日本農業の発展と農業経営の安定、農村・地域振興、安心・安全な食料の安定供給の視点にこだわった報道を追求します。

日本農民新聞 2020年3月5日号

2020年3月5日

農業用生分解性資材普及会池本克己会長このひと

生分解性マルチと農業のこれから

農業用生分解性資材普及会
会長
池本克己 氏

 農業用生分解性資材普及会(=ABA)は、圃場で雑草抑制や地温確保のために使用する生分解性マルチフィルムを中心に生分解性樹脂を利用した資材の開発や利用、普及を推進している。農業の担い手不足や使用済プラスチックの排出量削減が社会的にクローズアップされている今日、生分解性マルチがこれからの日本農業へ果たす役割を池本会長に聞いた。


廃プラ処理費高騰、海洋汚染も

生分解性マルチを取り巻く環境は?

 ABAは、生分解性マルチフィルムを、農業用フィルムマーケットに上市させていただいたのを機に2004年発足した。現在、会員は製品メーカー及び原料メーカーをはじめ関連する企業14社。あわせてJA全農など5団体が賛助会員となり、農業用生分解性マルチフィルムの普及にむけて取組んでいる。会員になるには、農家の皆さんに安心してお使いいただけるよう、メーカーには生分解性や安全性の基準を満たした印のグリーンプラマークを取得していることを条件にしている。
 現在の農業用マルチフィルムは、ポリマルチフィルムが主流だが、収穫後に回収、分別し、産業廃棄物として適正に処理する必要がある。これまでは廃プラスチックを中国やアジア諸国に出していたが、これらの国も次第に受け入れられなくなり、国内での廃棄物処理が限界にきていることから、処理費用が高騰している。
 また、自然界で分解しないプラスチックが微細化したマイクロプラスチックによる海洋汚染の問題も発生し、廃プラスチック処理が大きく取り沙汰されるようになってきた。こうした問題を少しでも軽減を図る視点から、使った畑にすき込むことで微生物が分解する生分解性マルチフィルムが注目されるようになってきた。
 これを機会に、環境対応も含めて一層の普及に向けてABAの活動をさらに進めていきたい。

労働力軽減で着実に増える利用

生分解性マルチの利用状況は?

 かれこれ10年以上、樹脂の出荷量でデータをとっているが利用は着実に増えている。2006年度では1150t程度だったが、2017年度約3040t、2018年度は約3420tまで広がっている。農業用マルチフィルムのマーケットは約4万t弱と言われているなかで、1割に届くところまで伸びてきている。
 この背景には、前述のような問題とともに、就農人口が減少するなかで農業者の高齢化が進んでいることもあげられる。土に埋もれたフィルムを引き出し、土を払い落とし、圃場外に持ちだすのは、大変な重労働で時間も費用もかかる。また、高齢化や離農に伴って増えている耕作放棄地を農業法人はじめ大規模農業者が受託するケースも多くなっている。労働力軽減の面から、はぎ取り作業が省力できる生分解性マルチの選択が増えていると認識している。
 生分解性マルチは当初、トウモロコシなど根が張って収穫時にマルチフィルムをはがすのが困難は作物を中心に使われていたが、環境への対応や作業効率化などから次第にいろいろな作物に使われるようになってきた。今では、ブロッコリー、ダイコン、ハクサイ、レタス等々、かなり広範囲に使っていただいている。
 これからの日本の農業は、働き手となる若者の比率が小さくなる。回収・廃棄が不要で廃プラスチック削減ができる生分解性マルチフィルムは、今後迎えるこうした社会や農業構造のなかで、貴重な労働力が生産に集中できるよう貢献したい。

強度と保存性追求、拡販でコスト低減

普及拡大のための改良や工夫は?

 どうしてもポリマルチと比較されてしまうため、上市当初は機械展張時の強度や亀裂などの課題があったが、開発を重ねた現在の製品はほとんどの方に満足していただける品質になった。しかし分解するという特性上、長期間の保存には適していないという課題がある。一枚のフィルムに分解と保存という相反する性能が求められることから、バランスは非常に難しく、各社とも努力をしているところだ。
 価格についても、汎用樹脂を原料に使うポリマルチとの差はあるが、できる限りの工夫をしている。例えば一般のポリマルチの厚さは20μだが、生分解性マルチは18μが主流で、さらに薄い製品もある。その分使用する原料を少なくできる。薄さの追求は強度や分解に影響するので、高い技術力が必要だ。
 コスト低減には原料配合や製造方法の研究も行っていくが、もう一つ大事なことは、生産量の拡大である。より多くの方々に使っていただくことが、生産コストを下げる近道でもあると感じている。

有用性を全国にアピール

生分解性マルチの利用をさらに増やすためには?

 ABAは、年1回セミナーを開催し、多くの方にご参加願い認識を深めていただく活動を展開している。また、個別にJAや種苗店のセミナーなどに参加し、生分解性マルチとポリマルチとの相違点や飛散防止のための鋤きこみ奨励など使用時の注意事項も含めて使い方を説明させていただいている。各会員メーカーも、日頃から付き合いのあるJAや種苗店などに生分解性マルチの特性などをアピールしながら普及を進めている。
 生分解性フィルムの有用性は、農水省でも環境省でも非常に高く認識いただいている。農水省が昨年作成した「生分解性マルチの活用事例」にはABAも協力した。政府機関からも全国に広めていただくようにお願いしていきたい。併せて全農や全農商など関連団体ともども、さらに普及を進めていくため、各研修会等に積極的に参加させていただきたいと思っている。地道な方法だが、使っていただいた方の声を起点にして、お勧めできる作物や作型とメリットをいろいろな機会を通じてお知らせし、試していただくことで拡販に努めていきたい。


〈本号の主な内容〉

■このひと
 生分解性マルチと農業のこれから
 農業用生分解性資材普及会 会長 池本克己 氏

■かお
 協同乳業 代表取締役社長 後藤正純 氏

■果菜類の虫害防除
 農研機構野菜・花き研究部門 野菜病害虫・機能解析研究領域
 虫害ユニット 豊島真吾 氏

■果菜類の病害防除
 農研機構野菜・花き研究部門 野菜病害虫・機能解析研究領域
 農学博士 寺見文宏 氏

蔦谷栄一の異見私見「二重の危機克服に不可欠な農政転換」

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