日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2025年1月15日号

2025年1月15日

〈本号の主な内容〉

■JAグループ国産農畜産物商談会 出展者インタビュー
 私のイチオシ出展商品
 ㈱信栄食品 代表取締役 神倉藤男 氏

■ニッポンエールプロジェクト協議会=全農が
 国産農畜産物商品を通じて産地を応援
 「沖縄県産黒糖」産地を訪れ生産者とメーカーが交流

■新春インタビュー
 (公社)日本農業法人協会 会長 齋藤一志 氏

■第19回JAグループ国産農畜産物商談会
 【主催】JA全農 【特別協賛】農林中央金庫(JAバンク〉
 1月30・31日 東京都立産業貿易センター浜松町館(東京都港区)で開催


 

神倉藤男社長(左)と営業企画担当の神倉まり奈さん

JAグループ国産農畜産物商談会
出展者インタビュー

 

私のイチオシ出展商品

 

長野県松本市
㈱信栄食品

代表取締役
神倉 藤男 氏

 

 今月30~31日に第19回JAグループ国産農畜産物商談会が東京・浜松町の東京都立産業貿易センターで開かれる。「日本全国 美味の旅~JAグループが贈る特別な逸品~」のテーマで各産地が特産品や加工品の魅力をバイヤーに提案する。初出展する信栄食品(長野県松本市)の神倉藤男代表取締役に伝統野菜を原料に開発した「松本一本ねぎ餃子」をはじめ地域農産物を使用する取組みを聞いた。


 

地元産中心に国産野菜を主原料に

貴社の事業について。

 当社は創業から27年目になる餃子一筋の会社。はじめはスーパーで惣菜として売る冷凍餃子のOEM製造が主力だった。それから間口を広げてECサイトや自動販売機での販売を行い、そして輸出という形でチャネルを増やしてきた。自動販売機事業はコロナ禍に消費者が非接触で手軽に購入できる方法としてはじめ、長野県内で44台の冷凍販売機を設置している。輸出ではシンガポール、香港、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカに展開している、

 会社がある松本市、長野県は農産県といわれる農産物が豊かに穫れるところなので地元農産物を中心に国産の野菜を主原料として使い、他社との差別化を図り、「安全で安心出来る食生活に貢献」を理念に掲げている。品質や環境マネジメント規格のISO14001、22000、FSSC22000の認証を取得している。

 

納入先が求める味に作り込んで提供

商品の開発・製造の流れは。

 現在は月平均で250アイテムの餃子を製造している。チェーン展開するスーパーやドラッグストア向けから季節商品、オリジナル餃子の受注も手掛けている。本社工場に加えて2年前に塩尻市に全自動の製造ラインを備えた第2工場を作った。

 本社工場は1つの区画ごとに作業が完結するセル式で、小ロットの商品やお試し的な商品を製造する。消費者や流通のトレンドが目まぐるしく変わっているので、小ロットで作れる方式はリスクが少なく、使い勝手がよく世の中にマッチしていると思う。少量から始めてボリュームが増えた商品は第2工場に移して製造する。

 商品は先に話した地元産・国産原料にこだわっている。野菜、肉類は国産を使う。今は国産原料を使う企業も増えてきたが、15年前に全て国産にシフトした。

 開発はその時からマーケットインで、お客様が求める味に作り込んで提供する。量販店向けの商品は販売先ごとに味は異なる。それぞれ唯一無二の商品を自店舗で展開をしたいという意向に沿って試作・試食を行っている。

 開発室の専任者が毎日餃子を何種類も試作をしていて、毎月の商品のほかにもスポット販売の商品、従来品のリニューアルなどで蓄積したレシピが万単位である。まずは、その中から要望に一番合うと考えたレシピで試作をして、調整を加えていく。最終的に味は食べて決定をするが、試作には味覚センサーを活用する。塩味・甘味・辛味・苦味などを数値化して修正方向をわかりやすくしている。

 時代とともに消費者の購買行動や嗜好がどんどん変わっている。少子高齢化になってきて、お年寄りの方々を意識した商品作りに少しずつ変わってきた。お年寄りが食べられるものは必然的にお子様も食べられる商品になると思う。

 

JAから相談受け伝統野菜の商品を開発

出展商品「松本一本ねぎ餃子」について。

松本一本ねぎ餃子

 地元の伝統野菜を商品名に謳った餃子を発売して10年になる。きっかけはテレビ番組・鉄腕DASHが企画した松本一本ねぎの収穫体験だった。その畑の生産者が作るねぎ入り餃子が美味しいという話があり、JAから大々的に松本一本ねぎの餃子を販売したいと相談を受けた。

 ねぎは以前から餃子の原材料で使っていたが、松本一本ねぎは扱っていなかった。

 松本一本ねぎは、春に苗を植え、栽培途中の真夏に根元から一度掘り出して斜めに植え直す。ねぎにストレスを掛けることで甘味が増す。餃子にした時にその特徴をどう生かすかを考えた。

地元伝統野菜の松本一本ねぎ

 まず、ねぎの風味を引き出すためにニンニクは使わないことにした。そして肉は豚肉ではなく鶏肉を中心に使った。これをわかりやすく言うと、焼き鳥のねぎまのイメージ。焼いたねぎと鶏肉を一緒に食べると甘くて美味しい。松本一本ねぎだけにこだわり、甘味を感じられるように作った。

 商品化に際しては、地元の生産農家、当社・販売先が連携し、6次産業化の支援で松本市が加わって取組んだ。

 その方々とのやり取りのなかで大切にしたことは、どんどん先細りになっている生産者の方々が農業で生計を立てられ、松本一本ねぎを作り続けられるようにすること。

 伝統野菜の栽培法は夏の時期に植え直しすることだが、それをしてもしなくてもねぎとして出荷できる。植え直しをすることには付加価値がある。ねぎも餃子も長く続かなければ、みんながWinWinにならない。そういう環境にしようと考えた。

 そこで当社は、生産者の方々が納得をいただける価格で松本一本ねぎを購入し、松本一本ねぎ餃子は商標登録をしている。

 

小学校で松本一本ねぎ栽培の食育授業をJAとともに

松本一本ねぎ餃子からの展開は。

 商品については、消費者から「ニンニクを使っていないので普段でも気にせず食べられる」「お弁当にも使うことができる」などの評価で、いろんな場面や用途で利用していただいている。特に冬場になると全国のスーパーでお取り扱いいただくことが多い。

 当社の通信販売では健康志向商品として、タンパク質の量を多く、脂肪や糖質を抑えたマッスル餃子シリーズを展開している。その一つにも松本一本ねぎを使用した商品を開発した。

松本一本ねぎ餃子の輸出用商品

 そして、香港とシンガポールに向けて輸出を行っている。食品展示会に出展して提案したところ、現地のバイヤーさんが食べて美味しさを認めて下さり、商品については当社のISOやFSSCの認証が安全性の保証になり、取引がはじまった。世界的にも日本の農産物と食品製造の確かさを理解していただいたと思う。

 松本市内の小学校では4年生が松本一本ねぎを栽培する食育授業を行っている。栽培にはJAが協力して、当社は収穫が終わった後に各校で餃子づくり体験と食べる授業を担当している。地元食材の重要性や希少価値を子供たちに勉強してもらう。今年度で10年目になった。

 昨年は当社で3反の畑を借りて、実験的にキャベツ栽培を行った。

 高齢になり後継者がいなくて農業を辞めてしまう生産者が多くなっている。今後は農業分野、生産の支援に参画させてもらいたいと思っている。

 

販売先拡大とあわせ原材料調達先の情報収集を

国産農畜産物商談会の出展について。

 この商談会は今回初めて出展する。地元のJAバンクに紹介いただいた。

 今まで出展した商談会・展示会は、純粋に商品の販売拡大が目的だったが、この商談会は生産者や産地の方も出展しているということで、販売先の拡大とあわせて原材料の調達も意識している。

 この何年か天候不順や夏の酷暑があって、これまでと同じように農産物が穫れない状況が続いている。当社もこれまで以上に原材料確保のリスク対策をしなければならないところに来ている。

 商品の販売はもちろん重要だが、商品製造に欠かせない原料、特にキャベツに代表される葉物野菜の調達先も探したいと考えている。

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