また記者時代の思い出話で恐縮だが、2006年度の食料自給率(カロリーベース)が39%に下がったことを受け、毎日新聞に連載記事を書いた。農林水産省に食料安全保障課(現・食料安全保障室)が新設され、自給率向上を目指す国民運動「フードアクションニッポン」が始まったころだ。
翌07年度の自給率は40%を回復し、08年度は41%に上昇した。国を挙げた施策やキャンペーンが功を奏したのか。それとも、食料安全保障に警鐘を鳴らす報道が国民を動かしたのか。
違うだろう。当時の農水省は国内の生産増を理由に挙げた。しかし、07、08年は海外産地の不作や市場への投機資金流入で穀物価格が急騰。貿易統計によると、07年度の小麦類(ライ麦混合品を含む)の輸入量は約529万tで、前年度より20万tも減っている。割高になった輸入穀物から国産に需要がシフトした要素も大きかったと思うのだが、そこは強調されなかった。
今月5日に発表された21年度の食料自給率は38%で、前年度から1ポイントの改善になった。発表では、やはり小麦・大豆の作付けと単収の増加、米の需要回復が要因とされている。一方、生産額ベースの自給率が過去最低水準の69%に下がった原因は、国際的な穀物価格や海上運賃の上昇に帰せられた。しかし、両者は同じコインの表と裏ではないのか。
意地悪な見方をすれば、14年前も今も「勝因は自分の実力、敗因は他人のせい(不可抗力)」と言っているように聞こえる。同じ5日に発表された今年1~6月の農林水産物・食品の輸出実績も上半期としては最高の6525億円だったが、追い風だったはずの円安要因には消極的な言及しかない。乱暴な計算だが、同じ期間の円相場(平均)でドル換算すれば今年上半期の輸出額は約52億ドルで、前年同期比1億ドル以上の減少になる。同じ円安が国内の生産コストを押し上げており、トータルではマイナスの方が大きそうだ。
プロ野球の名監督だった野村克也さん(故人)は「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」と言った。勝ってかぶとの緒を締めよ。目先の数字に一喜一憂するより、現状を冷静に分析したい。
(農中総研・特任研究員)
日本農民新聞 2022年8月25日号掲載