日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2021年11月25日号

2021年11月25日

JAトップインタビュー
わが地域を見つめて

 

都市農業とJAの役割

 

東京都 JA東京スマイル
代表理事組合長
眞利子 伊知郎 氏

 

 

宅地化から保全すべき農地へ
組合員の総合コンサルを目指して

 

 第29回JA全国大会で決議された「持続可能な農業・地域共生の未来づくり」に向けて、全国のJAトップは地域の現状をどのように受け止めどのような具体策を展開しようとしているのか。自らの来し方から地域への思いを込めて語ってもらうシリーズ。第1回は、都市農業に果たすJAの役割に対する思いをJA東京スマイルの眞利子伊知郎組合長が語る。


 

令和4年から生産緑地法の一部改正に伴い、買取申出が可能となる期日を10年延期した特定生産緑地制度への申請期限が迫っている。

管内の特定生産緑地への申請状況は?

 東京都北東部の足立・葛飾・江戸川3区を管内とし、3区合わせ生産緑地約90ha、宅地化農地約30ha計120haの農地がある。農家戸数は460戸で認定農業者は239名。少量多品目栽培が主体で主要農産物は小松菜。組合員は1万4414人でうち正組合員は4945人。

 特定生産緑地制度の導入は都市農業保全のカギを握る。当JAでも行政と連携した説明会や申請者への訪問活動、支店での相談窓口設置、申請書類の代行などの支援を実施してきた。結果、現状で生産緑地件数の約84%が申請され、都内でも高い割合となっている。最終的にはもう少し増えるとみている。

 

昭和34年江戸川区の農家の長男に生まれ、高度経済成長期の只中に育ち、都市農業の変遷を見てきた。

これまでの都市農業に思うことは…

 昭和43年に制定された都市計画法により市街化区域内農地は宅地として扱われ、固定資産税や相続税が高騰して農地は減少、東京に農地はいらないという風潮のなかで田んぼや畑はどんどん住宅に変わっていった。農業を継ぐ気は全くなく大学(法政)を卒業後、同大の職員として4年間勤務したが、父が他界し昭和61年就農した。相続税の大きさに引きずられ決意をしたのだと思う。

 時代はバブル萌芽期で農業不要論が吹き荒れ、世間からは一坪でも土地を売れば遊んで暮らせると言われた。就農初日に畑に出ても何をしていいかわからず、叔父に教えてもらいながら小松菜を中心に栽培した。

 そうしたなかでJAの青年部に加入した。仲間の存在は心強かった。当時の青年部は市街化区域内の農地不要論への反発から宅地並み課税の反対運動が盛んで、自分の存在意義を確認するためにも農政活動に積極的に取組んだ。

 やがてバブルがはじけ、平成4年に生産緑地法が導入され、都市農業不要論は姿を消していく。特に平成7年の阪神淡路大震災以降は、都市における防災面での農地評価も高まり都市農業が再認識されはじめた。平成10年、全青協の副委員長当時に新農業基本法に都市農業が取り上げられたときは、やっと東京の農業が認められたと思いうれしかった。

 平成26年東京都農業経営者クラブ会長時には都市農地の多面的機能の役割を学んだ。平成27年宅地化すべき農地から保護すべき農地に代った都市農業振興基本法の成立に、時代の変化を身に染みて感じた。

 

併行してすすめられていた農協改革により認定農業者として農協の非常勤理事に。3年目の令和元年には専務に就任、1年後に組合長となった。

都市部のJAとしての役割をどう考える…

 農地の保全なら行政も政策として行えるが、農家を中心とした組合員の保全はJAが取組むべき第一義的課題。農家を残すためにJAは何ができるかを考えることは10年後のJAにつながっていく。

 営農継続が困難な農業者には、営農支援事業による労働力支援や、都市農地貸借円滑化法を活用したマッチング支援による農地の保全と新規就農者の確保に取組んでいる。さらにJA自らが借り手となり農地管理が行えるようなシステム構築に取組み来年度から運営する計画である。

 都市部における組合員の最大の関心事は相続問題であり、資産管理部署の職員だけでなく、渉外担当者にも相続診断士の資格を取得させている。

 将来的には、全てのJA職員が組合員の総合コンサルタントとして存在したい。信用・共済事業の比率が大きい都市型JAだからこそ、現代版『おらが農協』の構築をめざしていく必要がある。

 

JA自己改革の取組みでは管内全3区に直売所を開設。ここを軸に地域消費者との地域農業の共生の道を探ってきた。

農業・地域への具体的な取組みは…

 コロナ禍で安心・安全がクローズアップされ直売所の売上が非常に伸びている。地場産野菜の即売会や移動販売車も活用し、身近な消費者を〝地域農業振興の応援団〟としてとり込み准組合員を拡大していきたい。

 今年度から准組合員向けの広報紙を発刊。地域農業セミナーや農業講座の開設も検討している。准組合員向けの貸農園の開設も検討。信用事業では地元野菜の詰め合わせをプレゼントする定期貯金を募集した。今年も3区279の公立小中学校の学校給食へ地元産小松菜を提供する。ゆくゆくは都内JA直売所間や地方のJAとの特産農産物交流なども図っていきたい。

 組合員の営農支援では、JA共済の『地域・農業振興活動』の助成制度を活用して農作業機械、移動販売車を導入。農機具のレンタルや農作業支援での活用等、農業者の所得増大と担い手支援に役立てている。

 都心の卸や実需者に直接配送する各農家の負担はますます重くなっている。販売力を強化するためにも、販売拠点である直売所を各地の産物の流通拠点とし、地元や都内の飲食店へ販路を拡大していきたい。全国組織には、これと連携し、都内数か所にストックポイントを設置してもらうなど、都内農産物の流通の仕組みづくりを期待したい。

 また、農業者から信頼される職員を目指し、新入職員の農家での農業実習を行っている。今後は、コンプライアンス職場離脱時などに、農業に携わる機会を増やしていく。

 

昨年、常勤の専務理事への就任を機にJA経営への専念を決めた。息子がサラリーマンを辞めて農業を継承。経営委譲し「休日に手伝う程度」となった。

これからの都市農業とJAの進む道は…

 都市農業は確かに減少している。しかし、後継者も存在し定年帰農者や都市農地賃借円滑化法により生産緑地の賃借も可能になり、新たな農業の担い手の誕生も見込まれ存続していくことは間違いない。

 一方で、住宅地のなかにある都市農業が存続するためには、周辺住民の理解が不可欠である。

 環境に配慮した農業は都市農業の宿命である。作付の回転数を上げることで狭小な耕作面積をカバーするためには土壌管理は欠かせないことから、土壌診断の徹底や有機質肥料の投入に努めてきた。また、農薬の散布回数も減っている。今、農水省が進めている「みどりの食料システム戦略」がめざす方向を、都市農業はかねてから実践してきたといえる。地産地消によるカーボンニュートラルへの貢献などSDGsにも通じる点も多く、持続可能な農業だと考える。

 直売所を生産者と消費者のコミュニティの場として、地域農業・地域社会の発展をともに支えるパートナーづくりをめざしていきたい。

 都市農業振興基本法の成立や食の安全・安心を求める消費者の増加など、農業を後押ししてくれる要因は多く存在していることを考えれば、都市農業は発展の可能性を秘めている。そのための努力を惜しんではならない。農業を未来につなげていく活動こそがJAの取組むべき仕事である。


〈本号の主な内容〉

■JAトップインタビュー わが地域を見つめて
 都市農業とJAの役割
 JA東京スマイル 代表理事組合長 眞利子 伊知郎 氏

 

実りの秋 国産を食べよう 特別号

■JA全農の商品ブランド「ニッポンエール」
 日本の特色ある果実を使用したグミ 29種類を発売

■令和3年度農林水産祭「天皇杯」等の受賞者決定

■11月は「和ごはん月間」 プロジェクトメンバーの企画等展開

■「お米を使ったおかず」と「ごはん」のお弁当レシピコンテスト
 入賞作品が決定 〈全農等協賛〉

■農林水産大臣賞は 丹波チーズ工房の「蔵熟成ゴーダ」
 第13回ALL JAPANナチュラルチーズコンテスト〈中央酪農会議〉

■「おいしい日本と暮らそう。」
 「JAタウン」がブランドメッセージやロゴ、キャラクターを刷新

■NTT東日本、NTTアグリテクノロジー、調布市が連携
 学校給食の「デジタル化に対応した食育」推進で

■〈全農〉地元の旬の味覚が味わえる「みのりみのる」のお店

■ブランド鶏と国産野菜を活かした新ブランド中食店舗「みのりみのるチキン」
 11月18日 東京・二子玉川にオープン

■JA全農が公式どんぶり「死ぬほどうまいぜ。DEATH丼」を発表

 

■第25回JA女性組織フレッシュミズ全国交流集会
 JA全国女性組織協議会が10月27日開催
 テーマは「コロナ禍 災害が多い時期だからこそ考えよう! 家族、仲間と楽しむ『食』守りたい『食』」

■かお JA全中 常務理事の 若松仁嗣 さん

行友弥の食農再論「未来からの警告」

■クローズアップインタビュー
 アグリビジネス投資育成㈱ 取締役代表執行役 松本恭幸 氏

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