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日本農民新聞 2018年12月15日号

2018年12月15日

このひと

 

農林水産政策研究所のこれから

 

農林水産省
農林水産政策研究所長
塩川白良 氏

 

 農林水産省の研究機関の中で唯一社会科学的な研究を担っている農林水産政策研究所の所長に9月、塩川白良氏が就任した。塩川新所長に今後の研究の方向性と舵取りを聞いた。


 

研究所のステータスを上げる

所長就任に当たっての抱負から。

 行政への貢献が第一義であることはもちろんだが、併せて研究所と研究員ひとり一人の評価とステータスを上げていきたい。例えば農林水産政策研究所に就職したい、研究所の所報に是非投稿したいとか、他の大学や研究所と伍して存在価値を高めるということだ。そのためには、研究成果を広く発表する機会を増やしたり、研究員がそれぞれの専門分野の学会誌へ積極的に投稿したりすることが大事だと考える。

 

基盤的かつ先導的研究成果を提供

政策の研究機関として具体的な役割は。

 行政部局が政策の企画立案にあたって必要とする情報を収集し、それを分析したり将来予測したりして、それらを研究成果という形で提供するというのが第一の任務だ。ただそれだけだと単なる下請けになってしまう。農林水産政策の基盤的かつ先導的研究の成果を、大学や幅広い研究機関の研究者、さらには一般国民の方々にも情報提供していくことが大切だ。国内問題に限らず、国際交渉の中で浮上する各国の農業政策に関する情報も収集・分析し、広く提供する。

 

行政の最新情報で研究できる

研究所の歩みと特長を。

 当研究所の前身は1946年に設立された農業総合研究所である。その名の通り、農業を主体とした研究機関だったが、2001年に改組して現在の名称となり、農林業も水産業も対象に、社会科学的な研究を行う唯一の研究機関となった。元々北区西ヶ原にあったが、2008年に今の霞が関中央合同庁舎4号館に移転した。政策研究なので、行政と物理的に近くなったメリットは大きい。
 総研時代、改組直後の研究体制は、部・室制をとっていた。しかし、これだと組織が硬直化し新たな課題に対応する時、その都度組織を変更する必要があった。現在はチーム制を設けて、一つの課題が出てきた時に、テーマに合った人材を集めて研究できるようにフレキシブルな体制を敷いている。現時点では3領域、29チームが研究に取り組んでいる。他の研究機関と異なり、行政部局との日常的な情報交換や人事交流を通じて行政の最新の情報を的確にとらえて研究ができるという利点もある。

 

法人化と水田流動化で知見

最近の研究成果のトピックスを。

 研究成果は数多いが、あえて二つに絞って紹介すると、ひとつは国産麦を使用した地域ブランド化の拡大傾向に関する研究成果だ。従来、国産麦は外国産小麦の増量材としてブレンド使用されたり、国産大麦は押麦として米に混ぜて使われたりするのがほとんどだった。これが近年は、品種改良等により高品質な新品種の導入が進んで需要が高まり、国産麦を使った「ラー麦」、「きぬあかり使用うどん」、「筑前麦プロジェクト」など地域ブランド化の動きも出てきている。しかし分析を進めると、こうした需要拡大の取組は数多いものの、それが必ずしも生産者の利益拡大にまではつながっていないことが分かった。所得向上につながる高付加価値化を実現していくための課題を、さらに解明していく必要があるという結論を導いた。
 もう一つは、農林業センサスの分析によるもので、組織経営体の法人化にともなって借地による水田の流動化が加速しているという知見である。都道府県ごとの組織経営体の法人化率と借入田面積率との関係をみると、すべての府県で両率ともに上昇しており、法人化率が大きく上昇した府県ほど借入田面積率の上昇も大きい傾向にあることが分かった。集落営農組織の法人化が進むにつれて、借地による水田の流動化が加速していることをデータで明確に示すことができた。
 研究のための研究、研究者が個人的な興味で志向する研究テーマではなく、役に立つ研究になるように鋭意取り組んでいる。行政と研究活動が乖離しないように、研究テーマを行政側から募集し、議論を尽くした上で決定している。

 

5つの研究機能を担って

今後の研究の基本方針や計画について。

 外部の識者等にも参加して頂いている機関評価委員会で意見を聞きながら、今後5年を見通してどのような研究体制でどのような研究に取り組んでいけばよいかを検討したところだ。当研究所は5つの機能を担う。
 調査・分析機能については、毎年の政策課題を踏まえ、先進的な課題を設定して研究していくのに加え、中長期的な課題についても取り組んでいく。また研究体制を見直し、内部だけでの研究ではなく、大学や他の研究機関、企業の研究者との連携も強化していきたい。
 検証機能では、EBPM(Evidence-Based Policy Making、証拠に裏付けられた政策形成)を推進するために、専門家としての知見や研究成果を行政にしっかりと伝える。エビデンスを現場でしっかりと捉え、将来を見通したアウトカム目標まで作れるような貢献をしていく。
 コンサルタント機能では、本省職員に対して、当研究所の専門家とそれぞれの専門分野のリストを渡して、掘り下げた情報を提供していく。
 人材育成機能では、研究発表や勉強会、本省職員の研究チームへの参画を通じて、本省の若手職員の能力向上に貢献する。
 最後はコーディネーター機能。所内の研究者だけでなく地方公務員の職員や他の研究機関等、様々なステークホルダーを広く集めて取り組む大きな研究プラットフォームを作り、中心的な役割を果たしていきたい。


 

〈本号の主な内容〉

■このひと
 農林水産政策研究所のこれから
 農林水産省 農林水産政策研究所長
 塩川白良 氏

■GAP推進に向けたJAグループの取り組み
 第三者認証取得支援事業29年度から
 取組事例:富山県 いみず野農協えだまめ部会

■平成30年度 人事労務トップセミナー
 JA全中が開催

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