TAC活動のレベルアップをめざして
岐阜県 JAぎふ
常務理事
武藤 隆志 氏
たえず新しいことに挑戦
担い手のヒト・モノ・カネの課題を支援
地域農業の担い手に出向くJA担当者「TAC」の活動は、全国のJAで定着している。農業者の所得向上と地域農業の活性化がより一層求められるなか、TACの活動も一段の質的向上が求められている。地域農業の変化を踏まえ、様々な新しい活動に挑戦するJAぎふのTACの活動の現状と課題を、武藤隆志常務に聞いた。
水稲、園芸で各4人を4エリアに配置
■管内農業とTACの現状から
平成20年に6JAが合併し、6市3町をエリアとするJAとして誕生。正組合員4万1236人、准組合員6万257人の都市型JAである。米をはじめイチゴ、柿、ニンジン等を中心に元年度の販売高は87・1億円。畜産での豚熱被害や高齢化による園芸関係の生産量減少などから、中期経営計画の目標100億円には届かなかった。しかし、イチゴやトマトでは新規就農者が増える傾向にあり、ニンジンも各務原に選果場を稼働させたことから、今後生産量が増えると見込んでいる。
21年に設置したTACは、現在本店営農部内に水稲担当4名、園芸担当4名を専任で配置。54支店の12グループを東西南北4エリアに分け、水稲・園芸の各1名が訪問している。水稲では政策なども含めて農家の質問に対応する必要があり、園芸では品目ごとに専門的対応が必要なことから、それぞれに異なる知識が求められるため担当を分けた。
TACの訪問先は今年度370戸。1名当たりの訪問先は30~50。水稲TACは、認定農業者、新規就農者、水田農業担い手協議会員、米出荷50俵以上または2ha以上の作付者を対象に、園芸TACは、認定農業者、新規就農者、販売高500万円以上または50a以上を対象に訪問している。水田農業担い手協議会は認定農業者や中核的集落営農組織が加入しており、このメンバーでJAの米集荷量の半分程度を占めていることから、会員を中心に重点訪問先を選定した。
各TACは研究テーマをもち、県農林事務所主催の普及成果発表会での発表をめざしている。
週に1回のTACミーティング、月1回のTAC・営農次席会議を開催し、全体で課題を共有。TACシステムに当たる「戦略箱」システムで、TACの動きや事例、集積された情報等を管理職や金融等他部門の職員も共有できるようにしている。
スマート農業で米麦3年5作体系めざす
■TACが今、中心的に取組んでいるテーマは?
水稲関係では、安全安心な米作り、スマート農業や多収性品種への取組み、集落営農組織の円滑な運営に向けた組織力向上プログラムの取組みなどがある。園芸関係では不足する労働力を支援するための無料職業紹介事業にも取組んでいる。また、販売部門と連携しながら産直向けの少量多品目野菜の栽培提案なども行っている。
■スマート農業への取組みは?
スマート農業実証プロジェクトを活用した農機や作付の提案を行なっている。2年前のテレビドラマ「下町ロケット」でスマート農業が取り上げられ水田農家から期待が寄せられた。国でも社会的実装レベルまで進める方向が打ち出され、「スマート農業実証プロジェクト」が立ち上げられた。これに応募し管内の農業生産法人・巣南営農組合で検証してもらうことにした。
スマート農業は、集落営農であっても高齢化による世代交代が進み、省力的な作業が望まれるなかで、若いオペレーターでもマニュアルに基づき均一なレベルでの作業が効率的にできる。しかし、試そうにもスマート農機は価格が高くなかなか手が届かない。実際にどのくらい省力できるのか試してみようと、令和元年4月から2年間の事業として取組んだ。
具体的には、拡大しつつあったV溝直播栽培や小麦の二毛作と組合わせ、米―麦―米―米―麦の3年5作体系を考案した。この体系を短期間かつ適期作業を行うために、最新のスマート農機を用いた実証プロジェクトを県、全農岐阜県本部などとコンソーシアムを組んで実践した。
スマート農業体系の米づくりでは輸出用米を中心に栽培した。海外の幅広い需要に応えられるよう、多収性品種の「みつひかり」「にじのきらめき」と、岐阜県のブランド米「ハツシモ」の3品種、小麦はパン用の「タマイズミ」。直播も取り入れた輸出用米を中心とした体系への切り替えで、従来の2年3作体系より土地効率が向上した。農研機構が開発した良食味の多収性品種「にじのきらめき」は高温に強く、コシヒカリに代わる新品種として地域プロジェクトを組み外食産業とも連携。地元の岐阜農林高校でも栽培研究に取組んでいる。
2年間の検証期間がまもなく終わる。この間のプロモーション活動は、スマート農機を見てもらう機会を提供し、実需者にも産地を見てもらい、ニーズを知る機会ともなった。「にじのきらめき」の導入で、高温障害の改善や多収技術の確立、作業分散が図られた。スマート農機活用の機会は醸成され、国、県の助成金を活用し導入支援を図ったところ、TAC訪問先担い手で50台のスマート農機や関連システムが導入された。しかし、農機自体のコストと作業効率との兼ね合いが課題として残った。
HPで無料職業紹介、TACが農家と求職者を橋渡し
■無料職業紹介事業による人材確保の取組みは?
TACの訪問では課題を特定するために「ヒト・モノ・カネ」の経営資源についてヒアリングするようにしている。カネ(複数年契約や買取販売方式等)や、モノ(スマート農業導入、コスト削減等)の取組みは、一定の成果をあげているが、人手不足で規模拡大等に取組めないという声は依然として続いている。JA管内の人口は約80万人、准組合員が組合員数の3分の2を占める。地域住民や准組合員が農業に係われる機会や方法を見えるようにすれば、経営資源の「ヒト」の部分と繋がりが出て来るのではないかと、平成29年に無料職業紹介事業を始めた。ホームページに農業専用の求人サイトを開設して「援農マッチング」に取組んだ。サイトでは、「いつ、どこで、どのような能力が必要で、どれくらい働けるか」という求職者が知りたい情報が、ネット上でいつでもどこでも閲覧・応募できる。
求人の手続きや応募につながる情報の書き方が分からないといった農家の声も多いなかで手軽に掲載できるよう、求人する農家にTACが出向きヒアリングし求人情報を作成。農家の内容確認を経て掲載する。パソコンが苦手な農家でも入力操作をせずに、JAのホームページ上に求人情報を掲載できるようになった。
求人情報サイトの検索上位に表示されやすいようにTACがアドバイスし、応募があった場合は、面接から採用の可否の連絡までをサポートする。TACが農家と求職者の橋渡し役となっている。採用した場合の労災保険についても、JA内に事務組合があるので事務手続きをサポートしている。
元年から2年7月の期間で、専用サイト閲覧は5万6581回。求人情報219件に対して541人の応募があり、101人が採用された。
事業としての経営へ組織内の意思統一
■組織力向上プログラムの取組みについては?
集落営農組織や農業生産法人で雇用した人が十分に力を発揮できるかは組織内の条件で全く違ってくる。一般企業では当然の社員教育も農家では行われていないところが多い。法人化での経営は、チームとしてまとまり組織力を高める必要がある。組織内でコミュニケーション、意思統一が図らなければならない。チーム運営に必要な視点とバランスを常に意識して事業を経営することが大切だ。
そこで、チームにおける中期のありたい姿を共有し、日常的なコミュニケーションにより、適切な計画や作業分担、業務改善を行なうことを目的とした「組織力向上プログラム」をパッケージ化して農業生産法人に導入した。活動は、組織全員でありたい姿を話し合う「キックオフミーティング」↓事業計画実行に向けた「チームミーティング」→代表者やオペレーター長などとメンバーが1対1で話し合う「コーチング」↓日々に実行・協力すべきことの確認と意欲的に仕事をするための「朝礼・夕礼」の実施から成り立っており、キックオフミーティング以外の活動は、PDCAサイクルをくり返していく。
これを日常にすることで、新しく入った人も疎外感なく早く仲間になれ、組織の一員として戦力になっていくのではないか。法人もかなり成熟し世代交代が迫られている現状で、若いメンバーのモチベーションも上がってきている。
この一連の活動が定着するまでTACはファシリテーターの役を担い、最終的にはTACがいなくても活動が自走状態になるまでフォローしていく。
令和元年から2年7月までの取組みで4法人が導入。うち1法人は自ら活動できるまでになった。
スマート農機導入は金融部門も同行
■これらの取組みを数字面でみると?
スマート農機の導入に当たっては、補助事業の申請手続きをTACが手助けし、金融部門の農業経営室と同行で融資を推進。元年8~2年7月の実行件数は129件、融資残高は2・3%伸長した。安定した収入の確保に向けた米の複数年契約の推進では、2~4年産の主食用米について品種・数量・価格を含めた内容で1万4494俵の事前契約を締結した。
スマート農業実証プロジェクトでは、岐阜県と共同で生産者や実需者にスマート農機の実演会を12回開催。TACの訪問先がGPS直線キープ田植機と食味収量測定コンバインを各10台、生産管理システムを19台導入した。
また、新型コロナウイルス感染症の影響を克服するため2年度補正予算で制定された「経営継続補助金」の申請支援は、JA全体で259件を受け付けたなか、TACの訪問先の約半数が申請書を提出した。
実需者と複合的につながる産地としての仕組み作りを
■TAC活動のこれからは?
農業人口は減り高齢化も一層すすみ、農地はさらに集約されていくだろう。世代交代の加速は間違いない。農業経営の安定化へJAが法人を中心とした担い手に、さらに深く入り込んでいかなければ、JAの存在価値は認められなくなる。経営、技術全般にわたりより専門的な対応が求められてくるだろう。
水田作ではブロッコリー・キャベツなど園芸品目の導入・転換が増えている。果樹や野菜は技術的に高度で専門的であり、それをデータ化し最適な品目を掴んでいく必要がある。冷凍米飯(ピラフ)等の素材で取引のある食品企業とは、冷凍惣菜用の野菜でもつながりが出始めている。
販売先とのつながりを強くしていくためには、米だけではなく複合的につながることが必要だ。それは、安定生産、安定供給の上で生産者・実需者の双方が望んでいることだ。その仕組み作りがJAのこれからの課題ではないか。
今年はコロナ禍で、例年2回開催しているJAぎふ水田農業担い手協議会研究交流大会は中止になり、YouTubeの限定公開機能を使って研修内容を配信した。TACの活動も大きく制限され、対策をまとめたチラシ投函と電話による情報収集や支援策の連絡等を重点的に行なっている。
来年度は、各エリアに営農センターを設置する。そこにTACを配置してより現場の近くから担い手に出向く体制をつくる。援農マッチングは求人案件年500件を目標にTACへのミッション化を図る。組織力向上プログラムは、収益拡大や持続的成長などのソフト面の強化に向けたステップアップが必要になってくるだろう。
TACは中核農家の期待に応えられる職員であって欲しい。30~40歳代が中心だが、20代の若い営農職員はいずれTACを経験することをJA職員の道筋として欲しい。
今、我々は日本農業の歴史的転換点にいる。ピーター.F.ドラッカーが言うように「新しい現実を機会としなければならない」。去年と同じことだけでは成長できない。「たえず新しいことに挑戦するJA」は、JAぎふの経営理念の一つである。
〈本号の主な内容〉
■このひと TAC活動のレベルアップをめざして
岐阜県 JAぎふ
常務理事 武藤 隆志氏
■農水省に「輸出国際局」「農産局」「畜産局」等を令和3年度設置へ
■JA全中令和2年度JA助けあい組織全国交流集会・JA健康寿命100歳サミット
コロナ禍における助けあい組織の活動方法探る
■JA全農新任常務理事・監事の各氏
山田 浩幹 常務理事
北里 清和 監事
永島 聡 監事
■JA全農の資材・技術提案
園芸資材・包装資材
■大規模生産者向け農薬の担い手直送規格
品目拡大とTAC等の訪問活動で普及面積が大幅拡大
■YEAR’S ニュース2020