日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2021年1月5日号

2021年1月5日

大川良一JAバンク代表者全国会議議長このひと

JAバンク代表者全国会議 議長
JAバンク中央本部委員会 委員長
大川 良一 氏

コロナ禍でのJAバンク中期戦略の取り組み
持続可能なJA経営基盤の確立へ
デジタル活用で次世代との繋がりも

 JAバンク代表者全国会議議長とJAバンク中央本部委員会委員長に昨年7月、大川良一氏(神奈川県信連経営管理委員会会長)が就任した。コロナ禍による社会変容が生じてきている2021年年頭にあたり、大川氏にJAバンク中期戦略の取り組みの現状と今後について聞いた。


『JA綱領』を改めて常に確認

JAバンク代表者全国会議議長、中央本部委員会委員長として抱負から

 新型コロナウイルス感染拡大の中での就任となりました。抱負が述べられないほど先の見えない時代のなかで、単協のみなさんの意見を集約しJAバンク事業に反映させていく難しさを感じています。こうした時は『JA綱領』を改めて常に確認する意識をもち、農業を基軸とした地域振興に取組む基本姿勢に立ち返ることが大切だと考えています。
 人口減少・高齢化がより一層深刻化する中、地域の構造的な変化がJAの本源的使命である〝農業の維持発展〟に向けた直接的な課題となってきています。農業・農村の持続的発展への取組みを、JAの事業を通じて、次世代にいかにつないでいくかが、これからのJAバンクの大きな課題だと認識しています。

これまでの対話活動が信頼と実績に

コロナ禍でのJAバンク中期戦略(2019~21年度)の取組みの現状は?

 新型コロナ感染拡大を受けて、肉用牛・茶・花き等をはじめとした農畜産物の価格が下落し、その影響が全国の生産者に広がっています。外食を中心とする消費の落ち込みは今後も継続するものと思われ、国内生産額の減少が懸念されます。
 こうしたなか、組合員・利用者等の資金面の課題に対しては、最大限の対応に努め、低利融資・保証料負担軽減、金融円滑化対応を実施しているところです。引き続き地域に根ざした地域金融機関として、金融仲介機能を最大限に発揮していきます。
 現行のJAバンク中期戦略では、総合事業としての強みを発揮しながら、組合員・利用者目線による事業対応を徹底し、持続可能な収益構造を構築することを掲げています。そして「農業・地域から評価され、選ばれ、一層必要とされるJAバンク」であり続けることを目指す姿に取組みを進めています。
 事業推進面では、緊急事態宣言下では訪問活動の自粛等により相当程度制約を受けましたが、貸出金については6月以降前年同水準まで回復している状況です。これまでの日常的な対話活動で築いたJAへの信頼関係があってこそ、こうした実績になったと思います。

総合事業体としてのモデル転換を

JAバンクを取り巻く情勢認識は

 新たな食料・農業・農村基本計画では、JAの役割として「農村地域の産業や生活インフラを支える」旨が明記されています。また、規制改革推進実施計画では、農業の成長産業化に向けた、系統を巻き込んでの資金提供のあり方・仕組み作りが検討課題とされるなど、系統に対する外部からの期待も高まっていると認識しています。
 金融環境は、低金利の長期化や金融規制強化などを背景に、信用事業における資金運用の好転が見込めず、JAの全体収支は今後ますます厳しくなるでしょう。
 厳しい経営環境は他業態においても同様で、地銀・信金等の合併、業態を超えた事業連携、そしてデジタルイノベーションやAIの活用など、様々な角度から事業戦略を模索しています。  JAグループでは、昨年5月末を期限として、全国のJAで「信用事業のあり方」について検討した結果、大宗のJAが「総合事業」の継続を選択しました。総合事業として持続可能な収益構造を確立していく必要があるなか、JAグループとして「持続可能なJA経営基盤の確立・強化」の取組みを決定し、総合事業としての機能発揮、事業モデルの転換に取組んでいるところです。
 地元JAさがみでは、その対話ツールとして、組合員の満足度向上を図るための「CS改善活動」に取組みました。青壮年部役員もCS改善リーダー会議のメンバーとなり、今何をなすべきかを議論していたところ、「JA職員はこんなに我々のことを考えてくれているのか」と大きな反響を呼びました。
 なんといっても協同組合は対話が重要です。コロナ禍で戸別訪問が難しければ、直売所や選果場に顔を出すだけでも組合員・利用者と話すことができます。総合事業だからこそ、他の金融機関にはない多岐にわたる接点を持つことができます。いろいろな部署と意見交換し課題や情報を共有してこそ、今日のJAバンクの実績があることを忘れないでほしいと思います。

非対面取引の強化、職員の行動変革を

こうした情勢を受けて令和3年度の取組み方向は

 令和3年度においては、新型コロナによる社会変容に適切に対応しながら、JAグループ全体で取組んでいる「持続可能なJA経営基盤の確立・強化」の取組みを完遂することです。
 JAバンクにおいては、中期戦略で定められている4本柱、「農業・地域の成長支援」「貸出の強化」「ライフサポートプランの実践」「組合員・利用者接点の再構築」を着実に実践していきます。  ニューノーマルと言われるように、世の中のライフスタイル、ワークスタイルが変容するなかで、非接触による相談・借入ニーズ、家計収入減等の経済的不安等に起因する資産形成・貸出ニーズが高まっています。一方、コロナ禍で働き方が大きく変わってきた今、農協においても、働き方改革もうまく活用しデジタル化による仕事の仕組み作りが必要です。また、組合員・利用者の次世代とのつながりをどう持っていくかが重要な課題となっています。
 まずは、組合員の行動変容・ニーズ変化に応えて、インターネットバンキングを中心とした非対面取引の強化に加え、渉外担当者・窓口担当者職員の行動変革を促していきます。いま継続的に進めている店舗やATM再編の取組みと足並みを揃えながら、この推進体制の再構築に取組んでまいります。
 デジタルイノベーションは、次世代とつながる大きな武器となると思います。例えば、高齢な親の“見守り”などを通し、離れて暮らす組合員子弟とも繋がれる可能性があります。今後は、デジタル面でも適切に対応しつつ、金融事業のみならず共済や経済事業、暮らしの相談も含めて総合事業を展開するJAの機能をフルに発揮していくことが、次世代に対してもJAの存在価値を高めていくことになると思います。

〝横串〟通し全職員が同じ方向で

新たな年を迎えて

 とにかく早くコロナが収束してほしい。それがみんなの願いだと思います。その後どのように世の中が変わっていくか。アフターコロナの時代の流れに合わせていかなければなりません。農協の経営は厳しくなっていきますが、我々には他の企業にはない組織活動や総合事業があることをトップは常に意識をしてほしいと思います。
 その総合力を発揮するためには、専門的業務を行う“縦割り”に、事業横断的に連携して総合事業を行う“横串”を通し、全職員が同じ方向に向かうことが大切だと訴えています。みんなで知恵を出し合って乗り越えていくこと。それぞれの環境は異なりますが、先々を見て早め早めに手を打っていくことが大事です。
 新たなチャネルもフル活用して、より一層真摯に組合員・利用者のみなさんとの対話を第一に向き合っていきたいと思います。


〈本号の主な内容〉

■2021持続可能な社会づくりに向けて

■【新春に思う】「持続可能な農業」を考えるための視点~「もうひとつの生産性」をめぐって~
 愛知学院大学経済学部准教授
 家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン常務理事
 理事長 関根 佳恵 氏

■年頭所感
  農林水産大臣 野上 浩太郎 氏
  JA全中代表理事会長 中家 徹 氏
  JA全農経営管理委員会会長 菅野 幸雄 氏
  JA共済連経営管理委員会会長 青江 伯夫 氏
  農林中央金庫代表理事理事長 奥 和登 氏
  JA全厚連経営管理委員会会長 山野 徹 氏
  家の光協会代表理事会長 中出 篤伸 氏
  農協観光代表取締役会長・全国農協観光協会代表理事会長 櫻井 宏 氏
  文化連経営管理委員会会長 八木岡 努 氏

■2021農業関連団体からの新春メッセージ
  全国土地改良事業団体連合会会長 二階 俊博 氏
  全国酪農業協同組合連合会代表理事会長 砂金 甚太郎 氏
  全国農業会議所会長 國井 正幸 氏
  食品産業センター理事長 村上 秀徳 氏
  全国森林組合連合会代表理事会長 村松 二郎 氏
  全国農業共済協会会長 髙橋 博 氏
  日本政策金融公庫代表取締役専務取締役農林水産事業本部長 新井 毅 氏
  日本農業機械工業会会長 木股 昌俊 氏
  農薬工業会会長 小池 好智 氏
  日本肥料アンモニア協会会長 岩田 圭一 氏
  全国瑞穂食糧検査協会理事長 平尾 豊德 氏
  日本施設園芸協会会長 鈴木 秀典 氏

■このひと 持続可能なJA経営基盤の確立へ デジタル活用で次世代との繋がりも
 JAバンク代表者全国会議 議長
 JAバンク中央本部委員会 委員長
 大川 良一 氏

〈蔦谷栄一の異見私見〉withコロナ時代が求める「地域社会農業」

■「みどりの食料システム戦略」策定・推進へ「本部」<農水省>

■JA全中第9回JA活力ある職場づくり全国研究発表会

■令和2年度JA共済総研セミナー開く
 「地域と連携して拓く子ども食堂の可能性と協同組合への期待」テーマに

■日本バイオスティミュラント協議会
 第3回講演会「温暖化による農作物への影響とその対策~バイオスティミュラントの可能性を考える」

■JA全農が取り組む農泊事業

■JA全農今後の取り組み方向

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