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日本農民新聞 2019年1月25日号

2019年1月25日

農林中央金庫後藤彰三代表理事専務このひと

次期JAバンク中期戦略の方向とポイント

農林中央金庫
代表理事専務
後藤彰三 氏
組合員・利用者目線を徹底
デジタルイノベーションを積極活用

 JAバンク(JA・信連・農林中金)は、本年4月からスタートする「JAバンク中期戦略(2019~2021年度)を策定した。JAバンクが3か年ごとに策定する総合的戦略である「中期戦略」のねらいとポイントを、農林中金の後藤彰三代表理事専務に聞いた。


一定の成果を得るも、総合事業の強み発揮は道半ば

現JAバンク中期戦略の総括から。
 目標の一つに掲げる「JAバンク自己改革の完遂」については、JA・信連・農林中金が一丸となって、農業所得の増大に向けたサポート等に不断に取り組んでおり、組合員・利用者の皆さまから一定の評価を得ていると感じています。

 また、同時に進めてきたJA貯金100兆円に向けた取組みについては、少子高齢化の進展に伴い、リテール市場の縮小が見込まれるなか、早めに一定のシェアを確保したいと取り組んだ結果、平成29年6月に前倒しで達成となりました。

 しかし、人口や農業の担い手が減り続けるなか、JAの信用事業については、貸出金利息が低下しており、特にマイナス金利が導入されてからはその度合いが大きくなっています。そのため、信用事業の収益構造は、預け金利息への依存度が高くなっているのが現状です。

 また、事業推進面でも、貸出シェアの低下や投信残高が僅少である等の課題があるほか、総合事業の強み発揮に向けては道半ばと認識しており、引き続き、世の中から期待される役割に対する取組強化が重要だと考えています。

IT分野は想像以上のスピードで進化

現状の環境に対する認識は?
 取り巻く環境は、複合的・構造的に変化しています。なかでも、IT分野は想像以上のスピードで進化を遂げ、世の中に浸透してきています。それ故に、JAバンクとしても、抜本的な業務革新に取り組まなければなりません。勝ち残りをかけた大規模な構造変革を実践していく必要があると感じています。

 また、金融庁は「顧客本位の業務運営」や「金融仲介機能の発揮」、あわせて、「持続可能なビジネスモデルの構築」を提唱していますが、JAバンクとして取り組むべき方向性も、まさにその方向と一致しており、組合員・利用者や地域のための事業運営と、持続的な収益構造を構築・確立していく必要があります。

農業・地域に新しい価値を創造し続け、組合員・利用者とともに発展

10年後の目指す姿をイメージされていますが。

 まず、10年後のわれわれの姿をイメージすることから始めました。基本的には、10年後もJAバンクの役割は変わりませんが、激変する環境変化には対応しなければなりません。

 具体的には、JAバンクが日々進化を続けるデジタルイノベーションの活用等を通じて、社会・環境の変化へ適切に対応するとともに、われわれの不変の強みである総合事業性を発揮することで、利用者・組合員との紐帯関係を強化しながら、農業・地域に新しい価値を提供し続けることを将来像に掲げました。

農業者・地域から一層必要とされる存在へ

次期中期戦略(2019~2021年度)の位置づけ、基本方向は?

 10年後の将来像の通過点として、次の3か年があります。次期中期戦略では、「組合員・利用者目線による事業対応の徹底」を最優先に、併せて、「持続可能な収益構造を構築すること」で、『農業者・地域から評価され、選ばれ、一層必要とされるJAバンク』を目指します。

 信連や農林中金は、目指す姿の実現に向けて、戦略や施策を組み立てJAに提示・提案するとともに、その実践を支援していきます。

 次の3か年では、貸出の強化を通じて金融仲介機能の発揮に努めるとともに、資産形成・運用提案等を強化することで、これまでの貯金(資産をためる・つかう)に偏った推進から、資産を「ふやす」提案への転換を図り、組合員・利用者との関係を深化させます。

 また、関連して、5年後、10年後を見据えた店舗の再編等、組合員・利用者接点の再構築に着手します。2022年度からは新たなシステムを導入し、JA窓口における顧客利便性の向上や待ち時間の削減、事務の抜本的見直しを図っていきます。

次期中期戦略における実践事項は?

 大きくは「農業・地域の成長支援」「貸出の強化」「ライフプランサポートの実践」「組合員・利用者接点の再構築」の4点です。

 「農業・地域の成長支援」では、家族経営から農業法人まで、幅広い農業者の成長ステージに応じた資金供給に取り組み、また、経営課題の解決に向けた幅広いソリューションを提供していくことで、農業者の所得向上と満足度向上に取り組んでいきたいと考えています。

 加えて、組合員や農業法人に対する対応力強化や、収益力向上の実現に向けて、中央会・連合会が連携しながら、JA営農・経済事業の成長・効率化戦略に取り組んでいきます。 次に「貸出の強化」です。

 足もと、農業資金の新規実行額は数字として伸びてきています。また、住宅ローンも29年度は新規実行額が1兆円を超え、30年度も前年を上回るペースで積み上がっています。

 今後さらに、金融仲介機能を発揮し安定的な収益を確保していくためには、より一層の取り組みが必要だと思っています。

 農業融資の専任担当者がなかなか設置できないJAもあるなかで、やはり、貸出実施体制の整備強化は必要だと感じています。農業融資も“待ち”ではなく、TACや営農経済担当と連携しながら、同行訪問などの体制整備を図っていきます。

 「ライフプランサポートの実践」では、貯金・年金・カードといった商品軸の推進から、組合員・利用者の希望するライフプランの実現に向けて、一人ひとりの資産状況やニーズに寄り添った提案を行うスタイルに転換していきます。

 特に、農林中金が目玉施策として、各JAに導入を提案しているのが「資産形成サポートプログラム」です。複数の証券会社から農林中金が受け入れた出向者を、JAに約3か月間再出向させます。そこで、渉外担当者に組合員・利用者ニーズを踏まえた提案活動の実践に向けた同行指導を行います。このプログラムでは、投信販売ありきではなく、先ずは組合員・利用者の方々の資産状況や資産形成・資産運用に関するニーズを十分に聞いたうえで、最適な金融商品・サービスを提案していきます。

 また、JAの利用者対応力の強化や業務・事務の効率化に向け、信用事業・共済事業が連携した取組みを検討し、実現可能な施策から順次展開することとしており、2020年にはJA共済のタブレット端末「ラブレッツ」を信用事業でも使えるよう具体化を進めています。 「組合員・利用者接点の再構築」では、採算性・生産性の低い店舗・ATMの再編等に取り組む一方で、これまでのJAバンクの強みである対面営業を強化するとともに、非対面チャネルにおけるサービス向上を図り、多様な利用者層に対応できる態勢を構築していきます。具体的には、事務改革を通じて、職員を事務処理から解放するとともに、営業・推進へ再配置し、利用者との接点を拡大します。

 非対面チャネルでは、APIなどデジタルイノベーションを積極的に活用し、家計簿アプリ、電子通帳やJAバンクポータルアプリの提供を準備しています。

事業変革の必要性を共有し、中期戦略の実践につなげる

中期戦略の実践に向けて。

 厳しい状況の今だからこそ、事業変革の必要性をJAバンク全体で共有したい。JAバンク中期戦略は、つくって終わりではありません。中期戦略で掲げた各施策を具体化・実践し、確実に成果へつなげていくことが、最も重要なことです。
 JAバンクが一体となって、新たな一歩を踏み出したいと思います。


〈本号のおもな内容〉

■このひと 次期JAバンク中期戦略の方向とポイント
 農林中央金庫 代表理事専務 後藤彰三 氏

■第3回全国集落営農サミット

■果菜類の虫害防除
 農研機構 野菜・花き研究部門 野菜病害虫・機能解析研究領域
 農学博士 寺見文宏 氏

■第9回トマト・キュウリ サミット 1月31日~2月1日に

行友弥の食農再論「もうやめにしよう」

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