構が担いつつ、品目ごとの特性に応じた技術については、スタートアップ等民間事業者の力を活かすなど、官民連携による開発期間短縮化を目指す。昨年12月には、法律に基づく開発供給実施計画第1弾として、傾斜地の柑橘防除作業を可能とするドローンの開発計画など、3件が認定された。その後も計画の申請相談が多数寄せられているところであり、順次認定を行い、他の分野にもしっかり広げていきたい。

 スマート農業技術の現場導入に当たっては、従来の生産方式のままで単に技術を導入するのではなく、技術の効果を最大限に引き出す生産方式への転換とセットで進める必要がある。スマート農業技術に合わせた生産体系での栽培方針をセットで計画として位置付け、全国に展開していきたい。本年1月には、加工・業務用キャベツについて「精密出荷予測システム」による収穫時期等のデータを収穫作業の受託を担うサービス事業体であるJAと共有し、品質・収量の最適化につなげる計画など、法律に基づく生産方式革新実施計画が3件認定された。現在も計画の申請相談が各地方農政局等へ寄せられているところであり、順次認定を行い、他産地への横展開を図っていく。

 また、農業経営の観点から、スマート農業技術の導入コストを下げることは不可欠だ。そこで、例えば、農業者個々がスマート農業機械を所有するのではなく、サービス事業体による作業受託や農機レンタル等により、低コストで効率的な技術導入の仕組みをつくることが大事だ。特に中山間地等においては、その活用が効果的と考えられ、重点的にサービス事業体の育成・活動の促進を進めていきたい。

 

消費者の選択に資する〝見える化〟も

みどり戦略の現況と加速化への対応は?

 みどりの食料システム戦略は全国的に着実に広がっている。みどり法に基づく認定は、全47都道府県で申請可能となり、直近で1万9000以上の経営体を認定。地域ぐるみで環境負荷低減に取り組む特定区域も24道県53区域まで拡大した。環境負荷低減に向けた技術の開発や機械・資材の販売等を行う事業者は88となった。

 有機農業については、令和4年度末で3万haに拡大。オーガニックビレッジは45道府県131町村となった。北海道の旭川市と大阪の泉大津市が生産地と消費地の自治体連携により、有機農業を推進するというモデル的な取組も生まれた。

 また、最低限行うべき環境負荷低減の取組を農水省補助事業の要件化する「クロスコンプライアンス」を令和6年度から試行的に始めた。7年度からは、事業申請時のチェックシート提出に加え、報告時の提出を試行的に実施し、現場の課題等を積み上げて9年度から本格実施に移すことにしている。

 食料システム全体で環境負荷低減の取組を進める観点から、消費者の選択に資する〝見える化〟の取組も強化している。温室効果ガス削減、生物多様性保全への貢献度合いを等級表示する「みえるらべる」は昨年本格運用を開始し、全国の約900店舗でみえるらべるがついた農産物が販売されるなど取組が広がっている。ふるさと納税サイトでも特集ページが公開されるという動きも出てきた。

 J-クレジット制度については、令和5年度に約4600haの水田で中干し期間延長の取組が実施、これに基づくクレジットが発行されており、今後、取組がさらに拡大する見込み。また、バイオ炭の取組やアミノ酸バランス改善飼料、家畜排泄物管理の変更の取組も広がっている。

 引き続き、「みどり戦略」で取り組んでいる14のKPIの進捗管理を徹底するとともに、消費者のみなさんに選択していただけるような環境整備を進めていく。

 

スタートアップ中心のプラットフォームも

スタートアップ、イノベーター等の発掘、支援、連携に向けて。 

 政府全体がスタートアップの力を使い、社会課題の解決と経済の活性化を図る取組を展開している。農業・食品分野のスタートアップは、IT等他の分野に比べ技術開発に時間がかかること、研究設備・施設の整備にコストがかかることなどの課題があり、他の分野に比べて社会実装まで進みづらい。そういった中でもSBIR(科学技術イノベーション)制度の推進によって、支援対象としているスタートアップをはじめ、かなりエネルギッシュなスタートアップが立ち上がっている。この力を農業界の活性化のためにしっかり活かしていかなければならない。

 新しい分野を開拓している方もたくさんいる。こうした方々との連携が重要だ。例えば、スマート農業関係のスタートアップと大手農機メーカーとの連携、フードテック関係のスタートアップと大手食品メーカーとの連携など、新しいビジネスの次元を拓く可能性があるのではないか。

 また、技術会議には、『「知」の集積と活用の場』というオープンイノベーションの場があるが、ビジネスの出口意識の明確なスタートアップを中心としたプラットフォームをつくると、よりよいイノベーションが生まれるのではないか。そうした流れを「知」の集積と活用の場の中でしっかり展開していきたいし、実装段階では各行政部署と連携し、ビジネス拡大につなげていく流れにしていきたい。

 

生産方式革新実施計画の認定と横展開

令和7年度の取組方向は?

 年度末に向け食料・農業・農村基本計画の策定作業が最終局面に入ってくるが、その中で、スマート農業、みどり戦略は重要な要素であり、柱として力強く位置付けられるだろう。

 スマート農業については、自治体やJAのみなさんと協議しつつ、各都道府県・各産地の重要品目を皮切りに、法律に基づく生産方式革新実施計画の認定事例をつくり、横展開していく取組に力を入れたい。予算による支援もしっかり活用していく。重点開発目標に即した技術開発についても、令和12年度までの5年間に各分野で開発・実用化すべく、初年度の取組を着実に進めていく。

 みどり戦略については、食料システム全体にわたり、前述の各項目の取組を深化させていく。前述のクロスコンプライアンスの取組の上で、さらに高度な取組を行う者を支援する、新たな環境直接支払いの仕組みの検討を丁寧に進めていきたい。

 

スマート農業やみどり戦略を当たり前に

農業生産者、農業団体への期待と要望を。

 今後10年20年、持続的な食料システムを実現していくことが求められている。そのためには、スマート農業やみどり戦略が、全国津々浦々で当たり前に取り組まれるようにしていく必要がある。

 スマート農業の現場への実装はまだ緒についたばかり。みどり戦略もKPIの実現に向けてはまだまだ入口の段階と言える。農業者、JAの皆さんとの対話を通じて、より良い政策に進化させ、真に定着するように心がけていく。

 これからの「自らの農業、産地をどうしたいか」、思いをしっかり持ってもらい建設的な意見をいただき、一緒に施策を前に進めていけるようにしたい。

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