日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2023年7月25日号

2023年7月25日

このひと

 

農業委員会支援に農業会議所が果たす役割

 

全国農業委員会ネットワーク機構
(一社)全国農業会議所

専務理事
稲垣照哉 氏

 

 全国農業会議所の専務理事に、この4月稲垣照哉氏が就任した。稲垣新専務に、改正農業経営基盤強化促進法施行後の農業委員会、農業会議及び農業会議所が果たすこれからの役割について聞いた。


 

地域計画づくりをバックアップ

改正基盤法を受けた農業委員会系統の役割は?

 この4月1日、改正農業経営基盤強化促進法が施行され、全国の農業委員会では、市町村の地域計画策定を支援することになった。これまでも農業委員会組織は、地域の農地に責任を持ち、農地利用の最適化を前面に打ち出し活動を展開してきた。

 農地利用の最適化とは、担い手への農地集積・集約化、遊休農地の発生防止・解消、新規参入の促進の3点を指す。今、全国に1697の農業委員会があるが、委員会の実情は千差万別。全国一律的な取組みはなかなか容易ではない。

 全国の委員会のうち一番農地面積が広い委員会は約8万ha、一番狭い委員会は約8ha。約4万人の農業委員と農地利用最適化推進委員が地域の実情に応じて活動している。農業委員会は毎年農地利用状況調査で遊休農地を把握し、遊休農地の解消に向けた活動をしている。一度荒れた農地を元に戻すことは至難の業であることは、全国の委員会の一致した認識である。しかし今農地を耕している人の年齢や機械装備等を考えると、じきに今、耕されている農地でも荒れることは想像に難くない。とすると、農地利用の最適化とは農地利用に責任を持つ農業委員会をして、今「耕されている農地を耕せるうちに耕せる人」に繋いでいくことが大事になる。

 地域で10年後、誰がどこの農地を耕すのかを法律的に位置づけ、その観点で市町村が地域計画をつくる取組みを農業委員会が支援することが、4月から始まっている。そのバックアップが全国農業会議所の大きな役目だ。具体的には、農地利用意向把握の実施や話し合い方の支援、農地台帳等のサポートシステムを活用した地域計画のシミュレーション機能の活用支援などで現場の活動をバックアップしていく。

 一方でこの7月には3年に一度の農業委員改選が集中し、全国約6割の委員会で改選が実施される。取組みが着実に継続できるよう研修やテキストづくりにも力を入れていく。

 

多様な人材確保にキャリアパスの視点

担い手育成面での役割は?

 全国農業会議所は、全国稲作経営者会議、全国認定農業者協議会等の事務局を担当し担い手等を支援している。市町村が地域計画をつくるときの一番大きな課題は担い手がいないこと。32都府県の農業会議は農業法人協会の事務局を担当し、農業者の組織活動を支援しているが、その人達を農業委員会に繋ぐことにも、重点的に取組みたいとしている。

 担い手に農地を集積する際の課題を、全国で約3分の2の農業委員会が「担い手がいない」と答えており、農地があっても人がいない状況が如実に表れている。一方で、そうした農業委員会の約4割が新規参入者へ提供する農地がないと答えている。素性のわからない人に大事な農地を提供するリスクが反映した答えだろう。地域計画での担い手確保に向けて、我々の持っている情報を農業委員会に紹介することで、このリスク解消の一助となりたい。

 今回の食料・農業・農村基本法見直しの中間とりまとめで「多様な農業人材の確保」が明記された。人口が減り労働力が減る中で、優良な農業人材は取り合い状態になっている。外国人の技能実習制度が見直される方向だが、日本で農業に取り組むことに展望が拓けるキャリアパスが見通せなければいくら制度を見直しても、外国から人は来てもらえないのではないか。日本人も同様で、農業のキャリアパスの構築が急務ではないかと思う。

 また、集落営農が非常に傷んできている。設立時の構成員がそのまま歳をとってしまい、その補充がなされていない組織が少なくない。雇用を入れることで生産性を上げること等、新陳代謝を促進するような取組みが大事だ。

 

農業者年金の制度改正もはずみに

女性農業委員の拡大に向けては?

 農業委員への女性の登用は、12・4%と農業界の中では先頭を走っているが、平成8年に女性委員の登用を打ち出してから4半世紀以上経過したが30%は遠い。農業委員だけではなく認定農業者の女性比率向上や、家族経営協定締結などの運動も展開してきた。近年直系卑属の配偶者も対象とする農業者年金の制度改正を政策提案しているが、これが経営改善計画の共同申請に弾みとなり、女性の農業経営への参画を広げ、女性農業委員の登用に繋がるような契機になればと考えている。

 

食料安全保障確保を起点として

農政についての課題認識を。

 人口減少にいかに対処していくかが最大の課題。今回の基本法見直しの中間とりまとめや、新たな農政の展開方向では、食料安全保障の確立のなかに適正な価格転嫁の問題が位置づけられた。価格は市場で所得は政策でというこれまでの考えが今の状況を招いた。農業経営者が資材高騰等で塗炭の苦しみを味わっているなかで、単に農業振興のためだけではなく食料安全保障確保を起点とした農業生産に、舵を切ったものと期待している。

 同時に、新しい切り口として環境問題が大きく打ち出されている。農業も環境に負荷をかけている観点から「みどりの食料システム戦略」が打ち出されているが、食料・農業を良くしていくために、環境問題をどうコミットさせていくか明らかにしていくことが、喫緊の課題ではないか。

 

一体となって農業者支援へ

JAグループへの期待を。

 全国農業会議所は、昭和29年に創設以来、全中を始め農協組織の全国機関に会員になっていただき、全農には全販連、全購連時代以来ずっと副会長職をお願いしている。組織運営のうえで農協との連携は、これまで以上に強化していきたい。

 市町村段階でも、共に農業者を支援する組織として一体となって意を砕くと同時に、具体的な体制づくりと活動にも頑張っていきたい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 農業委員会支援に農業会議所が果たす役割
 全国農業委員会ネットワーク機構
 (一社)全国農業会議所 専務理事 稲垣照哉 氏

■第101回 国際協同組合デー記念中央集会
 日本協同組合連携機構が開催

■JA全農 令和5年度事業のポイント
 〈畜産・酪農事業〉
 JA全農 畜産総合対策部 高橋龍彦 部長
 JA全農 畜産生産部   遠藤充史 部長
 JA全農 酪農部     深松聖也 部長

■JA全農 令和5年度事業のポイント
 〈総合エネルギー事業〉
 JA全農 総合エネルギー部 土屋敦 部長

■かお
 家の光協会 代表理事専務に就任した
 木下春雄 さん

行友弥の食農再論「子どもたちの命綱」

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