日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2026年3月5日号

2026年3月5日

〈本号の主な内容〉

■TAC・出向く活動パワーアップ大会2025 JA部門 全農会長賞を受賞して
 JA秋田なまはげの担い手に出向く取組み
 JA秋田なまはげ 代表理事組合長 佐藤広美 氏

■令和7年度 JA組合員大学全国ネットワーク研究会
 主催:JA全中 共催:家の光協会、日本協同組合連携機構

■水稲直播栽培研究会
 JA全農 耕種総合対策部が開催

■水稲作の初期防除のポイント
 JA全農 耕種資材部

蔦谷栄一の異見私見「国民自らが食料安全保障を担うべき時代に」


TAC・出向く活動パワーアップ大会2025 JA部門 全農会長賞を受賞して

 

JA秋田なまはげの担い手に出向く取組み

 

JA秋田なまはげ

代表理事組合長

佐藤広美 氏

 

 JA全農が昨年開いた「TAC・出向く活動パワーアップ大会2025」は、「地域農業の課題解決に向けた出向く活動の実践」「JAグループの総合力を発揮した担い手支援」「持続可能な農業の実現に向けた生産基盤の確立」をテーマに各地の優れた取組みを共有した。同大会でJA部門の全農会長賞を受賞したJA秋田なまはげの担い手に出向く取組みを、佐藤広美代表理事組合長に聞いた。


 

水稲中心に園芸など幅広い作物を生産

JA管内の農業概況は?

 JA秋田なまはげは、平成30年4月にJA新あきたとJA秋田みなみが合併して生まれた。管内の秋田市、男鹿市、潟上市天王地区では、「あきたこまち」「サキホコレ」などの水稲を中心に酒米、大豆、メロン、ナシ、ネギ、枝豆、花きではダリア、キクなど幅広い作物が生産されている。秋田市と男鹿市に1か所ずつ設置している営農センターを拠点に約20名の営農指導員が品目別に指導を行っている。

 正組合員は約7300名、准組合員は約1万4300名で、令和6年度実績は販売事業8764百万円、購買事業2956百万円となっている。

 

営農大規模化に伴う多様な課題に対応

TACの位置づけと活動内容は?

 担い手に出向く体制としては、30年の合併時に担い手支援室を設置した。管内では生産品目が多岐に亘るうえに、高齢化に伴う担い手への農地集約、経営大規模化が進む中で、課題や要望が多様化・高度化。加えてJA合併によるエリア拡大により担い手訪問先が広域化した。そのような中、出向く活動を通じて担い手の意見を聞き取り、JA事業へ反映し地域農業の発展に寄与するために設置した。

 現在、3名の専任TACが担い手161戸を担当し、出向く活動を月平均650回実施している。1人当たり54戸の計算だ。栽培技術については、適宜タブレットで写真を撮り専門知識を有する営農指導員に送るなどして、できるだけその場で解決する。

 訪問活動を始めた当初は10ha以上の大規模経営体に絞っていたが、担い手の課題解決が地域農業の維持発展のため急務になったことを実感し、今後法人化が見込まれる地域や担い手にまで対象を広げて取組むようになってきた。

 活動内容も、当初は担い手のニーズの把握、営農経済関連事業の推進が主だったが、多様な担い手の増加、営農の大規模化などに伴って、多くの課題が浮かび上がってきた。

 第1に、圃場の集約・大規模化による効率化に向けた基盤整備事業の実施に伴い、法人設立を指向する担い手が増加してきたこと。法人化により購買力を持つことで、JA離れが進む恐れがあった。令和元年~6年で43法人が設立され、現在、約2200haで基盤整備工事または計画が進んでいる。

 第2に、法人化による運転資金需要などの増加などにより、農業融資や経営に関する相談が増加してきた。

 第3に、若手職員の知識・経験不足。若い営農担当が増え、作物知識や地域性、過去の営農経緯などを把握しきれていないケースが散見されるようになっていた。

 第4に、商系業者の売り込みの激化。農業資材から米の集荷まで多くの業者が担い手に直接営業をかけており、JAとしての存在感が薄れるリスクが高まっていた。

 第5に、担い手が大規模化するにつれ、圃場管理が追いつかないという悩みが増えてきていた。

 こうした課題に対応するため、TACの活動として、法人設立支援、営農計画の策定支援、スマート農業の導入や各種実証への取組みなども行うようになってきた。多様な課題への対応を着実に進めるために、JA内の部門間連携や、関係機関全体で担い手を支えていく体制づくりも進めた。

具体的な取組み内容は?

 まず、法人設立時には定款作成から収支計画までをJAがサポートし、運営を含めた相談に乗るようにした。

 また、資金相談対応を着実に進めるため、担い手支援室と農業融資担当をワンフロア化し、迅速な情報共有やスムーズな融資が行える体制を整えた。

 人材育成では、営農経済職員、入組5年未満の若手職員を対象に研修会を実施し、知識の向上と支援力の底上げを図るようにした。

 商系業者の売り込みに対しては、肥料の直行配送や担い手規格農薬の提案、日々の訪問活動の強化で対応することとした。

 圃場管理の課題については、全農が提供するZ-GIS、ザルビオ フィールドマネージャーをはじめとするスマート農業ツールを活用した〝見える化〟や、土壌分析の実施に力を入れることとした。

 さらに、従来の訪問活動だけでは対応できない複雑な経営課題に対しては、農林中金による「担い手コンサルティング」という新たな支援スタイルに取組むこととした。

 

担い手からの信頼感増し関係性強化に寄与

TACの活動の効果は?

 法人設立に向けた支援やそれに伴う様々な実務などの支援を行うとともに、新規法人にも直行配送と担い手直送規格農薬を積極的に提案したことで取扱いが増加。JAの利用率向上に寄与している。そうした支援を受けながら米の出荷は商系に流れるようなビジネスライクな方も中にはいるのは残念だが。協同組合なのだから組織利用いただき、それを還元する正の循環の意義は、あらためて強調していきたい。

 ザルビオを活用したスマート農業による作業効率化・品質向上に向けた支援で実証試験を行った法人では、生育ムラの大きかった圃場で可変施肥をすることにより、収量が均一化し増収ができた。生育ステージ予測機能によるアラート機能で適期作業が実現され、品質向上にもつながった。

 こうした成果から支援の有効性を感じていただき、法人所有の田植え機を可変施肥対応田植え機へと更新、ザルビオ、Z-GISの導入にもつながった。

 信頼感の向上から担い手との関係性強化にも大きく寄与し、多くの相談に乗らせていただける関係づくりにつながった。ドローン活用による防除作業についても、非常に効率が上がることが実証され利用の相談を受けている。

 農業融資担当との連携強化については、ワンフロア化で日常的に情報共有できるようになったことから、信用事業側の観点では知り得なかった栽培状況をリアルタイムで共有し、最適な融資提案が可能になった。融資案件がワンストップ型でスムーズに進むとともに、JAの訪問が増えたと担い手から評価いただけるようになった。従来のように、部門ごとに個別に訪問する形は非効率だし、訪問される側にとっても時間が余計にとられるというデメリットがあったと思う。

 さらには、両部門の研修にクロス参加することにより、双方の基礎知識が底上げされる相乗効果も現れている。

 若手職員のスキルアップについては、研修を通じて知識と対応力がついたことにより、営農相談スキルがアップするなど効果が現れてきている。営農知識が深まることで、販売している農機具の必要性がより実感できるなど、部門間を超える成果も出ている。誰に聞いても一定レベルの回答が返ってくるJAを目指し、引き続き人材育成には力を入れていきたい。

 土壌分析の取組みでは、肥料価格の高騰、適正な施肥の提案、高温対策に向けた土壌改良材の散布拡大を目的に、年間300点の土壌分析を2年間実施。その結果をもとに地域ごとの土壌の傾向を〝見える化〟し、各地域の座談会で説明した上で適切な施肥提案ができる体制を整えた。

 この取組みにより、品質向上はもちろん、米の安定集荷につながり、営農指導と販売事業の双方に効果を生み出すことができた。

 農林中金と連携して進める「担い手コンサルティング」では、代表交代でJAとの関係性を改めて築き直す必要がある法人を支援することができた。当該法人では、経営面積が大きく圃場管理が煩雑化している課題を抱えていた。そこで、常勤役員を交えた事業検討会を開いて法人が持つ特徴、強みや弱み、課題を明確化し、問題点に対する解決手段を営農指導員も含めた会議で検討。品目別の収支分析から、稼げるネギ販売を目指しJA一丸となって対応することにした。その結果、ネギ販売額が令和5年の約750万円から6年には約3100万円と大幅に伸長した。担い手支援室と営農指導員が法人への訪問活動を強化し、何度も指導を行い、効率的な作業体系を確立したことで実現できたものだ。業務加工用中心から市場出荷への切り替えによって単価アップを実現。作業効率化ができるネギ定植機の購入にもつながった。

 当該法人からは、「足しげく通ってもらい心強かった」との評価をいただき、経営と栽培の両面から寄り添う支援が、JAと担い手との関係を強める大きなきっかけとなった。

 担い手支援室と農業融資担当による訪問活動の強化により、訪問件数が大幅に増加し、JAと担い手との関係性が以前より強くなってきた。積極的なアプローチができるようになり、JA利用率向上、担い手のコスト低減につながり、5年度にはJAバンク秋田の融資実行額最優秀賞を受賞するなど、JAの総合事業として相互に良い影響を生んでいる。

 JA職員の人材育成を通じ、生産者への指導力、提案力がアップし、資材購入の予約率向上にもつながっている。

 販売高、購買高、事業面でも確かな伸びが見られており、担い手の課題に寄り添いながら、その解決を通じて、JA事業にも確実にプラスの循環を生み出すようになってきている。

 

100年先を見据えた地域農業のために

今後に向けて。

 持続可能な農業とよく言われる昨今だが、最近耳にした「100年先を見据えた地域農業」という言葉には感動を覚えた。本当にそうあるべきで、農水省がみどり戦略を掲げたことも素晴らしいと受け止めている。

 100年先を見据えて大事なのは何か。それはやはり担い手であり、そして何より土づくりだと思う。たくさんの微生物が育んでくれる豊かな土壌環境を100年先も引き継いでいけるように、先を見た地域農業振興に取組んでいきたい。そのための担い手とJAとのつなぎ役として、TACの使命はたいへん大きいと確信している。他地域のJAとも情報共有しながら、より効果的な体制づくりや活動の促進にさらに努めていきたい。

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