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日本農民新聞 2022年8月25日号

2022年8月25日

このひと

 

4Hクラブ活動とこれからの農業者

 

全国農業青年クラブ連絡協議会(全協=4Hクラブ)

会長
山浦昌浩 氏

 

 全国の若手農業者で構成される4Hクラブ(約670クラブ、クラブ員約1万人)の全国組織である全国農業青年クラブ連絡協議会(=全協)は6月28日に通常総会を開催し、会長に山浦昌浩氏(新・長野)を選任した。農業生産法人の社員から初の会長に就任した山浦氏に、これからの農業者像と4Hクラブの活動への想いを聞いた。


 

コミュニケーション取り戻し組織力強化

会長就任の抱負から。

 4Hクラブの長野県会長や全国の事務局次長、理事、副会長としてこれまで活動してきた。この約2年間はコロナの波が押し寄せ、オンラインの活用など工夫をしながらの活動だった。

 この中で感じてきたのは、情報だけのやりとりで、人と人との距離感、心の距離感、コミュニケーションが得られなくなってリアルの価値が薄れ、組織としての力が弱くなっているのではないかということ。オンライン=便利=楽だが、「対面」の価値は非常に高いと思っている。

 対面することで、人と人の本質的なコミュニケーションをもう一度取り戻していきたい。可能な限り一人ひとりに照準を当て4Hクラブ員としての自覚とモチベーションを高め、個々の役目を明確にして組織力を強めていきたい。

 

地域での役割・使命自覚し挑戦し未来を照らす

今年度の活動のポイントは?

 今年度のスローガンは「一騎当千~地域を照らす桜梅桃李の花と咲け」。国内の若者が減り高齢者が増え、農業従事者が減っていく。消防団などの地域を守る組織体制の維持が難しくなっている。このなかで、我々農家、4Hクラブ員一人ひとりが、地域を担う若手農家として立って欲しいという思いを込めている。それは一人で千人を背負いこむのではなく、自分の役割や使命を自覚し挑戦していく地域のリーダーとなること。

 すべてのクラブ員は、桜・梅・桃・李のように各々違った個性の花咲く種やつぼみを持っている。それぞれの立場で今いる場所で花を咲かせることが、地域と自分自身の未来を照らしていくことになると信じている。

 今年度は、改めてより多くのクラブ員との交流の場を持つことに力を入れていきたい。各県の会長とのリーダー研修と併せて地域の役職員やクラブ員が参加できるようなオンラインでの勉強会や交流会なども積極的に開催、非加盟県のみなさんとも情報を共有し、4Hクラブの価値を共有し、地域のリーダーを生み出していきたい。

 

農政は目指す方向明確に 農協系統は需給調整機能発揮を

現場で感じる課題と行政や農協系統への要望は?

 目下の課題は、生産資材や燃料を始め営農・生活に関わる全ての価格高騰。中長期的には、人口減少に伴う農業の担い手不足、それをカバーするためのスマート農業やIT技術、外国人労働力の確保等、いろいろな課題がある。さらに長い目でみると、国内需要が絶対的に減っていくなかで、輸出も視野においた農業生産や世界的に高まる環境問題への配慮も重要な課題になってくる。

 私が就農している㈱アグレスは、長野県の野辺山でブロッコリー、ホウレンソウ等を栽培しているが、ここ4~5年気温が上がり豪雨等も頻繁に襲来。台風で雨よけハウス250棟のうち50棟くらいが潰れたこともある。これへの具体的な対策はもちろん必要だが、それ以前に環境問題や気象災害への対応を世界全体の問題として取組んでいくことが大切だ。

 こうした中で、農林水産行政には、まずどこを目指しているのか明確にして欲しい。補助金や政策で農業の何を守ろうとしているのか、方針がよく見えない。もちろん農家を守るための補助金は我々としてはありがたい。ただ、逆にそれが個人農家の工夫自体を阻害し、農業全体の変革を妨げているのではないかとも感じる。守るべきところを明確にし、そこに集中的に施策を講じていく必要があるのではないか。

 農協系統も農家を守るために様々な支援をされているが、販売については、BtoCやECサイトなど多様化し変わってきている。その中で、もう少し生産・出荷調整機能を発揮して欲しいと思う。今、レタスは安値で圃場に捨てられている。農家として豊作貧乏は非常に悲しい。全農はじめ農協系統のネットワークがあれば国内全体の生産体系をもう少し工夫できるのではないか。需要とバランスのとれた供給への調整を、情報共有も含めてお願いしたい。

 若い農業者が減っているなかで、農業法人協会やJA青年組織との交流や連携も始まっているが、大きなバックボーンを持っている農協組織が各地域でそのまとめ役としての力も発揮していただきたい。

 

課題がたくさんあるから農業は面白い

自身の4Hとの出会い、農業への想いを。

 20歳のときに国際支援の仕事をしたいとイギリスに2年留学、その後カンボジアで3年間NGO活動に従事した。帰国後、トラックドライバーなどをしていたが、農業ベンチャーの知人が海外で仕事ができる人材を募集していたことから農業の世界に飛び込んだ。研修で農作業は楽しく面白い世界だと感じた。

 その後今の会社に転職し、農業はもっと可能性を広げることができるのではないかと考えた。ちょうどその頃、社長から佐久地域の4Hクラブに参加するようにと言われたのがきっかけだ。

 会社の中でしか見えていなかった農業が、県や全国に仲間ができたことで、視野が非常に広がった。農業を活用して地域を活性化させたりビジネスを成功させたりしている例をなど、いろいろな農業者を知ることができた。同時に日本の農業の様々な課題も見えてきた。その中で「課題があるから面白い」と思えた。「であれば、みんなで解決しよう!」という気になった。

 仲間と情報を共有しているうちに、自分自身の課題がひどく小さな課題に見えて悠々と越えていけるような気がした。人と視野の広がりが4Hの価値だと感じた。

 農業に出会い、農業には何にでも繋がるテーマがあると感じた。自分のライフワークとして、今後も続けていきたい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと 4Hクラブ活動とこれからの農業者
 全国農業青年クラブ連絡協議会(全協=4Hクラブ)
 会長 山浦昌浩 氏

■JA全農 第46回通常総代会
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