中家全中会長らJAグループ幹部が江藤農相に要請
JA全中は7日の理事会で、「次期食料・農業・農村基本計画に対するJAグループの提案」、「新たな国際環境下における生産基盤強化等にかかる政策提案」 等を決めた。
同日、中家徹会長らJAグループ幹部は農水省を訪れ、江藤拓農相に政策提案を示し、政策の確立を求めた。
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次期基本計画に対するJAグループの提案では、現行計画にある不測時の食料安全保障に止まらず、平時より「質」と「量」の両面で食料安保の確立を目指す必要があるとして、「次期計画の策定にあたっては、その食料安保に資する基本政策を確立する観点から、生産面・消費面での姿勢を重視し、具体化をすすめること」を要請した。
生産基盤強化等に関連する「政策提案」は、日米貿易協定の合意により、本格的な国際化を迎えたことから、国に対して現場への丁寧な説明や、牛肉セーフガードにかかわるTPP11協定見直しの早期実現に取組むとともに、生産基盤の強化に向けた政策を確立する必要があるとして「総合的なTPP等関連政策大綱」の見直し等あたっての政策を提案。
【生産面】食料自給率・自給力の低迷、災害多発や世界的な人口増、国際化進展など、近年の環境変化を踏まえ、農地・人(農業者)をはじめとする生産基盤の強化をすすめ、国内生産拡大を実現。
【消費面】安全・安心な国産を安定供給すること等を通じて、国産農畜産物や農業・農村に対する消費者の信頼・理解拡大をすすめ、国産消費拡大を実現。
両提案の内容は次の通り。
次期食料・農業・農村基本計画に対するJAグループの提案
1.食料安全保障を確立するための将来像の具体化…現行計画および関連施策の十分な検証を行い、現在掲げる食料自給率目標(生産額ベース:73%、カロリーベース:45%)が確実に達成されるよう、生産基盤の強化等に向けた関連施策の構築を行うこと。生産努力目標等の設定にあたっては、わが国農業生産基盤の根幹である農地面積および農業就業者数についても減少傾向に歯止めをかける高い目標の設定を行うとともに、優良農地をはじめ農地の保全・維持につながる方針・計画整備および施策強化を行うこと。
2.消費者の信頼・理解拡大に向けた政策の強化
(1)国産や食の安全・安心に関わる環境整備…①TPP11、日EU・EPAなど、国際化進展による環境変化を踏まえて、原料・原産地表示制度を中食・外食にまで拡大し、国産農畜産物に信頼を寄せる消費者の食の選択性を確保すること。②生産現場のGAPの普及・実践、事業者のHACCPに沿った衛生管理導入については、人材育成の支援強化をはじめ、普及の道筋を具体化し、農業の持続可能性の確保、食の安全・安心の取り組み強化へとつなげること。
(2)食農教育の実践・強化と新たな国民運動の展開…①地産地消、国産消費の拡大を着実に進める観点から、食料・農業・農村基本計画に掲げる目標・施策と連動した食育推進基本計画の実践・進捗管理を行うこと。また、食農教育や和食推進においては、関係省庁(農水省・文科省等)の連携を強化すること。②経済界等を巻き込んだ国民運動を展開・強化し、国産の消費拡大、農業・農村の理解拡大をすすめること。その際、SDGsも切り口とし、教育関係者、料理人、行政、団体・企業等による幅広いネットワーク構築を行うこと。③食料・農業・農村に関する「統一運動週間」を制定・周知するなど、これまで基本計画に掲げてきた「国民的議論の深化」をすすめる方策を確立すること。
3.国産安定供給のための生産基盤強化と地域政策の強化
(1)多様な農業経営が持続的に維持・発展できる政策の確立…家族農業・中小規模農家の経営維持・継承にかかる支援を強化するとともに、基幹的農業従事者や法人経営体等だけでなく、多様な農業経営が維持・発展する将来像を次期農業構造の展望に具体化すること。
(2)戦略的な輸出拡大に向けた政策の強化…農林水産物・食品輸出の現行目標(令和元年:1兆円)にかわる新たな目標・戦略を策定し、その実現に向けて官民一体となった取組みをすすめるとともに、和牛の増頭・増産など生産基盤の強化や流通の合理化など、農業者・産地の所得増大につながる政策を具体化・強化すること。
(3)中山間地域をはじめとする地域振興対策の充実…①就農促進施策に中山間地域加算を措置するなどして、特に農業者の減少・高齢化が進む中山間・過疎地域の就農を確保・安定させるとともに、薬用作物・有機など特色ある農産物生産にかかる支援を強化すること。また、ふるさとの魅力を発信するとともに、既存の農業政策と移住・定住支援を統合・強化した新たな支援策を構築すること。②日本型直接支払・中山間地域等直接支払制度については、交付水準引上げをはじめ、国による十分な予算措置を行い、農地維持・環境保全だけでなく、地域の防災・減災機能の維持・向上につなげること。また、放牧などの粗放的な農地保全について具体化すること。
(4)災害に強い農業づくり…食料供給だけでなく地域の安全保障を確保する観点から、持続可能な災害に強い農業づくりを次期基本計画において具体化すること。
(5)鳥獣被害対策の強化…高止まりする鳥獣被害を確実に減少させるため、新たな対策目標の設定や、狩猟期間拡大など狩猟制度の緩和等を行い、鳥獣対策の取組み強化につなげること。
(6)スマート農業・労働力確保対策の促進…①農福連携や外国人材活用、スマート農業の導入を推進して、産地を維持・活性化すること。また、その目指す姿を農業構造の展望および農業経営等の展望に具体化すること。②スマート農業の導入と連動した産地づくりをすすめること。その際、スマート農業の低コストでの現場実装をすすめるため農業者をサポートする組織の体制整備等を行うとともに、さらなる生産性向上等に向けて農業施設の再編・機能強化につながる要件緩和等を行うこと。
(7)国産の安定供給・価格安定、農業所得確保にかかる制度の強化…国産農産物の安定供給・価格安定、農業所得の確保をはかる観点から、経営所得安定対策や野菜価格安定制度に加え、収入保険制度の推進を行うこと。
(8)知財対策の強化…国産農畜産物のブランド・信用を保ち、農業者の所得を確保する観点から、種子・遺伝資源にかかる総合的な知財戦略と万全の制度を構築するとともに、関係者等への周知・啓発の徹底をはかること。
4.次期基本計画の実践に向けた政策推進等
(1)国・都道府県・市町村の連携、着実な実行体制の構築…都道府県・市町村の政策推進体制との連携を強化し、食料・農業・農村基本計画に掲げる目標・施策が着実に推進されるよう促すこと。
(2)地域における行政・団体の役割発揮等…①JAグループが自己改革をすすめる中で、農業や地域で大きな役割を果たしていることについて、次期基本計画に適切に位置付け、政策推進を行うこと。②農業者等にかかる統合データの整備・共有を行い、関係団体・行政がさらなる連携と役割発揮を行えるようにすること。
新たな国際環境下における生産基盤強化等にかかる政策提案
Ⅰ 基本的考え方
①食料安全保障の確立に向けた生産基盤の強化は、次期食料・農業・農村基本計画に大きな柱として位置づけ、実践する必要があることから、同計画にも整合する安定的な対策を講じ、万全な予算を確保すること。
②新たな国際環境下で農業者数や生産量等が維持・増大できるよう、既存のTPP等関連対策に加え、新たな生産基盤の強化対策を措置するとともに、国産需要を掘り起こし・喚起する取組みを強化すること。
③規模等にかかわらず、持続的な農業・地域づくりに向け取組む全ての農業者・産地の生産基盤強化の取組みを後押しできるよう、基金化や要件見直しなど使い勝手の良い対策を措置するとともに、農業者・産地・自治体で積極的に取組みがすすめられるよう必要な地方財政措置を講ずること。
Ⅱ 畜産・酪農対策
1.中小の家族経営対策(経営継承対策)の強化…後継者不足が課題となっているなか、新規就農等を目指す者に対し、中小の家族経営等のもつ経営資源の円滑な継承により生産基盤を維持するため、規模拡大に関わらず、継承施設等の補改修、サポート体制の整備、継承者の円滑な資金繰りに対する支援を拡充すること。
2.増頭・増産に向けた対策強化…①肉用子牛や乳用初妊牛価格の高騰が続くなか、生産拡大に不可欠な家畜資源を確保するため、農業者・公共牧場・試験場における家畜の導入、性判別精液・受精卵の利用拡大、家畜導入・増頭に必要な施設・機械等の整備などに対する支援を拡充すること。②都府県酪農の生産基盤の維持・拡大をはかるため、牛舎の空きスペースを活用した増頭や生産性向上などに対する支援を拡充すること。
3.畜産クラスター事業の拡充…畜産クラスター事業については、規模拡大要件の緩和とあわせ、資材・業者確保等が困難となっているなか、地域一体となった体質強化の取組みを計画的かつ柔軟に後押しするため、全ての事業を基金化し、十分な予算を確保すること。
4.生産環境の改善に向けた対策強化…①環境に配慮した持続可能な畜産業を確立するため、老朽化した家畜糞尿処理施設の補改修、共同堆肥センターの機能強化などに対する支援を拡充すること。②アフリカ豚コレラの侵入脅威拡大もふまえ、家畜疾病の発生による生産基盤の弱体化を防ぐため、基礎部分を含む防護柵の設置など飼養衛生管理体制の強化の取組みについて、地方財政措置を含め、十分な支援を講じること。
5.国産畜産物の競争力強化等に向けた対策強化…①食肉の流通コストの低減や品質向上による競争力強化をはかるため、食肉処理施設の再編・機能高度化に必要な施設整備等に対する支援を拡充すること。②和牛の国際競争力を適切に維持していくため、和牛遺伝資源流出防止に関する法整備を早急に行うとともに、資源の情報管理の高度化など和牛遺伝資源の適切な流通・管理に対する支援を拡充すること。③国産チーズの競争力強化に向け、チーズ向け原料乳の品質確保・向上等に向けた取組みについて継続的かつ十分な支援を講じること。あわせて、国際化の進展による輸入乳製品の増加により、安定的な生乳生産・国産乳製品の供給に支障をきたすことがないよう、生乳需給の安定をはかること。
Ⅲ 青果対策
1.中小の家族経営対策(外部支援組織対策、経営継承対策)の強化…①中小規模の経営体が大半を占める野菜・果樹生産の省力化を面的にすすめる観点から、ドローン等のスマート農業機械・施設の共同利用による効率的生産や農業支援サービスの提供等の取組みを行う事業体に対する支援を講ずること。②初期投資が多大となる施設園芸について、円滑な経営継承により、新規就農や規模拡大をさらにすすめていくため、継承する農業用ハウス・機械等の補改修、サポート体制の整備、継承者の円滑な資金繰りに対する支援を拡充すること。
2.産地パワーアップ事業の拡充…産地パワーアップ事業については、資材・業者確保等が難しくなっているなかで、地域一体となった体質強化の取組みを計画的かつ柔軟に後押しできるようにするとともに、拡大する加工・業務用需要への対応を強化するため、全ての事業を基金化し、十分な予算を確保すること。
3.果樹対策の拡充…労働力不足が深刻な果樹農業において、省力樹形等の新技術を普及していくため、各地での有効性等を実証するとともに、新規就農者や普及を担う技術指導者の育成を行うためのモデル園地の整備等に対する支援を講ずること。
4.青果流通対策の拡充…流通分野の人手不足等が深刻になる中、新鮮で高品質な国産青果物の安定供給をはかるため、中間貯蔵施設の整備、選果作業の省力化を実現するAI機器・技術の導入、物流の合理化、広域での集出荷施設の再編・効率化に伴う既存施設の補改修と他用途への有効利用等について支援を拡充すること。
Ⅳ 麦・大豆対策
①国産小麦の生産振興が十分かつ安定的に実施できるよう、必要な対策の財源を確保すること。②食料自給率の向上等の観点からも、需要が増している国産小麦・大豆の増産にむけ、支援を強化すること。
Ⅴ 新規就農対策、中山間地域対策
①担い手・労働力不足が深刻化するなか、新規就農者を着実に定着・増加させていくため、農業次世代人材投資事業について今年度も含め十分な予算を確保するとともに、新規就農者の経営負担になっている固定資産税に関し特例措置を創設すること。②中山間等で新規就農しようとする者に対しては、平地の営農・生活環境の条件の違いをふまえ、農業次世代人材投資事業で加算措置や要件緩和を講じること。さらに、農泊や定住促進のための支援や農村地域での起業支援などの取組みを強化すること。
Ⅵ スマート農業推進対策
労働力不足の解消や生産性の向上をはかるため、スマート農業の現場への実装がすすむよう、支援を講じること。その際、低コスト化や中山間地域等への導入もすすむようにすること。
Ⅶ 輸出促進対策
米国向けの新たな低関税枠を活用した牛肉輸出等が着実に増加するよう、輸出に必要な認証取得支援や施設整備支援、施設の輸出認定の推進を行うとともに、オールジャパン体制での「日本産」ブランドの海外販売促進等の支援を拡充すること。あわせて、輸入規制の緩和・撤廃についてさらに早期に実現できるよう、取組みをすすめること。