日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2020年8月5日号

2020年8月5日

農林中金バリューインベストメンツ奥野一成常務取締役兼最高投資責任者(CEO)「新型コロナ禍の社会と投資方向」このひと

新型コロナ禍の社会と投資方向

農林中金バリューインベストメンツ㈱
常務取締役 兼
最高投資責任者(CEO)

奥野一成 氏

 農林中金バリューインベストメンツ(NVIC=新分敬人代表取締役社長)は、国内外の上場株式への長期厳選投資をコンセプトに投資運用業務を展開している。〝アフターコロナ〟〝ウィズコロナ〟と呼ばれるこれからの時代の金融・経済情勢等について、運用の最前線に立つ同社の常務取締役 兼 最高投資責任者(CIO)、 奥野一成氏に話を聞いた。


新型コロナ禍もチャンスと捉え

新型コロナ禍での金融・運用環境をどのように捉えるか。

 個人の生活の立場からすると、とにかく〝命の安全〟を第一に徹底していかなければならない。一方で、投資運用者の立場、とりわけ当社が行っている長期投資の観点からすると、むしろチャンスがきたと捉えている。

 我々は、「高い付加価値」、「高い参入障壁」、「長期潮流」の3つの要素を持っている「構造的に強靭な企業」のオーナーになるという考え方で投資を行っている。そういう意味では、コロナで人類が終わるわけでもないので、コロナで株価が下落するのは、逆にチャンスでしかないと思っている。

 一般的に投資とは株券の売買であると考えられているため、このコロナ禍で何を売り、何を買うのか、コロナは本当に収束するのか等々、色々な事を考えないと投資をできない人が多い。だが、我々が行っている長期投資に関しては、このようなことはほとんど関係がない。短期的にディズニーやナイキの株価が下がることはあっても、長期的に見れば例えば、コロナをきっかけに、ミッキーマウスを嫌いになる人もいないし、ナイキの靴を履かなくなる人もいない。すなわちディズニーやナイキの本質的な企業価値は何も変わらないので、短期的な要因で株価が下がるのであれば我々は逆に買い向かうことができる。

 この手の〝ショック〟は、我々のような長期目線で投資する者からすると、何も恐れる必要はない。私は、このやり方で13年間投資を続けており、リーマンショックや東日本大震災、ユーロショック等様々な危機的なイベントをも何度も経験してきた。危機が頻繁に起こることで、その都度、投資先の企業の強さを体感してきたので、今回の局面も強い企業に投資できるチャンスとしか思えなかった。

 私の使命は、構造的に強靭な企業に対して投資を行い、我々の投資家に対してしっかりとしたリターンをお返しするとともに、そのプロセスをしっかりと説明することだ。

長期的な目線で投資活動が可能

この環境のなかでNVICの取組み方向は?

 当社が行う長期厳選投資は、農林中金グループだからこそ為せる業だと思う。系統団体から非常に長期かつ組合員・利用者と強固な結びつきの中で預け入れられた資金を中心に100兆円を超える巨大な資金を運用する金融機関だからこそ、我々のような投資ができる。結果的に短期ではなく長期的な目線で投資活動が可能となる。

 こうした理想の投資活動が実践できるのは、日本の金融機関でも本当に限られており、系統金融機関としての信頼関係があるからこそ可能。その点、非常に恵まれた環境下で我々は仕事をさせてもらっている。

 長期厳選投資は、株式を市場で流通する株券としてディーリングするのではなく、企業の株式を長期間保有し、その企業価値の増大をリターンとして享受しようとするものである。そういう意味では短期的な視点に縛られている現在の株式市場に対するアンチテーゼかもしれない。しかし長期的な視点で企業価値にコミットすることは投資本来の役割であり、我々は長期投資の意義を広く社会に伝えていくための活動を今後も継続していきたい。

企業や事業の持続性を前提に

農中が力を入れているESG(環境・社会・ガバナンス)投資については?

 系統金融機関は、存在自体そのものが社会的な役割を担っており、その投融資は根源的にESGにつながるものと考える。世の中を害するものや役に立たないものは長期的に利益を上げることはできないし、そのようなものを生み出す会社にも当然長期的な投資はできない。

 我々の投資目線において、企業や事業の持続性は前提として存在している。

 ESGという概念自体はもともとあったものなのに、今やそれ自体を声高に言わなければならないほど、世の中が〝収益至上主義〟に傾きすぎている可能性がある。

金銭的にも精神的にも自立を

近著『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』で訴えたいことは?

 「投資」というとすぐ金銭的に豊かになる、いわば儲けることに焦点が当てられてきたが、金銭的自立以前に精神的自立が必要ではないか。 すなわち「自分は他人から働かされている」というマインドセットを「自分が働いている」に切り替えてみる。そうすれば、単に自分の時間を切り売りする働き方から、自分の才能を売る働き方に変わる。

 才能を売ろうと思えば、上からの指示を待つのではなく、世の中の課題を主体的に見つけ、自ら行動することが必要になる。

 これを投資の世界に当てはめると、日々の値動きに一喜一憂し振り回されるのではなく、世の中の課題を解決し続ける強い企業の株式を「オーナー」として保有し、他人に働いてもらうという発想に繋がる。

 例えば、ウォルトディズニーに投資すれば自分の代わりにミッキーマウスが世界中で踊りまくって働いてくれるし、日本電産の株を買ったら永守さんが自分の部下になって働いてくれる。こう考えれば非常に痛快だし「自分が他人に働かされている、搾取されている」という考え方から脱却することができる。我々の行っている「オーナーとしての株式投資」は、そうした精神的自立をも促す力があると思っているので、このような考え方をいろいろなところで紹介したい。

 日本人は「投資とは何か?」ということについて、今までしっかりとした教育を受けていない。大部分の人が「投資」を安く買って高く売る「投機」と勘違いしており、オーナー(資本家)として、自分より優秀な人に働いてもらい、そこからお金をもらうという発想が全くない。自分も働くと同時に他人にも働いてもらう、こういう考え方の方が自分のためにも世の中のためにも良い。

 そうした資本主義の原則をこの本を読んで実践することで、金銭的にも精神的にも自立を目指して欲しい。真に豊かな社会とはそういうものではないか。本書籍は主体性を持って働くことや、他人ではなく自分の人生を生きることの重要性をテーマとして掲げている。

 従来の一般的な投資指南の本としてではなく、自分の生き方や働き方といった哲学的な視点からも、ぜひ手にとって読んでいただければと思っている。

 そうした考え方や心の持ち方が、これから10年、20年先の日本を創っていくと信じているので、是非これを教育現場でも活用いただければ嬉しい。ご希望があれば離島でもどこでもボランティアで出張し、高校生や大学生向けに、本に書いているような内容をお話しすることもできるので、ぜひ声をかけていただきたい。

コロナ契機に東京一極集中解決も

日本の社会、地方・農村に思うことは?

 私は奈良の田舎に住み、高校・大学は緑の中を走る近鉄で京都に通った。だから東京に出てきた時はいわば圧迫感のようなものを感じたし、地域の豊かな自然のなかで生活できればいいと今でも感じることがある。

 今回のコロナを契機に、テレワーク等で別に東京にいなくとも仕事ができる、地方での生活が実現可能であることを、みなさんも実感していると思う。

 しかし、それだけでは不十分で、真に「自立」することが大事。企業や国家から「自立」を果たして、他人ではなく自分の人生を生きるために、地方や農村をめざす人が一人でも増えてくれば、東京の一極集中も解決していくのではないだろうかと思う。

「オーナーとしての株式投資」を

JAの組合長・幹部のみなさんへのメッセージを。

 農業に携わっている方々は、〝オーナーとしての株式投資〟を普通に理解いただけると思っている。

 前述の本の冒頭で、投資と投機について、農地を買うときの例を挙げている。購入した農地から米(果実)を持続的に得るために、時間をかけながら、作付けや栽培を工夫するのが「投資」。例えば、5千万円で買った農地から毎年5百万円の果実を得ることができる。この10%のリターンを得ることがすなわち投資である。農地を買うときに、5千万で買ったものを3か月後に7千万で売ろうと考える人はほとんどいない。 しかしこれが株式投資になった途端、株券を買って短期的に売ることを考えてしまう。本当の投資とは、株主として所有権を持っている企業がどれだけの利益をあげるのかに注目しなければならない。

 この「オーナーとしての株式投資」の考え方は、実際にオーナーとして農業に携わっている方々には、苦もなく受け入れていただけると思う。

 それが真の投資であり、このことを孫子の代に伝えていくことが、これからの農業・農村を含めて社会が豊かになっていくことにつながっていくと信じている。

農林中金バリューインベストメンツ 会社概要

 農林中金農中信託銀行が出資し、投資助言業務に特化した体制構築を企図して、2014年12月設立。2007年に農林中金の株式投資部で、長期厳選投資のためのプロジェクトチームがスタート以来、短期的な売り買いをする投資ではなく長期的に企業の株式を保有し続ける長期投資(売らない投資)を貫徹。2010年に機関投資家向けファンドに対する投資助言を開始して以降、米国株投資、投資教育への取組等、投資の世界を変える様々な取組みを行っている。2017年からは、個人向け投資信託の運用助言も始めた。同社が運用・助言を行うファンド、米国株式を投資対象とした「農林中金〈パートナーズ〉長期厳選投資 おおぶね」および日本株式を投資対象とした「農林中金〈パートナーズ〉おおぶねJAPAN(日本選抜)」は、JAの窓口でも取扱っている。


〈本号の主な内容〉

■このひと 新型コロナ禍の社会と投資方向
 農林中金バリューインベストメンツ(株)
 常務取締役 兼 最高投資責任者(CIO) 奥野一成

■令和元年度 JA共済優績ライフアドバイザー表彰

■”家活”でコロナに負けるな! 家の光協会の取り組み
 特設ウェブサイト、家活マスクアイデアコンテスト、ウェブ版ミニ講座など

■IPM(総合的病害虫・雑草管理)の推進について
 農林水産省 消費・安全局 植物防疫課

蔦谷栄一の異見私見「異常気象は行き過ぎた近代化・工業化への警鐘」

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