日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2025年11月15日号

2025年11月15日

〈本号の主な内容〉

■このひと
 ふるさと回帰運動のこれから~都市と農村をつないで~
 (公社)ふるさと回帰・移住交流推進機構
 代表理事・理事長 高橋公 氏

■令和7年度 JA組織基盤強化フォーラム
 JA全中が開催

■第29回JA女性組織フレッシュミズ全国交流集会
 JA全国女性組織協議会が開催

■JA共済の地域貢献活動
 防災・災害救援、交通事故対策の最近の取組みから

■かお
 JA共済連
 常務理事の 織田哲治 氏
 常勤監事の 倉林理 氏

蔦谷栄一の異見私見「市民の農に参画する権利と都市農地の公共性」


 

このひと

 

ふるさと回帰運動のこれから
~都市と農村をつないで~

 

(公社)ふるさと回帰・移住交流推進機構
代表理事・理事長

高橋公 氏

 7月1日、「ふるさと回帰・移住交流推進機構(JOIN)と「ふるさと回帰支援センター」は、地方創生、地方移住の総合的な対応を行なう“日本のセンター”をめざし、組織統合した。その背景とこれからの活動を高橋公理事長にきいた。


 

地方移住にスケールアップを

組織統合の経緯は?

 JOINは、都市から地方への移住、都市と農山漁村地域の交流を推進し、地域の活性化に寄与することを目的に2007年発足し、14年に一般社団法人化され、1497の自治体と64の法人が会員になっていた。

 ふるさと回帰支援センターは、ふるさと暮らしを希望する生活者の増加と時代の要請を受け、2002年に全国の消費者団体、労働組合、農林漁業団体などの有志が集い、NPO法人として設立し活動を続けてきた。2024年では、センターへの移住相談件数は6万5720件を超え、セミナー開催は年637回を数えている。

 統合への想いを強くしたのは、昨年6月のデジタル田園都市国家構想実現会議事務局(現・内閣官房新しい地方経済・生活環境創生本部)の、「地方創生は期待したほどの成果を出すことが出来なかった」とした報告書を目にしたことだ。「今のままではいけない。スケールアップして地方移住に取組むにはJOINとの統合が不可欠」と本気で思い、私から働きかけた。いま、再び熱い思いが込み上げている。

 

地方移住が身近な選択肢に

ふるさと回帰運動の始まりと現況は?

 私はいま78歳で団塊の世代。福島県いわき市の中学校を卒業したときは、約半数が集団就職をした時代だった。この世代が、定年後どこで何をして暮らすのか。私は日本労働組合総連合(連合)の社会政策局長をしていたが、連合が三大都市圏でアンケートをとったところ、4割が田舎に帰って悠々自適で暮らしたいと答えた。そうならば、労働組合としても考えなければというのが運動の始まりだった。

 設立当初は、団塊世代のUターンが中心だったが、その後のリーマンショック、東日本大震災、コロナの3つの大きな社会変化が人々の働き方や地方に対する目を変え地方移住の意識を変えた。

 センターの資料でも、当初50歳以上が7割だった利用者が、いまは40歳以下が7割を占め、移住希望者は現役世代が中心となり、年間相談件数は6万件を超える。地方移住はもはや一部の人の選択肢ではなく、多くの人の身近な選択肢となりつつある。新しい展開になりつつある。

 

新卒の地方移住の仕組みづくりも

新センターの現状と今後は?

 先般、東京国際フォーラムで開催した「ふるさと回帰フェア2025」も21回目を迎え、2日間で延べ700を超える自治体や団体が出展。2日間で延べ3万人が来場、国内最大級の移住相談イベントとなった。統合記念レセプションには石破首相(当時)も出席、期待してくれた。

 東京・有楽町のセンターには、44都道府県1政令市が相談員を配置、移住相談や移住セミナーの開催に加え、移住者向けの情報発信も行っている。

 2009年から政府の補助事業で始まった地域おこし協力隊も紆余曲折はあるものの地方移住に一定の役割を果たしてきた。この取組みに、公益社団法人として当機構も参画している。当面、自治体に来てもらい希望者を集めて東京と大阪で年に1回ずつマッチングイベントを実施することにしている。

 先般、法政大学との包括協定を結んだ。新卒の地方移住の仕組みづくりも動き出そうとしている。このように地方への〝応援団〟づくりも様々考えていきたい。

 

地域の受け入れる〝応援団〟を

国や自治体、JAへの期待は?

 地方移住が社会化している。戦後80年、人も金も東京に集めていた経済復興の時代を経て、都市と地方の格差は拡大し、東京では子どもを育てることが難しい時代となった。今度は東京から地方へ人の流れを加速し、地方が受け皿となることで、日本を再生しなければならない。

 国はどうしても地方創生を継続しなければならない。

 政策提言はもちろん行う。今、国民推進運動をやろうと組織討議している。それを中心に受け皿をつくっていく。移住者が地域で失敗しないためにも、その前提条件として住む場所の確保と、仕事、地域の受け入れる体制構築が必要だ。

 地方には〝よそ者〟を拒む体質がある。地域で移住者をしっかり支えるような応援団を組織する必要がある。

 ふるさと回帰運動を始めたのは、連合と農協であった。組織も変わったから、もう一度お互いに絆を結び直し頑張る必要がある。食料安全保障の基本となる米の政策がこれほどコロコロ変わっていいのか。このままでは国民からの信頼を失う。生産者が必要な分だけしっかり生産し提供するのが一番肝心なことだ。移住者の2割は農業を志望している。

 

新しいふるさとを見つける運動へ

機構の当面の取組み課題は?

 とにかく、移住者が失敗しないように、受け皿をつくる。これは我々だけでは成し遂げられない。地域の自治体と連携・協力し、一層深い関係性を構築するなかで、移住者を含めた地域住民同士のコミュニティを形成する運動が、持続可能な地域社会につながる。

 ふるさと回帰センターの会員は690自治体に留まっていたが、今回の統合で、当面全国の市町村の半分にあたる自治体が、この運動に主体的に参加してもらえるようすすめていきたい。

 「ふるさと回帰運動」が、単なるUターンだけを目指すのではなく、自分にとって「新しいふるさと」を見つける運動となるようにしたい。

 都市と農山漁村をつなぐ交流・移住推進の取組みは、大きく拡大してきている。普通の人が普通のこととして、田舎暮らしを楽しむ時代がやってきている。

keyboard_arrow_left トップへ戻る