日本農業の振興と農業経営の安定、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2019年1月5日号

2019年1月5日

農林水産事務次官 末松広行 氏農業の成長産業化へ
2019年 農政の展開方向

 

農林水産事務次官

末松広行 氏

 

豊かな農山漁村地域の実現へ
次代の日本を考える「変化の年」

 2019年。新しい年は、日本の農業・農村、農協組織にとって大きな変わり目の年になると言われている。国際的な貿易協定が発効され、農協改革の集中推進期間も最終段階を迎える。また「食料・農業・農村基本計画」の見直しの論議も始まる。新たな年を取り巻く環境変化をふまえた農政の展開方向を、昨年7月に農林水産事務次官に就任した末松広行氏に聞いた。


 

平成30年を振り返って

 農林水産省では、農業や林業・漁業の成長産業化を目指し、諸々の改革をすすめてきました。その歩みは止まることなく動いています。関連の法律も徐々に整備され、これを現場に根付かせる取組みも少しずつ進んでいます。農協系統においても、この間の自己改革の取組みでよい動きが出てきていると思います。
 林野関係では、国産材使用が活発化しています。例えばエネルギー利用やCLT(直交集成板)など、多用途にわたる国産材使用の傾向が高まり、木材の自給率も上昇してきた1年でした。
 水産関係も、漁業管理システム構築や海面の有効活用など、新しい取組みをすすめるため、70年ぶりに漁業法を大改正する法案を成立させることができ、新しい水産業のための予算も措置しました。
 いずれにしても、𠮷川農林水産大臣が常に強調しているように、経営を行う農林漁業者の方々が創意工夫できるように、皆さんの一生懸命な頑張りを応援する観点で政策をすすめていくことを心がけてきましたし、その成果が上がりつつあると思っています。

 

経済産業省から戻って

 昨年7月、2年間務めた経済産業省産業技術環境局長の職から再び農林水産省に戻ってきました。今日のAI、IoT、ロボットなど新しい技術革新は、非常に大きくかつスピードが速いものがあります。日本が経済的に世界と伍していくためには、これら先端技術をうまく使い、他の国よりも早くそれを実用化し産業に組み込むことが大切だという思いで、経済産業省で政策をすすめてきました。翻って、そうした先端技術をすぐに使用でき、最も早く効果が表れるのが農林水産業の分野だとの思いを非常に強くして戻ってきました。
 31年度予算では、スマート農業実証のための予算を計上しました。スマート農業は将来的な技術ではなく、開発・完成しつつある技術をどんどん実証していくことで、農業の発展を速めることができると思っています。
 すでに無人走行のトラクターは実用化され急速に普及しています。こうした自動走行やGPSによる位置情報などの技術は農業現場に馴染みやすく、さらにそれによって夜間の作業も可能になる等々、農業の現場が極めてドラスティックに発展していく可能性が見えています。それを上手く導き支援することが大事です。こうして農業で培われた技術は先々、都会での活用にも役立つと思います。
 また、日本の農業での技術革新は必ず海外に展開することができます。一歩先の技術を駆使して日本の農業を変えていくことは他産業の発展にもつながり、世界の食料安全保障や農業の発展にも貢献できると確信しています。

 

31年の主な農政課題

 31年は、農協や農地改革等の集中改革期間の最終局面であり、この間の様々な改革を整理し本格的に動き出す1年になります。
 農地中間管理機構等の見直しも、より実態に合ったものにしていかなければなりません。スマート農業に関しては、新技術の現場への実装を強力に推し進めるためのプログラムや新しい考え方をまとめ、広めていかなければなりません。
 一方、着実に伸びている農林水産物・食品の輸出は、一連の目標を確実に達成できるように、各地域の動きを加速していくことが重要です。
 林業においては、意欲ある林業者を支援するため国有林のあり方も改革できるところがあると思っています。
さらに地球環境のなかで、農業が受ける影響や農業が果たす役割が非常に大切になってきます。特に地球温暖化は、その緩和策をすすめるとともに、現実の温暖化に対しての適応策も真剣に考える時期になります。これを含めてこれからの各施策は、国連の定めるSDGs(持続可能な開発目標)を踏まえて展開していかなければなりません。SDGsには農林水産分野が貢献できることが非常に多く、農水省としても積極的にすすめていきたいと考えています。
 また、TPP11、日EU・EPA協定が発効し実施に移される時期となります。新しい国際秩序に対峙した対応方向もまとめ、生産現場に悪影響を及ぼさないような対策の予算も計上しています。他方で日本の農産物輸出にもチャンスが開かれることなります。攻めるべきは攻めていけるようにすることも重要です。アメリカとのTAGは、交渉が始まる前に既存の連携協定の枠内とする考え方をアメリカ側も整理しており、それに則りわが国の国益、特に農林水産業の利益が最大になるよう交渉していきたいと考えています。

 

農協改革と農協への期待

 農協改革の原点は、農業者の自主的組織として農業者の所得が向上し農業生産が増大するように努力することにあります。その原点に立ち返り、そのためには何が必要かを議論し改革をすすめてきました。自ら考えることを基本に、全中や県中央会、各連合会、単位農協は、組合員の利益最大化に向けた自己改革に取組んでおり、それがしっかりと動き出していると認識しています。特に経済事業改革における前向きな取組みは高く評価しています。個別生産者からすれば、もっと頑張って欲しいとの意向もあるでしょう。こうした取組みのお手伝いをすることが我々の基本です。

 

「基本計画」の見直しに向けて

 今年は、おおむね5年ごとの食料・農業・農村基本計画の見直しの年でもあります。基本計画は農林水産省や関係者が政策をすすめていく上で大きな道標となります。経済状況の変化や一連の改革の動きも見据えながら、農林水産業、農山漁村、日本の地域の元気に向けて、次のすすめかたを検討していきたいと思います。

 

新しい年を迎えて

 農林水産省に戻り、この国は農林水産業を大切にすることで地域の経済を発展させていくことが非常に重要であると、改めて強く感じました。
 農林水産業は他産業に比べ、生産効率が悪いような言い方をされた時もありましたが、今では地域で頑張っている農林水産業が、地域全体にプラスの効果を生み出している例が日本全国に見られます。どんな時代でも農林水産業は大切であることとその役割をしっかり認識し、農林水産業が地域の人々に与える影響、観光資源やコミュニティ機能等々もキチンと位置付け政策をすすめていきたいと思います。
 様々な人々に活き活きと働く場を提供する意味でも、農林水産業や農山漁村は重要な役割を果たします。特に、農業は障がいを持たれる人にも、いろいろな作業の場を提供できることが分かってきました。農福連携の育成・支援は、これからの日本にとって非常に重要になってきます。
 今年は、年号も変わり経済環境も大きく変わる「変化の年」になります。これを踏まえて、どのような次の日本になっていくのかを考える年だと思います。そのなかで、日本の各地域、農山漁村に住む人が、豊かな生活を過ごすことができる次代の日本を実現するために、農林水産省としても頑張っていきます。


 

〈本号のおもな内容〉

■農業の成長産業化へ 2019年 農政の展開方向
 農林水産事務次官 末松広行 氏

■新春論壇 2019年JA改革の行方
 中央大学 ビジネススクール(大学院戦略経営研究科)教授 杉浦宣彦 氏

■このひと 次世代が描くこれからの日本農業
 全国農業青年クラブ連絡協議会(日本4Hクラブ)
 会長 竹本彰吾 氏

■年頭所感 𠮷川貴盛農林水産大臣

■2019年 JAグループトップ 新年の決意
 JA全中 会長 中家徹 氏
 JA全農 経営管理委員会会長 長澤豊 氏
 JA共済連 経営管理委員会会長 市村幸太郎 氏
 農林中央金庫 代表理事理事長 奥和登 氏
 家の光協会 代表理事会長 若林龍司 氏
 農協観光代表取締役会長
 全国農協観光協会代表理事会長 田波俊明 氏
 JA全厚連 経営管理委員会会長 雨宮勇 氏

■2019年 農業関連団体からの新春メッセージ
 全国土地改良事業団体連合会 会長 二階俊博 氏
 全国農業会議所 会長 二田孝治 氏
 全国森林組合連合会 代表理事会長 村松二郎 氏
 全国農業共済組合連合会 会長
 全国農業共済協会 会長 髙橋博 氏
 食品産業センター 理事長 村上秀德 氏
 日本政策金融公庫 代表取締役専務取締役
  農林水産事業本部長 新井毅 氏
 全国瑞穂食糧検査協会 理事長 奥野和夫 氏
 日本フードサービス協会 会長 髙岡慎一郎 氏
 Jミルク 会長 西尾啓治 氏
 製粉協会 会長 山田貴夫 氏
 日本農業機械工業会 会長 木股昌俊 氏
 農薬工業会 会長 西本麗 氏
 日本施設園芸協会 会長 鈴木秀典 氏

■2019年「家族農業の10年」スタート
 農的社会デザイン研究所 代表 蔦谷栄一 氏

■JA活力ある職場づくり全国研究発表会 JA全中開催

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