このコラムは1月15日に書いている。昨日は正月の門松や注連飾りを焼く光景を見た。筆者の住む地域では「どんど焼き」と呼ぶ。調べてみると「どんど」の語源は「歳徳(とんど)」、つまり歳神(としがみ)のこと。この歳神がいる縁起のいい方角が「恵方」である。毎年変わるが、今年は東北東だとか。
福を呼ぶため、この恵方を向いて節分に太巻き寿司を食べる風習が関西地方の一部にあった。その「恵方巻」が大手コンビニチェーンによって全国に広がったのは、ここ十数年ほどのことか。
しかし、節分の需要を当て込んで製造された恵方巻が大量に廃棄されている。予約販売が主流のクリスマスケーキと違って需給のミスマッチが起きやすい。コンビニ独自の会計システムにより、廃棄分の損失はフランチャイズ本部ではなく店主が負う。アルバイト店員が売れ残りを買わされる問題もあるという。
農林水産省は11日、食品ロス削減の観点から日本チェーンストア協会など7団体に「需要に見合った販売」を呼びかけた。一部報道によると、末端のコンビニ店主からは「本部からの販売ノルマが減るなら、ありがたい」と歓迎の声も出ている。
この問題で一石を投じたのは、兵庫県姫路市などを商圏とするスーパー「ヤマダストアー」。1年前に「もうやめにしよう」と題したチラシを配布し、恵方巻は「全店、前年実績で作る」と宣言した。従業員が感じた疑問が発端だったという。
同社のウェブサイトを見ると、今年も同じ方針らしい。感心したのは下記の一文だ。
「一番のおすすめは『それぞれのご家庭で巻寿司を巻いて家族で楽しむこと』です。(中略)遠い所から巻寿司を取り寄せるよりも地元のお店で具材を買ってお家で巻いて家族で楽しむ方が絶対美味しいです! そして、それは是非、地元のお米や地元の具材で楽しんで下さい」
去年のチラシには「成長しなきゃ企業じゃない。けど、違和感を感じます」とも書かれていた。際限なく利益を追求し、大量生産(その結果が大量廃棄)を推し進めることが「成長」だった時代ほ過ぎた。企業も消費者も、小さな違和感を大切にするところから真の成長が始まる。人類の恵方はその方向にある。
(農中総研・特任研究員)
日本農民新聞 2019年1月25日号掲載